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高窒素含有廃棄物を対象とする新規中温無加水メタン発酵システムの処理特性と微生物群集構造解析

氏名 中村 明靖
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第579号
学位授与の日付 平成23年3月25日
学位論文題目 高窒素含有廃棄物を対象とする新規中温無加水メタン発酵システムの処理特性と微生物群集構造解析
論文審査委員
 主査 准教授 山口 隆司
 副査 准教授 小松 俊哉
 副査 准教授 姫野 修司
 副査 准教授 小笠原 渉
 副査 東北大学大学院工学研究科教授 原田 秀樹

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目次
序論 p.1

第1章 序論 p.1
 第1節 研究の目的 p.2
 第2節 研究の背景 p.4
 第3節 研究の構成 p.13
参考文献 p.15

第2章 中温無加水メタン発酵リアクター内の微生物群集構造解析 p.19
 第1節 はじめに p.20
 第2節 実験方法 p.20
 (1) 中温無加水メタン発酵の連続処理実験 p.20
 (2) 生ごみとシュレッダー紙の生分解バッチ試験 p.22
 (3) 微生物群衆構造解析用サンプル採取およびDNA抽出 p.22
 (4) PCR and cloning p.22
 (5) Sequencing, BLAST analysis and Arb analysis p.22
 (6) Real-Time PCR による遺伝子定量 p.23
 第3節 実験結果 p.24
 (1) 運転状況 p.24
 (2) 生ごみとシュレッダー紙の生分解バッチ試験 p.24
 (3) 微生物群衆構造解析 p.27
 (a) Bacteria domain p.27
 (b) Archaea domain p.30
 (4) Real-Time PCR を用いた遺伝子定量 p.31
 第4節 考察 p.32
 第5節 小括 p.33
参考文献 p.35

第3章 高窒素含有事業系食品廃棄物を対象とした新規中温無加水メタン発酵システム p.38
 第1節 はじめに p.39
 第2節 実験方法 p.40
 (1) システム全容 p.40
 (2) アンモニア生成槽 p.44
 (3) 脱アンモニア槽 p.45
 (4) アンモニア回収装置 p.46
 (5) 無加水メタン発酵槽 p.46
 第3節 実験結果 p.47
 (1) アンモニア生成槽 p.47
 (2) 脱アンモニア槽 p.49
 (3) アンモニア回収装置 p.51
 (4) 無加水メタン発酵槽 p.51
 第4節 考察 p.57
 第5節 小括 p.61
参考文献 p.63

第4章 新規中温無加水メタン発酵システムにおける微生物群集構造解析 p.64
 第1節 はじめに p.65
 第2節 実験方法 p.65
 (1) 微生物群集構造解析用アンプル採取およびDNA抽出 p.65
 (2) 微生物群集構造解析 p.65
 (a) アンモニア生成槽 p.65
 (b) 中温無加水メタン発酵槽 p.66
 (3) 相同性検索 p.66
 (4) Real-Time PCR による遺伝子定量 p.66
 第3節 実験結果 p.67
 (1) アンモニア生成槽の微生物群集構造解析 p.67
 (2) 中温無加水メタン発酵槽の微生物群集構造解析 p.68
 (a) バクテリア p.68
 (b) アーキア p.71
 (3) 遺伝子定量結果 p.73
 第4節 考察 p.74
 第5節 小括 p.78
参考文献 p.80

第5章 総括 p.82

 本研究では、食品廃棄物を対象とした無加水メタン発酵システムを社会に普及させるにあたり、最も大きな問題の一つとなっているメタン発酵阻害を引き起こすアンモニア蓄積の回避を目指す事を目的とした。従来から研究、普及が進められているメタン発酵は、投入食品廃棄物のTS調整を行い、アンモニア生成の基となる窒素分の供給量を制御している。実際のプラント操作においては、管理性、人件費等の点でTS濃度を操作しての操業は難しく、その日受け入れた食品廃棄物を1日1回投入するといった操作因子の確立は意義が大きい。
 そこで本研究では、まず、ラボスケール反応装置を用いた中温無加水メタン発酵システムの可能性を検討した後、ラボスケール反応装置で得た知見を基とした新規中温無加水メタン発酵システムを考案し、パイロットスケールでの運転評価を行った。

1 ラボスケールでの中温無加水メタン発酵槽の運転
 学生食堂から排出される食品廃棄物を対象としたラボスケールの中温無加水メタン発酵リアクターの運転を行った。アンモニア阻害回避の手段として、希釈水を用いずシュレッダー紙を用いた原料調整(C/N比の操作)による連続運転を行い、さらに発酵状態の変化に伴う微生物叢の変動について解析・評価をおこなった。運転結果、シュレッダー紙の投入によるアンモニア濃度の低減効果は観察されたが、プロピオン酸の蓄積が確認された。このことより、シュレッダー紙の大量投入はプロピオン酸蓄積の要因になり得ることが示唆された。
 微生物群集構造解析を行った結果、真正細菌はすべての期間を通してFirmicutes門に属するクローンが優占していた。Firmicutes門の菌には、セルラーゼやプロテアーゼ生産能を有するものが多く、優占していたクローンに近縁な微生物種が食品廃棄物の加水分解プロセスに不可欠な存在であると推察された。
 また、古細菌は水素資化性メタン生成古細菌(Methanobacterium,Methanoculleus属)に近縁なクローンが優占していた。このことから、中温無加水メタン発酵処理においては、Firmicutes門および水素資化性メタン生成古細菌群が主要であり重要な微生物群であると示唆された。また酢酸の幾分かは、共生酢酸酸化細菌と水素資化性メタン生成古細菌の共生によりメタンに転換されている可能性も示唆された。
 Real-Time PCR を用いた真正細菌および古細菌の16SrRNA遺伝子の定量を行った結果、真正細菌が古細菌の遺伝子存在量を上回った。メタン発酵においては、この遺伝子存在量の関係が安定したメタン発酵を行う上で最も良い関係であると推測できた。
 以上の結果より、安定したメタン発酵を行うには、高窒素物質の分離やアンモニアストリッピングといった方法で発酵槽内にアンモニアを蓄積させない事が適切な運転管理法につながると考えられる。

2 新規中温無加水メタン発酵システムの運転
 ラボスケール反応装置で得た知見を基に、新規中温無加水メタン発酵システムを提案した。このシステムは、高窒素含有食品廃棄物(肉魚類)とその他(低窒素含有食品廃棄物)に分け、低窒素含有食品廃棄物は直接メタン発酵槽へ投入し、高窒素含有廃棄物はアンモニア生成槽に投入する。アンモニア生成槽ではタンパク質(窒素分)をアンモニア転換させ、その後脱アンモニア槽に移送し、消石灰によるpH制御にて生成アンモニウムイオンをアンモニアガスとして排出させる。この一連の操作によりアンモニア生成の元となるタンパク質(窒素分)を軽減でき、メタン発酵槽内でのアンモニア生成が抑制可能となる。
 パイロットスケールの新規中温無加水メタン発酵システムを岩手県釜石市に設置し、市内の事業所より収集した高窒素含有食品廃棄物を含む事業系食品廃棄物を対象として600日を超える運転評価を行った。また、システム安定化に関わる運転因子の1つである微生物群集構造の解析を行った。
 高窒素含有事業系食品廃棄物からのアンモニア生成は転換率90%を達成し、その後の脱アンモニア処理も良好に行えた。それら廃棄物および低窒素含有食品廃棄物を投入したメタン発酵槽における処理も安定し、メタン転換率は91%を達成した。これらの結果より、高窒素含有廃棄物を含む事業系食品廃棄物を対象とした中温無加水メタン発酵の安定運転は可能であった。
 また微生物群集構造解析の結果では、水素資化性メタン生成古細菌が酢酸資化性メタン生成古細菌を上回る存在率であり、真正細菌と古細菌の遺伝子定量結果は、ラボスケールの結果と同様であり、食品廃棄物を対象とした無加水メタン発酵処理における主要微生物種を明らかにした。
 従来のメタン発酵と比べ、TS濃度調整が不要で、無加水であるため加水装置が不要であり発酵済残渣は少ないという利点を持ち、その日受け入れた食品廃棄物を1日1回そのまま投入し、アンモニア蓄積をも回避可能とする中温無加水メタン発酵システムを開発した。これは、無加水メタン発酵の汎用性を飛躍的に高くする事を可能とするものである。

 本論文は、「高窒素含有廃棄物を対象とする新規中温無加水メタン発酵システムの処理特性と微生物群集構造解析」と題し、5章で構成されている。
 第1章「序論」では、本研究の目的、従来から指摘されているアンモニア阻害の問題点、メタン発酵技術導入の適用報告例示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
 第2章では、「中温無加水メタン発酵リアクター内の微生物群集構造解析」と題して、学生食堂から排出される生ごみを対象とした無加水メタン発酵法のアンモニア阻害回避の手段として、シュレッダー紙を用いたC/N調整による連続運転を行い、さらに発酵状態の変化に伴う微生物叢の変動について解析・評価を行ったことについて記述している。C/N調整によるアンモニア蓄積回避は可能であったが、プロピオン酸蓄積を誘引した。アンモニア蓄積回避のためには、高窒素物質の分離やアンモニアストリッピングといった方法の必要性を示している。
 第3章では、「高窒素含有事業系食品廃棄物を対象として新規中温無加水メタン発酵システム」と題して、第2章で得られた知見・問題回避の必要性を基に、新規システムの開発・運転評価結果について記述している。開発した技術の特徴は、アンモニア阻害を回避するために、処理プロセスにアンモニア生成の元となる高窒素含有廃棄物からあらかじめアンモニア生成、除去を行うアンモニア生成槽をメタン発酵槽の前段に設けたことにある。高窒素含有事業系食品廃棄物を対象とした2年間の実証試験を行った結果、アンモニア蓄積を回避可能とし、安定した処理を行うことに成功している。
 第4章では、「新規中温無加水メタン発酵システムにおける微生物群集構造解析」と題して、第3章で開発・運転評価を行ったシステム反応槽内に生息する微生物群構造解析結果について記述している。水素資化性メタン生成古細菌が酢酸資化性メタン生成古細菌を上回る存在率であり、また、真正細菌と古細菌の遺伝子定量結果では、真正細菌の存在量が古細菌を上回っていた。これらの結果より、食品廃棄物を対象とした無加水メタン発酵処理における主要微生物種を明らかにした。
 第5章では、本論文で得られた結果と考察を要約し、本システムの位置付け、従来法との比較を行い、本手法の有用性を示している。
 以上のように本論文は、これまで問題とされてきたアンモニア蓄積・阻害の回避を可能とする新規なシステムを開発し、パイロットスケールでの適用例を示している。また、微生物群集構造の解析も行っている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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