本文ここから

半導体粉末に光生成するラジカルの電子スピン共鳴法による研究

氏名 仲岡 泰裕
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第148号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 半導体粉末に光生成するラジカルの電子スピン共鳴法による研究
論文審査委員
 主査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 藤井 信行
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 佐藤 一則
 副査 助教授 伊藤 治彦

平成8(1996)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
1 序論 p.1
1.1 本研究の目的 p.1
1.2 光、および光触媒反応の利用の現状 p.1
1.3 半導体の電子構造と光吸収 p.3
1.4 光触媒反応の原理、機構 p.4
1.5 光触媒反応活性を支配する因子 p.6
1.6 共通の実験方法 p.7
2 ESRの原理 p.9
2.1 不対電子検出の原理 p.9
2.2 g値の意味 p.9
2.3 g値の異方性 p.11
2.4 シミュレーションの方法 p.12
2.5 g値のモデル計算 p.12
2.6 飽和特性からわかること p.13
3 CdSの結晶構造と光生成ラジカルの関係 p.14
3.1 緒言 p.14
3.2 CdS自身に光生成するラジカルのESR測定 p.20
3.2.1 市販CdSのESR測定 p.21
3.2.2 100%ZB CdS, W CdS粉末の作成 p.23
3.2.3 4種類のCdS粉末のXRD測定 p.24
3.2.4 4種類のCdS粉末のESR測定 p.25
3.3 2-PrOH存在下でのESRスペクトルの変化 p.27
3.4 ラジカルの構造推定 p.30
3.4.1 高分散CdSの作成 p.30
3.4.2 高分散CdSのESR測定、およびESRスペクトルのシミュレーション p.31
3.4.3 ラジカルの構造の仮定、およびg値のモデル計算 p.32
3.5 MV2+存在下でのESRスペクトルの変化 p.33
3.6 まとめ p.35
4 ZnSの粒径と光生成ラジカルの関係 p.36
4.1 緒言 p.36
4.2 半導体超微粒子の作成法 p.39
4.3 ZnS超微粒子 p.40
4.3.1 作成方法 p.40
4.3.2 XRD測定およびTEM観察 p.43
4.3.3 Q-ZnSの粒径と励起エネルギーの関係の有限深さポテンシャル井戸モデルによる評価 p.44
4.4 バルクZnSのESR測定 p.47
4.4.1 光照射前後のESRスペクトル p.47
4.4.2 I-ESRスペクトル変化 p.49
4.4.3 I-存在下での, MV2+存在下でのシグナルBの変化 p.52
4.4.4 低マイクロ波強度でのS2-, Zn2+存在下でのシグナルCの変化 p.53
4.5 Q-ZnSのESR測定 p.54
4.6 まとめ p.57
5 TiO2粉末に光生成するラジカルにおよぼす加熱処理、および結晶構造の影響 p.58
5.1 緒言 p.58
5.2 実験 p.62
5.3 アナターゼTiO2の加熱処理と光生成ラジカルの関係 p.62
5.3.1 XRD測定 p.62
5.3.2 非加熱アナターゼTiO2のESR測定 p.64
5.3.3 加熱によるシグナル変化 p.66
5.3.4 結晶子径成長の影響 p.69
5.3.5 重量変化の影響 p.69
5.3.6 各シグナルの水蒸気存在下での挙動 p.70
5.3.7 シグナルの帰属 p.73
5.4 結晶構造と光生成ラジカルの関係 p.76
5.5 まとめ p.79
6 総括 p.80
文献 p.82
付録 p.90
本研究に関する発表論文 p.97
本研究に関する学会発表 p.98
謝辞 p.99

 半導体上で起こる光触媒反応は、太陽光をはじめとする光のエネルギーを有効に利用できることから、光エネルギーの化学エネルギーへの変換、環境浄化などに応用されることが期待されている。一般には、光触媒反応の活性や選択性といった特性は、半導体自身の持つ特性、すなわち、粉末粒子の粒径、結晶性、結晶構造などの特性に大きく依存している場合が多い。しかし、依存の仕方は一様ではなく、半導体自身の特性の違いが反応特性に与える影響は十分明らかにされているとはいえない。
 光触媒反応の初期過程においては、光照射された半導体粉末に生じた電子と正孔は粒子表面に捕捉されてラジカルを形成し、そのラジカルが周囲の分子と反応して光触媒反応が進行すると考えられる。したがって、半導体粉末の示す光触媒反応特性を理解するためには、半導体上に生じるラジカルを調べるのが直接的で有効な方法となる。
 これまでに、特性の異なる半導体粉末を用いた光触媒反応が研究されており、反応特性の違いが報告されているが、多くは反応生成物分析から活性や選択性を議論しているものであり、半導体粉末自身に注目した例は少ないように思われる。さらに、特性の異なる半導体粉末間の光生成ラジカルの違いに関する研究はなされていない。
 そこで本研究では、結晶構造、粒径、加熱処理条件などの特性の異なる半導体粉末に光生成するラジカルを、電子スピン共鳴法(ESR)を用いて直接観測し、半導体の特性が異なった場合のラジカルの光生成の仕方の違いを明らかにすることにより、半導体粉末の特性の違いが光触媒反応特性に与える影響を解明することを目的とする。本論文は以下の6章から構成されている。
 1章「序論」では、光触媒反応の有効性、原理について述べるとともに、これまでの研究で明らかにされていない問題点を挙げ、本研究の目的および方針について述べた。
 2章「ESRの原理」では、半導体粉末上に光生成するラジカルを検出するために用いたESRについて、その原理を述べ、本研究で必要とされる、ESRスペクトルのシミュレーション、飽和特性、g値の異方性、g値のモデル計算について説明した。
 3章「CdSの結晶構造と光生成ラジカルの関係」では、半導体としてCdSを取り上げ、結晶構造と光生成ラジカルの関係を検討した。ウルツ鉱型CdS、閃亜鉛鉱型CdSともに、光照射すると粒子表面に正孔が捕捉されてS-ラジカルを形成することをESRにより確認した。CdSの結晶構造によりS-ラジカルの構造は異なり、また、2-PrOHの酸化反応に対する反応性が異なることを見出した。これらのことから、CdSの結晶構造による酸化反応性の違いは、生じるラジカルの構造が結晶構造により異なるために生じていることを示した。また、CdS上で起こる還元反応に対しては、その反応性は結晶構造には大きく依存せず、ウルツ鉱型構造と閃亜鉛鉱型構造の共存が活性を低下させる原因になることも明らかにした。
 4章「ZnSの粒径と光生成ラジカルの関係」では、半導体としてZnSを取り上げ、粉末粒子の粒径と光生成ラジカルの関係を検討した。光生成した電子と正孔が、粒径の大きなバルクZnS粉末では粒子内部や表面などのさまざまな場所にさまざまな形で捕捉されたのに対し、粒径の小さな超微粒子(Q-)ZnS粉末では粒子表面のみに捕捉されることを見出した。そして、Q-ZnS粉末表面に生じたラジカルは、バルクZnSに生じたラジカルのうちの光触媒反応に関与することのできる粒子表面に生じたS-ラジカルと同一であることも見出した。これらのことから、Q-ZnSとバルクZnSでは生じるラジカル自体が異なるわけでなく、表面反応に関与しやすい形のS-ラジカルのみが生じることが、Q-ZnSの示す高活性の一因になっていることを明らかにした。
 5章「TiO2粉末に光生成するラジカルにおよぼす加熱処理、および結晶構造の影響」では、半導体としてTiO2を取り上げ、TiO2に施される加熱処理が光生成ラジカルに与える影響を検討した。アナターゼ型TiO2に光生成した電子と正孔はそれぞれチタン原子と酸素原子に捕捉されるが、加熱処理前後で捕捉される場所が異なることを見出した。そして、電子と正孔が捕捉されて生じたラジカルの周囲の分子に対する反応性が異なっていることも見出した。粉末の物性評価から、加熱処理により表面水酸基や吸着水が脱離したこと、粒子径が成長したことが、TiO2粉末の光触媒反応特性を変化させる原因であることを明らかにした。
 6章「総括」では、本研究を総括し、得られた知見をまとめた。
 以上のように、結晶構造、粒径、加熱処理により生じた変化、といった半導体粉末の特性の違いが、光触媒反応に関与していると考えられるラジカルの光生成特性に大きな影響を与えていることが示された。したがって、光生成ラジカルという視点で半導体粉末の特性を評価することが、目的の光触媒反応に適した半導体粉末の選択、設計をする上で重要であることが示された。

平成8(1996)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る