本文ここから

Extradiol型2原子酸素添加酵素類の立体構造、機能、分子進化

氏名 杉本 敬祐
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第204号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文の題目 Extradiol型2原子酸素添加酵素類の立体構造、機能、分子進化
論文審査委員
 主査 教授 山田 良平
 副査 教授 福田 雅夫
 副査 助教授 城所 俊一
 副査 講師 政井 英司
 副査 助教授 野中 孝昌

平成11(1999)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第一章
 序論
1.1 芳香環を持つ化合物 p.1
1.2 芳香族有機化合物分解代謝系 p.1
 1.2.1 Pseudomonas sp.KKS102由来PCB分解菌 p.4
 1.2.2 Bacillus stearothermophilus BR219由来フェノール分解菌 p.4
 1.2.3 Sphingomonas paucimobilis SYK-6由来のリグニン分解菌 p.4
1.3 (環開裂型)二原子酸素添加酵素 p.7
 1.3.1 Intradiol type dioxygenase p.7
 1.3.2 Extradiol type dioxygenase p.10
1.4 Class IIについて p.11
 1.4.1 BphC酵素の立体構造解析 p.12
 1.4.1.1 BphC酵素の全体構造 p.12
 1.4.1.2 基質結合 p.14
 1.4.1.3 基質結合に鉄イオンは必須でない p.14
 1.4.1.4 酸素結合について p.15
 1.4.1.5 反応機構 p.16
1.5 Class Iについて p.17
1.6 Class IIIについて p.17
 1.6.1 サブユニット構成は、ホモテトラマーとヘテロテトラマーの2つのタイプが存在している p.17
 1.6.2 Class IIとclass IIIは、進化的関係があるか、ないのか p.18
 1.6.3 基質特異性 p.18
 1.6.3.1 LigAB酵素の基質特異性 p.18
 1.6.4 反応機構 p.21
1.7 研究目的 p.22

第二章 Materials and methods p.23
2.1.1 LigAB酵素の精製 p.24
 2.1.1.1 大腸菌による大量培養 p.24
 2.1.1.2 集菌と菌破砕 p.25
 2.1.1.3 DEAEセファロース陰イオン交換クロマトグラフィー p.27
 2.1.1.4 ヒドロキシアパタイトカラムによるクロマトグラフィー p.29
 2.1.1.5 LigABの濃縮 p.31
2.1.2 LigAB酵素の結晶化 p.32
 2.1.2.1 結晶化条件の探索 p.32
 2.1.2.2 最適化後の結晶化条件 p.33
2.1.3 標準母液の調整(standard buffer) p.34
2.1.4 結晶学的パラメータの決定と回折強度測定 p.34
2.1.5 多重原子同型置換法による構造解析 p.35
 2.1.5.1 重原子誘導体の探索 p.35
 2.1.5.2 重原子誘導体の回折強度データ収集 p.37
 2.1.5.3 重原子結合位置の精密化および初期位相の決定 p.38
2.1.6 電子密度の解釈とモデルの構築 p.42
2.1.7 構造精密化 p.42
2.1.8 PCA-LigAB複合体の構造解析 p.45
 2-1-8-1 基質(PCA)入り標準母液の調製 p.46
 2-1-8-2 PCA複合体線の回折強度データ収集 p.46
 2-1-8-3 差フーリエ法による基質構造決定及び構造精密化 p.47
2.1.9 Catechol-LigAB複合体の構造解析 p.48
 2.1.9.1 Catechol入り標準母液の調製 p.48
 2.1.9.2 PCA複合体線の回折強度データ収集 p.49
 2.1.9.3 差フーリエ法によるカテコール構造決定及び構造精密化 p.49
2.1.10 酵素活性に関する実験 p.51
 2.1.10.1 LigAB活性測定条件 p.51
 2.1.10.1 結果 p.53
2.2.1 PheB酵素の精製 p.54
 2.2.1.1 大腸菌による大量培養 p.54
 2.2.1.2 集菌と菌破砕 p.55
 2.2.1.3 DEAEトヨパール陰イオン交換クロマトグラフィー p.57
 2.2.1.4 ゲルろ過カラムクロマトグラフィー p.59
 2.2.1.5 PheBの濃縮 p.61
2.2.2 PheB酵素の結晶化(aerobic condition) p.62
2.2.3 標準母液の調製(standard buffer) p.63
2.2.4 結晶学的パラメータの決定と回折強度測定 p.64
2.2.5 分子置換法による構造解析 p.66
 2.2.5.1 操作手順 p.66
2.2.6 カテコールとの基質複合体の構造解析 p.73
 2.2.6.1 基質(カテコール)入り標準母液の調製 p.73
 2.2.6.2 カテコール複合体線の回折強度データ収集 p.74
 2.2.6.3 差フーリエ法による構造決定及び構造精密化 p.75

第三章 LigAB酵素の立体構造に関する考察 p.78
3.1 LigAB酵素の全体構造 p.79
3.2 α-、β-サブユニット p.80
 3.2.1 α-サブユニット p.80
 3.2.2 β-サブユニット p.81
3.4 活性中心構造 p.85
 3.4.1 基質が結合していない場合の活性中心構造 p.85
 3.4.2 基質分子複合体 p.86
 3.4.3 鉄イオンと水酸基の結合距離 p.88
3.5 基質結合ポケット p.89
 3.5.1 基質PCAと結合した場合の活性中心の構造 p.89
3.6 基質結合の際に起こるInduced-fit movement p.91
3.7 酸素分子の結合 p.94
3.8 今後の研究課題 p.98

第四章 PheB酵素に関する考察 p.99
4.1 PheB酸素の全体構造 p.100
 4.1.1 サブユニット間の相互作用 p.102
4.2 サブユニット構造 p.102
 4.2.1 BhpC酵素のとの比較(サブユニット構造) p.104
4.3 活性中心構造 p.105
 4.3.1 基質分子が結合していない場合 p.105
 4.3.2 基質分子複合体 p.106
 4.3.3 BphC酵素との比較(配位構造) p.106
4.4 基質結合ポケット p.108
 4.4.1 基質結合の安定化に関与するアミノ酸残基 p.108
 4.4.1.1 His243 p.108
 4.4.1.2 Phe188 p.108
 4.4.1.3 Tyr252 p.109
 4.4.1.4 His197 p.110
4.5 基質特異性に関する知見(BphC-PheB酵素の立体構造の比較に基づいて) p.111
 4.5.1 主鎖の位置から見たBphC酵素とPheB酵素の相違点 p.112
 4.5.2 基質分子の基質ポケットへのアクセス p.114
 4.5.2.1 BphC酵素における、基質2,3-DHBPの基質ポケットへのアクセス p.114
 4.5.2.2 PheB酵素における、基質カテコールの基質ポケットへのアクセス p.115
 4.5.3 基質特異性 p.116
 4.5.3.1 PheB酵素-2,3-DHBP p.116
 4.5.3.2 BphC酵素-2,3-DHBP p.118
 4.5.3.3 PheB酵素-catechol p.118
 4.5.3.4 BphC酵素-catechol p.120
 4.5.4 オリゴマー状態と基質特異性の関係 p.120
4.6 今後の研究課題 p.122

第五章 BphC酵素に関する考察 p.123
5.1 基質分子の配位結合の配向をきめているのは、基質ポケットであった p.124
 5.1.1 反応機構上における、基質分子の水酸基と鉄イオンの配位関係の重要性 p.126
 5.1.2 基質ポケット(A site)の働き p.126
5.2 基質結合ポケットと基質分子との相補性と活性の関係 p.127
 5.2.1 プログラムの概要 p.128
 5.2.2 計算方法 p.128
 5.2.3 プログラムの問題点 p.129
 5.2.4 酵素活性 p.129
 5.2.5 結果 p.130
 5.2.6 考察 p.132
5.3 基質分子の水素引き抜きに関わる水素リレー p.133
 5.3.1 セリンプロテアーゼの電荷伝達系(charge-relay system) p.133
 5.3.2 BphC酵素の電荷伝達系 p.133

第六章 Extradiol type dioxygenaseに関する考察(class IIとclass IIIの比較) p.135
6.1 BphC酵素とLigAB酵素の全体構造の比較 p.136
6.2 BphC酵素とLigAB酵素の活性中心構造の比較 p.136
 6.2.1 基質ポケット p.136
 6.2.2 鉄イオンへの配合構造 p.136
 6.2.3 反応機構上の塩基触媒残基 p.138
 6.2.4 基質結合の安定化 p.139

結論 p.141

参考文献 p.147

謝辞

【背景】 Extradiol type dioxygenaseは活性中心に2価のノンヘム鉄を含み、catechol誘導体と酸素分子を基質とする酵素で、芳香環を酸化的に開裂する。Extradiol type dioxygenaseは、進化的に関係のあるclass IとII及び、それらとは全く進化的に関係のないclass IIIに分類される。Class IIに属する酵素は、更に、XylEグループ、BphCグループの2つのグループに分類される。XylEグループは、ホモテトラマーの分子で、カテコールに高い基質特異性を示すが、2,3-dihydroxybiphenyl(2,3-DHBPと略す)などのような2つの芳香環から構成されている基質に対しては、基質特異性が低い。BphCグループは、ホモオクタマーの分子で、XylEグループと反対の基質特異性を持つ。
 Extradiol type dioxygenaseの反応機構には不明な点が多く、生物無機化学の分野において解明されるべき重要な課題の1つとなっていた。私の所属する研究室では、class IIに属するBphC酵素の立体構造を解明し、立体構造の観点から、反応機構を明らかにしてきた。一方、class III に関しては、その立体構造が解明されていなかったため、class IIに比べて著しく研究が遅れていた。本研究では、extradiol type dioxygenaseの反応機構や基質特異性を立体構造に基づいて解明するため、class IIに属し構造が既知のBphC酵素(BphCグループ)とは基質特異性の異なるPheB酵素(Xy1亘グループ)及び、class IIIに属するLigAB酵素の2つの立体構造を新たに解明し、以下の(1)~(3)を明らかにした。

【結果】
(1) Class IIとclass IIIは全く異なる立体構造であった。
 Class IIに属するBphC、PheB酵素のサブユニット構造は、非常に類似しており、2つのβαβββモチーフを有するドメインが二回繰り返した構造であった。一方、class IIIに属するLigAB酵素は、αサブユニットとβサブユニットから構成されており、class IIIに見られるようなドメイン構造を見つけることができなかった。また、LigAB酵素の構造は、全く新規の立体構造であった。
 このように、class IIとclass IIIの全体構造は、全く異なっていることが分かった。従来、一次構造のみに基づく暖昧な議論から、class IIとclass IIIの間には進化的関係が存在し、class IIIの立体構造も、class IIと同じように、2つのドメインからなると考えられてきたが、本研究はその誤りを正し、両者は進化的に全く異なる酵素であることを明らかにした。

(2) 収束進化の結果、同等な触媒機能をもつclass IIとclassIIIが生じた。
 Class IIとclass IIIの立体構造は、全く異なったものであったが、両者の活性中心の構造は、以下に示すように、酷似したものであった.
1) 基質分子を含む各配位子の鉄イオンヘの配位構造は、class IIとclass IIIで酷似していた。
2) 2) BphC酵素の触媒塩基がHis194であることは、分光学的知見や種々の変異体酵素を通じての研究から、ほとんど確実である。LigABの酵素では、BphC酵素のHis194とほとんど等価な位置にHis195bがあり、この残基は類縁酵素間で完全に保存されている。このことから、LigAB酵素のHis195bもBphC酵素のHis194と同様な塩基として働いていると考えられる。
3) 両酵素の基質ポケットには、反応性の高い基質分子と相補的な形の基質ポケットが存在していた。
 このようなclass II、class IIIの酵素の活性部位にみられる共通の特徴は、これら2種類の異なる酵素が同一の触媒反応を、同一のメカニズムで行うために収束進化してきたことを強く示唆していると考えられる。

(3) 基質分子と相補的な形をした基質ポケットが高い触媒活性に必要である。
 基質ポケットの大きさを変化させた変異BphC酵素の実験から、基質分子と基質ポケットとの相補性が高いほど、その基質分子に対する反応性が高くなる結果が得られている。これを裏付けるかのように、基質特異性の異なるBphC酵素とPheB酵素の活性中心には、それぞれに対し、基質特異性の高い分子と相補的な形をした基質ポケットが存在していた。また、PheB酵素のC末端領域にあるPhe299は、XylEグループで保存性の高いアミノ酸残基である。このPhe299は、カテコールと相補的な基質ポケットを構成するのに必須であると考えられた。但し、このPhe299が基質ポケットに近づくには、テトラマーを形成することが必要で、BphC酵素のようなオクタマー構造では、Phe299が基質ポケットに近づくこと構造を取りづらいことが、モデルを用いた解析から示唆された。このように、基質特異性の違いには、オリゴマー状態の違いも寄与しているのではないかと考えている。

平成11(1999)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る