乾燥や荷重履歴を受けるコンクリートの塩分浸透性評価に関する研究
氏名 桜田 良治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第152号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 乾燥や荷重履歴を受けるコンクリートの塩分浸透性評価に関する研究
論文審査委員
主査 教授 丸山 久一
副査 助教授 下村 匠
副査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 長井 正嗣
副査 助教授 宮木 康幸
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第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景 p.2
1.2 既往の研究成果 p.4
1.3 本研究の目的 p.11
1.4 本論文の構成 p.14
第1章の参考文献 p.15
第2章 乾燥履歴による細孔構造の変化 p.18
2.1 コンクリートの細孔構造 p.19
2.2 ワイブル分布の統計的性質 p.22
2.3 乾燥履歴による細孔構造の変化 p.26
2.4 細孔径分布のモデル化 p.35
2.5 まとめ p.40
第2章の参考文献 p.42
第3章 乾燥履歴を受けたコンクリート中への塩化物イオンの拡散特性 p.44
3.1 細孔空隙と毛細管吸水量 p.45
3.2 塩化物イオンの拡散特性 p.51
3.3 まとめ p.57
第3章の参考文献 p.58
第4章 荷重履歴を受けたコンクリート中への塩化物イオンの拡散特性 p.59
4.1 荷重履歴によるひび割れ p.60
4.2 実験方法 p.62
4.3 AE法による微細ひび割れの評価 p.66
4.4 塩化物イオンの拡散特性 p.71
4.5 まとめ p.74
第4章の参考文献 p.75
第5章 冬期暴露実験による塩分浸透特性の検証 p.77
5.1 暴露実験方法 p.78
5.2 気象特性 p.80
5.3 凍結防止剤の散布特性 p.82
5.4 凍結防止剤散布環境下での塩化物イオンの拡散特性 p.88
5.5 まとめ p.92
第5章の参考文献 p.93
第6章 損傷劣化状態での細孔空隙の定量化と塩化物イオンの拡散浸透 p.95
6.1 コンクリート損傷状態での細孔構造 p.96
6.2 塩分浸透現象からみたコンクリート損傷劣化状態のモデル化 p.105
6.3 複合劣化状態での塩分浸透のシミュレーション解析 p.118
6.4 まとめ p.134
第6章の参考文献 p.136
第7章 結論 p.138
謝辞 p.143
参考資料 p.145
Appendix1 細孔空隙データ p.145
Appendix2 凍結防止剤散布・気象データ p.157
Appendix3 塩化物イオン量・乾燥特性・圧縮強度データ p.165
Appendix4 応力ひずみ関係データ p.167
沿岸域でのコンクリート構造物や冬期間に凍結防止剤が散布される地域のコンクリート道路構造物では,コンクリート中への塩化物イオンの浸透により,鉄筋の発錆によるかぶりコンクリートの剥落や,鉄筋の断面欠損が生じるなど,コンクリート構造物としての劣化が課題となっている。そこで本研究では,劣化状態にあるコンクリート中に塩分がどのように浸透していくのかを解明することを目的とし,特に実構造物では乾湿の繰返しや荷重履歴を受けることから,それらの影響がコンクリート中への塩分浸透にどのように現れるかを,基礎的な実験および解析を通して定量的に評価した。
本論文は第1章から第7章よりなり,各章の構成は以下のとおりである。
第1章では,本研究の背景,既存の研究成果,および本研究の目的と当該分野での研究の位置づけについて述べている。
第2章では,コンクリートが乾燥履歴を受けた場合の細孔空隙構造の変化について,実験的に検討しその特性を明らかにした。乾燥により,すべての細孔径での空隙が一様には増加せず,毛細管空隙での増加が顕著になる。その細孔径分布のモードは,乾燥温度が高くなるにつれて,次第に大きな細孔径の空隙が占める割合が相対的に増加する方向に推移する。この細孔径分布は,Weibull分布での近似が可能であり,Weibull分布の形状パラメータおよび尺度パラメータは,乾燥温度の関数として定量的に定めることができる。この形状パラメータおよび尺度パラメータを決定することで,任意の乾燥履歴を受けたコンクリート構造物の細孔径分布の予測が可能となることが判明した。
第3章では,乾燥履歴後の細孔径分布より算出した,毛細管空隙のもつ吸水量を塩化物イオン拡散係数の予測式に取り込むことで,コンクリート中への塩分浸透量を算出する方法について検討した。コンクリート中の細孔空隙を円筒空隙と仮定し,この空隙が毛細管力によって吸い上げる吸水量を算定した。円筒空隙中の流れは層流で,Hagen-Poiseuille式によるとした。乾燥温度が高くなるにつれて,細孔直径で50nm~2μm の毛細管空隙の増加が著しくなり,これに伴い塩分の蓄積はコンクリート内部まで及ぶようになる。毛細管空隙での吸水量は乾燥温度と強い相関があり,乾燥温度が増すにつれて各細孔径での吸水量は増大する。この吸水量を塩化物イオン拡散係数の予測式に取り込むことで,塩分の拡散に乾燥履歴に伴う細孔空隙量の影響を考慮した解析ができることが明らかになった。
第4章では,コンクリート部材が荷重履歴を受けた場合の細孔空隙構造を検討するとともに,圧縮載荷によって生じた内部微細クラックが塩化物イオンの拡散浸透に及ぼす影響について検討した。内部微細クラックの発生量は,AEヒット計数により評価するとともに,これと塩化物イオン拡散係数との相関関係を求めた。その結果,AEヒット計数の累積値と載荷後の残留体積ひずみとの間には強い相関があり,このAEヒット計数の累積値によって間接的に荷重履歴を受けたコンクリートの内部微細クラックの発生量を特定できることが判明した。この場合,応力比がおよそ0.7~0.8を境に載荷に伴う細孔空隙の構造が変わり,これが塩化物イオンの拡散浸透に影響してくる。応力比が0.7~0.8以下の領域では,AEヒット計数の増大,すなわち圧縮載荷による内部微細クラックの増大につれて,塩化物イオン拡散係数は漸増する。一方,応力比が0.7~0.8を超えて体積ひずみが減少から増大に転じた後では,塩化物イオン拡散係数は急激に増加することが判明した。
第5章では,予め乾燥履歴を与えたコンクリート供試体を冬期間に国道上に暴露し,凍結防止剤散布環境下での塩分浸透性を検討するとともに,第3章で提案した塩化物イオン拡散係数予測モデルの妥当性を検証した。併せて,凍結防止剤散布に起因する路面水の塩分濃度の変化について解析的に検討した。NaClを主剤とする凍結防止剤の散布に起因する路面水の塩分濃度は,降雪による希釈効果や交通車両による撹乱の影響を大きく受け,交通車両の攪乱による影響が小さくなるにつれて路面に塩分が残留し,次回の散布時に路面水の塩分濃度が高まる可能性が判明した。毛細管空隙のもつ吸水管に基づいた,塩化物イオン拡散係数予測モデルより算出した塩分浸透量は暴露実験結果と適合し,本モデルにより,凍結防止剤散布環境下での乾燥履歴を受けたコンクリート中への塩分浸透量予測が可能になることが判明した。
第6章では,前章で示した乾燥履歴および荷重履歴を受けて複合劣化状態にあるコンクリートの塩分浸透特性について,有限要素法による数値解析より検討した。乾燥履歴に伴うモルタルマトリクス中の細孔径の粗大化と毛細管空隙量の増大に加えて,開口ひび割れによる複合劣化がコンクリート構造物中に生じた場合には,乾燥履歴のみを受けた場合に比べて塩分の浸透がコンクリート深部まで及ぶが,この度合いはより高温域での乾燥履歴を受けたコンクリートほど大きくなることが,数値解析結果より示唆された。これらのことから,塩化物イオンの輸送媒体としての空隙構造の特性を把握し定量化することにより,コンクリートの劣化状態に応じた塩分浸透量を適切に評価できることが明らかになった。
第7章では,本研究で得られた成果をまとめ,結論としている。