酵素修飾電極への導電性高分子の応用に関する研究
氏名 児島 克典
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第136号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文の題目 酵素修飾電極への導電性高分子の応用に関する研究
論文審査委員
主査 教授 宮内 信之助
副査 教授 赤羽 正志
副査 教授 森川 康
副査 助教授 下村 雅人
副査 助教授 安川 寛治
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 本研究の目的と論文の構成 p.5
第2章 導電性高分子・酸素複合膜の電気的特性 p.7
2.1 はじめに p.7
2.2 実験 p.9
2.2.1 試薬 p.9
2.2.2 PPy/GOD膜の作製 p.9
2.2.3 PPy/GOD膜のサイクリックボルタンメトリ p.12
2.2.4 グルコース電流応答の測定 p.15
2.3 結果と考察 p.15
2.3.1 PPyの電気化学的特性と酸素反応の関係 p.15
2.3.2 PPy/GOD膜のグルコース電流応答 p.25
2.3.3 p-ベンゾキノンを介したPPyとGODの電子伝達 p.28
2.3.4 バツクグラウンド電流の原因とそのモデル化 p.32
2.4 まとめ p.39
第3章 電解重合法による導電性高分子への酸素の固定とグルコースコンセンサへの応用 p.41
3.1 はじめに p.41
3.2 実験 p.42
3.2.1 試薬 p.42
3.2.2 PPy/PVA/GOD膜の作製 p.42
3.2.3 膜厚測定 p.43
3.2.4 固定化GODの見かけの活性 p.43
3.2.5 走査型電子顕微鏡による表面観察 p.43
3.2.6 グルコースに対する電流応答 p.43
3.3 結果と考察 p.45
3.3.1 ピロールの電解重合に及ぼすGODの影響 p.45
3.3.2 PPy/PVA/GOD複合膜の酸素活性 p.54
3.3.3 グルコース電流応答の膜厚依存性 p.56
3.4 まとめ p.61
第4章 共有結合法による導電性高分子への酸素の固定 p.62
4.1 はじめに p.62
4.2 実験 p.64
4.2.1 試薬 p.64
4.2.2 1-(2-シアノエチル)ピロールの科学重合 p.64
4.2.3 PPy-CNの加水分解 p.65
4.2.4 赤外吸収スペクトル p.65
4.2.5 加水分解PPy-CNへのGODの固定 p.65
4.2.6 PPy-GODの酸素活性 p.66
4.2.7 PPy-GODの蛋白質定量 p.66
4.2.8 導電率の測定 p.67
4.3 結果と考察 p.68
4.3.1 カルボキシル基を有するポリピロールの合成 p.68
4.3.2 共有結合によるPPyへのGODの固定 p.71
4.3.3 導電率の評価 p.73
4.4 まとめ p.76
第5章 導電性高分子・酸素複合膜のグルコースセンサへの応用 p.77
5.1 はじめに p.77
5.2 実験 p.79
5.2.1 1-(2-カルボキシエチル)ピロールの合成 p.79
5.2.2 PPy-COOHの合成 p.79
5.2.3 PPy-COOHへのGODの固定 p.79
5.2.4 赤外吸収スペクトル p.80
5.2.5 PPy-GODの酸素活性 p.80
5.2.6 固定化GODの定量 p.80
5.2.7 導電率の測定 p.81
5.2.8 紫外-可視吸収スペクトル p.81
5.2.9 PPy-GOD膜のグルコース電流応答 p.81
5.3 結果と考察 p.83
5.3.1 PPy-COOH膜の合成 p.83
5.3.2 PPy-COOH膜へのGODの固定 p.87
5.3.3 PPy-COOH膜の電気的特性 p.90
5.3.4 PPy-GOD膜のグルコース電流応答 p.93
5.4 まとめ p.98
第6章 総論 p.99
参考文献 p.102
謝辞 p.107
本研究に関する発表論文 p.108
近年、導電性高分子に酵素など生体関連物質を固定したバイオセンサが注目されている。なかでも、酸化還元酵素の固定化担体として導電性高分子を用いた酵素修飾電極は、酵素と導電性高分子間の電子伝達により高感度なバイオセンサとして期待できる。しかし、酵素修飾電極の電流応答は酵素反応や導電性高分子の電気伝導性に影響されるため、これまで導電性高分子と酵素の電子伝達について詳細に検討されていない。そこで本研究では、酵素修飾電極の電流応答が導電性高分子と酵素の電子伝達に起因する電流応答であることを明らかにし、さらに、この電子伝達を考慮した新たな導電性高分子への酵素の固定方法について検討し、導電性高分子の酵素修飾電極への応用を試みた。
第1章「序論」では、酵素を固定した導電性高分子を酵素修飾電極に応用したときの利点や問題点について概観し、本研究の目的と意義を明らかにした。
第2章「導電性高分子・酵素複合膜の電気的特性」では、導電性高分子であるポリピロール(PPy)とグルコースオキシダーゼ(GOD)間の電子伝達について検討した。電解重合法でGODをPPy膜に物理的に固定したPPy/GOD膜のグルコースに体する電流応答は、酵素反応で生成される過酸化水素の電気分解により得られるが、PPy/GOD膜の電気伝導性は過酸化水素によって低下し、電流応答も著しく減少した。そこで、酵素反応のメディエータとしてp-ベンゾキノンを用いると、PPy/GOD膜の電気伝導性は酵素反応に影響されず、電気伝導性を保ちながらグルコース電流応答を測定できることを確認した。そして、電気伝導性を有するPPy/GOD膜のグルコース電流応答はGODまたはp-ベンゾキノン不在下で減少したことから、GODの酵素反応で生成された電子はp-ベンゾキノンを介してポリピロールへ伝達されることが分かった。また、グルコース電流応答は数百nAほどの微小な電流変化を測定するためバックグラウンド電流の安定性が要求される。そこで、バックグラウンド電流の原因を検討し、モデルを立て、バックグラウンド電流の安定性を確認した。
第3章「電解重合法による導電性高分子への酵素の固定とグルコースセンサへの応用」では、まず電解重合中にポリピロールが成長する過程で、GODがピロールに及ぼす影響について検討した。電解重合時に電極表面にGODが存在すると、GODがピロールの重合を促進させることが分かった。また、ポリピロール膜の膜厚やGOD含有量を変化させてグルコース電流応答の影響を検討した結果、膜表面にあるGODが主にグルコース電流応答に寄与することが明らかになった。すなわち、膜表面へGODを高密度に固定することで、より大きなグルコース電流応答が期待できることが分かった。
第4章「共有結合法による導電性高分子への酵素の固定」では、ポリピロール膜表面へGODを高密度に固定する手段として共有結合法に注目し、カルボキシル基を有するポリピロールへの共有結合によるGODの固定について検討した。化学重合法によりポリ[1-(2-シアノエチル)ピロール](PPy-CN)粉末を合成し、さらにPPy-CN粉末を加水分解することで約14%のカルボキシル基を導入することができた。この加水分解PPy-CN粉末とGODを縮合反応させた結果、GODの結合量は物理吸着による固定化量の40倍も増加し、結合したGODの酵素活性も維持された。したがって、加水分解PPy-CN粉末にGODを共有結合により固定することができた。
第5章「導電性高分子・酵素複合膜のグルコースセンサへの応用」では、ポリ[1-(2-カルボキシエチル)ピロール](PPy-COOH)膜を電極上に電解重合により作製し、PPy-COOH膜表面にGODを共有結合させたPPy-GOD膜をグルコースセンサへ応用した。PPy-GOD膜のGODの見かけの活性は150mUcm-2であり、電解重合で物理的にポリピロール膜へGODを固定したPPy/GOD膜より2.5倍高い活性を示し、PPy-COOH膜表面にGODを高密度に固定させることができた。また、PPy-GOD膜の導電率と光学吸収スペクトルの結果から、PPy-COOH膜の電気的特性がGODによって影響されず、電気伝導性を有したまま、PPy-COOH膜へGODを固定できることを明らかにした。PPy-GOD膜のグルコース電流応答は測定溶液へグルコースを注入後約2分で一定値を示し、PPy/GOD膜の電流応答の3倍以上に達した。そして、グルコース電流応答はグルコース濃度が80mMまで直線性を認めることができ、これまでに開発されているグルコースセンサよりも高濃度領域まで測定することができた。
第6章「総論」では、本研究で得られた成果についてまとめた。すなわち、ポリピロールとGOD間の電子伝達はp-ベンゾキノンを介した電子の授受であることを明らかにした。そして、共有結合によりポリピロール膜表面に高密度に固定したGODの酵素反応によって生成された電子を、p-ベンゾキノンを介して電気伝導性を有するPPy-GOD膜に伝達する結果、従来の物理的包括法により作製された導電性高分子・酵素複合膜により高い電流応答を得ることができた。