舗装の非破壊検査法に関する研究
氏名 阿部 長門
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第83号
学位授与の日付 平成5年8月31日
学位論文の題目 舗装の非破壊検査方法に関する研究
論文審査委員
主査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 伊藤 廣
副査 教授 清水 敬二
副査 教授 小川 正二
副査 教授 鳥居 邦夫
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目次
第1章 序論 p.1
1-1 緒言 p.1
1-2 既往の研究 p.4
1-3 研究の目的 p.6
第2章 非破壊試験装置 p.10
2-1 概要 p.10
2-2 FWD装置 p.11
2-2-1 FWD荷重とトラック走行の比較 p.14
2-3 FWD装置の再現性 p.17
2-3-1 各センサのたわみの比較 p.17
2-3-2 繰返し測定に基づく信頼性 p.22
2-4 測定方法 p.27
2-4-1 1ポイントの測定回数 p.27
2-5 まとめ p.29
第3章 たわみ評価指標に基づく舗装の構造評価 p.30
3-1 概要 p.30
3-2 原理及び既往の研究 p.30
3-3 舗装の評価指標 p.32
3-3-1 概要 p.32
3-3-2 載荷点のたわみ(D0)について p.33
3-3-3 たわみ差 D0-D200 について p.35
3-3-4 たわみ差 D0-D1500 について p.37
3-3-5 現行設計法との比較 p.39
3-3-6 たわみによる構造評価 p.40
3-4 舗装各層の弾性係数の推定 p.41
3-5 たわみによる評価指数の適用例 p.47
3-6 まとめ p.51
第4章 試験舗装に基づく弾性係数の検証 p.52
4-1 概要 52
4-2 多層弾性理論とFWDを組み合わせることの検証 p.53
4-3 FWD推定弾性係数と室内弾性係数の比較 p.55
4-3-1 概説 p.55
4-3-2 アスファルト混合物 p.56
4-3-3 路盤・路床材 p.58
4-4 まとめ p.64
第5章 FWDによる舗装の構造評価および補修設計システム p.65
5-1 はじめに p.65
5-2 舗装の構造評価および補修設計システム p.67
5-3 舗装の構造評価 p.69
5-3-1 解析区間の考え方 p.71
5-3-2 アスファルト混合物層の弾性係数の温度補正 p.74
5-3-3 たわみ指数の境界値 p.79
5-4 補修工法の選定方法 p.80
5-4-1 補修工法の選定 p.81
5-5 本システムの適用例 p.82
5-5-1 舗装の評価 p.82
5-5-2 補修工法の検討 p.85
5-5-3 補修前後の比較 p.87
5-6 まとめ p.88
第6章 本研究の結論及び今後の課題 p.89
6-1 結論 p.89
6-2 今後の検討課題 p.91
謝辞 p.92
参考文献 p.93
一般に、舗装の構造評価は、予想される交通条件下における舗装の支持力や余寿命を合理的な精度で推測することを目的とし、従来までは舗装を表層から順次掘削し各舗装構成層の粒度分布、密度、強度や疲労特性を調査する破壊検査が広く用いられてきた。しかし、舗装の破壊、材料試験及び評価、舗装の復旧という3種類の異なる作業が含まれるため、莫大な労力と時間がかかるうえに調査箇所も数カ所に限定されるという欠点を持っている。そこで近年、舗装に荷重をかけその時の応答を調べる非破壊検査法が注目されるようになってきた。本研究では非破壊で舗装のたわみを測定するFalling Weight Deflectometer(FWD)を用いて、測定したたわみと多層弾性理論を組み合わせて舗装構成層の弾性係数を推定し、舗装の構造評価およびこれに基づく補修断面設計法を確立することを目的としている。
第1章では、研究の背景と既往の研究に対する概説を通じ、本研究の位置付けとその目的について述べている。
第2章では、研究を進めるにあたって、FWD装置の特徴を示し、FWD荷重と実際の交通荷重による載荷時間の把握、荷重とたわみの精度、測定回数について検討を行った。繰返し測定に基づく荷重の精度は、変動係数で0.5%程度で試験装置として十分な精度を有している。また、載荷点周辺の繰返し測定に基づくたわみセンサの変動係数2%程度で十分な精度を有しているが、載荷点から離れるにしたがって変動係数が高くなる。この結果に基づき、載荷点から離れたセンサの精度を2倍に向上させた。繰返し測定結果に基づく弾性係数の分布から、母平均に基づく必要サンプリング数について検定を行った。この結果、1ポイントにおける測定回数は2ないし3回で十分であることが明らかになった。
第3章では、FWDで得られるたわみ曲線から簡便に構造評価を行うためのたわみ評価指標や、弾性係数の逆解析において測定たわみと計算たわみの一致度が高く、収束を早くするための弾性係数の逆解析方法について検討した。本論文で提案したたわみ評価指標は、路床を含む舗装体の強度を示すD0、アスファルト混合物層の強度を示すD0-D200, 舗装体の強度を示すD0-D1500、路床の支持力を示すD1500の4つである。このたわみ指標を用いることで、測定中に舗装体の健全度を瞬時に得ることが可能となった。たわみとたわみ評価指標と舗装各層の層厚を説明変数とし、推定する弾性係数を目的変数として重回帰分析を行った。得られた重回帰式より推定した弾性係数を弾性係数逆解析の初期入力値とすると、各層の弾性係数の一定値を初期値に入力したときに比べ初期値の残差平方和(RMS)が小さく、収束にいたるまでの計算回数が少なくなる。
第4章では、FWD装置で測定されるたわみと多層弾性理論を組み合わせて使用することの検証を行った。FWDたわみと多層弾性理論を用いて、設計条件の1つである舗装各層の弾性係数を推定することが可能となる。しかし、FWDで推定した弾性係数から多層弾性理論で算定した応力と実際の舗装で計測される応力の比較検討を行った事例は少ない。そこで温度計と土圧計を埋設した試験舗装を構築し検討を行った。この結果、FWDたわみから推定した弾性係数を用いて算定した応力と土圧計測値はほぼ一致し、FWDと多層弾性理論を組み合わせて使用しても問題はない。また、FWDで推定した弾性係数は舗装構成材料の層としての弾性係数を示すが、室内試験で得られる弾性係数との関係は明らかになっていない。そこで、試験舗装の舗装材料の室内弾性係数(ResilientModulus)を求め、比較を行った。両者の弾性係数は5%程度のバラツキがあるものの、この差は許容範囲のものである。この結果、FWD推定弾性係数は材料自体の有している弾性特性を表していることが明らかになった。
第5章では、本研究で得られた成果に基づきFWDによる舗装の構造評価及び維持設計システムの開発についてまとめたものである。この中で、構造評価を行うための解析区間を選定する方法として、累積差を取り入れ解析区間を自動分割するようにした。また、測定日時、気温、路面温度からアスファルト混合物層の平均温度を推定し、アスファルト混合物層の弾性係数の温度補正を行う手法を開発した。さらに、構造評価に基づく補修工法選定チャートを提案し、選択した補修工法による補修断面を自動的に設計する手法を開発した。本研究で提案した補修方法による設計例を一つだけ示したが、他にも多数の設計事例があり、いずれも合理的な補修断面となっている。本システムを実際の舗装における構造評価や補修に適用することが可能である。
第6章は、本研究を総轄した結論及び今後の検討課題を述べている。