Phase stability under high pressure gas and material processing by hot isostatic press
(高圧ガス下での相平衡と熱間等方加圧(HIP)装置による材料処理)
氏名 沢井 裕一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第88号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 Phase stability under highpressure gas and material processing by hot isostatic press(高圧ガス下での相平衡と熱間等方加圧(HIP)装置による材料処理)
論文審査委員
主査 教授 石崎 幸三
副査 教授 鎌田 喜一郎
副査 教授 高田 雅介
副査 助教授 石黒 孝
副査 助教授 河合 晃
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Contents
Capter 1.HIP phase diagram p.1
Keywords: HIP, O2-HIP, equilibrium, Gibbs energy, HIP phase diagram
1.1 Introduction p.1
1.1.1 Experimental conditions of O2-HIP p.1
1.1.2 Equilibrium under isothermal and isobaric condition p.2
1.1.3 Equilibrium in a real gas mixture p.4
1.2 Statistical mechanics of O2-HIPing conditions p.6
1.2.1 Partition function of high pressure argon p.6
1.2.2 Partition function of oxygen and argon mixture p.7
1.3 Molar volume of oxygen in the mixture p.9
1.4 Ellingham diagram and HIP phasediagram p.13
1.4.1 Ellingham diagram p.13
1.4.2 HIP phase diagram p.15
1.4.3 Four dimensional HIP phase diagram p.17
1.5 Conclusions p.19
Chapter 2.Y-Ba-Cu-O superconductor p.20
Keywords: Y-Ba-Cu-O superconductor, HIP phase diagram, total gas pressure effects, oxygen nonstoichiometry, oxidation reaction
2.1 Introduction p.20
2.1.1 Y-Ba-Cu-O superconducting family p.20
2.1.2 O2-HIPing conditions and previous phase diagrams p.22
2.2 Experimental procedure p.23
2.3 Results p.24
2.4 Discussion p.28
2.4.1 Reactions between superconducting phases p.28
2.4.2 Ptoteffects on slope of equilibrium line of RTInP02-T phase diagram p.31
2.4.3 Estimation of oxygen nonstoichiometric value p.32
2.4.4 Mixing ratio effects of starting materials on phase equilibria p.33
2.5 Conclusions p.35
Chapter 3.Silicon nitride p.36
Keywords: Si-C-O-N system, nitridation reaction, HIP phase diagram, four dimentional HIP phase diagram
3.1 Introduction p. 36
3.1.1 Phase stability in Si-C-O-N system p.36
3.2 Experimental procedure p.38
3.3 Results p.39
3.4 Discussion p.41
3.4.1 RTInPN2-T phase diagram p.41
3.4.2 InPCO-InPN2 phase diagrams p.42
3.5 Conclusion p.44
Chapter 4.Synthesis of new oxide YBa2(Cu1-XAgX)4O8 p.45
Keywords: Silver replacement, normal vibration, phonon, GF matrix method, IRabsorption, Raman scattering
4.1 Introduction p.45
4.1.1 Previous reports about silverreplacement into YBa2Cu3O7 p.45
4.1.2 Examples of replacement by another elements p.45
4.1.3 Crystal structure and vibration modes of YBa2Cu4O8 p.47
4.1.4 IR absorption spectra-the empirical scaling law p.48
4.2 Experimental procedure p.49
4.3 Results p.49
4.4 Discussion p.52
4.4.1 Calculation of Raman shifts of Cu-O vibration p.52
4.4.2 Thermodynamical study of silver replacement p.54
4.5 Conclusion p.55
Chapter 5.Superconducting filter p.56
Keywords: gas separation, Meissner effect, porous superconducting material, magnetic gradient 5.1 Introduction p.56
5.1.1 Magnetic force acting on oxygen and argon p.56
5.1.2 Magnetic properties of poroussuperconducting materials p.57
5.2 Experimental procedure p.60
5.2.1 Oxygen flow measurement underfixed pressure gradient p.60
5.2.2 Measurement of oxygen concentration p.62
5.3 Results and discussion p.62
5.3.1 Results of Oxygen fiow measurement p.62
5.3.2 Results of Measurement of oxygen concentration p.64
5.4 Conclusion p.66
Chapter 6.General conclusions p.67
Appendices p.69
A.Partition function of oxygen and argon mixture p.69
B.Ellingham diagram of Si-C-O system p.72
C.Normal vibrations and Raman scattering method p.77
C.1 Normal vibrations p.77
C.2 GF matrix method p.79
C.3 Group theory p.81
C.4 Optically active lattice vibrations p.83
C.5 G and F matrices of Y-Ba-Cu-O superconductor p.84
D.Electromagnetics p.89
D.1 Units in Electromagnetics p.89
D.2 Magnetic force acting on oxygenand argon p.91
E.Pore configuration factor p.93
F.Nomenclature p.95
G.Units and constants p.100
本論文は高圧ガス中での相平衡に関する基礎理論的考察と、高圧ガス中で焼結された機能材料の応用の2本建ての構成になっている。熱間等方加圧(HIP)装置は、焼結時の全圧(Ptot)と温度(T)を独立に制御でき、酸素雰囲気熱間等方加圧(酸素雰囲気HIP)装置では更に酸素分圧(Po2)を独立に制御できる。HIP焼結のように気相・固相反応が高圧下で行われる場合、反応に関与するガスの平衡分圧は同じ温度での常圧のものと異なる。反応に関与するガスのギブスエネルギーが不活性ガス圧にも依存するからであり、この不活性ガス圧の影響は第1章で熱力学及び統計力学的手法を用いて理論的に議論されている。例えば酸化反応の平衡酸素分圧は酸化反応前後の系の各々のギブスエネルギーが等しい時の酸素のギブスエネルギーから得られる。従来酸素のギブスエネルギーは酸素分圧に依存するとされていたが、酸素分圧を固定した場合でも、不活性ガス圧の上昇は酸素のギブスエネルギーの上昇に寄与することを理論的に証明した。従って不活性ガス圧の上昇は酸素のギブスエネルギーを変化させ、酸化反応の平衡酸素分圧を変化させることになる。
第2章では第1章で議論した相平衡に及ぼす不活性ガス圧の影響を確認するため、実験結果に基づく具体的な相図を示している。材料にはYBaCuO系酸化物超伝導体を用いた。まず原料混合原子比をY:Ba:Cu=1:2:4とし、RT1nPo2とTを座標軸にとった相図を全圧50MPa及び200MPaの条件で求めた(R:ガス定数)。圧力媒体に酸素とアルゴンの混合ガスを用いているので、酸化反応の平衡酸素分圧に及ぼすアルゴン分圧の影響が一目でわかる。また酸素分圧を一定に保った条件でPtot-T相図も求めた。両相図からは相平衡温度(酸化温度)が全圧の上昇にともない上昇することが確認できただけでなく、YBaCuO系の各々の超伝導相間の反応は酸化・還元反応であることを明らかにした。両事象は第1章に基づく熱力学的理論により説明できた。また原料混合原子比をY:Ba:Cu=1:2:3に変えた場合の相図及び酸化銀を10at%添加したY:Ba:Cu:Ag=1:2:3.6:0.4の場合の相図も求めた。混合原子比Y:Ba:Cu=1:2:3の相図は1:2:4の相図とかなり異なることがわかり、この結果から各相の安定領域に及ぼす原料混合比の影響を考察した。また酸化銀の添加が、超伝導相の生成を促進することも確認した。
第3章では第2章と同様に、実験結果に基づく高圧下での相図をSi-N-C-O系について求めた。この系では反応に関与するガスが酸素と窒素であり、第2章の酸素の場合と同様に反応ガスに及ぼす不活性ガス圧の効果が確認できた。
第1章から第3章までのHIP処理に関する基礎的考察に対し、第4章、第5章では機能材料作製への酸素雰囲気HIPの応用例を紹介している。酸素雰囲気HIPの最大処理能力は酸素分圧で40MPaである。これは常圧酸素中では作製できないような酸化物材料が作製できることを示唆している。例えば酸化銀は還元しやすい化合物で、常圧酸素中ではわずか数百℃で金属銀になってしまう。第4章では酸素雰囲気HIPを用いることにより、YBaCuO酸化物超伝導体の銅の位置に銀を一部分置換させた材料の作製に関して記述している。置換の証明に赤外吸収スペクトル及びラマン散乱スペクトルを用いた。YBaCuO超伝導体に添加する酸化銀の量を増やすにつれ、銀と酸素の結合を示す赤外吸収ピークが成長したこと及び格子内の銅-酸素振動のフォノン振動数が変化したことから、銀は格子中の銅の位置に置換していることを確認した。
常圧では作製が困難な酸化物を作製することもさる事ながら、HIP装置はまた多孔質材料の作製にも適している。第5章では常磁性流体と反磁性流体の混合物を分離する酸化物超伝導材料の高機能多孔質体の作製に関して記述している。酸素は常磁性体であり、アルゴンは反磁性体である。両ガスの沸点は非常に近い値であり、両ガスの混合物を分離する際、沸点の差を利用した重量分離方法は原理的に適用できない。本実験では両ガスの磁性が全く逆であることに注目し、高磁界勾配中で両者を分離する方法を発明した。磁性体に働く力はその材料の磁化率、磁界、磁界勾配の積に比例する。酸素とアルゴンの磁化率は互いに逆符合であるので、高磁界・磁界勾配中に混合物を置けば磁界から作用する力が逆向きであるため、両者は分離されることになる。多孔質超伝導材料とマイスナー効果を応用することにより、低コストで高磁界勾配を得る事に成功した。実際の実験で50%酸素50%アルゴン混合ガスを多孔質超伝導体に通したところ、取り出されたガスの酸素濃度は定常的に61%まで上昇していることがわかった。
付録では本文中で使用した独自の発想で導いた関係式、また広く知られていない関係式などの補足説明をしている。第1章で用いた実在ガスの分配関数の導出方法、第3章でのSi-N-C-O系のRT1nPo2-T相図等に関して、本分中では記述できなかった基礎的なことも含めて詳しく説明している。また第4章で用いたGF行列法に関してはG, F各行列の定義、群論の適用法、固体結晶の光学活性モードのG, F行列、実際のデータに基づくYBaCuO超伝導体のG, F行列の導出まで特に詳しく記述している。