大強度パルス軽イオンダイオードの開発と評価
氏名 千代 悦司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第129号
学位授与の日付 平成8年12月31日
学位論文題目 大強度パルス軽イオンダイオードの開発と評価
論文審査委員
主査 助教授 升方 勝己
副査 教授 八井 浄
副査 教授 入澤 壽逸
副査 助教授 原田 信弘
副査 助教授 川田 重夫
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目次
第1章 序論 p.1
1-1 はじめに p.1
1-2 大強度パルス軽イオンビーム(LIB) p.3
1-2-1 LIBの特徴および応用 p.3
1-2-2 LIB発生 p.4
1-2-3 LIB計測 p.5
1-3 論文構成 p.5
参考文献 p.7
第2章 パルスパワー発生装置とダイオード動作原理 p.8
2-1 パルスパワー装置 p.8
2-2 磁気絶縁ダイオード(MID) p.10
参考文献 p.11
第3章 ビーム発散計測 p.12
3-1 はじめに p.12
3-2 時間積分型MTPS p.12
3-2-1 MTPSの構成 p.12
3-2-2 イオン種・エネルギーの算出法 p.13
3-2-3 質量分解能の向上 p.17
3-3 時間分解型MTPS p.18
3-4 エネルギー分解型シャドウボックス(ERSB) p.19
参考文献 p.20
第4章 陽極プラズマ生成機構 p.21
4-1 はじめに p.21
4-2 実験装置 p.21
4-3 陽極プラズマ生成過程 p.23
4-3-1 陽極プラズマ生成過程 p.23
4-3-2 MID動作のおける生成過程の検証 p.24
(i)電子照射の評価 p.24
(ii)吸着ガスの評価 p.25
(iii)電子照射による電界歪みの計算 p.26
(iv)放電痕の観測 p.28
4-4 繰り返し動作によるイオン電流密度の低下 p.30
4-4-1 繰り返し動作特性 p.30
4-4-2 イオン源表面付着物の影響 p.32
4-4-3 検討・考察 p.35
4-5 結論 p.36
参考文献 p.38
第5章 Br型磁気絶縁ダイオード p.39
5-1 はじめに p.39
5-2 実験装置 p.39
5-3 単粒子シミュレーション p.42
5-4 Br-MID動作特性 p.44
5-5 LIB発散特性 p.49
5-5-1 時間分解されたLIB発散特性 p.49
5-5-2 時間積分されたLIB発散特性 p.p.50
5-5-3 LIB組成比 p.53
5-5-4 ERSBによる発散特性の評価 p.53
5-6 まとめ p.54
参考文献 p.54
第6章 LIB計測におけるアパーチャー閉塞の影響 p.55
6-1 はじめに p.55
6-2 実験装置 p.56
6-3 実験結果 p.58
6-4 考察 p.62
6-5 まとめ p.65
参考文献 p.65
第7章 結論 p.66
謝辞 p.69
研究業績 p.70
強度パルス軽イオンビーム(LIB)は、高エネルギー(>1MeV)、大電流密度(>1KA/cm2)、短パルス(~100 ns)などの特徴を有し、ターゲットへの大電力密度が照射可能であることから、慣性閉じ込め核融合(ICF)の駆動ドライバーとして研究が行われてきた。また、その大電力密度を利用し材料開発や放射線源等への応用研究も進められている。
本研究は、IMV級の出力で動作するパルスパワー発生装置を用い、電子照射により高速ターンオンを図り、また繰り返して高出力LIBの発生が可能な磁気絶縁イオンダイオード(MID)の開発を目的とする。従来までのダイオード開発では、ICFドライバーに向けてLIB高輝度化(数~数十TW/cm2)に重点が置かれている。このため、高出力パルスパワー装置を開発し、またイオン源や磁場発生コイルなども耐久性よりも高輝度化を優先した研究が行われている。一方、LIB応用では、高輝度よりも耐久性や繰り返し動作の安定性が重要である。これらの応用では、必要とするLIB輝度は数~数十GW/cm2程度であり、高出力パルスパワー装置は必要とされない。しかしながら、低パワー領域で動作するMIDは、陽極プラズマが生成されるまでの遅れ時間(ターンオン遅れ時間)が長くなり、電力-ビーム出力の変換効率的が悪くなる。そこで低パワー領域でターンオンを早くするため、強い電子照射が起こる自己磁場絶縁イオンダイオードやプラズマガン等のアクティブイオン源を用いたMIDの開発が行われている。前者は、強い電子損傷が起こるため繰り返し動作に向かず、後者は高密度の陽極プラズマが得られないため高出力LIB発生には向かない。そこで本研究は、印加磁場により制御された電子照射によってイオン源の表面フラッシュオーバーを発生する方法を提案した。この方法により高密度陽極プラズマを生成し、高速ターンオンを実現することにより、繰り返し動作可能なLIB発生源の開発を試みた。
また、LIB評価においてLIBは、陽子を主とする混合ビームとして発生するので、イオン種・エネルギーごとに異なった偏向を受ける。しかしながら、LIBのイオン種・エネルギーごとの発散特性計測技術はまだ確立されておらず、新たな計測装置の開発が必要となる。更に、LIB計測に及ぼすアブレーションプラズマの影響は、核放射化測定法では計測値の上限を制限するブローオフ現象について詳細に検討されているが、直接計測法の上限を制限しているアパーチャー閉塞現象では、その上限はブローオフの結果から推定している程度であり、その影響は詳細に検討していない。本研究では、LIBの評価を行うにあたり、新たに空間分解能を有するエネルギー分析器を開発しイオン種・エネルギー毎の発散特性の評価を可能にするとともに、アパーチャー閉塞現象についても評価を行った。
第1章「序論」では、大強度パルス軽イオンビーム開発の位置づけを行い、その特徴や応用および本研究で用いたイオンダイオードや計測法の概要を示すと共に、その開発研究の課題を示し、本論文の目的と意義を述べる。
第2章「パルスパワー技術とダイオード動作原理」では、本研究で用いた大強度パルスパワー発生装置"ETIGO-11"の概要を示すと共に、大強度パルス軽イオンビーム発生装置であるダイオードの動作原理と本論文の内容と関連する理論的基礎を示す。
第3章「ビーム発散計測器」では、ビームのイオン種・エネルギーごとの発散特性を同時に評価するために本研究で新たに開発した、2次元で離散的な空間分解能を持つマルチピンホール型Thomsonパラボラエネルギー分析器、および1次元で連続的な空間分解能を持つエネルギー分解型シャドウボックスの測定原理、設計方法を記述し、評価方法の詳細を述べた。
第4章「陽極プラズマ生成過程」では、レーストラック型ダイオードを用いて、イオン源の陽極プラズマ生成過程を調査するとともに、繰り返し動作におけるビーム電流低下原因を記述した。陽極プラズマ生成過程の解明では、吸着ガス量や電子照射が及ぼすイオン源表面の電界の増倍等の物理量を考察し、この過程を導出した根拠を述べる。また、連続動作におけるイオン電流の低下原因と考えられている、イオン源の劣化(表面変質や放電トリーの発生)、イオン源表面の付着物、真空ポンプからの逆流油等の影響について記述する。
第5章「Br磁気絶縁イオンダイオード」では、Br型磁気絶縁ダイオードを開発し、絶縁磁場分布に対するダイオード動作特性とLIB発散特性の依存性について述べる。ダイオード開発では、シミュレーションにより求めた磁場分布を用いて高速ターンオンを達成し、高出力LIB発生に成功したことを述べた。また、新たに開発した分析器により評価した絶縁磁場分布に対する発散特性、偏向角、イオン組成比などのLIB発散特性についても記述する。
第6章「LIB計測におけるアパーチャー閉塞の評価」では、アパーチャー閉塞のビーム電流密度およびイオン種に対する依存性を述べる。また、イオン種に対する依存性についての考察を記述する。
第7章「結論」では、本研究を総括した結論を述べる。