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Rhodococcus属細菌におけるカタボライト抑制に関する解析

氏名 荒木 直人
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第586号
学位授与の日付 平成23年3月25日
学位論文題目 Rhodococcus属細菌におけるカタボライト抑制に関する解析
論文審査委員
 主査 准教授 福田 雅夫
 副査 教授 政井 英司
 副査 准教授 岡田 宏文
 副査 准教授 高橋 祥司
 副査 准教授 小笠原 渉

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目次
序章 p.1

第1章 Rhodococcus jostii RHA1株のPCB/BPH分解系に対するカタボライト抑制 p.8
 1.1. 緒言 p.8
 1.2. 材料と方法 p.8
 1.3. 結果 p.11
 1.3.1 GlcがRHA1株のBPH生育に与える影響 p.11
 1.3.2 GlcがRHA1株のBPH分解活性の誘導に及ぼす影響 p.12
 1.3.3 GlcがRHA1株のbph/etb遺伝子の転写に及ぼす影響 p.13
 1.3.4 GlcがbphAaAbAcAdC1B1オペロンのプロモーター活性の誘導に及ぼす影響 p.14
 1.3.5 GlcがbphAaP以外のbph/etb遺伝子のプロモーターに及ぼす影響 p.15
 1.3.6 RHA1株へのbphS1/bphT1の導入がGlc抑制へ及ぼす影響 p.16
 1.3.7 bphS1プロモーターの解析 p.16
 1.3.8 Glc以外の炭素源がRHA1株のbphAaP活性の誘導に及ぼす影響 p.18
 1.4. 考察 p.18

第2章 glucoseおよびfructose取り込み系遺伝子の同定と解析
 2.1. 緒言 p.21
 2.2. 材料と方法 p.21
 2.3. 結果 p.21
 2.3.1. RHA1株のGlcとFru取り込み活性の測定 p.24
 2.3.2. ゲノム配列を利用したRHA1株のGlcとFruの取り込みに関わる遺伝子の検索 p.24
 2.3.3. RHA1株の糖取り込みに関わる遺伝子の転写解析 p.24
 2.3.4. 遺伝子破壊株の作製 p.26
 2.3.5. 遺伝子破壊株のGlc/Fru生育能の解析 p.27
 2.3.6. 遺伝子破壊株のGlc/Fru取り込み能の解析 p.27
 2.3.7. Glc/Fru取り込みの競合 p.28
 2.3.8. 遺伝子破壊株のGlc/Fru抑制効果に関する解析 p.28
 2.4. 考察 p.29

総括 p.33

謝辞 p.34

公表論文および参考文献 p.34

引用文献 p.35

 ポリ塩化ビフェニル(PCB)分解菌Rhodococcus jostii RHA1株のPCB分解に関与するビフェニル分解酵素系はビフェニル存在下で二成分制御因子BphSおよびBphTにより転写誘導を受けることが明らかになっている。本研究では、RHA1株のビフェニル分解酵素のビフェニル誘導に関わるカタボライト抑制に関して解析を行った。
 第1章では、RHA1株が有するビフェニル分解酵素系の誘導においてグルコースが転写レベルで抑制効果を及ぼすことを明らかにした。RHA1株をビフェニルにグルコースを加えた培地で培養したところ、一時的な生育の停滞を挟んだ2段階の生育が観察された。培地中のグルコース濃度を定量したところ、1段目の生育でグルコースの枯渇が観察された。ビフェニル分解酵素の活性を測定した結果、2段目の生育においてビフェニル分解酵素活性の誘導が観察された。グルコースを含まない培地では生育開始とともにビフェニル分解酵素活性が誘導され、段階的な生育は見られなかった。これらの結果から、RHA1株は1段目の生育期でグルコースを優先的に利用してビフェニルの利用を抑制し、2段目の生育期でビフェニルを利用していることが示唆された。RHA1株のビフェニル分解酵素をコードする遺伝子群は5つのオペロンを形成しており、各オペロンのプロモーターに依存した転写はBphSおよびBphTからなる制御システムによって調節される。グルコース存在下および非存在下での5つのオペロンにそれぞれ含まれるetbD1、bphAa、etbC、etbAdおよびetbAc遺伝子の転写を観察したところ、グルコース存在下ではそれら遺伝子のビフェニルに応答した転写誘導が抑えられることが明らかとなった。同様の結果が、5つのオペロンのプロモーター活性の解析からも得られ、グルコースによって生じる抑制効果が転写調節に対して作用することが推察された。グルコース以外の炭素源の影響をbphAaプロモーター活性を指標に調べたところ、フルクトース存在下でもグルコース同様の抑制効果が観察された。ビフェニル分解酵素遺伝子の転写がグルコースおよびフルクトースによるカタボライト抑制によって制御されることが明らかとなった。
 第2章では、RHA1株においてカタボライト抑制を引き起こす糖の取り込みに関与する遺伝子を明らかにした。RHA1株のグルコースおよびフルクトースの取り込みシステムを同定するために、それらの候補となるmajor facilitator superfamily (MFS)トランスポーターとphosphotransferase system (PTS)の関与を調べた。RHA1のゲノム中に、S. coelicolorのグルコース特異的なMFSトランスポーターに相同性を示すro02365とro06844遺伝子を見いだした。両遺伝子のうち、グルコース培養下で転写の増加が観察されたro02365を破壊したところ、フルクトースでの生育に影響は見られなかったが、グルコースでの生育能と取り込み能の欠損が観察され、グルコースの取り込みに必須な遺伝子であることが示された。またPTSを構成すると予想される遺伝子クラスターとして、ro01549-1552およびro06781-6785が見いだされた。ro01550、ro06781およびro06782の転写レベルを比較したところ、ro06781およびro06782でフルクトース培養下での転写量の増加が観察された。ro06781遺伝子を破壊したところ、グルコースでの生育に影響は見られなかったが、フルクトースでの生育能と取り込み能の欠損が観察された。これらの結果よりRHA1株は、Glcの取り込みにおいてro02365に依存したMFSトランスポートシステムを、Fruの取り込みにro06781を含むPTSを用いることが示された。またro02365破壊株とro06781破壊株におけるカタボライト抑制の誘導を調べたところ、ro02365破壊株ではフルクトースでのみ、ro06781破壊株ではグルコースでのみカタボライト抑制が観察された。これらの結果から、グルコースまたはフルクトースの取り込み能の欠損によってそれぞれの糖によって生じるカタボライト抑制が解除されることが示された。
 以上のように本研究では、これまで未解明であったビフェニル・PCB分解酵素系の誘導におけるカタボライト抑制の関与を明らかにした。本研究の成果は、RHA1株のPCB分解活性を安定に保ち、高い分解能を実現するのに貢献するものと期待される。

本論文は、環境汚染物質のポリ塩化ビフェニル(PCB)を対象とし、微生物のPCB分解活性を安定に保つことにより汚染浄化能の向上をめざしたものである。「Rhodococcus属細菌におけるカタボライト抑制に関する解析」と題し、「序章」と1~2章そして「総括」より構成されている。
序章では、研究背景、目的、PCB分解に関与するビフェニル分解酵素系およびバクテリアのカタボライト抑制に関する従来の研究の概要を述べている。
第1章では、まずRhodococcus jostii RHA1株の生育およびビフェニル分解酵素活性の解析を行い、グルコース存在下でビフェニル分解が抑制され、カタボライト抑制が生じることを明らかにした。5つのビフェニル分解遺伝子オペロンを対象とした定量的PCR解析およびプロモーター解析を行い、グルコース存在下でビフェニル分解酵素遺伝子の転写誘導が転写プロモーターレベルで抑制されることを明らかにした。またグルコース以外の炭素源を用いてビフェニル分解遺伝子のプロモーター解析を行い、フルクトースもグルコースと同様にカタボライト抑制を発現させることを明らかにした。
第2章では、カタボライト抑制を引き起こすグルコースおよびフルクトースの取り込みへの関与が予想される遺伝子を探索し、転写解析および遺伝子破壊株の解析により、グルコースはMajor facilitator superfamily型トランスポーターにより、フルクトースはPhosphotransferase systemによって細胞内に取り込まれることを明らかにした。
「総括」においては、本研究の目的と各章で得られた研究結果をまとめている。
本研究で得られたRhodococcus属細菌におけるカタボライト抑制とそれに関わる基質の取り込みに関する知見は、学術的な価値が高いだけでなく、効率的な環境汚染浄化技術の実現に寄与する基盤を提供するものと考えられる。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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