地盤環境調査におけるBATシステムの応用に関する研究
氏名 柳浦 良行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第146号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 地盤環境調査におけるBATシステムの応用に関する研究
論文審査委員
主査 助教授 杉本 光隆
副査 教授 海野 隆哉
副査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 松下 和正
副査 長岡工業高等専門学校校長 小川 正二
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第1章 序論
1.1 本研究の目的 p.1
1.2 本論文の構成 p.3
第2章 地盤環境調査の現状と課題 p.5
2.1 地盤環境調査の分類 p.5
2.2 地盤環境調査の現状と課題 p.7
2.3 地盤環境調査の今後の展望 p.19
第3章 BATシステムによる地盤調査法の既往研究 p.21
3.1 BATシステムの概要 p.21
3.2 BATシステムによる地盤調査法と実施例 p.25
第4章 BATシステムによる土中有毒ガスの採取・分析方法の開発 p.40
4.1 まえがき p.40
4.2 土中有害ガスの性質、発生要因および地盤内での存在状態 p.41
4.3 従来の調査法の問題点の整理 p.44
4.4 BATシステムによる土中有毒ガスの採取方法の検討 p.47
4.5 現地での採取・分析例 p.55
4.6 まとめ p.61
第5章 熱力学による土中有毒ガスの評価方法の開発 p.63
5.1 まえがき p.63
5.2 従来の評価方法の問題点の整理 p.64
5.3 熱力学の土中ガス評価への適用 p.66
5.4 現地での調査・評価例 p.73
5.5 まとめ p.77
第6章 BATシステムによる各種地盤環境の透水性調査法の開発 p.79
6.1 まえがき p.79
6.2 従来の単孔式透水試験の問題点 p.80
6.3 BATシステムを応用した新しい現場透水試験の原理 p.83
6.4 BATシステムによる各種地盤環境に適用可能な現場透水試験方法 p.89
6.5 現地への適用例 p.95
6.6 まとめ p.99
第7章 結論 p.101
謝辞 p.102
(巻末資料)
参考1 気体に関する物理化学の法則の整理 p.A1
参考2 二成分系の気液平衡の概念 p.A5
参考3 気液平衡と気体の溶解度 p.A8
参考4 各種ガスの溶解度 p.A10
参考5 写真集 p.A12
1.本研究の目的および概要
地盤に関する環境問題は,古くは大阪の地盤沈下,足尾鉱毒事件による土の汚染から,降雨のたびに発生する土砂崩壊・地すべり,地下工事における酸欠事故,メタンガス爆発など,その形態は様々である.
最近では,地下工事が多様化する種々の需要に答えるべく大規模化し,かつ大深度におよぶことが多くなり,工事中の可燃性ガス,酸欠ガス,毒性ガス等の土中ガス問題がクローズアップされつつあるが,地盤調査のマニュアルである「地盤調査法」には土中ガスについての記述は数ページしかなく,精度の高い簡便な土中ガスの採取・評価方法の開発が必要であった.本研究では,土中ガス採取に地下水採取法の一つである B.A.Torstenssonが開発したBATシステムが有効であることを見出し,実測値との比較を行いながら従来より精度の高い土中ガスの採取が可能であることを示した.さらに,採取された土中ガスの評価に関しては,熱力学の相平衡と希薄溶液論を用いて飽和,不飽和中の非反応性の土中ガスを評価する方法を考案した.その結果,従来,土中ガスの評価は「ガスがある,なし」の定性的評価にとどまっていたが,本手法を用いることにより工事中の精度の高い土中ガスの「定量的評価」が可能となった.
また,地盤環境問題を議論する上で地下水の挙動は無視できない重要な要素である.「地盤調査法」,「土質試験の方法と解説」にその調査の中心となる現場透水試験,室内透水試験法が基準として記述してある.しかし,これらの方法は,各種地盤(例えば粘性土と砂質土)に応じて試験法を変える必要があること,適用深度に限界があること,長い試験時間を要すること,泥水処理の費用がかかること等,の問題がある.本研究の後半では,これらの問題を解決する方法として,土中ガスと同様にBATシステムに着目し,従来,粘性土にしか適用できなかったシステムを中間土~砂質土まで拡張する方法を開発し,実測値と比較を行った結果,良好な結果を得た.その結果,1)透水係数の異なる各種地盤に一つの方法で試験が可能,2)適用深度が 100m(実績として)まで拡張,3)従来の試験法の1/10の試験時間で試験が可能,4)泥水処理が不必要,等の特徴を有する新しい現場透水試験法を提案した.
2.本論文の構成
本論文「地盤環境調査におけるBATシステムの応用に関する研究」は第1章の序論を含め7章からなる.
第2章は地盤環境調査の現状と課題について述べている.代表的な地盤環境調査法である広域地下水調査,地盤変状調査,土の汚染調査,地下水の汚染調査および土中ガス調査の5項目について,各調査法の現状と課題を述べた後,地盤環境調査全体の今後の展望について記述した.
第3章はBATシステムによる地盤調査法の既往研究について整理した.まず,B.A.Torstensson によって開発されたBATシステムの概要としてそのシステムのメカニズムおよびフィルターチップの特徴について述べた.次に実際にBATシステムにより行なわれている地下水サンプリング,間隙水圧測定,現場透水試験,ハイドロフラクチャー試験について,その調査・試験システムおよび実測例を述べ,その実用性を紹介した.
第4章はBATシステムによる土中有害ガスの採取・分析方法の開発について述べている.まず,従来の土中ガス調査法はガス採取作業時にガスの一部が土中から放出されてしまい「土中ガスがある,なし」の定性的評価しかできないことをガス採取中のモル数の変化から説明した.この問題を解決する方法として,地下水モニタリング法として,地下水採取,間隙水圧測定および透水試験等を目的にB.A.Torstensson が開発したBATシステムが土中ガス採取にも適用可能であることを述べた.このシステムを用いることにより,被圧不活性状態で精度良く土中ガスを採取・分析できることを示し,ヘンリーの法則を用いて概略の土中ガスの存在状態を判定できることを示した.
第5章は第4章で採取・分析された土中ガスに熱力学を適用した土中ガスの評価方法の開発について述べている.地盤より工事中に発生する土中ガスは,多くの場合,単独ガスではなく混合ガスとして発生するにも係らずその評価方法は確立されていない.また,飽和土での土中ガスは地下水中に溶存ガスとして,不飽和土での土中ガスは地下水中の溶存ガスとともに空隙中に土壌ガスとして存在するが,これらの存在状態を含め,土中ガスを総合的に評価する方法は明らかにされていない.本章では,これらの問題を解決するため,熱力学の相平衡と希薄溶液論を用いて飽和土,不飽和土の非反応性の土中ガスを評価する方法を考案し,実測値との比較を行いながら実際問題への応用方法を提案した.
第6章はBATシステムによる各種地盤環境の透水性調査法の開発について述べている.まず,従来の単孔式透水試験法は,適用深度,試験時間,泥水処理等の問題があることを述べた.これらの問題を解決する方法としてBATシステムによる現場透水試験法があるが,既存のシステムでは,中間土~砂質土に対し装置の損失水頭のため,適用できないことを説明したのち,その補正方法を提案した.他の試験方法との比較を行いながら本論文で提案した方法が従来の方法に比較して,経済的かつ効率的な方法であることを述べた.
第7章では,全体の結論をまとめ,本手法の適用性とその適用限界についてまとめた.