補助電極法による絶縁性セラミックスの形彫放電加工に関する研究
氏名 谷 貴幸
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第149号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 補助電極法による絶縁性セラミックスの形彫放電加工に関する研究
論文審査委員
主査 教授 福澤 康
副査 豊田工業大学 教授 毛利 尚武
副査 教授 石崎 幸三
副査 教授 植松 敬三
副査 助教授 田辺 郁男
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第1章 緒論 p.1
1.1 セラミックスの工業的位置付け p.1
1.2 セラミックスの加工技術 p.2
1.3 絶縁性セラミックスへの放電加工に関する従来の研究とその課題 p.4
1.3.1 導電性セラミックスの放電加工 p.5
1.3.2 絶縁性セラミックスの放電加工 p.6
1.4 本論文の目的 p.10
1.5 本論文の構成 p.12
第2章 絶縁性セラミックス放電加工法(補助電極法)開発の経緯 p.15
2.1 緒言 p.15
2.2 着想 -金属-セラミックス接合体界面の加工- p.15
2.3 金属-セラミックス突き合わせ面における放電加工特性 p.16
2.3.1 実験方法 p.18
2.3.2 表面層の形成過程 p.19
2.3.3 補助電極材料の影響 p.21
2.4 補助電極法 p.22
2.4.1 加工方法 p.22
2.4.2 表面層の同定 p.24
2.5 結言 p.29
第3章 加工特性に及ぼす補助電極材料・形態および電気条件の影響(Si3N4を例として) p.31
3.1 緒言 p.31
3.2 放電状態の評価法 p.31
3.2.1 主軸(工具電極)の変位 p.31
3.2.2 表面層付着過程 p.33
3.2.3 極間の電気的状態 p.34
3.3 補助電極材料の影響 p.38
3.3.1 実験方法 p.38
3.3.2 板補助電極材料における工具電極変位の変位 p.38
3.3.3 補助電極材料の熱物性と熱分解カーボン付着効果の関係 p.39
3.4 補助電極形態の影響 p.43
3.4.1 実験方法 p.44
3.4.2 板補助電極の板厚が加工特性に及ぼす影響 p.44
3.4.3 メッシュ補助電極の効果 p.46
3.4.4 蒸着膜補助電極の効果 p.47
3.4.5 遷移領域における表面層形成過程と各種放電波形の発生頻度 p.50
3.5 加工特性に及ぼす電気条件の影響 p.53
3.5.1 実験方法 p.53
3.5.2 加工速度、表面粗さ,電極消耗比に対する電気条件の影響 p.53
3.5.3 加工の安定性に対する電気条件の影響 p.57
3.6 加工メカニズムの推定 p.57
3.6.1 単発放電痕形態 p.59
3.6.2 各種放電波形の割合とギャップ抵抗値の経時変化 p.61
3.6.3 放電認識制御法の違いが加工特性に及ぼす影響 p.64
3.6.4 加工メカニズムの推定 p.69
3.7 結言 p.72
第4章 酸化物セラミックスの放電加工特性 p.75
4.1 緒言 p.76
4.2 酸化物セラミックスの加工特性 p.76
4.2.1 実験方法 p.76
4.2.2 消耗性グラファイト電極の効果 p.77
4.2.3 電気条件が加工特性に及ぼす影響 p.80
4.2.4 炭素塊の除去 p.82
4.3 消耗性炭素電極による酸化物セラミックスの加工プロセス p.84
4.3.1 放電波形の割合 p.85
4.3.2 消耗粉末が放電状態および表面層形成に及ぼす影響 p.86
4.4 結言 p.90
第5章 粉末混入液による絶縁性セラミックスの放電加工 p.91
5.1 緒言 p.91
5.2 グラファイト粉末混入液を用いた絶縁性セラミックスの仕上加工 p.91
5.2.1 実験方法 p.92
5.2.2 遷移領域における表面層形成過程 p.93
5.2.3 粉末混入濃度および粒径が面粗さに及ぼす影響 p.95
5.2.4 加工状態および放電波形の観察 p.99
5.2.5 表面層形成形態と加工プロセスに関する考察 p.104
5.3 粉末混入液を用いた絶縁性セラミックスの高速加工 p.106
5.3.1 実験方法 p.106
5.3.2 各種粉末混入液が加工速度に及ぼす影響 p.108
5.3.3 コンデンサ放電の効果 p.113
5.3.4 研削加工との加工速度の比較 p.116
5.4 結言 p.119
第6章 強度劣化とその回復に関する検討および加工実施例 p.121
6.1 緒言 p.121
6.2 強度劣化とその回復に関する検討 p.121
6.2.1 実験方法 p.121
6.2.2 クラックの発生と強度変化の関係 p.123
6.2.3 粉末混入加工法による強度回復の効果 p.125
6.2.4 表面層除去処理による強度回復の効果 p.128
6.3 結言 p.134
第7章 各種セラミックスへの形状加工実施例 p.135
7.1 緒言 p.135
7.2 複雑形状加工 p.135
7.2.1 形彫放電加工による加工例 p.135
7.2.2 ワイヤカット放電加工例 p.139
7.3 サファイヤおよびガラスの加工例 p.141
7.4 結言 p.143
第8章 総括 p.145
謝辞 p.151
参考文献 p.153
本研究に関する公表論文 p.157
本論文に関連した受賞 p.163
本研究では,著者らが開発した絶縁性セラミックスの放電加工法である「補助電極法」を3次元複雑形状加工法として実用化するために必要な基礎技術の確立を目的として,非酸化物および酸化物絶縁性セラミックス材料における放電加工メカニズムを実験的に検証した.また,それらの成果を基に他の加工法と同等またはそれ以上の加工特性を得るための手法に関する検討を行ない,その有効性を実際の加工品を作成することで立証した.
第1章「緒言」では,セラミックス加工技術の重要性を示し,その問題点を議論した.そしてそれらを解決するために用いられている現状の代表的な加工法の特徴とその問題点を示し,本加工方法が当該分野で果たす役割と本研究を実施することに関する目的および意義を述べた.
第2章「放電加工による絶縁性セラミックス加工法(補助電極法)開発の経緯」では,金属-絶縁性セラミックス接合体界面近傍における放電現象をきっかけとして,絶縁性セラミックスの放電加工法である「補助電極法」を開発した経緯について述べた.また,補助電極法の加工方法の概略を示した.導電表面層の元素分析から,基本的な加工メカニズムを推定し,補助電極法は加工油中における放電加工による表面改質現象を利用した加工法であることを示した.
第3章「加工特性に対する補助電極材料および電気条件の影響」では,加工状態の評価法について述べ,補助電極から絶縁性セラミックスへと加工が遷移する際に導電性表面層が形成される過程およびセラミックス領域における放電状態について検討した.密着力の強いTiN蒸着膜を補助電極とすることによって遷移領域における工具電極の押し込みを回避できることを明らかとした.また,表面層形成現象は電気条件の制御方式に依存し,それに伴う加工特性の変化を考察した.放電加工中における表面層の電気抵抗の変動を測定することにより,表面層の形成と除去とを担う放電現象が繰り返し発生し加工が進行することを明らかとした.
第4章「酸化物系セラミックスの放電加工」では,ZrO2セラミックスの放電加工特性について述べた.ZrO2の加工では,加工油の分解から生じる炭素成分だけでは,加工継続に十分な表面層は形成できず,グラファイト電極を用いることによって導電性表面層の作成が容易となることを実証した.この結果,ZrO2の加工においてSi3N4と同等あるいはそれ以上の加工特性が得られるようになった.
第5章「粉末混入液による放電加工」では,粉末混入加工法による絶縁性セラミックスの放電加工特性について述べた.加工面性状は,高抵抗材に対する放電加工において認められる長パルス放電あるいは集中放電,短絡状態の発生頻度に依存する.この状態を減少させるために,炭素粉末混入加工液を用いさらにパルス幅の長さを制限する加工を試みた.この結果,Si3N4ではRy=4μm,ZrO2ではRy=11μm まで加工面精度は向上した.また,数種類の粉末を混入した加工液により,粉末の違いによる加工特性の変化を調べた.この結果,混入粉末によって極間の拡大効果が異なり,導電層膜の厚さも相違した.本実験の範囲内では,ZrB2粉末を用いる場合が,短絡ブリッジの原因となる架橋が形成されにくくなり,他の粉末混入の場合より,電流値の高い条件においても主軸動作が安定しばらつきの少ない高速加工が可能となることを明らかとした.この条件下では,被加工物をSi3N4とした場合に研削加工と比較してほぼ同程度の加工速度となった.
第6章「強度劣化とその回復に関する検討」では,放電加工後の強度変化および強度の回復方法について検討した.本実験条件の範囲内ではすべての条件において,母材強度の約30~56%程度の強度低下を示した.この強度低下は,加工面におけるクラックの存在,加工表面の粗さおよび表面層の形成に伴うセラミックス表面近傍に発生する引張残留応力によると推定できる実験結果を得ることができた.表面粗さの改善および引張残留応力の低減方法として,ブラスト加工による表面層の除去を実施した結果,加工面には表面粗さの改善の効果および圧縮残留応力の発生が確認され,母材とほぼ同等の強度まで回復できた.
第7章「各種セラミックスへの形状加工実施例」では,曲面の凸部形状を持つ形状,揺動加工によるネジ切り形状,ワイヤ放電加工機による2次元輪郭形状等の複雑形状加工の例を示し,本加工法の有効性を実証した.
第8章「総括」では,本論文の各章で得られた成果を総括した.また,補助電極法の今後の展開について述べた.
本研究で得られた一連の成果は,補助電極法の実用化に向けた基本的なデータおよび基礎技術となると結論付けられる.