本文ここから

高圧(静水圧)処理を利用した米加工食品の研究と開発

氏名 杵渕 美倭子
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第194号
学位授与の日付 平成11年6月30日
学位論文の題目 高圧(静水圧)処理を利用した米加工食品の研究と開発
論文審査委員
 主査 教授 山元 皓二
 副査 教授 森川 康
 副査 教授 福本 一朗
 副査 講師 高原 美規
 副査 新潟大学教授 鈴木 敦士

平成11(1999)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第I章 緒言 頁

1.1 20世紀の高圧技術の展開 p.1
 1.1.1 圧力の働き
 1.1.2 Bridgman の功績
 1.1.3 応用分野と発展
1.2 高圧技術の食品加工への応用 p.4
 1.2.1 水の圧縮
 1.2.2 高圧処理による食品の構成成分の変化
 1.2.3 高圧処理による殺菌効果
 1.2.4 食品加工用高圧装置の開発
1.3 米加工食品開発への応用 p.10
 1.3.1 圧力処理を施した米および澱粉の研究
 1.3.2 米加工食品開発への応用
1.4 本論文の構成 p.14
 1.4.1 高圧処理による米粒の物理化学的性状の変化と米澱粉の糊化度変化
 1.4.2 無菌化包装米飯の開発
 1.4.3 加工玄米の開発
1.5 本論文で用いる圧力に関する用語 p.17
 1.5.1 圧力の単位
 1.5.2 高圧と超高圧
1.6 文献 p.19

第II章 高圧処理による米粒の物理化学的性状の変化と米澱粉の糊化度変化

2.1 はじめに p.23
2.2 実験方法 p.23
 2.2.1 試料
 2.2.2 試料の調製
 2.2.3 圧力処理
 2.2.4 水分測定
 2.2.5 溶出物量の測定
 2.2.6 走査型電子顕微鏡写真撮影
 2.2.7 澱粉の加熱処理
 2.2.8 糊化度の測定
2.3 実験結果および考察 p.26
 2.3.1 水分の変化
 2.3.2 圧力処理を施した米粒の外観
 2.3.3 溶出物量の測定
 2.3.4 浸漬米の SEM 写真
 2.3.5 澱粉の糊化度の測定結果
2.4 文献 p.37

第III章 圧力処理炊飯米の老化の特徴

3.1 はじめに p.38
 3.1.1 無菌化包装米飯
 3.1.2 圧力処理の有効性
3.2 実験方法 p.39
 3.2.1 試料
 3.2.2 試料の調製
 3.2.3 分析方法
3.3 結果および考察 p.42
 3.3.1 各炊飯法における炊飯温度曲線
 3.3.2 BAP法 による糊化度測定
 3.3.3 加水した米粉および米飯の DSC 曲線とエンタルピーの変化 (ΔH
 3.3.4 NIR 分析の結果
 3.3.5 冷蔵した米飯をレンジで復元した後の糊化度
3.4 要約 p.59
3.5 文献 p.62

第IV章 粳米に付着した耐熱性菌に対する高圧の殺菌効果

4.1 はじめに p.64
4.2 実験方法 p.65
 4.2.1 使用菌株
 4.2.2 粳米
 4.2.3 耐熱性菌の検出方法
 4.2.4 精米
 4.2.5 圧力処理
 4.2.6 D 値および Dp 値の求め方
4.3 実験結果および考察 p.67
 4.3.1 B.subtilis の芽胞泳遊液の D 値ならびにDp 値
 4.3.2 原料米からの耐熱性菌の検出方法に関する検討
 4.3.3 原料米の耐熱性菌の D 値ならびに Dp 値
4.4 文献 p.75

第V章 高圧処理を利用した玄米中への GABA(ν-aminobutyric acid)の蓄積

5.1 はじめに p.76
 5.1.1 新たな加工玄米を求めて
 5.1.2 GABA の生理的効果
 5.1.3 高圧処理を利用した加工玄米開発の可能性
5.2 実験方法 p.79
 5.2.1 試料
 5.2.2 試料の調製
 5.2.3 圧力処理
 5.2.4 水分測定
 5.2.5 GABA の抽出とアミノ酸分析
5.3 実験結果 p.81
 5.3.1 圧力処理および浸漬時間によるコシヒカリの玄米中の水分変化
 5.3.2 圧力処理および浸漬時間による玄米中の遊離アミノ酸量の変化
 5.3.3 圧力処理および浸漬時間による玄米中のGABAの蓄積
5.4 考察 p.85
 5.4.1 玄米に含まれる遊離アミノ酸の活用
 5.4.2 圧力処理と酵素 (GAD) の活性
 5.4.3 玄米中への GABA の蓄積
5.5 要約 p.88
5.6 文献 p.89

第VI章 高圧処理により GABA(ν-aminobutyric acid) を蓄積させた玄米の一般生菌の変化と加工玄米の性質

6.1 はじめに p.92
6.2 実験方法 p.93
 6.2.1 試料
 6.2.2 試料の調整
 6.2.3 一般生菌数測定
 6.2.4 圧力処理
 6.2.5 水分測定
 6.2.6 GABAの抽出とアミノ酸分析
 6.2.7 加工玄米のアミログラム
6.3 実験結果 p.95
 6.3.1 圧力処理および浸漬時間による一般生菌数変化
 6.3.2 玄米米飯に含まれる GABA の量
 6.3.3 加工玄米の性質
6.4 考察 p.100
 6.4.1 圧力処理による微生物の殺菌と浸漬による一般生菌数の増加
 6.4.2 玄米米飯に含まれる GABA の量
 6.4.3 加工玄米の特徴
6.5 要約 p.103
6.4 文献 p.105

第VII章 総合考察

7.1 本論文のまとめ p.106
7.2 開発した米加工品の工業化の現段階 p.108
7.3 世界の高圧利用食品 p.108
7.4 今後の課題 p.110

謝辞

 本論文では高圧処理を利用して,特徴のある米の加工品を作り出すための基盤研究と技術開発の一端を述べた.過去10年ほどの研究で,水の圧縮による体積変化によって,食品の構成成分にはタンパク質の変性,澱粉の糊化,組織の変化などが生じることが知られてきた.この原理を米の加工食品製造に応用することを試みたものである.
 第一に米に対する圧力処理の基本的な影響を調べ,以下の点を明らかにした.
 常温,10分の圧力処理では,米の浸漬時間が短いほど米粒は多くの水を吸水した.外観と溶出物量に関して,400MPaまではほとんど変化しなかった.600MPaで処理を施すと溶出物量が粳米,糯米ともに無処理の3~4倍に増加した.この時糯米はややつぶれ気味で,粘りがあった.
 浸漬米のSEM写真からは以下の点が認められた.圧力処理に伴って粳米では規則的に並んでいた胚乳細胞の結晶状の反射面数が減少し,胚乳細胞中の澱粉粒の間に水が侵入した形跡が観察され,一部の澱粉粒に膨潤が見られた.
 糯米では,もともと胚乳細胞の並び方が粳米ほどはっきりとし規則性が無いことが認められたが,圧力処理によって粳米と同様な傾向を生じた.澱粉粒は特に600MPaで膨潤の程度が大きかった.
 糊化度測定の結果,米澱粉は120℃,20分の加熱処理で95%程度の糊化度を示す時に,常温,600MPa,10分の圧力処理で40%程度の糊化度を示した.5日間の老化で120℃で加熱した澱粉は75%に,圧力処理を施した澱粉は20%程度に低下した.
 第二に,浸漬後圧力処理を施して炊飯した米飯の炊飯直後および老化の過程を,BAP法,DSC,NIRで調べて老化の特徴を明らかにした.
 圧力処理を施した米飯では糊化度が炊飯直後から高く,老化後にもその傾向は失われなかった.またDSCの結果,再糊化に伴うエネルギーが少ないこと、が認められた.NIRの結果,圧力処理を施した米飯の米粉はより短波長側に移行し,米粉に蓄えられたエネルギーが高いことを示した.また圧力処理を施した,老化した米飯をレンジで復元すると高い糊化度を示し,圧力による履歴が老化後もエネルギーを受けた履歴として残っていることが明らかになった.
 さらに粳米の耐熱性菌の殺菌に関して,加熱および加圧処理によるD値,Dp値を求めた.ジフライスを利用すると55℃,400MPaの圧力処理によるDp値は,100℃のD値にほぼ等しく5分であった.
 第三に,以下の点を明らかにした.コシヒカリの玄米と水を1:0.3(W/W)で圧力処理を施し浸漬すると,初期吸水の上昇に助けられて酵素反応が活発化し,GABA(ν-aminobutyric acid)の増加が認められた.圧力が400MPaの場合にその蓄積量が一番高かった.
 圧力処理によって玄米の微生物は減少するが,その後の浸漬工程で増加する.この実態を調べて10時間の浸漬までであれば微生物的な変敗を生じないことを示した.
 圧力処理後GABAを蓄積させて乾燥した加工玄米では,吸水性は未加工の3倍早く,澱粉の粘性は原料玄米の90%を残していた.
 以上,米に圧力処理を行った場合の吸水の変化,組織的な変化,それに伴う酵素反応の活性化や,米澱粉の変性(糊化)などを明らかにした.また圧力処理を施した米に熱を加えて調理を行った場合,圧力処理の履歴が残ることを明らかにした.更に米の殺菌に必要な耐熱性菌のD値を求めた.
 これらの研究を応用して,脱酸素剤を使用しない,レンジ復元性のよい,粘弾性の高い包装米飯,電気炊飯器で炊飯できる加工玄米を開発する道を切り開くことができた.

平成11(1999)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る