高圧処理による食品加工とコメ加工産業への利用
氏名 山崎 彬
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第149号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 高圧処理による食品加工とコメ加工産業への利用
論文審査委員
主査 教授 山田 明文
副査 助教授 吉國 忠亜
副査 教授 松下 和正
副査 教授 桃井 清至
副査 教授 塩見 友雄
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目次
第1章 緒言 p.2
第2章 高圧処理による食品加工の方法と特徴 p.10
第3章 餅の物理的品質評価と高圧処理を利用した餅の製造 p.31
3.1 餅の物理的品質評価の研究 p.31
3.2 高圧処理を利用した餅の製造 p.42
第4章 高圧処理を利用した米菓の製造 p.56
第5章 高圧処理を施した浸漬米の炊飯後の微細構造と物性 p.70
第6章 高圧処理および熱処理後における各種澱粉-水系中の水の存在状態の比較 p.92
第7章 高圧処理を利用した食品成分の抽出 p.114
7.1 酵母からのトレハロースの抽出 p.116
7.2 米アレルゲン含有蛋白質の抽出 p.130
第8章 高圧処理による吸水性に優れた玄米の製造とグルタミン酸脱炭素酵素の失活圧力 p.145
第9章 高圧利用による余剰活性汚泥の生物分解性の向上 p.157
第10章 高圧処理のコメ加工産業への利用 p.171
第11章 結語 p.180
謝辞 p.182
熱と圧力は、それぞれ独立した物質の状態変換因子であるにもかかわらず、食品の調理や加工には圧倒的に熱が利用されてきた。圧力による食品加工は、熱に比較して栄養素の破壊、異臭の発生、および異常物質の生成がみられない。しかし微生物に対して、200MPa以上の圧力で、細菌、かび、酵母、ウイルスなどの死滅や損傷が確認される。400MPa以上になると多くの酵素に活性の低下が認められる。したがって、圧力処理により食品の加工と同時に殺菌や保蔵の延長も可能となる。デンプンやタンパク質を含む食品では、熱処理とは異なる状態変換により、今までにない新しい食品や素材が期待できる。しかも、圧力の継続にはエネルギーが不要であり、また圧力は食品の内部にまで瞬時に伝わり、熱に比べて伝達に要する時間が不要である。更に、熱処理との併用効果もあり、風味豊かな新しい食品が創造できると考えられる。 本論文は、このような特徴を食品加工やバイオサイエンスの分野に応用し、その有用性を報告するとともに、コメ加工産業への利用について述べたものである。
第1章は、この研究の経緯について述べ、第2章では、高圧処理による食品加工の方法と特徴について概説した。本実験に用いた高圧処理装置、加圧による水の相の変化、生物に対する圧力の効果、タンパク質の圧力変性、デンプンに対する圧力の効果、酵素への圧力の影響などについてふれ、またこれらの特徴を利用した実例を略記した。現在実用化しているもの、実験で検証され実用化の可能性が高いもの、複雑な食品組成との関係で条件を確認中のもの、および理論的に可能であり今後の開発が期待されるものなどがある。また、この中には低塩漬物の製造方法、低アレルゲン化米の製造方法、湯溶けの少ない餅の製造方法、山野草の蓬を例とした無菌化蓬の製法、炊飯簡便性を付与した無菌玄米の製造方法、余剰活性汚泥の変性法など、筆者の考案による特許を含んでいる。
第3章では、餅の品質評価と製造工程への高圧処理の利用について詳述した。この中で餅の物理的品質評価法について導電率が利用できることを示した。これは、従来の食味評価に加えて、数値化できる新しい餅の評価法が誕生したことを意味している。さらに高圧処理を利用した餅の製造に関し、特に物性の改良と原材料の無菌化について詳述した。
第4章では、米菓の製造について省力化、省エネルギー化の観点から、高圧処理を利用して工程が短縮化できることを立証した。
第5章では、浸漬米に高圧処理を施して炊飯することにより従来の炊飯米に比べて、粘り、味、光沢に優れ、また、老化時の食感に弾力性の残る新しい物性の炊飯米ができることを示した。この現象についてはテンシプレッサーによる物性の測定とSEMによる微細構造の観察による解明を行なった。
第6章では、第4章および第5章で得られた結果が、デンプン中の水の存在状態に大きく関係していると考えられることから、各種デンプン-水系中の水の存在状態について、高圧処理および熱処理後で比較した。この結果は、A型デンプンでは比較的圧力耐性が弱く、600MPa、10分の圧力処理が、80℃、20分の熱処理とほぼ同等であるなど、今後のデンプン加工の産業分野に興味ある内容となった。
第7省では、個体からの抽出に高圧処理を利用した例について詳述した。ここでは、高圧処理により、トレハロースを分解する酵素(トレハラーゼ)を失活させると同時に酵母細胞を破壊して抽出し、抽出効率を上昇させた結果について述べた。また、細菌増加している食物アレルギー患者に対応する製品として、高圧を利用し、米粒中のアレルゲン含有タンパク質(アルブミン、グロブリン画分)を抽出し、実用化した結果を述べた。
第8章では、健康に関わる食品成分の機能を見直し、高圧処理を利用して吸水性に優れた玄米の製造について詳述した。ここでは玄米の水浸漬中に生成されるr-アミノ酪酸について調べ、さらにこれを生成するグルタミン酸脱炭酸酵素の失活する圧力を求めた。
第9章では、環境工学の観点から、廃水処理施設で発生する余剰汚泥に対し、高圧を利用して消化を促進させ、減少できることを立証し、その結果を詳述した。これは、汚泥の分離・濃縮技術と共に今後期待できる応用分野である。
第10章では、高圧処理のコメ加工産業への利用について業種別に総括した。この中には他の分野へも適用できる多くの実例を含んでいる。また、各業界での共通の課題である産業廃棄物としての汚泥の処理方法や、産業を育成する立場から、食品衛生法での圧力利用の早期認定の必要性を提言した。