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短鎖型脱水素酵素/還元酵素ファミリーに属する酵素に関する構造生物学的研究

氏名 田中 信忠
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第139号
学位授与の日付 平成11年12月8日
学位論文題目 短鎖型脱水素酵素/還元酵素ファミリーに属する酵素に関する構造生物学的研究
論文審査委員
 主査 教授 三井 幸雄
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 曽田 邦嗣
 副査 教授 福田 雅夫
 副査 助教授 野中 孝昌

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序論 p.1

第1章 短鎖型脱水素酵素/還元酵素ファミリー p.4

第2章 大腸菌由来7α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素のX線結晶構造解析 p.9
2-1 大腸菌由来7α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素 p.9
2-2 2成分複合体の結晶化 p.12
2-3 結晶学的パラメータの決定および回折強度データの収集 p.14
2-4 分子の対称性の確認 p.15
2-5 2成分複合体の多重重原子同形置換法による構造決定 p.16
2-5-1 標準母液の調製 p.16
2-5-2 重原子誘導体の探索 p.16
2-5-3 重原子誘導体の回折強度データの収集 p.19
2-5-4 重原子結合位置の精密化および初期位相の決定 p.21
2-5-5 位相の改良 p.26
2-5-6 電子密度図の解釈およびモデルの構築 p.28
2-5-7 構造精密化 p.30
2-6 2成分複合体の立体構造 p.32
2-6-1 構造解析の妥当性 p.32
2-6-2 モノマーの構造 p.35
2-6-3 テトラマーの全体構造 p.37
2-6-4 2成分複合体の補酵素結合部位の構造 p.42
2-6-5 2成分複合体の活性部位の構造 p.45
2-7 3成分複合体結晶の調製 p.47
2-7-1 3成分複合体結晶の調製 p.47
2-7-2 3成分複合体結晶中の補酵素の酸化状態 p.48
2-8 3成分複合体の構造決定 p.51
2-8-1 X線回折強度データの収集 p.51
2-8-2 差フーリエ法による構造決定 p.52
2-8-3 モデリングおよび構造精密化 p.53
2-9 3成分複合体の立体構造 p.56
2-9-1 構造解析の妥当性 p.56
2-9-2 基質結合による構造変化 p.59
2-9-3 基質結合様式 p.62

第3章 短鎖型脱水素酵素/還元酵素ファミリーに属する酵素の基質認識機構および反応機構に関する考察 p.66
3-1 活性部位の構造比較 p.66
3-2 'Ser-Tyr-Lys triad'の役割および新規の反応機構の提唱 p.69
3-3 触媒残基に関する部位特異的置換実験による反応機構の検証 p.72
3-4 基質結合に伴う構造変化 p.78
3-5 基質特異性の決定要因 p.80

第4章 マウス肺由来カルボニル還元酵素のX線結晶構造解析 p.81
4-1 マウス肺由来カルボニル還元酵素 p.81
4-2 3成分複合体の結晶化 p.84
4-3 結晶学的パラメータの決定および回折強度データの収集 p.87
4-4 分子の対称性の確認 p.89
4-5 分子置換法による構造決定 p.90
4-5-1 サーチモデルの構築 p.90
4-5-2 分子置換法による位相決定 p.92
4-5-3 モデリングおよび構造精密化 p.95
4-6 マウス肺カルボニル還元酵素の立体構造 p.98
4-6-1 構造解析の妥当性 p.98
4-6-2 モノマーの構造 p.101
4-6-3 テトラマーの全体構造 p.104
4-6-4 補酵素結合部位の構造 p.107
4-6-5 基質結合部位の構造 p.112

第5章 短鎖型脱水素酵素/還元酵素ファミリーに属する酵素の補酵素認識機構に関する考察 p.116
5-1 補酵素結合様式の比較 p.116
5-2 補酵素結合部位のアミノ酸配列の比較 p.118
5-3 補酵素認識機構の提唱 p.121
5-4 補酵素認識に関わるアミノ酸残基の部位特異的置換実験による補酵素認識機構の検証 p.122
5-5 立体構造情報に基づいた補酵素特異性の変換 p.125

総括 p.128

謝辞 p.131

参考文献 p.133

論文目録 p.143

 短鎖型脱水素酵素/還元酵素(SDR)ファミリーは、各々のサブユニットが約250アミノ酸残基から成り、NADあるいはNADPを補酵素とする酸化還元酵素によって、構成されている。このファミリーに属する酵素に関する研究は80年代に始まったばかりであるが、90年代になって急速な展開を見せている。SDRファミリーに属する酵素は既に50種類以上見つけられているが、アミノ酸配列の相同性は互いに15~30%と低く、対象とする基質も非常にバラエティーに富んでいる(ステロイド、プロスタグランジン、アルコール、芳香族化合物等)。また、大腸菌からヒトにいたるまで、多種多様の生物から発見されている。このような多様性にも関わらず、補酵素結合部位と思われるアミノ酸配列や、触媒部位と思われるアミノ酸配列がファミリー内で保存されていることが分かっていた。しかし、SDRファミリーに属する酵素の反応機構や補酵素認識機構は全く不明であった。
 本研究を始める段階において、SDRファミリーに属する酵素に関する立体構造解析は2例報告されていたものの、いずれも[酵素-補酵素]の2成分複合体であり、[酵素-補酵素-基質類似体]の3成分複合体の立体構造は報告されていなかった。また、酵素と補酵素の複合体はいずれもNADとの複合体であり、NADPとの複合体の構造も明らかにされていなかった。

 そこで本研究においては、SDRファミリーに属する酵素の構造と機能、特に反応機構や補酵素認識機構を明らかにするために、X線結晶構造解析の手法により2種類の酵素(大腸菌由来7α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素とマウス肺由来カルボニル還元酵素)の立体構造を決定した。そして、得られた立体構造に基づき反応機構と補酵素認識機構に関する作業仮説を提唱した。これら2酵素の置換体の機能解析の結果や類縁酵素に関する構造解析および機能解析の結果を考慮することにより、立体構造に基づいて提唱した作業仮説が妥当か否かを検証した。
 本学位論文の第1章では、SDRファミリーに属する酵素の特徴、これら関する立体構造解析の意義、他の研究グループも含めたこの分野の研究の進展状況について述べた。
 第2章では、大腸菌由来7α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(7α-HSDH:一次胆汁酸の代謝酵素)に関して、2成分[酵素-補酵素(NAD+)]複合体の立体構造を多重重原子同形置換法により決定し、さらに類縁酵素において世界初の3成分[酵素-補酵素(NADH)-反応生成物]複合体の構造を、差フーリエ法により決定した。その結果、基質結合に伴う構造変化および基質結合様式を、類縁酵素では、世界で最初に明らかにした。
 第3章では、著者の構造解析の後、続々と明らかにされたSDRファミリーに属する酵素の3成分複合体の立体構造を考慮し、解媒残基の役割に関して検討し、新規の反応機構を提唱した。また、7α-HSDHに関して共同研究者が部位特異的置換体を調製し、その機能解析および構造解析を行うこと、ならびに類縁酵素に関する種々の機能解析の結果を考慮することにより、立体構造に基づいて提唱した反応機構が妥当であるかどうかを検証した。検証の結果、類縁酵素の解媒残基に関する種々の実験結果の殆どは、本研究で提唱した反応機構を支持するものであった。
 第4章では、マウス肺カルボニル還元酵素(MLCR : 種々のカルボニル化合物の代謝酵素)に関して、[酵素-補酵素(NADPH)-反応生成物複合体]の立体構造を第2章で決定した7α-HSDHの立体構造をサーチモデルとした分子置換法により決定し、類縁酵素において初めて、NADPHの結合様式を明らかにした。
 第5章では、SDRファミリーに属する酵素の補酵素結合部位の立体構造およびアミノ酸配列を比較し、補酵素認識機構(NAD or NADP)を提唱した。また、MLCRに関して共同研究者が部位特異的置換体を調製し、その機能解析を行うこと、ならびに類縁酵素に関する種々の機能解析の結果を考慮することにより、我々が立体構造に基づいて提唱した補酵素認識機構が妥当であるかどうかを検証した。検証の結果、類縁酵素の補酵素結合残基に関する種々の実験結果は、本研究で提唱した補酵素認識機構を支持するものであった。

 このように本研究では、「立体構造主導」でSDRファミリーに属する酵素の構造機能相関研究を行った。その結果、このような「構造生物学」的アプローチこそが、蛋白質の構造機能相関研究において、最も合理的な戦略であるということを示すことができた。

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