マトリックスコンバータを用いた交流電源連系システムの波形の改善に関する研究
氏名 加藤 康司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第580号
学位授与の日付 平成23年3月25日
学位論文題目 マトリックスコンバータを用いた交流電源連系システムの波形の改善に関する研究
論文審査委員
主査 准教授 伊東 淳一
副査 教授 近藤 正示
副査 教授 大石 潔
副査 准教授 宮崎 敏昌
副査 名古屋工業大学教授 竹下 隆晴
[平成22(2010)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.
目次 p.i
図目次 p.v
表目次 p.ix
第1章 序論 p.1
1.1 研究背景 p.1
1.2 研究目的 p.6
1.3 論文概要 p.10
参考文献 p.13
第2章 マトリックスコンバータの転流による波形ひずみ改善手法 p.15
2.1 緒論 p.15
2.2 マトリックスコンバータの回路構成 p.116
2.3 スイッチマトリックスを用いたマトリックスコンバータの入出力関係 p.21
2.4 デューティマトリックスを用いたマトリックスコンバータの入出力関係の定義 p.23
2.5 転流による波形ひずみ改善手法 p.26
2.5.1 転流に着目した波形ひずみの要因 p.26
2.5.2 デューティマトリックスを用いた転流誤差の解析手法 p.26
2.5.3 転流失敗低減方法 p.30
2.6 本研究の位置づけ p.31
2.7 結言 p.32
参考文献 p.34
第3章 ダイレクトマトリックスコンバータを用いた交流電源連系システムの波形改善 p.39
3.1 緒論 p.39
3.2 ダイレクトマトリックスコンバータを用いた交流電源連系システム p.40
3.3 転流失敗を低減する方法 p.43
3.3.1 電圧転流方式 p.43
3.3.2 電流転流方式 p.43
3.3.3 提案する転流方式 p.47
3.4 転流誤差に伴う波形ひずみと誤差補償による波形改善方法 p.49
3.4.1 電圧転流における誤差解析 p.50
3.4.2 電流転流における誤差解析 p.53
3.4.3 提案する転流方式における誤差解析 p.55
3.5 実験結果 p.57
3.6 結言 p.66
参考文献 p.67
第4章 インダイレクトマトリックスコンバータを用いた交流電源連系システムの波形改善 p.71
4.1 緒論 p.71
4.2 インダイレクトマトリックスコンバータの回路構成及び特徴 p.72
4.3 制御方法 p.75
4.4 転流に伴う波形ひずみと改善方法 p.77
4.4.1 ゼロ電流転流方法 p.77
4.4.2 転流に伴う誤差の解析 p.77
4.4.3 転流に誤差の補償方法 p.81
4.4.4 低速運転時における転流誤差補償の改善方法 p.83
4.5 実験結果 p.85
4.6 結言 p.91
参考文献 p.92
第5章 昇圧形回路構成によるインダイレクトマトリックスコンバータを用いた直流及び交流電源連系システム p.95
5.1 緒論 p.95
5.2 直流及び交流電源連系システムの基本構成 p.97
5.3 回路構成 p.99
5.4 制御方法 p.100
5.5 転流による波形ひずみ及び波形改善手法 p.102
5.6 実験結果 p.105
5.7 結言 p.112
参考文献 p.113
第6章 降圧形回路構成によるインダイレクトマトリックスコンバータを用いた直流及び交流電源連系システム p.115
6.1 緒論 p.115
6.2 システム構成 p.117
6.3 提案回路と基本的な動作 p.121
6.4 制御方法 p.125
6.5 転流による波形ひずみと改善手法 p.132
6.6 実験結果 p.136
6.7 結言 p.139
参考文献 p.141
第7章 結論 p.143
7.1 本研究の成果 p.143
7.2 今後の課題 p.146
謝辞 p.147
論文目録 p.149
学術論文 p.149
国際会議口頭発表論文 p.149
国内会議口頭発表論文 p.150
マトリックスコンバータに代表される交流-交流直接電力変換器は,エネルギー蓄積要素を必要とせず,電流経路の通過素子数を少なくできることから,小型化,高効率化,信頼性の向上といった利点を持つ。そのため,次世代の電力変換器として期待され,研究が進められている。交流電源インターフェイスシステムとして,マトリックスコンバータが期待されており,風力発電システム,エレベータ,空調,ポンプ,鉄鋼システム,HEV,電車等の応用例がある。
これらの交流-交流直接電力変換器は,双方向スイッチを用いて,交流を交流に直接変換するために,電源短絡の防止に加え,誘導性負荷の場合,スイッチング素子に印加するサージ電圧を防止するため負荷開放しないようにスイッチングを行い,安全に電流を転流する必要がある。しかし,転流失敗や,転流誤差といった問題が発生する。交流電源インターフェイス用の電力変換器として,交流-交流直接電力変換器を応用する場合,高調波電流規制への適用やモータドライブシステムにおける高い制御性能を得るため,波形改善技術が重要になる。本論文では,交流-交流直接電力変換器を用いた交流電源インターフェイスシステムの波形改善を目的とし,転流によって生じる波形ひずみに着目し,交流-交流直接電力変換器の波形改善を行う。
第1章では,本研究の背景となる技術的な歴史及び目的を述べ,本研究の意義と位置づけを明確にした。
第2章では,交流-交流直接電力変換器の回路構成について,スイッチング関数で定義されたスイッチマトリックスを拡張し,各スイッチをデューティで置き換えたデューティマトリックスを定義し,デューティを用いて交流一交流直接電力変換器の入出力関係を表現方法について示す。この結果,転流誤差をデューティに含めて記述することで,転流誤差を含めた入出力関係を表すことができるため,転流誤差を簡単に解析可能である。また,デューティマトリックスを用いることで,入力電流と出力電圧の関係は転置行列の関係になるため,転流によって生じる入力電流と出力電圧の誤差を同時に解析することができる。よって,交流-交流直接電力変換器の入力電流と出力電圧に同時に発生する誤差を簡単に補償することができる。
第3章では,交流-交流直接電力変換器を用いた交流電源インターフェイスシステム用の電力変換器として,ダイレクトマトリックスコンバータを用いた場合について検証する。ダイレクトマトリックスコンバータの代表的な転流方式である,電圧転流方式と電流転流方式にっいて,提案する解析方法を用いて,転流誤差の解析を行い,入力電流と出力電圧を同時に補償する方法を提案する。また,ダイレクトマトリックスコンバータの転流失敗における波形改善を行うため,電圧転流と電流転流を組み合わせて,転流失敗を激減する転流方式を提案する。ここでは,実験により従来転流方法と比較することで,波形改善効果を検証する。
第4章では,交流-交流直接電力変換器を用いた交流電源インターフェイスシステム用の電力変換器として,インダイレクトマトリックスコンバータを用いた場合について検証する。インダイレクトマトリックスコンバータの転流誤差による波形改善を行うため,第2章で確立した一般化表記を用いて,転流誤差を解析し,その誤差補償を行う。また,実験により波形ひずみの改善を検証する。
第5章では,交流-交流直接電力変換器を用いた直流及び交流電源インターフェイスシステムとして,インダイレクトマトリックスコンバータに1レグ追加し,DC/DCコンバータを昇圧形変換器として動作させた場合の回路構成について検討する。本回路構成では,DC/DCとインダイレクトマトリックスコンバータを独立して制御可能であり,簡単に直流電源と交流電源の連系が可能である。また,第2章にて確立した転流誤差の一般化理論を用いて解析し,提案する転流誤差の誤差補償を行うことで,波形改善を行う。
第6章では,交流-交流直接電力変換器を用いた直流及び交流電源インターフェイスシステムとして,インダイレクトマトリックスコンバータのスナバ回路を応用し,スナバ回路にスイッチを直列に追加することで,DC/DCコンバータを構成し,降圧形変換器として動作させる。この場合の回路構成について検討する。本システムは,インダイレクトマトリックスコンバータのスナバ回路のコンデンサに並列に直流電源を追加するため,部品点数の増加がほとんどなく,回路構成が簡単である。また,第2章にて確立した転流誤差の一般化理論を用いて解析し,提案する転流誤差の誤差補償を行うことで,波形改善を行う。
最後に第7章において,本論文を総括し、提案する制御法の有効性と問題点をあげ、今後の課題についてまとめる。
提案手法を用いることで,交流-交流直接電力変換器の転流における波形ひずみ改善技術を確立し,交流-交流直接電力変換器の実用化,さらなる応用範囲の拡大に貢献した。
本論文は、「マトリックスコンバータを用いた交流電源連系システムの波形改善に関する研究」と題し、7章より構成されている。第1章では、本研究の背景となる技術的な歴史及び目的を述べ、本研究の意義と位置づけを明確にした。
第2章では、マトリックスコンバータの転流により発生する電圧及び電流誤差を簡単に解析する手法を提案した。本手法は、マトリックスコンバータの入出力関係をデューティマトリックスにて表現することで、入力電流と出力電圧を同時に解析できる。
第3章では、ダイレクトマトリックスコンバータの転流失敗を低減できる転流方式を提案した。本手法は、入力電圧の大小関係と負荷電流極性の両方を監視することで、転流失敗を回避できる。また、転流によって発生する電圧及び電流誤差の関係を明らかにし、転流による電圧及び電圧誤差を補償する方法を提案した。実験により提案方式と従来方式の入出力電圧、電流波形を比較することで、提案方式の有効性を明らかにした。
第4章では、インダイレクトマトリックスコンバータの転流に伴う入出力電圧、電流誤差を同時に補償する手法を提案した。はじめに、第2章にて提案した解析方法を用いて、転流動作により入力電流と出力電圧に発生する誤差を明らかにした。次に、解析結果より、PWMパルス幅を補正し、入力電流と出力電圧の誤差を同時に補償する手法を提案した。最後に、実験により、提案手法の有用性を明らかにした。
第5章では、インダイレクトマトリックスコンバータを用いた直流及び交流電源連系システムと波形改善方法を提案した。本システムはインダイレクトマトリックスコンバータにDC/DCコンバータを追加し、昇圧形変換器として動作させ、直流電源と交流電源を連系する。また、第4章にて提案した波形改善方法を拡張し、直流と交流波形を補償する方法を提案した。本システムの動作及び波形改善方法の有用性を、実験により明らかにした。
第6章では、インダイレクトマトリックスコンバータのスナバ回路を利用し、直流電源を連系する制御法を提案した。提案回路は、直流電源とスナバ回路を一体化し、直流電源の充放電を行うことで、直流電源と交流電源を連系する。また、第4章にて提案した波形改善方法を拡張し、直流電源と交流電源を同時に補償する方法を提案した。本連系システムの動作及び波形改善方法の有用性を、実験により明らかにした。
第7章では、本論文の有用性と各回路における総括を述べ、それぞれの今後の課題についてまとめた。
以上のように、本論文は、従来から存在するマトリックスコンバータの問題点である、転流により生ずる波形ひずみを改善する手法を提案し、その有用性を実験により明らかにした。また、本論文では、転流動作における波形ひずみ改善方法を確立し、マトリックスコンバータの実用化に貢献するものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。