岩盤不連続面のせん断機構の巨視的な不連続面を内包する岩盤構造物の安定性評価に関する基礎的研究
氏名 土居 正信
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第153号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 岩盤不連続面のせん断機構の巨視的な不連続面を内包する岩盤構造物の安定性評価に関する基礎的研究
論文審査委員
主査 助教授 大塚 悟
副査 教授 海野 隆哉
副査 助教授 杉本 光隆
副査 助教授 豊田 浩史
副査 長岡工業高等専門学校校長 小川 正二
副査 新潟大学教授 大川 秀雄
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第1章 序論 p.1
1.1 まえがき p.1
1.2 既往の研究 p.3
1.2.1 安定解析手法の現状 p.4
1.2.2 岩盤不連続面の強度特性 p.5
1.3 本研究の目的 p.6
1.4 本論文の構成 p.7
参考文献 p.10
第2章 シェイクダウン解析による安定解析 p.13
2.1 はじめに p.13
2.2 塑性論の基礎的事項 p.14
2.2.1 ドラッカー(Drucker)の仮説 p.14
2.2.2 降伏関数の凸性と塑性ひずみ速度の法線性 p.16
2.2.3 塑性ひずみエネルギー消散率 p.18
2.3 極限解析の概要 p.19
2.3.1 極限状態と荷重係数 p.19
2.3.2 極限定理(下界定理と上界定理) p.20
2.4 シェイクダウン解析 p.21
2.4.1 塑性変形と残留応力 p.22
2.4.2 シェイクダウン解析の概要 p.22
2.4.3 Melanの定理とKoiterの定理 p.24
2.5 区分線形近似降伏関数を用いた安定解析手法 p.25
2.6 極限支持力解析への適用による解析精度の検討 p.27
2.7 まとめ p.30
参考文献 p.31
第3章 不連続面の接触条件を考慮した安定解析手法 p.33
3.1 はじめに p.33
3.2 不連続面における接触条件 p.34
3.2.1 制約条件としての接触条件 p.34
3.2.2 接触条件を考慮した安定解析の定化式 p.35
3.2.3 接触力の評価(ジョイント要素の導入) p.37
3.3 不連続面を含む地盤の支持力解析への適用 p.38
3.3.1 剛塑性有限要素解析との比較 p.39
3.3.2 直接基礎の支持力解析への適用 p.47
3.4 まとめ p.55
参考文献 p.57
第4章 岩盤不連続面の強度特性に関する考察 p.59
4.1 はじめに p.59
4.2 不連続面を含む岩盤の平面ひずみ圧縮試験 p.60
4.2.1 Pattonのせん断強度モデル p.60
4.2.2 平面ひずみ圧縮試験の数値シミュレーション p.62
4.3 平面ひずみ圧縮試験の上界計算による検討 p.69
4.3.1 可容変位速度場の設定とせん断強度 p.69
4.3.2 平面ひずみ圧縮試験の考察 p.70
4.4 不連続面のせん断強度発現に関する数値解析的検討 p.71
4.4.1 不連続面のせん断変形特性を考慮した強度式 p.72
4.4.2 不連続面の幾何的性質によるせん断強度の発現 p.73
4.5 まとめ p.77
4.6 参考文献 p.79
第5章 不連続性岩盤モデルの安定解析 p.82
5.1 はじめに p.82
5.2 岩盤斜面の安定性 p.83
5.2.1 典型的な崩壊形態 p.83
5.2.2 問題の設定 p.85
5.2.3 岩盤斜面モデルへの適用 p.86
5.3 水平岩盤の極限支持力 p.92
5.3.1 不連続面の配置 p.92
5.3.2 単一不連続面の影響 p.92
5.3.3 複数不連続面の影響(不連続面間の相互作用の効果) p.93
5.4 不連続面における非線形せん断強度特性の導入 p.98
5.4.1 非線形せん断強度特性の線形近似 p.98
5.4.2 事例解析による検証 p.99
5.5 まとめ p.102
参考文献 p.104
第6章 結論 p.106
謝辞 p.112
本論文は不連続面を有する岩盤の安定性を評価することを目的に,岩盤特有の不連続面の特性を考慮できる解析手法を提案し,その適応性について検討・考察するものである.破壊に至るまでの変形が小さい岩盤に対して変形解析ではなく,極限状態を直接取り扱う方法によって安定性に対する現実的な評価が得られればその工学的意義は大きい.
以下に各章の内容を概説するとともに得られた結論を述べる.
第1章では,不連続性岩盤構造物の安定性評価の必要性と現状を俯瞰し,既往の研究成果を踏まえた本研究の位置付けと目的を述べている.
第2章では,まず構造物の極限状態を取り扱う極限解析・シェイクダウン解析に必要な塑性論の基礎事項の概要を示し,Maier(1969)の研究に基づいて線形計画法と有限要素法を用いたシェイクダウン解析の定式化の過程を概観した.解析手法の適用事例として,正解値が既に求められている粘土地盤の支持力を求め,十分な精度を与えることを確認し,その適用性を検証した.弾性係数並びにポアソン比を変化させて極限支持力を求めたが,基本的に弾性諸定数によらず一意的な解が得られた.極限状態を扱う本解析手法の大きな特徴を示している.
第3章では,連続体に適用した前章のシェイクダウン解析の下界定理に基づく解析手法に不連続面での接触条件を導入した解析手法を新たに開発した.不連続面での接触力を陽に評価するためにGoodmanら(1968)が開発したジョイント要素を導入した.変形解析ではジョイント要素を形成するバネ定数値は非常に重要であるが,極限解析の一種である本解析手法では安定した解を得る範囲のバネ定数値を用いればよい.上界定理に基づく田村(1990)の不連続面を有する地盤の支持力解析問題に本解析手法を適用し,田村の結果と一致することを示した.本解析手法が下界計算であることを勘案すると,非常に精度良く安定性を評価できていることが検証された.また,剛性を有する基礎に偏心・傾斜荷重が作用する場合,接触条件を考慮できる本解析手法により基礎と地盤間の剥離あるいはすべりの影響で支持力が大きく変化することを解析的に表現できたことも大きな成果である.
第4章では,不連続面を含む岩盤の安定解析に先立ち,岩盤不連続面での強度発現メカニズムについて,既往の実験結果と前章で提案した解析手法および上界計算を適用して考察した.特に不連続面の凹凸(アスペリティ)形状に着目し,その幾何的性質がせん断強度に及ぼす影響について検討した.Barton(1972)らによると,実岩盤ではせん断強度が垂直応力に対して滑らかな非線形性を示す.本研究では,Patton(1966)が用いた歯型形状のアスペリティを実際の不連続面のアスペリティ形状に関する1次的形状と見なし,実岩盤ではアスペリティ形状に2次,3次あるいはそれ以上の高次な形状が存在することに着目してアスペリティの幾何的性質と不連続面のせん断強度の関係について数値解析的に検討した.その結果,高次のアスペリティの幾何形状を取り入れると不連続面のせん断強度は垂直応力に対して非線形な挙動を示すことを明らかにした.上界計算を用いて破壊モードの変化を調べると,垂直応力の増加にともなって高次な幾何形状のアスペリティからせん断が起こり,より低次な幾何形状のアスペリティに支配される破壊モードで破壊する.Bartonらの垂直応力の変化によるダイレイションの変化を表すせん断強度モデルは高次のアスペリティから低次のアスペリティの破壊形態の連続的な変化と捉えることができるという新たな視点を与えた.
第5章では,岩盤内に存在する不連続面の配置・強度特性は安定性を評価するために,層理・節理・ブロックなどの代表的なタイプの不連続面配置を解析モデルに用い,本解析手法によってモデルの安定性評価を実施した.その結果,不連続面の配置並びに強度は相互に関連して岩盤斜面の安定性を支配することが本解析手法により明らかになった.また,複数の不連続面を内在する水平岩盤の極限支持力問題にも本解析手法を適用し,複数の不連続面間の相互作用によって支持力値,すなわち安定性に変化をもたらすことを示した.不連続面の配置・強度特性に依存して変化する複雑な崩壊形態を事前に予見するのは困難であるが,本解析手法は崩壊形態に左右されることなく安定性を定量的に評価できることが最大の特徴である.最後に,不連続面で発現される垂直応力依存性のせん断強度特性をPattonのバイ・リニアせん断強度モデルを参考に第3章で検討した不連続面の接触条件を拡張した形式として導入した.新たに導入した接触条件式を用いて,田村の支持力問題に本解析手法を用い,低い垂直応力レベルでのダイレイションおよび高い垂直応力レベルでの見かけの摩擦角および見かけの粘着力の変化は支持力値に直接反映されることを示し,その適用性を明らかにした.提案する拡張された接触条件式は線形化の区分数を増やすことによって非線形性を容易に表現することが可能である.
第6章では,以上の総括と提案した不連続性岩盤構造物の安定解析手法に関する今後の課題・展望について述べている.