非晶質合金スパッタ膜およびこれを用いたVTRヘッドの研究
氏名 大友 茂一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第92号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文の題目 非晶質合金スパッタ膜およびこれを用いたVTRヘッドの研究
論文審査委員
主査 教授 一ノ瀬 幸雄
副査 教授 松下 和正
副査 教授 小松 高行
副査 助教授 石黒 孝
副査 助教授 伊藤 吾朗
[平成8(1996)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.
目次
第1章 序論 p.1
1.1 はじめに p.1
1.2 高飽和磁束密度磁気ヘッド材料およびこれを用いたVTRヘッドの開発状況と課題 p.3
1.3 本論文の目的と概要 p.8
1.4 参考文献 p.9
第2章 非晶質合金薄帯を用いたVTRヘッドの予備検討 p.12
2.1 はじめに p.12
2.2 実験方法 p.13
2.2.1 磁気ヘッドの作製方法 p.13
2.2.2 材料の磁気特性およびヘッド特性の測定方法 p.15
2.3 実験結果 p.19
2.3.1 非晶質合金薄帯、Fe-Al-Si合金およびMnZnフェライトの磁気特性 p.19
2.3.2 非晶質合金薄帯を用いた磁気ヘッドのインダクタンスおよびQ値 p.28
2.3.3 酸化物テープに対する磁気ヘッドの記録再生出力特性 p.28
2.3.4 メタルテープに対する磁気ヘッドの記録再生出力特性 p.31
2.3.5 酸化物テープおよびメタルテープに対するC/N特性 p.38
2.4 結果の検討 p.41
2.4.1 磁気回路法によるヘッド特性の解析 p.41
2.5 まとめ p.50
2.6 参考文献p.51
第3章 磁気ヘッド用非晶質合金スパッタ膜の開発 p.53
3.1 はじめに p.53
3.2 実験方法 p.54
3.2.1 非晶質合金膜の作製方法 p.55
3.2.2 非晶質合金膜の特性測定方法 p.55
3.3 結果および結果の検討 p.59
3.3.1 スパッタリング条件による磁気特性および膜構造の変化 p.59
3.3.2 Co系2元非晶質合金スパッタ膜の各種特性の組成依存性 p.70
3.3.3 Co系3元非晶質合金スパッタ膜の各種特性の組成依存性 p.78
3.4 まとめ p.91
3.5 参考文献 p.92
第4章 非晶質合金スパッタ膜の誘導磁気異方性 p.94
4.1 はじめに p.94
4.2 実験方法 p.95
4.3 結果および結果の検討 p.96
4.3.1 誘導磁気異方性の組成依存性 p.96
4.3.2 誘導磁気異方性の磁界中熱処理による変化 p.107
4.4 まとめ p.121
4.5 参考文献 p.122
第5章 非晶質合金スパッタ膜を用いたVTRヘッドの開発 p.124
5.1 はじめに p.124
5.2 実験方法 p.125
5.2.1 磁気ヘッドの作製方法 p.125
5.2.2 非晶質合金膜および磁気ヘッド特性の測定方法 p.128
5.2.3 磁気ヘッドの磁界計算の方法 p.131
5.3 結果および結果の検討 p.131
5.3.1 磁気ヘッドの構造による記録再生特性変化の予備検討 p.131
5.3.2 磁気ヘッドの構造による疑似ギャップ効果の変化 p.135
5.3.3 クロス型ヘッド用非晶質合金スパッタ膜の磁気特性 p.146
5.3.4 クロス型ヘッドの記録再生特性 p.157
5.4 まとめ p.163
5.5 参考文献 p.165
第6章 クロス型ヘッドの高周波特性および記録特性 p.167
6.1 はじめに p.167
6.2 実験方法 p.168
6.2.1 非晶質合金多層膜およびヘッドの高周波特性測定方法 p.168
6.2.2 記録特性の測定および解析方法 p.168
6.3 結果および結果の検討 p.169
6.3.1 非晶質合金多層膜およびヘッドの周波特性 p.169
6.3.2 クロス型ヘッドの長波長記録特性 p.183
6.4 まとめ p.190
6.5 参考文献 p.191
第7章 結論 p.193
謝辞 p.197
本研究に関する発表論文 p.198
近年の情報化社会の進展とともに、記録すべき情報量は増加の一途をたどっている。映像情報を記録するVTRでは、音声情報や計算機情報に比較して格段に多い情報の記録が必要となるため、高周波、高密度記録への要求が高まっている。これを実現するために、磁気テープの高保磁力化とともに、高保磁力テープに対して十分に信号を記録・再生できる。高飽和磁束密度材料を用いた磁気ヘッドが要求されている。
非晶質合金は、従来VTRヘッドに用いられてきたフェライトに比較して約2倍の飽和磁束密度をもち、結晶磁気異方性がなく軟磁気特性を得やすいこと、高周波特性に必要な薄帯化・薄膜化が可能であることから、磁気ヘッド材料として期待されていた。しかし、磁歪定数、透磁率、耐熱性、耐食性、経時安定性など総合特性の点からVTRヘッドに適した組成は明らかでなかった。また、記録再生特性に優れ、量産性の高い非晶質合金を用いたヘッド構造を見い出す必要があった。
本論文は、このような要請を踏まえて、磁気ヘッドに適した非晶質合金の組成および作製方法、さらには非晶質合金の特徴を活かした、最適なVTRヘッド構造および製造プロセスについて研究した成果を『非晶質合金スパツタ膜およびこれを用いたVTRヘッドの研究』と題してまとめたもので、7章より構成される。
第1章「序論」では、高密度記録における高飽和磁束密度磁気ヘッド材料の必要性について述べ、VTRの記録密度に対する磁気ヘッド材料および媒体材料の推移について概説し、本研究の目的と意義を述べた。
第2章「非晶質合金薄帯を用いたVTRヘッドの予備検討」では、Co-Fe-Si-B系非晶質合金薄帯を用いたVTRヘッドを世界で初めて試作し、ヘッド材料の磁気特性とヘッド特性の関係を明らかにし、本ヘッドが従来のフェライトヘッドに比較して、出力およびC/Nが高く、高保磁力メタルテープ用ヘッドとして有望であることを示した。
第3章「磁気ヘッド用非晶質合金スパッタ膜の開発」では、非晶質合金を用いた磁気ヘッドを実用化するために、耐食性に優れたCo系金属-金属型非晶質スパッタ膜を取上げ、低保磁力の非晶質磁性膜が得られるスパッタ条件を明らかにした。さらに、飽和磁束密度、磁歪定数、結晶化温度の組成依存性を検討し、非晶質形成能の高いCo-Zr系にNb、Ta、Mo、W、Niを添加することにより、いずれの系でも磁歪定数が零に近い非晶質膜が得られること、これらのなかでCo-Nb-Zr系が磁歪定数が零に近い組成範囲が最も広く、Co-Ta-Zr系が結晶化温度が最も高いことを見出した。
第4章「非晶質合金スパッタ膜の誘導磁気異方性」では、透磁率を支配する誘導磁気異方性の性質について検討し、Co-TM-Zr(TM=Nb,Ta,W,Mo,Ni)系のなかではCo-Nb-Zr系が最も誘導磁気異方性が小さく、高い透磁率を示すため磁気ヘッドに適したいることを見い出した。誘導磁気異方性の組成依存性はCo原子対の擬双極子相互作用がCoの磁気モーメントに依存するとしたモデルにより理解できること、誘導磁気異方性の変化の緩和時間はヘッド製造工程中の熱処理により大幅に減少し、透磁率は実用上十分な経時安定性を有することを示した。
第5章「非晶質合金スパッタ膜を用いたVTRヘッドの開発」では、山形のフェライト基板斜面に非晶質合金スパツタ膜を形成する新構造ヘッド(以下クロス型ヘッドと称する)について検討し、本ヘッドが量産性の点で優れ、従来のMIGヘッドで問題となる擬似ギャップ効果が生じないこと、斜面基板上への成膜によるCoNbZr非晶質合金スパツタ膜の磁気特性劣化は小さいこと、磁気ヘッドのテープ摺動方向に磁界中熱処理を施すことにより出力の分散低減し、高保磁力テープ用として優れた記録再生特性が得られることを明らかにした。
第6章「クロス型ヘッドの高周波特性および記録特性」では、CoNbZr非晶質合金膜をSiO2絶縁層を介して多層化することにより渦電流損失を低減し、高周波透磁率を顕著に向上できること、多層膜を用いたクロス型ヘッドは50MHzの高周波出力を約3倍向上できることを明らかにした。また、記録密度増加に伴うギャップ長減少により特に長波長記録特性が低下し、これを解決するために磁気ヘッド材料の飽和磁束密度向上が今後も重要であることを示した。
第7章「結論」では、本研究で得られた成果を総括した。
以上のように、本研究では高保磁力テープ対応VTRへの応用を目的として、非晶質合金スパツタ膜ならびにこれを用いたVTRヘッドに関して研究を行った。本研究の成果をもとに開発した非晶質合金スパッタ膜を用いたクロス型ヘッドは、S-VHS VTR、8mmVTR、S-8mm VTR、業務用ディジタルVTR用ヘッドとして広く実用化された。