サブミリ波帯ジョセフソンアレー発振器に関する研究
氏名 川上 彰
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第138号
学位授与の日付 平成11年7月14日
学位論文題目 サブミリ波帯ジョセフソンアレー発振器に関する研究
論文審査委員
主査 教授 濱崎 勝義
副査 教授 八井 浄
副査 教授 赤羽 正志
副査 教授 上林 利夫
副査 助教授 石黒 孝
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第1章 序論 p.1-p.13
1-1 サブミリ波周波数帯開発の背景 p.1
1-2 ジョセフソン発振器の現状 p.5
1-3 本研究の目的および本論文の構成 p.9
第2章 薄膜抵抗付トンネル型ジョセフソン接合の特性評価 p.14-p.37
2-1 概要 p.14
2-2 薄膜抵抗付トンネル型ジョセフソン接合の等価回路と特性評価 p.17
2-2-1 薄膜抵抗付トンネル型ジョセフソン接合の共振特性 p.17
2-2-2 寄生インダクタンスの評価 p.23
2-3 寄生インダクタンスの極小化による高周波特性の改善 p.27
2-4 まとめ p.34
第3章 外部共振器を付加したジョセフソン接合の特性評価 p.38-p.65
3-1 概要 p.38
3-2 共振器一体型ジョセフソン接合の特性解析 p.39
3-2-1 共振器一体型ジョセフソン接合の等価回路 p.39
3-2-2 素子作製 p.44
3-2-3 共振器一体型ジョセフソン接合の電流-電圧特性 p.47
3-2-4 シミュレーションによる共振器一体型ジョセフソン接合の解析 p.50
3-3 薄膜誘電体材料の誘電率の測定 p.54
3-4 Nb超伝導薄膜の表面抵抗の測定 p.58
3-5 まとめ p.62
第4章 共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の特性評価 p.66-p.97
4-1 概要 p.66
4-2 シミュレーションによる共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の解析 p.70
4-2-1 共振器一体型ジョセフソンアレーの動作解析 p.70
4-2-2 共振器一体型ジョセフソン接合の負荷特性 p.74
4-3 共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の作成と特性評価 p.83
4-3-1 共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の作成 p.83
4-3-2 共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の特性評価 p.84
4-4 誘電体への電磁波放出 p.88
4-4-1 目的と実験方法 p.88
4-4-2 実験結果 p.91
4-5 まとめ p.94
第5章 サブミリ波帯ジョセフソン発振器の特性評価 p.98-p.123
5-1 概要 p.98
5-2 サブミリ波帯共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の設計、試作 p.100
5-3 サブミリ波帯ジョセフソン発振器の測定および評価 p.103
5-3-1 650GHz帯共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の特性評価 p.103
5-3-2 1THz帯共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の特性評価 p.108
5-4 共振器一体型ジョセフソン発振器の発振線幅の評価 p.111
5-4-1 550GHz帯集積型電磁波検出器の設計と作成 p.111
5-4-2 発振線幅の測定と評価 p.114
5-5 まとめ p.119
第6章 総括 p.124-p.128
謝辞 p.144
研究業績 p.145-p.148
近年の通信ネットワークの発展は著しいものがある。それに伴い、次世代の高度情報化社会を支える情報伝達技術として、衛星を利用した大容量・高度の無線通信技術の開発が期待されている。衛星間通信のためには未開拓周波数領域であるサブミリ波帯集積型電磁波検出器の開発が必要である。しかし、小型軽量で低消費電力、かつ長寿命の固体発振器の開発が遅れている。サブミリ波帯発振器としては遠赤外レーザーやB.W.O.(後進行波管)、ジャイロトロン、半導体逓倍器などがあるが、いずれも重量や集積化の点で衛星搭載には問題がある。本論文は、サブミリ波周波数領域で有用な固体発振器として超伝導ジョセフソンアレー発振器に関する研究を行い、集積型電磁波検出器の可能性について検討している。
本論文は第1章~6章からなり、以下に各章の概略と得られた知見について述べる。
第1章では、研究背景としてサブミリ波帯での発振器の現状と、ジョセフソン発振器が持つ利点及び欠点を列記し、本研究の課題とデバイス開発の方針を明確にしている。
第2章では、サブミリ波帯ジョセフソンアレー発振器に必要な薄膜抵抗付トンネル型ジョセフソン接合について検討している。薄膜抵抗の付加によりデバイス作製プロセス上ジョセフソン接合に寄生的に構成される共振構造が、サブミリ波帯における接合の高周波特性に大きく影響を与えることを見いだした。この共振構造を考慮したジョセフソン接合モデルを用いて、薄膜抵抗付トンネル型ジョセフソン接合の高周波特性の解析を行った結果、接合部に寄生するインダクタンスを極小化し、共振周波数を向上させることが高周波特性の改善に重要であることがわかった。これに基づき寄生インダクタンスを極小化する新しい薄膜抵抗付ジョセフソン接合構造を考案し、初めてサブミリ波帯発振器の設計が可能になった。
第3章ではマイクロストリップ外部共振器と薄膜抵抗付トンネル型ジョセフソン接合とを結合させた共振器一体型ジョセフソン接合の特性評価を行い、共振時におけるジョセフソン接合の挙動を明らかにしている。また、ジョセフソンアレー発振器の設計において重要なパラメータであるミリ波、サブミリ波帯におけるSiO、SiO2、AlN、アモルファスシリコン各薄膜誘電体材料の比誘電率及びNb薄膜の表面抵抗の測定を行っている。
第4章ではジョセフソン接合アレーの安定した位相同期動作と発振線幅の狭帯化を目的として、ジョセフソン接合アレーとマイクロストリップ共振器とを結合させた共振器一体型ジョセフソンアレー発振器を提案し、シミュレーションにより動作解析を行っている。その結果、共振器とジョセフソンアレーとの結合による安定した位相同期状態と、発振器微分抵抗の減少を確認した。またログペリーアンテナ付きの300 GHz 帯共振器一体型ジョセフソンアレー発振器を試作し、良好な特性及び、誘電体空間への電磁波放射特性を明らかにしている。
第5章ではサブミリ波帯共振器一体型ジョセフソンアレー発振器を試作し、その特性評価を行っている。650 GHz 帯共振器一体型ジョセフソンアレー発振器の発振出力は 450~900 GHzの周波数領域で離散的に観測され、設計周波数付近である 625 GHz において約10μW の最大出力を観測した。また、1THz 帯ジョセフソンアレー発振器を試作し、1THz の発振に初めて成功している。1THzでの発振出力が 50nW と若干小さいのは、マイクロストリップ共振器を構成する Nb 超伝導体のギャップ周波数以上で発振動作をさせたためで、発振器を構成するマイクロストリップ共振器に高Tc材料もしくは高純度金属薄膜を使用し、表面抵抗損の上昇を抑えることにより、発振出力の向上が期待できることを述べた。また、ジョセフソン発振による発振線幅を測定する目的で、二つのジョセフソンアレー発振器と超伝導準粒子ミクサによる550 GHz 帯集積型電磁波検出器を試作している。二つの発振器からの発振出力を超伝導準粒子ミクサにより周波数混合させ発振線幅を測定し、本研究で試作したジョセフソンアレー発振器が充分な位相同期特性と狭い発振線幅を持つことを明らかにしている。
最後に第6章において本研究で得られた成果を総括している。