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寒冷圏における水文現象のモデル化に関する研究

-分布型モデルからマクロモデルへの展開-

氏名 石平 博
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第145号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 寒冷圏における水文現象のモデル化に関する研究 -分布型モデルからマクロモデルへの展開-
論文審査委員
 主査 助教授 小池 俊雄
 副査 教授 早川 典生
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 助教授 陸 旻皎
 副査 東京大学 教授 虫明 功臣

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目次
第1章 序章 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の必要性 p.7
1.3 研究の目的 p.14
1.4 本論文の構成 p.16
第2章 寒冷圏の水文現象を対象とした鉛直一次元モデル p.19
2.1 鉛直一次元モデル p.19
2.2 一次元融雪モデル p.21
2.2.1 緒論 p.21
2.2.2 小池らの融雪モデル p.22
2.2.3 太田の融雪モデル p.25
2.2.4 本研究で使用する融雪モデル p.26
2.3 永久凍土帯における一次元の熱・水輸送モデルの開発 p.28
2.3.1 緒論 p.28
2.3.2 一次元の熱・水輸送モデル p.30
2.3.3 モデルの適用と検証 p.38
2.4 まとめ p.47
第3章 分布型モデルによる寒冷圏の水文現象のモデル化 p.49
3.1 分布型モデルについて p.49
3.2 分布型融雪・流出モデルの統合化 p.51
3.2.1 緒論 p.51
3.2.2 融雪流出解析システムの概要 p.51
3.2.3 解析システムの実流域への適用 p.65
3.3 永久凍土帯における一次元の熱・水輸送特性を考慮した分布型水文モデルの開発 p.73
3.3.1 緒論 p.73
3.3.2 分布型凍土水文モデルの概要 p.73
3.3.3 モデルの実流域への適用 p.75
3.4 まとめ p.80
第4章 寒冷圏における水文現象のマクロモデル化 p.83
4.1 マクロ水文モデルについて p.83
4.2 広域・不均一場を対象とした陸域短波放射収支のマクロモデル化 p.86
4.2.1 緒論 p.86
4.2.2 短波放射量算定における地形効果の領域平均化 p.87
4.2.3 領域内における斜面勾配・向きの分布の効果 p.91
4.2.4 地形量分布を考慮した蒸発・融雪量算定の数値実験 p.96
4.3 広域・不均一場を対象としたマクロ融雪モデルの開発 p.105
4.3.1 緒論 p.105
4.3.2 積雪面積分布情報が融雪量算定に与える影響 p.106
4.3.3 領域融雪量算定の導出 p.108
4.3.4 偏差項のパラメタリゼーション p.110
4.3.5 マクロ融雪モデルの開発・検証 p.117
4.3.6 領域融雪量算定における偏差項の影響 p.122
4.4 まとめ p.127
第5章 結論 p.129
5.1 本論文における検討結果 p.129
5.2 今後の展望と課題 p.132
A AMeDAS日照時間データからの日射量推定手法 p.135
A.1 AMeDAS日照時間による時間日射量推定モデル p.135
A.1.1 一日当りの全天日射量の算定 p.135
A.1.2 一日当りの直達・散乱日射の算定 p.136
A.1.3 一時間当りの直達・散乱・全天日射量の算定 p.137
B 陸らの分布型流出モデル p.139
B.1 モデルの概要 p.139
C 水収支計算による融雪量・積雪水量の算定 p.143
C.1 水収支式 p.143
C.2 地下水貯留量の算定 p.144
C.3 流域蒸発散量の算定 p.145
D 衛星データを用いた広域日射量の推定 p.147
D.1 GMS-VISSR可視画像を用いた日射量算定手法 p.147
D.2 日射量推定モデルの適用 p.150
D.2.1 使用データ及び対象領域 p.150
D.2.2 日射量推定精度の評価 p.151
D.2.3 日射量の空間分布 p.153
E 略語 p.155

 我々の生活において水は欠くことのできないものであり、また人口の増加や生活様式の変化にともない、必要とされる水量は増す一方である。したがって今後も現在の生活水準を維持、向上させるためには、水資源を長期的かつ安定的に確保し、それを効率良く運用しなければならない。それには、従来のように降水として陸面に到達した後の水を追うだけでなく、降水そのものの長期予測が必要であり、そのためには陸域-大気-海洋間での地球規模の水循環過程についての理解が不可欠である。この地球規模での水や熱の振舞いについては、大気大循環モデル(GCM)によりある程度再現、予測することが可能となってきているが、その精度向上のためには地球上での熱や水の輸送を左右する物理現象、とりわけ大気-陸面相互作用における地表面水文過程を適切に表現できるスキームの開発が必要となる。以上のような問題に対処するには、異なった時間・空間スケールで起こる気候・気象現象と陸面水文現象とを結合する新たな水文モデルの開発が必要となる。
 中でも寒冷圏における水文プロセスは、長期の水循環予測に重要な役割を果たしていることが指摘されている。つまり、積雪や凍土帯は、水分を固体の状態で寒候期に蓄性・保存し、暖候期に融解するため気候のメモリーとして機能すると考えられていることからである。しかしながら、GCMグリッドのような広域場においては積雪や凍土、気象条件、地形等が時間・空間的に不均一に分布していることから、その領域平均的な雪氷水文状態を推定することは非常に困難である。
 そこで、本研究では寒冷圏における水文現象として融雪および凍土融解を対象に、GCMグリッドのような広域・不均一場への適用が可能なマクロ水文モデルの開発について検討した。なお、その開発においては、細かなスケールでの水文現象を表現するモデル(一次元モデル)と数1000km2程度までの流域スケールを対象とした分布型モデルを開発、検証している。以下にその検討内容および結果を記す。
 まず一次元モデルに関する検討のうち、融雪モデルについては過去の研究を踏まえ、比較的少ない気象要素で雪面熱収支を表現できる小池ほか(1985)のモデルと放射収支量の算定において雲の効果をパラメータ化して取り込んでいる太田(1992)のモデルとを組み合わせたモデルを用いることとした。一方、凍土モデルについては、水文学的においてそのモデリングは過去ほとんど行われていなかったことから、凍土帯における鉛直一次元的な熱・水輸送過程を表現できる一次元モデルの開発を行った。また、開発された一次元モデルをチベット高原の永久凍土帯への適用により、モデルの有用性を検証した。以上の検討により、細かなスケールでの融雪および凍土層内での熱・水輸送を表現するモデルが示された。
 分布型モデルについての検討においては、まず流域スケールでの融雪・流出現象の把握を目的とした分布型融雪・流出モデルの統合化について検討した。この検討では、衛星リモートセンシング、地理情報システムを用いた情報抽出手法と、統合化された分布型融雪・流出モデルと組み合わせることにより、水資源管理への適用など実利用を念頭においた「融雪・流出解析システム」の開発を行った。また凍土については、陸ほか(1989)の分布型流出モデルを基礎とし、各グリッドセルからの流出発生プロセスの表現に先に述べた一次元凍土モデルを用いることにより、永久凍土帯における流域スケールでの水文現象を表現可能な分布型凍土水文モデルの開発を行った。さらに、この分布型凍土水文モデルをチベット高原の永久凍土帯に位置する流域へ適用し、流出現象に与える凍土の影響について検討した。以上の分布型モデルは、流域スケールでの水文現象の把握やローカルな水資源開発・管理への適用だけでなく、モデル開発においては、より広域場を対象としたマクロ水文モデル開発の基礎として位置付けることができる。
 最後に、分布型水文モデルを基礎とし、数10km~100kmスケールの領域への適用が可能なマクロ水文モデルの開発を行った。ここではまず、寒冷圏での水文現象を駆動するエネルギー源である短波放射収支に着目し、対象領域内の地形量分布の影響を考慮することのできる領域平均の短波放射収支量の算定手法を提案した。また、単純な条件下での蒸発量、融雪量計算を通じ、提案された手法の妥当性の検証および起伏量が領域平均の熱・水フラックスに与える影響の評価を行った。次に、広域・不均一場における融雪現象の取り上げ、そのマクロスケールモデリングについて検討した。特に、ここでは融雪量算定に大きな影響を与えると考えられる対象領域内の積雪面積空間的特性のパラメタリゼーションを開発し、さらにこれを取り込んだマクロ融雪モデルの開発を行った。本研究において開発されたモデルを実流域へ適用し融雪量の計算を行った結果、このマクロモデルは領域平均的な入力値しか必要としないにもかかわらず、高分解能の積雪面積情報を与えた分布型モデルと同様に不均一場における融雪量を精度良く算定する能力をもつことが明らかとなった。

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