超伝導体の熱伝導率測定に関する研究
氏名 根本 栄治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第97号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文の題目 超伝導体の熱伝導率測定に関する研究
論文審査委員
主査 教授 青木 和夫
副査 教授 梅村 晃由
副査 教授 濱崎 勝義
副査 東京工業 大学教授 斎藤 彬夫
副査 青山学院 大学教授 岡田 昌志
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目次
第1章 序論
1.1 本研究の目的 p.1
1.2 本研究に関する従来の研究経過 p.5
1.3 本研究の概要とその構成 p.6
1.4 記号 p.9
第2章 金属間化合物超伝導体Nb3Sn、およびV3Gaの等方性熱伝導率測定
2.1 緒言 p.13
2.2 測定試料とX線回折結果 p.13
2.3 熱伝導率測定方法、および測定装置 p.16
2.4 測定試験、および測定結果 p.21
2.5 熱伝導率の理論 p.24
2.6 第2章のまとめ p.30
第3章 高温酸化物超伝導体の熱伝導率特性
3.1 緒言 p.31
3.2 試料作製方法、および作製条件 p.32
3.3 X線回折結果 p.33
3.4 理論密度、および気孔率の測定 p.39
3.5 超伝導転移温度の測定方法、および測定装置 p.40
3.6 転移温度の測定実験、および測定結果 p.41
3.7 熱伝導率測定方法、および測定装置 p.44
3.8 熱伝導率の測定実験、および測定結果 p.46
3.9 考察 p.51
3.10 酸化物超伝導体の熱伝導率理論 p.54
3.11 第3章のまとめ p.58
第4章 マトリックス合同変換論による異方性熱伝導物質の非定常熱伝導解析
4.1 緒言 p.59
4.2 マトリックス合同変換による等方化理論 p.60
4.3 マトリックス写像による温度勾配、熱流束の境界における保存性 p.70
4.4 複合領域への写像適用条件の考察 p.74
4.5 応用例 p.79
4.6 第4章のまとめ p.85
第5章 レーザーパルス加熱法による異方性超伝導物質の主軸伝導率、主軸熱拡散率、および主軸角の同時測定
5.1 緒言 p.86
5.2 測定理論 p.87
5.3 三主軸熱伝導率、三主軸熱拡散、および主軸角の決定法 p.91
5.4 瞬間的点状熱源としてのルビーレーザーの特性の検討 p.100
5.5 実験装置、および測定試料 p.102
5.6 熱伝導体試料を伝搬する非定常温度グリーン関数、および温度差の比T1j/T12等の検討 p.105
5.7 主軸熱拡散率、および主軸熱伝導率の測定誤差の検討 p.110
5.8 主軸電気抵抗率、主軸熱拡散率、主軸熱伝導率、および主軸角の測定結果 p.124
5.9 主軸熱拡散率、主軸熱伝導率、および主軸角決定に関する計測工学的考察 p.131
5.10 第5章のまとめ p.140
第6章 結論 p.142
謝辞 p.147
文献 p.149
本論文は、以下に示す6章より構成されており、その要旨は次の通りである。
第1章「序論」においては、超伝導の歴史、および熱伝導に関する研究の重要性と目的について説明している。次いで、Onnesの超伝導現象の発見以降行われてきた超伝導体の熱伝導に関する研究の進展状況、および超伝導体の熱伝導率測定を中心とした熱工学的研究について概説し、本研究の目的について述べている。
第2章「金属間化合物超伝導体Nb3Sn、およびV3Gaの等方性熱伝導率測定」ではまず金属間化合物超伝導体として重要な高臨界磁場用材料であるNb3SnおよびV3Gaの熱伝導率の温度依存性を、鉛を標準試料(純度99.99%)とした一次元定常平板比較法を用いて測定し、その温度依存特性について述べている。つづいて、両試料の熱伝導率の温度依存性を比較するため、超伝導転移温度の熱伝導率λ。で熱伝導率の実測値を無次元化し、無次元温度-無次元熱伝導率の関係として表示すると、同一の温度依存特性で表せることを述べている。
さらに、本章では、Nb3Sn、およびV3GaのA15形超伝導体の熱伝導率の温度依存関係が、BardeenらのB.R.T.理論を基礎とする無次元熱伝導率関数Ω(ξ)で表現できることを明らかにしている。
第3章「高温酸化物超伝導体の熱伝導率特性」では、まず、高温酸化物超伝導体である三元素酸化物La-Sr-Cu-O系、Y-Ba-Cu-O系、ランタノイド系のEr-Ba-Cu-O系、および非希土類系超伝導体の四元素酸化物であるBi-Sr-Ca-Cu-O系の電気抵抗率の変化に対する平均熱伝導率の温度依存性を測定し、その熱的特性を明らかにしている。これらの超伝導体では、常伝導状態から超伝導状態へ超伝導相転移現象により変化する過程で、熱伝導率が温度の低下と共に増加し、その後、熱伝導率の極大値を示した後、急激に減少することを明らかにしている。
この温度依存傾向は、これらの銅酸化物超伝導体に類似した傾向であり、高温酸化物超伝導体を特徴づける温度依存性であることを述べている。
さらに、これらの高温酸化物超伝導体の平均熱伝導率はフォノン伝導の寄与が大きく、Heisenbergの電子系二流体モデルを拡張した熱伝導率モデルで、大略表せることを示し、超伝導相転移の平均熱伝導率特性として明確化できることを述べている。
第4章「マトリックス合同変換論による異方性熱伝導物質の非定常熱伝導解析」では、最も一般的に三次元直交異方性熱伝導物質のマトリックス合同変換論による非定常温度場の熱伝導解析について述べている。この中で、本変換による温度勾配、熱流速の境界における保存性について明らかにし、複合領域への写像変換条件の考察、三次元異方性積層板の熱抵抗、三次元異方性熱伝導物質の温度グリーン関数の導出、および三次元異方性複合物質の非定常温度解析を行っている。
第5章「レーザーパルス加熱法による異方性超伝導物質の主軸熱伝導率、主軸熱拡散率および主軸角の同時測定」では、レーザーバルス加熱法を用いた三次元異方性超伝導物質の主軸熱伝導率、主軸熱拡散率、および主軸角の同時測定の測定原理、およびその測定法を述べている。
本測定法によれば、三次元異方性超伝導物質の試料の表面に四箇所、および試料の内面等に一箇所の測定温度点を設定することにより、三主軸熱拡散率と主軸角を同時に求めることができ、熱容量である比熱と密度の測定結果を用いて三主軸熱伝導率が決定できることを示している。これにより、従来、計測が困難であった高温酸化物超伝導体Y-Ba-Cu-O系の三主軸熱伝導率、三主軸熱拡散率、およびその主軸角をレーザーパルス加熱法を用いて同時に測定できることを明らかにし、各主軸熱伝導率、および主軸熱拡散率の温度依存性を測定して超伝導相転移による熱特性の変化を調べている。また、この三次元異方性主軸値、および主軸角の測定法では、測温点数nと未知量数mに対しn=m+1なる相互関係があることを明確にしている。
第6章「結論」では、本論文の各章で得られた結論が、総括して述べられている。
これらのことより、従来困難であった三次元直交異方性超伝導物質の主軸熱伝導率、主軸熱拡散率の測定法が、マトリックス合同変換論を基礎とした異方性超伝導物質の主軸熱物性値測定法として整備、統一、把握されることを明らかにしている。