タイヤ式門型クレーンの動特性に関する研究
氏名 竹原 亨
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第147号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 タイヤ式門型クレーンの動特性に関する研究
論文審査委員
主査 教授 伊藤 廣
副査 教授 長谷川 光彦
副査 助教授 阿部 雅二朗
副査 助教授 太田 浩之
副査 東京都立大学 教授 鈴木 浩平
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第1章 緒論 p.1
1.1 コンテナ輸送とタイヤ式門型クレーンの発展史 p.1
1.2 タイヤ式門型クレーンの設計と走行性能 p.10
1.3 論文の構成 p.11
第2章 走行挙動の理論解析 p.13
2.1 緒言 p.13
2.2 走行シミュレーションの方法 p.15
2.2.1 概要 p.15
2.2.2 有限要素法を用いた動的解析 p.15
2.2.3 機体のモデリング p.18
2.2.4 タイヤと路面間の相互作用力 p.20
2.2.5 走行電動機のモデリング p.22
2.2.6 路面のモデリング p.24
2.2.7 風荷重モデル p.26
2.2.8 解析手順 p.28
2.3 走行シミュレーション結果および考察 p.30
2.3.1 シミュレーション条件 p.30
2.3.2 不確定因子の特定および補正 p.34
2.3.3 走行シミュレーション精度の検証 p.37
2.3.4 機体剛性の直進走行性能に及ぼす影響 p.41
2.4 結言 p.43
第3章 機体挙動と走行性能 p.45
3.1 緒言 p.45
3.2 実験解析 p.45
3.2.1 供試機 p.45
3.2.2 実験方法 p.47
3.3 理論解析 p.49
3.3.1 概要 p.49
3.3.2 機体挙動の定義 p.49
3.3.3 機体の固有振動モード解析 p.51
3.4 解析結果および考察 p.53
3.4.1 解析条件 p.53
3.4.2 機体の固有振動数および固有振動モード p.53
3.4.3 直進走行時における機体挙動 p.55
3.4.3.1 ピッチング挙動 p.55
3.4.3.2 ローリング挙動 p.58
3.4.3.3 ヨーイング挙動 p.61
3.4.4 機体挙動の走行性能に及ぼす影響 p.64
3.5 結言 p.68
第4章 駆動系の特性と直進走行性能 p.69
4.1 緒言 p.69
4.2 理論解析 p.69
4.2.1 概要 p.69
4.2.2 駆動輪の定常走行速度 p.71
4.3 理論解析結果および考察 p.72
4.3.1 概要 p.72
4.3.2 解析条件 p.72
4.3.3 駆動系の特性と直進走行性能 p.72
4.3.3.1 タイヤ特性および負荷分配の影響 p.72
4.3.3.2 有効転がり半径の影響 p.75
4.3.3.3 転がり抵抗およびコーナリングスティフネスの影響 p.77
4.3.4 直進走行性能および改善方法 p.79
4.3.4.1 タイヤによる改善 p.79
4.3.4.2 電動機による改善 p.82
4.3.4.3 駆動輪配置による改善 p.83
4.4 結言 p.84
第5章 外乱と直進走行性能 p.85
5.1 緒言 p.85
5.2 理論解析 p.85
5.3 解析結果および考察 p.86
5.3.1 概要 p.86
5.3.2 理論解析条件 p.86
5.3.2.1 路面傾斜の影響解析 p.86
5.3.2.2 風荷重の影響解析 p.89
5.3.2.3 タイヤ取付誤差の影響解析 p.89
5.3.3 直進走行性能に及ぼす影響 p.90
5.3.3.1 路面傾斜 p.90
5.3.3.2 風荷重 p.92
5.3.3.3 駆動タイヤ取付誤差 p.94
5.3.4 環境外乱を考慮したRTGの管理,運営 p.95
5.4 結言 p.96
第6章 結論 p.97
謝辞 p.100
参考文献 p.101
本研究に関する発表論文 p.102
付録 p.105
付録1 タイヤ式門型クレーンの適用規格 p.107
付録2 大変位理論 p.117
付録3 タイヤモデル化の関係式 p.128
付録4 タイヤ特性グラフ p.134
付録5 電動機特性 p.145
1950 年代に米国で始まったコンテナ輸送方法は,従来の船舶や荷役機械の形式,コンテナ蔵置ヤードの形態を一変させ,ロジスティクス革命をおこした.コンテナの蔵置ヤードでは,蔵置ブロック間で列替え移動の可能なタイヤ式門型クレーンが,機動性に優れているため,コンテナ荷役用クレーンとして広く普及してきた.近年,コンテナ荷役搬送機器の自動化の進展にともない,あらためて,自動あるいは無人運転に対応できるタイヤ式門型クレーンが注目されている.これらの内,タイヤ式門型クレーンの自動走行技術の確立のため,無軌道式クレーンにおける走行動特性の解明が重要な研究課題となっている.
タイヤ式門型クレーンは,コンテナの段積みに適した大型門型構造を有するため,柔軟で重心位置が高い.また,予め勾配を有しかつ地盤沈下等により凹凸のある路面を,4 コーナが接地した状態で走行することより,機体は複雑な挙動を示す.これにより,走行電動機の負荷やタイヤと路面間の動的な相互作用力が大きく変動するため,機体挙動の走行性能に及ぼす影響が,一般のタイヤ式走行車両に比べて大きい.このように,タイヤ式門型クレーンにおいて走行性能に影響を及ぼす因子には,機体特性,環境外乱(風荷重や走行路面傾斜)等がある.風荷重の改善は困難で,路面整備は高価であるため,機体特性の最適化による走行性能の改善が望まれる.
クレーンの走行性能に関し設計時に考慮すべきパラメータには,機体特性として,機体状態,構造およびパワーライン(特に電動機およびタイヤ)特性,環境外乱として,走行路面形状および風荷重がある.
本研究は,有限要素法に基づく走行シミュレーションの方法を確立し,タイヤ式門型クレーンの走行動特性を解析することを目的にしている.さらに,本論文においては,走行シミュレーション方法,機体挙動と走行性能,および駆動系の特性と直進走行性能について以下のようにまとめた.
第1章は緒言である.クレーン,海上コンテナ,コンテナターミナル,コンテナ荷役機器の歴史と,コンテナ荷役に用いるタイヤ式門型クレーンの発展史をまとめた.また,各国におけるタイヤ式門型クレーンの設計基準を示し,クレーンの大型化,高速化および自動化が進む中で,これらの状況変化が走行性能に及ぼす影響について述べた.特に,近年,コンテナ荷役搬送機器の自動化にともない,無人運転に対応できるタイヤ式門型クレーンが注目されている.このため,自動走行技術の確立に関わる無軌道式クレーンの走行動特性解明の重要性を指摘した.
第2章では,タイヤ式門型クレーンの走行シミュレーションの方法を示し,本方法により求めた走行軌道の理論値を,実機実験値と比較して検証し,構築した方式の妥当性を確認した.本論文では,理論解析精度を総合的に向上させるために,有限要素法による解法に大変位理論を導入するとともに,機体やタイヤのモデル化や駆動力の入力方法をより実機に近いものとし,タイヤや電動機の挙動については過渡特性を考慮した.さらに,機体の剛性が走行性能に及ぼす影響について検討し,機体構造部分の剛性よりもタイヤ剛性の影響が大きいことの結果を得た.
第3章においては,機体挙動と走行性能の関係について述べる.機体の固有振動モード解析を行い,走行シミュレーション結果と,実機実験で得られた機体振動の周波数分析結果から,機体挙動の特徴を明らかにした.この結果,シミュレーション結果と実機実験で,ピッチング挙動,ローリング挙動はともに,0.39Hz,0.56Hz付近に極地を有し,良く一致していた.次に,機体挙動が電動機負荷およびタイヤと路面間の相互作用力の変動と,どのような相関関係にあるかを,解析結果をもとに考察した.
第4章においては,駆動系の特性と直進走行性能の関係について述べる.直進性能について,タイヤおよび電動機等により構成される駆動系の特性との関係に注目して理論解析した.これをもとに,タイヤ,電動機の特性が走行性能に及ぼす影響について考察するとともに,直進性に優れたタイヤ式門型クレーンの駆動系を提案した.タイヤ特性に関しては,有効転がり半径,転がり抵抗係数およびコーナリングスティフネスの影響が大きく,電動機特性に関しては,供試機のように他励式直流電動機によるワードレオナード制御の場合,特に,電機子回路全抵抗と界磁磁束が走行性能に影響を及ぼす主要因子であることを解明した.
第5章においては,路面形状,風荷重による環境外乱が直進走行性能に及ぼす影響について述べるとともに,機体の構造部分や機械部品の固有寸法誤差および経年変化による誤差などの因子により,駆動タイヤの取付角度誤差が直進走行性能に及ぼす影響を明らかにし.
第6章は結論である.本研究において確立された走行シミュレーションにより,タイヤ式門型クレーンの走行性能に影響を及ぼす因子について,その影響度を定量的に把握することが可能となった.また,本研究により得られた知見をまとめ,工業的有用性の見地から考察を述べ,走行性能改善のための提案を行った.さらに,今後の研究課題として,無軌道式クレーンの自動走行技術の確立をめざした直進走行制御の研究や,また,近年とくに普及してきたインバータ駆動式クレーンの走行性能についての研究に取り組むことを述べた.