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セルロースならびにキチンを一成分とする新規高分子複合体の構築と特性解析

氏名 宮下 美晴
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第141号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 セルロースならびにキチンを一成分とする新規高分子複合体の構築と特性解析
論文審査委員
 主査 教授 鈴木 秀松
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 助教授 下村 雅人
 副査 助教授 木村 悟隆
 副査 東京農工大学 助教授 西尾 嘉之

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目次
第1章 序論 p.1
文献 p.9
第1部 セルロースを一成分とする相互侵入高分子網目の構築と相構造解析 p.11
第2章 溶液凝固/塊状重合法によって作製したセルロース/ポリ(N-ビニルピロリドン)コンポジットの転移挙動 p.12
2-1 緒言 p.12
2-2 実験 p.14
2-2-1 原試料 p.14
2-2-2 CELL/PVPコンポジットの作製 p.14
2-2-3 測定 p.16
2-3 結果と考察 p.17
2-3-1 膨潤挙動 p.17
2-3-2 PVP-rich組成における転移挙動 p.19
2-3-3 CELL-richおよび中間組成における転移挙動 p.23
2-4 結論 p.25
文献 p.26
第3章 セルロース/ポリ(N-ビニルピロリドン-co-グリシジルメタクリレート)コポリマー系IPNの設計 p.27
3-1 緒言 p.27
3-2 実験 p.29
3-2-1 原試料 p.29
3-2-2 CELL/P(VP-co-GMA)コンポジットの作製 p.29
3-2-3 測定 p.30
3-3 結果と考察 p.32
3-3-1 CELL/P(VP-co-GMA)[O]コンポジットの転移挙動 p.32
3-3-2 CELL/P(VP-co-GMA)[O]コンポジットの膨潤特性 p.41
3-3-3 コンポジットに対する化学処理および熱処理の効果 p.43
3-4 結論 p.52
文献 p.54
第4章 セルロース/ポリアクリロイルモルホリン系IPN様コンポジットの相構造解析 p.55
4-1 緒言 p.55
4-2 実験 p.57
4-2-1 原試料 p.57
4-2-2 CELL/PACMOコンポジットの調製 p.57
4-2-3 測定 p.59
4-3 結果と考察 p.61
4-3-1 CELL/PACMOコンポジットの転移挙動 p.61
4-3-2 個体13CNMR法による相構造解析 p.68
4-4 結論 p.75
文献 p.76
第2部 キチンを一成分とする新規高分子複合体の作製と物性評価 p.77
第5章 溶液キャスト法によるキチン/ポリ(N-ビニルピロリドン)ブレンドの調製と相溶性評価 p.78
5-1 緒言 p.78
5-2 実験 p.80
5-2-1 原試料 p.80
5-2-2 ブレンドフィルムの調製 p.80
5-2-3 測定 p.80
5-3 結果と考察 p.82
5-3-1 キチン/PVPブレンドの熱転移挙動 p.82
5-3-2 キチン/PVPブレンドの分子間相互作用 p.84
5-4 結論 p.87
文献 p.88
第6章 キチン/ポリビニルアルコールブレンドの相溶性に及ぼすキチンの部分脱アセチル化の効果 p.89
6-1 緒言 p.89
6-2 実験 p.91
6-2-1 原試料 p.91
6-2-2 ブレンドフィルムの作製 p.91
6-2-3 測定 p.93
6-3 結果と考察 p.94
6-4 結論 p.103
文献 p.104
第7章 溶液凝固/塊状重合法を用いたキチン/ポリグリシジルメタクリレートコンポジットの作製と特性評価 p.105
7-1 緒言 p.105
7-2 実験 p.106
7-2-1 原試料 p.106
7-2-2 キチン/PGMAコンポジットの作製 p.106
7-2-3 測定 p.108
7-3 結果と考察 p.110
7-3-1 キチン/PGMAコンポジットの転移挙動 p.110
7-3-2 個体13CNMR法による相構造解析 p.115
7-4 結論 p.120
文献 p.121
第8章 キチン/ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)系IPNコンポジットの相構造解析 p.122
8-1 緒言 p.122
8-2 実験 p.124
8-2-1 原試料 p.124
8-2-2 キチン/PHEMAコンポジットの作製 p.124
8-2-3 測定 p.126
8-3 結果と考察 p.127
8-3-1 キチン/PHEMAコンポジットの転移挙動 p.127
8-3-2 個体13CNMR法による相構造解析 p.133
8-4 結論 p.138
文献 p.139
第9章 総括 p.140
論文目録 p.142
謝辞 p.144

 セルロースやキチンに代表される構造形成多糖と種々の合成高分子とを微視的かつ精巧に複合化する新しい方法を見出し、それによって得られる複合体の構造と物性を解明することは、天然資源の有効利用ならびに高分子材料の精密設計という両観点から非常に意義あるものである。
 この様な視点の下、本研究では、未修飾多糖の有機系溶剤への迅速溶解および凝固ゲルの構造固定化を利用して、セルロースあるいはキチンと合成高分子とが分子レベルで複合化された膜を構築し、その相構造を制御することにより高性能化を図ることを目的としている。特に、ビニルモノマーを含浸させた多糖ゲルのin situ重合により、相互侵入網目(IPN)組織の形成を意図した新規複合化法、“溶液凝固/塊状重合法”を提案し、新たな高分子複合材料(コンポジット)の設計指針を獲得することを主目標の一つとした。本論文は、合計7種類の多糖/合成ポリマー複合系の作製を試み、その熱および動的力学物性と相構造を検討した結果をまとめたもので、以下の9章から構成されている。
 第1章では、多糖をベースとする複合化研究の推移とあり方を記し、本研究の意義と目的について述べた。
 第2章では、溶液凝固/塊状重合法によって作製したセロルース/ポリ(N-ビニルピロリドン)(CELL/PVP)コンポジットの転移挙動と相構造を考察した。特にPVP-rich組成の試料では、ゴム状態での弾性率がPVP単独の場合に比べて著しく上昇し、また水中浸漬下での膨潤度はきわめて低い値となった。これより、CELLゲルの網目構造がPVPマトリックスに一様に拡がって固定された、IPN様構造を有するコンポジットの形成が示唆された。
 第3章では、溶液凝固/塊状重合法の利点を活かし、複数の仕込みモノマーを組み合わせることで、セルロース/コポリマー系コンポジットの設計を試みた。N-ビニルピロリドン(VP)とグリシジルメタクリレート(GMA)の混合液を用いて作製したCELL/P(VP-co-GMA)コンポジットについて、主に動的力学試験の結果から、コポリマー-rich組成の試料ではIPN様の複合体が構築されることが示唆された。また疏水性のGMA成分の導入により、コポリマー中の共重合組成を変化させることで、試料の水に対する膨潤度、即ち親/疏水性の制御が可能となること示した。さらに、試料に適当な化学処理または熱処理を施すことによって、ネットワークの架橋形態を変化させることができ、1成分のみが架橋されたSemi-IPN、両成分がそれぞれ架橋されたFull-IPN、および2成分間が架橋されたJoined-IPNの3様式が実現されることを明らかにした。
 第4章では、溶液凝固/塊状重合法によって作製したセルロース/ポリアクリロイルモルホリン(CELL/PACMO)コンポジットについて相構造解析を行った。同法により作製したCELL/PACMOコンポジットの高温(ゴム状態)における動的弾性率は、均一ポリマー混合溶液からの凝固再生法によって調整した物理的ブレンド試料のそれに比べて1桁以上高い値となつた。これよりIPN様コンポジットにおいて分子の絡み合いが高密度に存在することが明らかとなった。また、個体13CNMR法を用いてこのコンポジットの混合スケールを評価したところ、数nm以下のレベルで均一であることが示唆された。
 第5章では、キチンとPVPとのブレンド膜を、ギ酸/ジクロロメタンを共通溶媒とした均一混合溶液からのキャスト法によって調製し、その相溶性を評価した。キチンは溶解過程で部分的に化学修飾を破るものの、ブレンド試料のガラス転移点が組成に応じて系統的にシフトするのが観測され、両成分間に明確に相溶性のあることが明らかとなった。
 第6章では、種々の脱アセチル化度(DD)を有するキチンとポリビニルアルコール(PVA)とのブレンド膜を調製し、その相溶性に及ぼすキチンのDDの効果について考察した。熱分析結果より、キチン成分のDDが40~60%の範囲にある場合に限り、非晶領域での相溶性が特に良好なキチン/PVAブレンドを調製し得ることを示した。
 第7章では、溶液凝固/塊状重合法をキチンの複合系に適用し、キチン/ポリグリシジルメタクリレート(PGMA)コンポジットの作製を試みた。本来キチンとPGMAは親和性に乏しく、溶液凝固法等の物理的複合化法では非相溶ブレンドしか得られない。しかし溶液凝固/塊状重合法を用いることで、両成分が分子レベルで混合されたSemi-IPN様コンポジットの作製が可能となることが、DSC熱分析、動的粘弾性測定、および個体13CNMR測定の結果より明らかになった。
 第8章では、自己架橋性を有する2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を含浸モノマーとして、溶液凝固/塊状重合法により作製したキチン/PHEMAコンポジットについて、相構造解析を行った。動的力学試験において、キチンゲルと架橋PHEMAバルクの両網目が絡み合った、Full-IPN様組織の形成を示唆する結果を得た。また、個体13C NMR法による緩和時間測定から、Full-IPN型キチン/PHEMAコンポジットでは、両成分のセグメントが約2.4nmの範囲に近接して存在し得ることが明らかとなった。
 第9章では、本研究で得られた成果をまとめるとともに、多糖をベースとする複合化研究の今後の展望について述べ、本論文を総括した。

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