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A Study of Protein Structural Stability and Activity by Systematic Sequence Perturbation Analysis(配列摂動解析による蛋白質の構造安定性と活性に関する研究)

氏名 高橋 尚
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第288号
学位授与の日付 平成22年9月8日
学位論文題目 A Study of Protein Structural Stability and Activity by Systematic Sequence Perturbation Analysis (配列摂動解析による蛋白質の構造安定性と活性に関する研究)
論文審査委員
 主査 准教授 城所 俊一
 副査 教授 下村 雅人
 副査 准教授 本多 元
 副査 准教授 岡田 宏文
 副査 准教授 小笠原 渉
 副査 東京薬科大学生命科学部教授 山岸 明彦

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CONTENTS
GENERAL INTRODUCTION p.5
CHAPTER 1.Systematic Sequence Perturbation Analysis of Dihydofolate Reductase from Escherichia Coil:
to Elucidate the Role of the C-Terminal and Conserved Arginine-44 and to Analyze a Structure Unit with Comrehensive Mutants Data Set p.10
1-1. Introduction p.11
1-2. Materials and Methods p.15
 Chemicals p.15
 Construction of the mutants p.15
 Protein purification and quality test p.16
 Prepare pH of the buffer solution (in case of sodium phosphare) p.17
 Gel filtration chromatography p.19
 Thermal denaturation p.19
 Kd determination p.20
 Correction of fluorescence spectra data involving inner filter egect p.21
 CD Measurments p.23
 Enzymatic activity measurements p.24
 Mutant dataset p.25
 Reference dataset p.25
 Accession and normalization of AA Indices p.26
 Correlation analysis of the sensitive dataset with AA indices p.26
 Derivation of equilibrium constant on protein denaturation by denaturant p.27
1-3. Results p.30
 Outline of this sequence perturbation analysis procedure p.30
 Mutagenesis and characterization of single mutant proteins(steps 1-3) p.31
 Mutational sensitivity check (step 4) p.31
 Ranking plot (step5) p.34
 Examination of the feasibility and general versatility of sequence perturbation analysis p.37
 Functional properties of the R44X mutants p.44
 Structure and stability of the R44X mutants p.47
 Correlation and stability of the R44x mutants p.47
 Comparison in a logarithmic scale p.49
 Systematic sequence perturbation analysis for entire sequence of DHFR p.50
1-4. Discussion p.56
 Mutationnal sensitivity p.56
 Signigicance of the "ranking plot" p.56
 Property of arginine in protein sequence p.57
 Role of the C-terminal amino acid residues of DHFR p.58
 Construction of a nes AA index based on properties observed in this study p.60
 Evolvability and challenge of expanded sequence perturbation analysis p.61
 Mutational effects on activity and stability p.62
 An possibility of conversion to other structure p.63
CHAPTER 2. Creation and Stabilization of a Hyperactive Cysteine- and Methionine-free Mutant of Escherichia coli Dihydrofolate Reductase by Evolutional Design and Cyanocysteine-Mediated Novel Backbone Cyclization p.65
2-1. Introduction p.67
2-2. Materials and Methods p.76
 Materials p.76
 Plasmid construcion and protein purification p.76
 LC-MS measurements p.77
 Protease digestion for peptide mapping p.77
 Caluculation of the accessible surface area p.78
 Enzyme assay and steady-state kinetic parameters p.78
 Equilibrium dissociation constants p.78
 Cyanylation and cyclization of proteins p.78
 Circular dichroism spectroscopy p.79
 Urea-induced unfolding transition p.79
 Thermal denaturation p.80
 Others p.81
2-3. Results p.82
 Proposal of novel picking up process in the sense of protein design p.82
 Creation of Methionine- and Cysteine-free DHFR with high enzymatic activity p.83
 Equilibrium dissociation constants p.85
 Effects of oxidization by an incubation in H2O2 p.86
 Design of circular ANLYF p.87
 Evidence for cyclization p.88
 Characters of circular ANLYF p.91
2-4. Discussion p.96
 Protein design by adaptive walking in searching sequence space p.96
 Strucural description for the hyperactivity of ANLYF p.97
 Meaning of free of methionine and cysteine residues p.98
 Efficiency of the cyclization p.98
 Cyanocysteine-mediated backbone cyclization p.99
 Stability of circular and linear ANLYFs p.100
 Stabilization of hyperactive enzyme by cyclization p.101
 What kind of protein is suitable for applying cyclization? p.102

REFERENCES p.104
GENERAL CONCLUSIONS p.122
ACKNOWLEDGEMENTS p.123
RESEARCH ACHIEVEMENT p.124
Publications p.124
Presentation p.125

 21世紀はゲノム解析を基礎とした生命科学の時代といわれており、遺伝情報から発現される蛋白質は創薬、生命現象の解明、食品生産、バイオレメディエーションなどさまざまな形で応用が期待される。
 細菌からヒトに至るあらゆる細胞において、蛋白質はセントラルドグマに従って合成される。蛋白質合成の最終段階は、シャペロンによる立体構造形成の誘導と凝集の防止、間違ってフォールディングされた蛋白質を分解するというユビキチンによる品質管理機構である。
 蛋白質の立体構造は、20種類のアミノ酸の配列で既定される。与えられたアミノ酸配列がどのようにして蛋白質の高次構造を規定し、その結果、安定性・機能を発現させるかの理解(このことは第2の遺伝暗号問題と呼ばれる)を進めることにより、ポストゲノムにおいて大きな問題となっている、配列からの構造・機能予測が格段に進歩するだけでなく、蛋白質設計利用への道が大きく開かれる。第2の遺伝暗号問題に関する暗号表としては、第1の遺伝暗号表(RNAトリプレットとアミノ酸との対応表)の様な単純な形では表現できないと推測される。どのような形で暗号表を提起できるかが当面の課題になる。
 本研究では、第2の遺伝暗号表に関する手がかりを得る目的で、網羅的1アミノ酸置換体の作製とその特性解析を進めた。大腸菌由来ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の1から159残基の各部位を他の19種類のアミノ酸に置換した2448変異体(全3021変異体中、安定に発現・高度精製されたもの)を作製し、それらの酵素活性、円偏光スペクトル及び構造安定性を測定した。本論文第1章ではその成果の一部として、統計的に出現頻度が荷電性アミノ酸に偏ることが報告されているC末端、及び、活性部位であると同時に進化的保存度の高いArg44について、アミノ酸データベースAAindexに登録されている544種類のアミノ酸の特性と関係付ける配列摂動解の試みについて述べた。Arg158及びArg159の変異体の温度変性を紫外吸収スペクトルで測定し、それらの転移温度とAAindexデータの相関を調査した結果、電荷や等電点に関するindexとp<0.001の有意性で0.8以上の相関係数が得られ、それらをもとにC末端の荷電性アミノ酸がDHFRの立体構造上どのように安定性に寄与するかについて考察した。Arg44の変異体については酵素活性と温度変性とともに、DHFRと補酵素NADPHの解離定数Kdを測定し、多くの場合エネルギーの形で登録されているAAindexデータとの比較のためその対数を解析の対象として調査した。その結果、Arg44の変異による酵素活性の変化はln Kdと有意に高い相関があること、ln Kd は疎水性や極性をあらわすindexと高い相関があること、Arg以外のアミノ酸への置換はKdが高くなると共に熱に対して安定化することがわかった。これらの結果から、活性と安定性における変異の効果について考察した。また、DHFRの全配列における系統的アミノ酸置換変異体(2289種類)の温度変性とCDスペクトルから、アミノ酸置換効果とドメインなど構造単位との対応関係について述べた。解析の結果を立体構造との比較に反映させることにより、第2の遺伝暗号に関する手がかりについて考察した。

 1アミノ酸置換変異による特性変化の擬似相加性を仮定し、目的の特性を組み合わせる適応歩行によって蛋白質の改良の加速が可能となる。本論文第2章では蛋白質工学的な観点から、含硫アミノ酸を他のアミノ酸で置換し、測定された変異体の活性データベースから高活性な変異を組み合わせることによる、酵素活性を効率良く改良する方法を示すとともに、シアノシステインを介した蛋白質の主鎖環状化方法を開発し、安定性と耐凝集性の改善方法について述べた。1アミノ酸置換データベースから各部位で選ばれた活性の高い上位3種同士の組み合わせが作製され、最終的に得られた高活性な7重置換体ANLYF (M1A/M16N/M20L/M42Y/C85A/M92F/C152S)はkcatが野生型の7倍の値として確認される一方で、変性剤尿素や温度に対して不安定化していた。蛋白質のN末端とC末端は立体構造上、活性部位から離れており100残基程度の蛋白質であればそれらは互いに近くて向きがそろっている場合が多いとする報告があること、シアノシステインを介した反応は1級アミンを求核剤としたアミド結合の生成が分子間・分子内どちらでも確認されていることなどから、この反応を利用した蛋白質の主鎖環状化反応を検討し、ANLYFへ適用した。DHFR結晶構造ををもとに設計された適切な長さのGlyリンカー及び反応のためのシステインを末端に導入した変異体を大腸菌で発現・精製し、NTCBによるシアノ化後条件下で反応させた。精製された反応産物のカルボキシペプチダーゼ消化及びLC/MSとペプチドマッピングからANLYFの環状化が確認された。SDS-PAGEのバンド濃度及びイオン交換クロマトグラフィーの溶出ピークから環状化反応の効率は約50%と見積もられた。環状化ANLYFの近・遠紫外CDスペクトル及び酵素活性は反応前の直鎖状ANLYFと比較して変化は認められず、また環状化によって尿素と熱に対して安定化することが確認され、熱処理後の凝集は環状化によって妨がれる、という結果が得られた。これらの結果をもとに、蛋白質の環状化による構造安定化の効果を高分子論的な観点から考察した。

 本論文は、「A Study of Protein Structural Stability and Activity by Systematic Sequence Perturbation Analysis(配列摂動解析による蛋白質の構造安定性と活性に関する研究)」と題し、蛋白質のアミノ酸配列と立体構造安定性や分子機能との関係を系統的に解明するため、大腸菌由来のジヒドロ葉酸還元酵素を対象として、網羅的な1アミノ酸置換変異体の立体構造・安定性・活性の評価とアミノ酸の各種指標との相関解析に基づく配列摂動解析、および、シアノシステインを介した環状化による蛋白質の高活性化・高安定化などの研究成果をまとめたものであり、2章から構成されている。
第1章「Systematic Sequence Perturbation Analysis(配列摂動解析)」では、大腸菌由来のジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)に配列摂動解析を適用した結果について述べている。まず、カルボキシ末端に位置する2つのアルギニン(158番目および159番目のR158とR159)について、アルギニン以外の19種類のアミノ酸に置換した変異体の熱熱転を評価し、公開されているアミノ酸の544種類の指標との相関を評価することで、転移温度が電荷や等電点に関するアミノ酸の指標と有意な相関があることを明らかにした。また、異なる生物種間の保存性が高い44番目のアルギニンの変異体では、酵素活性と補酵素NADPHに対する解離定数とが疎水性や極性に関するアミノ酸の指標と有意な相関があることを示した。さらに、DHFRの159個の全ての残基の網羅的な変異体について熱安定性と円二色性スペクトルを測定し、アミノ酸変位の効果がループ構造や核酸結合ドメインなど立体構造の単位と密接に関係があることを示している。
第2章「Creation and Stabilization of a Hyperactive Cysteine- and Methionine- free Mutant of Escherichia coli Dihydrofolate Reductase by Evolutional Design and Cyanocysteine-Mediated Novel Backbone Cyclization(進化的設計とシアノシステインを介した新たな主鎖環状化法による、大腸菌由来でシステインおよびメチオニンを含まないジヒドロ葉酸還元酵素の高活性化変異体の創製と安定化)」では、まず、7カ所の含硫アミノ酸(メチオニンとシステイン)に注目し、DHFRの1アミノ酸置換体の知見を元に高活性化をめざして7重変異体ANLYF (M1A/M16N/M20L/M42Y/C85A/M92F/C152S)を作成し、kcatを野生型の7倍まで高めることに成功した。この変異体は野生型に比べて不安定化していたため、シアノシステインを介してアミノ末端とカルボキシ末端の環状化を導入し、活性を保ったまま熱や変性剤に対する安定性を向上させることに成功している。
このように、本論文では、配列摂動解析により、各アミノ酸残基が立体構造の安定性や機能に果たす役割を系統的に評価できることを示すとともに、それらの知見やシアノシステインを介した環状化により高活性で高安定な酵素が創製可能なことを明確に示している。よって、本論文は、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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