Thermodynamic Studies on Miscibility and Molecular Interactions in Random Copolymer Blends
(ランダム共重合体を含む高分子ブレンドにおける相溶性と分子間相互作用に関する熱力学的研究)
氏名 佐藤 司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第138号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 Thermodynamic Studies on Miscibility and Molecular Interactions in Random Copolymer Blends (ランダム共重合体を含む高分子ブレンドにおける相溶性と分子間相互作用に関する熱力学的研究)
論文審査委員
主査 教授 塩見 友雄
副査 教授 鈴木 秀松
副査 教授 五十野 善信
副査 助教授 竹中 克彦
副査 新潟大学 助教授 木村 悟隆
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Contents
General Introduction p.1
Chapter 1 Theoretical Background : Miscibility Behavior and Thermodynamics of Polymer-Polymer Mixtures p.7
Chapter 2 UCST Behavior in High Molecular Weight Polymer Blends and Estimation of Segmental χ Parameters from Their Miscibility p.29
Chapter 3 UCST and LCST Behavior Polymer Blends Containing Poly (methyl methacrylate-stat-styrene) p.49
Chapter 4 Thermodynamic Properties of Methacrylate Random Copolymer Solutions in Cyclohexanone and Application of Equation-of-State Theory p.69
Chapter 5 Application of Equation-of-State Theory to Random Copolymer Blends with UCST-type Miscibility p.93
Chapter 6 Behavior of Temperature Dependence of χ Parameter in Random Copolymer Blends Showing an Immiscibility Window p.109
List of Papers p.129
Acknowledgments p.131
近年、高性能高分子材料の開発において、異種高分子の複合化が重要な位置を占めるに至っている。熱力学的説明によれば、高分子の混合に対する配位エントロピーの効果が極めて小さいために、高分子混合系の相溶性は異種分子間相互作用によって支配される。従って、その評価とそれに基づく相溶性の予測は、高分子の複合化に基礎的知見を与えるものとして重要である。しかし、高分子混合系における分子間相互作用の直接的評価は、溶液に比べて困難である。
本研究では、ランダム共重合体を含む高分子ブレンドおよび溶液を用いることによる、異種成分間相互作用の熱力学的評価法を提案し、その方法で得られた成分間相互作用を用いることによる、共重合体を含む高分子ブレンドの相溶性予測の可能性を明らかにした。また、高分子ブレンドでは起こり難い高温溶解型(UCST型)相溶性を発現する具体例を実験的に見い出し、その理論的説明を提示した。
まずGeneral Introductionにおいて、高分子ブレンドおよび溶液の相溶性を記述する、Flory-Hugginsの分子間相互作用パラメーターxに関するこれまでの研究を概観し、共重合体を含むブレンドの相溶性についての知見を得るためには、成分間相互作用の評価、集積が重要であることを述べ、本研究の位置づけと目的を明らかにした。
第1章では、高分子ブレンドおよび溶液の相溶性を含む熱力学的性質を記述する、Flory-Huggins理論、および自由体積の概念に基づく状態方程式理論を説明し、次にそれらのランダム共重合体系への拡張を示した。
第2章では、高分子ブレンドには起こり難いUCST型相溶性が、メタクリレート系ホモポリマーおよびランダム共重合体ブレンドにおいて発現することを実験的に示した。高分子ブレンドにおけるUCSTは、分散力が支配的でありかつ混合の交換エンタルピーが非常に小さい系においてのみ発現する。本系は類似した化学構造から成るブレンドであり、Xパラメータを構成する交換エンタルピー項および自由体積差を表す項の両者が非常に小さいと考えられ、UCST発現の条件に適合したと考えられる。また、共重合体系に拡張したFlory-Huggins理論を用いて、相溶性の共重合組成依存性から成分間相互作用を評価する方法を提案した。この方法は、これまでの熱力学的手法およびX線や中性子散乱手法よりも簡便にxパラメーターが評価でき、その値を用いて共重合体を含む高分子ブレンドの相溶性をよく再現できることを明らかにした。
第3章では、メチルメタクリレート・スチレン共重合体を含むブレンドにおけるUCSTおよびLCST型相溶性の例を示し、それらの発現を状態方程式理論に基づいて検討した。その結果、共重合組成に伴う交換エンタルピー項と自由体積項の競争が、UCSTおよびLCSTの発現を規定することを示した。また、第2章で提案した方法によって評価した成分間相互作用を用いることによって、相溶性の共重合組成依存性だけでなく分子量依存性もよく再現できることを明らかにした。
次の第4章と第5章では、高分子混合系における分子間相互作用パラメーターxを、状態方程式理論を用いて評価する方法を提案しその妥当性を検討した。第4章では、ランダム共重合体系に拡張したFlory状態方程式理論を共重合体溶液へ適用した。従来2成分混合系に適用されてきたランダムミキシングに基づく結合則が、共重合体系に拡張された。この拡張された理論により、共重合体溶液の種々の熱力学量がよく再現できることを明らかにした。このことから、共重合体溶液を用いることにより、高分子ブレンドのxパラメーターの計算に必要な成分間パラメーターの評価が可能であることを示した。
第5章では、第4章において溶液より決定した成分間パラメーター用いて、UCSTを発現するメタクリレート系ランダム共重合体ブレンドのxパラメーターを計算した。その結果、xの温度依存性は本系のUCST型相溶性を再現するものであった。すなわち、xは温度に対してU字型の関数であり非常に小さい正の値をとり、このことは分散力の支配的な系における交換エンタルピー項および自由体積項の両者が、非常に小さいことを示唆している。また、ここで得たxの値は、第2章においてランダム共重合体ブレンドの相溶性を利用して得た値とよく一致した。これらのことにより、共重合体溶液より決定した成分間パラメーターを用いることで、共重合体を含む高分子ブレンドの相溶性の予想が、状態方程式理論によっても半定量的に可能であることを明らかにした。
第6章では、状態方程式理論を特異な相溶性を示す系に適用した。すなわちランダム共重合体を含む高分子ブレンドにおける特異な相溶性を、状態方程式理論により再現できることを示した。
以上の様に本論文では、高分子ブレンドにおけるUCST型相溶性の発現を実験的に示し理論的に裏付けするとともに、本研究で提案した異種成分間相互作用の評価法およびその集積が、ランダム共重合体を含む高分子ブレンドの相溶性の予測、制御において有益であることを明かにした。