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定性的リスクマトリクスの定量化手法と実務適用に関する研究

氏名 森 康
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第571号
学位授与の日付 平成23年3月25日
学位論文題目 定性的リスクマトリクスの定量化手法と実務適用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 福田 隆文
 副査 教授 三上 喜貴
 副査 教授 平尾 裕司
 副査 教授 門脇 敏
 副査 准教授 木村 哲也
 副査 明治大学教授 杉本 旭

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目次
記号 p.viii

第1章 緒論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 研究の背景 p.2
 1.3 研究の目的 p.6
 1.4 本論文の概要 p.7

第2章 製品安全と関連事項 p.11
 2.1 はじめに p.11
 2.2 リスクとコスト p.11
 2.3 認知 p.13
 2.4 リスクの定量的評価 p.17
 2.5 本質安全設計 p.19
 2.6 まとめ p.20

第3章 定性的リスクマトリクスの定量化手法 p.23
 3.1 はじめに p.23
 3.2 定性的リスクマトリクス規定の問題点 p.24
 3.2.1 共有可能な尺度定義の欠如 p.25
 3.2.2 リスクの大小関係の規定抜け p.26
 3.3 定性的リスクマトリクスの定量化 p.28
 3.3.1 共有可能な尺度の導入 p.28
 3.3.2 リスクの大小関係の規定 p.30
 3.4 規格への適用例 p.35
 3.5 まとめ p.39

第4章 定性的リスクマトリクス定量化手法の適用 p.41
 4.1 はじめに p.41
 4.2 アンケート調査からの定量数値の導出 p.42
 4.3 リスク認知係数に対する考察 p.46
 4.4 定量化手法による目標設定方法の提案 p.58
 4.5 リスクマトリクス選定での定量的な参考情報の導出 p.62
 4.6 まとめ p.68

第5章 予防型安全管理のフレームワークへの適用 p.69
 5.1 はじめに p.69
 5.2 製品安全管理活動の課題 p.70
 5.3 定量化手法を組み入れたフレームワークの提案 p.72
 5.3.1 既存マネジメントシステムと製品安全管理活動 p.72
 5.3.2 業務プロセス強化のフレームワーク p.72
 5.4 製品開発業務への適用事例 p.75
 5.4.1 衛星開発業務での適用事例 p.75
 5.4.1.1 衛星開発および衛星の安全設計 p.75
 5.4.1.2 システム安全管理活動の改善 p.76
 5.4.2 社会インフラ系製品開発業務での適用事例 p.86
 5.4.2.1 ETCシステム開発の安全設計 p.86
 5.5 まとめ p.93

第6章 結論 p.95

参考文献 p.99

本研究に関連した発表論文
I.学会論文 p.103
II.講演論文 p.103
III.国際会議 p.104

謝辞 p.105

付録 p.107

 本研究は,近年重要性を増している製品の安全性確保の要となるリスクアセスメントに関して,企業等の開発組織において複数の関係者が合理的,かつ,整合性をもって本質安全設計に取り組むことを可能とするリスクアセスメント手法を明らかにすることを目的とした研究である.製品の安全性確保および製品事故リスクへの対応に関する議論は,企業等の開発現場においても活発化している.
 しかし,法律等での規制があるような特定分野を除いて,事前責任の果たし方やリスクを合理的に取り扱うための準備およびそれらに必要となる具体的な分析技術の蓄積,工夫は未整備な部分が残っている.本研究では,誰もが比較的簡便に利用可能な定性的リスクマトリクスを取り上げ,その論理的構造の問題点を分析し,複数の関係者が整合性をもって利用可能とするための定量化手法を提案した.また,提案した手法を既存の企業活動のフレームワークに組み入れ,予防型の製品安全管理活動として役立てる新しいフレームワークを示し,それに基づく活動事例の成果を示した.
 本論文は6章より構成されている.
 第1章は,緒論である.リスクアセスメントおよび製品安全管理に関する従来の研究と課題を紹介し,本研究の背景を概説する.これにより,リスクアセスメント実施および製品安全管理に関する現在の解決すべき点を明確にし,本研究の目的と意義について述べる.
 第2章では,提案するリスクアセスメント手法の関連事項として,“リスクとコスト”,”認知”,“リスクの定量的評価”,”本質安全設計“について述べる.“リスクとコスト”では,規格に示されるALARP(As Low As Reasonably Practicable)原則は企業経営におけるリスクマネージメントやコスト管理との親和性がよいが企業におけるリスク認知や判断の基準としてそのままでは適用が困難であることを示す.”認知”では,前述のリスク認知や判断基準としての問題点を認知心理学の研究成果から分析する.“リスクの定量的評価”では,より客観的なリスク認知や判断基準として故障確率に基づく定量的評価を用いることが考えられるが,その場合の課題を示し,過去の知見や指針の明文化に基づく故障許容性の付与や安全係数等も含めた広い意味での定量性の活用を提案する.“本質安全設計”では,本論文で意味する“本質安全設計”がMIL-STD-882Dの安全設計の優先順位や“許容可能な条件”の規定に即して設計解を追求するものであることを示す.
 第3章では,定性的リスクマトリクスが保有する“共有可能な尺度定義の欠如”と“リスクの大小関係の規定抜け”に関する問題点を示し,その解決方法として定量化手法を示す.提案した定量化手法の妥当性は,MIL-STD-882D,IEC61508-5:1998,IEC62278:2002,人工衛星開発等の既存規格に示される各種のリスクマトリクスへ問題なく適用できること,および,MIL-STD-882Dで明示されるリスクの定量値との整合性を示すことによって検証した.
 第4章では,著者の携わる人工衛星開発業務に関わる関係者へアンケート調査を行い,各関係者の回答から導出した定量数値を分析することでリスク認識に関する客観的分析が可能となることを示した.また,提案した手法を用いて対象組織の業務目標や指標をリスクマトリクスへ当て嵌めて定量化することで組織のリスク認知や判断基準の明確化と目標との整合性改善のベースラインを提供することに役立つことを示した.さらに,提案した手法を用いて各規格に記載される定性的リスクマトリクスから得られるリスクポイントの値やカテゴリに定義される同一の用語同士を想定値を用いて定量的に比較することで,対象に相応しい基準を選定するための情報入手が可能となることを示した.
 第5章では,リスクアセスメント情報を設計審査活動や品質マネージメントシステム(QMS),環境マネージメントシステム(EMS),労働安全衛生マネージメントシステム(OSHMS)等の企業活動のフレームワークに組み入れ,目標の設定や達成度合いをPDCAサイクルとして上流工程から細かく回す予防型の製品安全管理活動へ利用する新しいフレームワークを提案した.さらに,本提案に沿った活動を実践した具体的成果を示した.
 第6章は,本研究の結論と総括について述べる.
 本研究で得られた成果により,製品分野や業務の形態に関わらず製品事故の未然防止の観点からの予防型の本質安全設計を目的としたリスクアセスメントをより合理的かつ整合性をもって遂行することが可能となる.特に,自主基準を用いたリスクの受容/許容/非許容の判断に対する客観的根拠を伴う関係者間のコミュニケーション促進や合理的判断プロセスの明確化を図ることで,業務を分担して開発にあたるプロジェクトや製品における自主的な製品安全管理の整合性確保・質向上に効果をもたらす.

 本論文は、「定性的リスクマトリクスの定量化手法と実務適用に関する研究」と題し、6章より構成されている。第1章「緒論」では、リスクアセスメントおよび製品安全管理に関する従来の研究と課題を示し、本研究の背景を概説している。これにより、リスクアセスメント実施および製品安全管理に関する現在の解決すべき点を明確にし、本研究の目的と意義について述べた。第2章「製品安全と関連事項」では、提案するリスクアセスメント手法の関連事項として、“リスクとコスト”等について整理した。第3章「定性的リスクマトリクスの定量化手法」では、定性的リスクマトリクスが保有する“共有可能な尺度定義の欠如”と“リスクの大小関係の規定抜け”に関する問題点を示し、この問題の解消が可能な定量化手法を提案した。提案した定量化手法の妥当性は、MIL-STD-882D、IEC61508-5:1998、IEC62278:2002、人工衛星開発等の既存規格に示される各種のリスクマトリクスへ問題なく適用できること、および、MIL-STD-882Dで明示されるリスクの定量値との整合性を示すことによって検証した。第4章「定性的リスクマトリクス定量化手法の適用」では、申請者の携わる人工衛星開発業務に関わる関係者へアンケート調査を行い、各関係者の回答から導出した定量数値を分析することでリスク認識に関する客観的分析が可能となることを示した。また、提案した手法を用いて対象組織の業務目標や指標をリスクマトリクスへ当て嵌めて定量化することで組織のリスク認知や判断基準の明確化と目標との整合性改善のベースラインを提供することに役立つことを示した。さらに、提案した手法を用いて各規格に記載される定性的リスクマトリクスから得られるリスクポイントの値やカテゴリに定義される同一の用語同士を、想定値を用いて定量的に比較することで、対象に相応しい基準を選定するための情報入手が可能となることを示した。第5章「予防型安全管理のフレームワークへの適用」では、リスクアセスメント情報を設計審査活動や品質マネージメントシステム(QMS)等の企業活動のフレームワークに組み入れ、目標の設定や達成度合いをPDCAサイクルとして上流工程から細かく回す予防型の製品安全管理活動へ利用する新しいフレームワークを提案した。さらに、本提案に沿った活動を実践した具体的成果を示した。第6章「結論」は、研究全体を総括して、本研究の結論を記述した。
 本研究で得られた成果により、製品分野や業務の形態に関わらず製品事故の未然防止の観点からの予防型の本質安全設計を目的としたリスクアセスメントをより合理的かつ整合性をもって遂行することが可能となる。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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