本文ここから

コンクリート構造物表面基質変換技術による海洋資源増殖方法に関する研究

氏名 鈴木 哲緒
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第87号
学位授与の日付 平成8年12月11日
学位論文の題目 コンクリート構造物表面基質変換技術による海洋資源増殖方法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 鳥居 邦夫
 副査 教授 桃井 清至
 副査 教授 丸山 久一
 副査 日本大学 教授 堀田 健治

平成8(1996)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

1. 序論 p.2
2. 初期研究 p.5
2.1 植毛プレートを利用した稚ウニ増殖の基本研究 p.5
2.2 海藻増殖の基礎研究 p.8
3. コンクリート表面基質変換技術による海洋環境保全と海洋資源増殖の研究 p.18
3.1 表面基質変換技術 p.18
3.1.1 表面基質変換方法 p.18
3.1.2 FeSO4・7H2Oによるコンクリート表面改質における化学反応の実験的証明 p.21
3.2 表面を改質したコンクリート構造物による海藻着生の実証試験 p.25
3.2.1 高知県手結地先における実証試験 p.27
3.2.2 高知県宇佐港外における実証試験 p.54
3.3 結果と考察 p.60
4. コンクリート表面基質変換技術の実用化 p.62
4.1 大型構造物への適応技術の開発 p.62
4.2 硫酸第一鉄造粒シートの開発 p.65
4.3 硫酸第一鉄造粒シート施工による海藻の着生効果 p.93
4.4 硫酸第一鉄造粒シートの使用実績 p.96
5. 結論 p.109
付属資料(I, II)
論文
参考論文
各種表彰

 1984年に12,816千トンであったわが国の漁業生産良は、94年には8,103千トンとなり37%も低減した。漁業不振の影響は、必然的に輸入依存を高め、85年の輸入額46億1千万ドルに対し、94年では3.5倍の159億ドル達し、国民生活の食料自給律を37%という憂慮すべきものに至らしめている。
 沿岸波浪対策など国土保全を目的として投入している年間2,000万立方メートルとも推測される莫大な量のコンクリートブロックや構造物から溶出する強アルカリ物質は、海洋生物の育成に有害であり、磯焼け現象と呼ばれる無生物領域をつくりだしており、沿岸漁業不振の一因となっている。
 一方塗料や合成樹脂、インキ顔料などの原料として年々生産量が増大しているチタン鉱石精練の際に、副産物として大量に排出される硫酸第一鉄は、強酸性のため有効利用されているのは極めて僅かで大半は多額の費用をかけて産業廃棄物として処分されている。
 本研究は、コンクリート構造物の表面から溶出するアルカリ成分・水酸化カルシウムなどを硫酸第一鉄によって抑制する技術の開発、およびこれを海中に沈設した場合の海中生物の着生について資源環境の構築を検討したものであり、海洋生物の生態環境改善と、産業廃棄物の有効利用化という2面から、環境問題に取り組むものである。
 本研究は第1章~第5章からなり、以下の各章の概略と得られた知見について述べる。
 第1章では、研究の背景として、わが国の漁業生産の現状を概説し、コンクリート構造物の沿岸設置における環境弊害が、海洋生物再生産機能を阻害していることを指摘するとともに、チタン鉱精練副産物として産出される硫酸第一鉄の現状について述べ、これらの問題を解決するための研究目的を明らかにしている。
 第2章では、初期研究として、人工魚礁の表面に植毛プレートを装着加工することにより、ウニ増殖が図れることが分かったが、植毛プレート以外のコンクリート部分にはウニの沈着を観測することができなかった。これにより、コンクリート表面から溶出する強アルカリ成分がウニ幼生の呼吸に弊害となることが分かった。また、コンクリート構造物表面を硫酸第一鉄の結晶により、酸化鉄多孔質化したフェロセメントプレートを装着した人工魚礁では、緑藻(アオサ)、褐藻(クロメ)などの天然海藻類の増殖が図られ、さらに、海藻を食餌とするアワビなど貝類の増殖に極めて有効なことを明らかにした。
 この原因を考察して、硫酸第一鉄が生物学的酸化還元で必須とされている鉄分を供与していること、藻類の植生を助長するためには、コンクリート構造物表面が粗面化されていなければならないことを明らかにした。
 第3章では、コンクリート表面基質変換技術による海洋環境保全と資源増殖の研究を明らかにしている。コンクリート構造物の表面基質を変換する方法として、1)セメント水和物生成に伴う凝結反応の水和熱と硫酸第一鉄との反応による浸透皮膜をさく作る方法、および2)硫酸第一鉄塗料による塗膜を作る方法を検討した。
 硫酸第一鉄の結晶でコンクリート表面を酸化鉄多孔質化したフェロセメントプレートでの実験、さらには硫酸第一鉄塗装を塗布したコンクリート構造物と、裸のままのコンクリート構造物を海洋に沈設して、これらの生物付着効果に対する比較実証実験を各地で実施した結果、硫酸第一鉄でコンクリート表面を改質処理した構造物の方が、海藻の着生が明らかに早く、量、質ともに勝り、魚介類の増殖に極めて有効であることを明らかにした。
 第4章では、コンクリート表面基質変換技術の開発について述べている。これまではコンクリート表面を、硫酸第一鉄を利用した塗料の塗膜などで処理してきたが、より有益で効果的な技術として普及するため、容易な工法の研究と経済性の検討を行った結果、産業廃棄物として放棄されている硫酸第一鉄を特殊な方法で造粒化し、さらに造粒化したものを水溶性フィルムを用いて造粒包装シート化を行い、それを構造物型枠の内側に貼り付け、生コンクリートを流し込むだけでコンクリート表面基質を有意義に基質に変換する画期的工法と経済性を得た製品開発ができることを明らかにしている。また、この工法は1992年北海道開発局で初めて採用され、95年8月までに全国109箇所の海岸事業に適用、その使用量は24,700平方メートルになっている。
 第5章では本研究の結論を述べている。
 今後、コンクリート構造物の海洋設置に、自然と共生するこの新しい技術が用いられれば、海洋の汚染防止とともに活力ある海洋資源再生産の基盤が構築され、人類の希求する食料の安定確保に大きく寄与するものであると思料する。

平成8(1996)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る