マグネシウム合金の精製および耐食性に関する研究
氏名 井上 誠
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第140号
学位授与の日付 平成11年12月8日
学位論文題目 マグネシウム合金の精製および耐食性に関する研究
論文審査委員
主査 教授 小島 陽
副査 教授 梅村 晃由
副査 教授 山田 明文
副査 助教授 鎌土 重晴
副査 豊橋技術科学大学 教授 川上 正博
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第1章 緒論
1.1 本研究の背景 p.1
1.1.1 マグネシウム資源および精錬法 p.1
1.1.2 マグネシウムの用途 p.3
1.1.3 マグネシウムの腐食 p.6
1.1.4 マグネシウムのリサイクル p.12
1.2 本研究の目的と意義 p.15
1.3 本論文の構成および内容 p.15
参考文献 p.16
第2章 真空昇華法および真空蒸留法によるマグネシウムの高純度化
2.1 緒言 p.18
2.2 実験方法 p.19
2.2.1 真空蒸留装置 p.19
2.2.2 精製条件 p.19
2.2.3 原料 p.23
2.2.4 精製試験 p.23
2.2.5 組成分析 p.25
2.2.6 耐食性試験 p.26
2.3 実験結果および考察 p.27
2.3.1 精製時間の検討 p.27
2.3.2 精製場所および原料の検討 p.32
2.3.3 精製温度の検討 p.35
2.3.4 精製材の腐食特性 p.35
2.4 結言 p.39
参考文献 p.39
第3章 各種マグネシウム合金の真空蒸留法による精製
3.1 緒言 p.41
3.2 実験方法 p.42
3.2.1 原料 p.42
3.2.2 蒸留器のコンデンサ部構造の検討 p.42
3.2.3 溶製方法 p.48
3.2.4 組成分析 p.48
3.2.5 耐食性試験 p.51
3.2.6 電気化学的測定 p.51
3.3 実験結果および考察 p.52
3.3.1 精製原料および切削切粉のリサイクルの検討 p.52
3.3.2 精製回数の検討 p.55
3.3.3 精製時間の検討 p.55
3.3.4 コンデンサ温度の検討 p.58
3.3.5 精製・溶製材の化学組成 p.60
3.3.6 精製・溶製材の腐食特性 p.61
3.3.7 精製・溶製材の電気化学的特性 p.64
3.4 結言 p.68
参考文献 p.68
第4章 純マグネシウムの耐食性に及ぼす不純物量の影響
4.1 緒言 p.70
4.2 実験方法 p.71
4.2.1 供試材 p.71
4.2.2 溶製方法 p.71
4.2.3 ミクロ組織観察およびEPMA分析 p.71
4.2.4 組成分析 p.73
4.2.5 耐食性試験 p.76
4.2.6 電気化学的測定 p.76
4.3 実験結果および考察 p.77
4.3.1 鋳造材のミクロ組織 p.77
4.3.2 純マグネシウムの腐食特性に及ぼすFeの影響 p.79
4.3.3 純マグネシウムの腐食特性に及ぼすNiの影響 p.81
4.3.4 純マグネシウムの腐食特性に及ぼすCuの影響 p.83
4.3.5 電気科学的特性 p.85
4.4 結言 p.90
参考文献 p.90
第5章 AZ91Dマグネシウム合金製ダイカスト材のリサイクル
5.1 緒言 p.91
5.2 実験方法 p.92
5.2.1 供試材 p.92
5.2.2 塗装除去 p.95
5.2.3 溶解方法 p.100
5.2.4 ガス分析 p.102
5.2.5 マクロおよびミクロ組織観察 p.102
5.2.6 EPMA分析 p.105
5.2.7 引張試験 p.105
5.2.8 耐食性試験 p.105
5.3 実験結果および考察 p.106
5.3.1 スクラップ材の再溶解時に放出されるガス成分 p.106
5.3.2 塗装付スクラップのリサイクル材 p.109
5.3.3 業務用塗装付スクラップのマンガン添加によるリサイクル材 p.120
5.3.4 塗装除去済スクラップのリサイクル材 p.132
5.4 結言 p.141
参考文献 p.142
第6章 結論 p.144
謝辞 p.147
本論文はマグネシウム合金の精製および耐食性について調べた論文である。マグネシウム合金のリサイクルプロセスにおいて,問題となるリサイクル材の耐食性を調べるための高純度マグネシウムの作製方法,純マグネシウムの腐食挙動に及ぼす不純物量の影響および耐食性の観点を中心としたリサイクルプロセスに関する解明を目的とした。
第1章「緒論」では本研究の背景を述べ,マグネシウム合金のリサイクルプロセスの開発の必要性を示すとともに,本研究の目的と意義について述べている。
第2章「真空昇華法および真空蒸留法によるマグネシウムの高純度化」では、試作した真空蒸留装置を用いて,原材料 1000gの純マグネシウムおよび AM100A マグネシウム合金,加熱開始時の真空度 10-2Torr 以下,精製温度約 600℃,精製時間 1h で,真空昇華および蒸留精製を行うことができ,純マグネシウムより AM100A マグネシウム合金を原料とした方が不純物除去に有効であり,純度 99.995%以上の純マグネシウムを得られることを明らかにしている。
第3章「各種マグネシウム合金の真空蒸留法による精製」では,第2章で試作・検討した装置に改良を加えるとともに,精製条件について,詳細・検討している。さらに得られた純マグネシウムを再溶解し,その溶製材中の不純物元素が耐食性に及ぼす影響について検討している。その結果,Fe,Ni および Cu 量の多い純マグネシウムは耐食性が悪化し,精製・再溶製したマグネシウムは良好な耐食性を示すことを明らかにしている。
第4章「純マグネシウムの耐食性に及ぼす不純物量の影響」では,耐食性に及ぼす Fe,Ni およびCu の影響を定量的に評価するとともに,許容限界量を明確にすることを目的として,第3章で検討した精製条件を用いて作製した高純度マグネシウムに, Fe,Ni および Cu を添加したそれらの溶製材のミクロ組織,耐食性および電気化学的特性について評価している。その結果,許容限界量は Fe では 3%NaCl 水溶液中および 5%NaCl塩水噴霧下ともに 104ppm, Niでは 3%NaCl水溶液下で 16ppm, 5%NaCl 水溶液を用いた塩水噴霧試験下で 23ppm, Cu では 3%NaCl 水溶液下で1660ppm, 5%NaCl水溶液を用いた塩水噴霧試験下で 250ppm であることを明らかにしている。
第5章「AZ91D マグネシウム合金製ダイカスト材のリサイクル」では,塗装付および塗装除去済AZ91D マグネシウム合金製ダイカスト部品を用いた溶解・鋳造法によるリサイクルプロセスについて検討するとともにそのリサイクル材の溶解歩留り,ミクロ組織,耐食性および機械的特性について調べている。その結果,スクラップ投入量と同重量のバージン材をまず溶解し,その溶湯中に直接スクラップ材を投入した場合,溶融金属からスクラップ材への急速な熱伝達により,塗装中の有機化合物は熱分解反応の直後にほぼ完全燃焼し,有害ガスの発生は抑圧され,また Mn添加により塗装中から混入する Fe, Cr, Ni 等の不純物を除去可能であることを明らかにしている。その結果,リサイクルした試料はバージン材と同程度の耐食性を有し,引張特性も JIS 規格値をほぼ満足することを示している。
溶解前にショットブラストで塗装を除去し,溶解・鋳造法によりリサイクルした場合,溶解前に塗装を除去することにより,塗装の燃焼時に付随的に生じるマグネシウムの酸化消耗が抑制され,かつ塗装からの不純物の混入がないため,80%以上の高い歩留りが得られるとともに,その品質はバージン材に匹敵することを明らかにしている。
第6章「結論」では,本論文の各章の結言を要約している。
本研究はマグネシウム合金の精製および耐食性について調べ,リサイクルプロセスを提唱し,その際問題となるリサイクル材の耐食性を調べるための高純度マグネシウムの作製方法および純マグネシウムの耐食性に及ぼす不純物量の影響を解明した。これらはマグネシウム合金の精製および耐食性に対する今後の研究の一助になるものと考えられる。