排水性舗装の実用化に関する研究
氏名 帆苅 浩三
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第92号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 排水性舗装の実用化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 丸山 暉彦
副査 教授 清水 敬二
副査 教授 小川 正二
副査 助教授 丸山 久一
副査 新潟大学 助教授 大川 秀雄
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 本研究の目的 p.3
1.3 本論文の構成 p.3
参考文献 p.4
第2章 排水性舗装の機能と技術的課題 p.5
2.1 緒言 p.5
2.2 排水性舗装の機能 p.6
2.2.1 安全面に対する機能 p.6
2.2.2 環境面に対する機能 p.7
2.3 排水性舗装の技術的課題 p.8
2.3.1 機能性に関する技術的課題 p.8
2.3.2 舗装構造に関する技術的課題 p.10
2.3.3 配合設計方法に関する技術的課題 p.11
2.3.4 施工に関する技術的課題 p.11
2.3.5 維持修繕に関する技術的課題 p.12
2.3.6 経済性に関する技術的課題 p.13
参考文献 p.14
図表 p.16
第3章 排水性混合物の骨材配合と空隙構造に関する実験的研究 p.17
3.1 緒言 p.17
3.2 排水性舗装の空隙状態を表わす特性値 p.17
3.2.1 連続空隙と独立空隙 p.18
3.2.2 空隙径 p.18
3.2.3 空隙の屈曲度 p.19
3.3 排水性混合物の骨材配合に関する試験の概要 p.19
3.3.1 骨材配合の基本的考え方 p.19
3.3.2 使用材料 p.20
3.3.3 骨材配合の種類 p.21
3.3.4 試験項目および試験方法 p.22
3.4 排水性混合物の骨材配合に関する試験結果 p.23
3.4.1骨材配合と空隙特性 p.23
3.4.2骨材配合と透水性 p.25
3.4.3骨材配合と骨材の飛散抵抗性 p.26
3.5 吸音試験による空隙構造の推定に関する試験の概要 p.27
3.5.1 定在波法による垂直入射吸音率測定方法 p.27
3.5.2 吸音試験に用いた供試体の種類と作製方法 p.29
3.6 吸音試験による空隙構造の推定に関する試験結果 p.30
3.6.1 モデル供試体による吸音試験結果 p.30
3.6.2 単粒度砕石による吸音試験結果 p.32
3.6.3 排水性混合物による吸音試験結果 p.32
3.7 まとめ p.33
参考文献 p.35
図表 p.37
第4章 排水性舗装の透水性に関する研究 p.54
4.1 緒言 p.54
4.2 排水性舗装の透水性に関する試験概要 p.55
4.2.1 定水位透水試験方法 p.55
4.2.2 飽和状態における流れの基礎式 p.56
4.3 定水位透水試験結果 p.58
4.3.1 動水勾配と流速の関係 p.58
4.3.2 層流と乱流の遷移域 p.59
4.3.3 層流域の透水 p.61
4.3.4 乱流域の透水 p.63
4.4 排水性舗装の定水位透水試験方法の提案 p.64
4.4.1 従来からの定水位透水試験方法とその問題点 p.64
4.4.2 排水性舗装に適した定水位透水試験方法 p.65
4.5 まとめ p.68
参考文献 p.69
図表 p.71
第5章 排水性混合物の配合設計方法に関する研究 p.83
5.1 緒言 p.83
5.2 排水性混合物の配合設計方法の基本的考え方 p.85
5.3 高粘度改質アスファルトの開発とその性状 p.87
5.3.1 高粘度改質アスファルトの物理的性質 p.87
5.3.2 アスファルトの種類による排水性混合物の動的安定度 p.88
5.3.3 高粘度改質アスファルトの経年変化 p.89
5.4 高粘度改質アスファルトの粘度特性 p.90
5.4.1 アスファルトに適用される粘度試験 p.91
5.4.2 粘度試験方法 p.92
5.4.3 粘度試験結果 p.93
5.4.4 粘度試験結果からの施工温度の考え方 p.94
5.5 排水性混合物の混合温度の検討 p.95
5.5.1 モデル混合試験 p.96
5.5.2 アスファルトプラントにおける混合試験 p.97
5.5.3 排水性混合物の混合温度の設定 p.99
5.6 排水性混合物のアスファルト量の設定方法 p.100
5.6.1 排水性混合物の配合設計手順 p.100
5.6.2 アスファルトのダレ試験方法 p.102
5.6.3 排水性混合物のアスファルト量の設定の詳細 p.102
5.7 排水性舗装の実施例 p.103
5.7.1 施工概要 p.103
5.7.2 供用性状 p.104
5.8 まとめ p.105
参考文献 p.107
図表 p.108
第6章 結論 p.130
謝辞 p.133
排水性舗装は連続した空隙を有する舗装で、透水性や吸音性というこれまでの舗装にはない特性をもつ。この排水性舗装は、自動車交通がもたらす交通事故の増加や道路交通騒音の悪化に対して、道路舗装の側から積極的に低減できる機能性に富む舗装として注目されており、施工実績は年々増加していきている。しかし、これまでに施工された排水性舗装の中には、施工後早期にその機能が失われたり、骨材の飛散したものがあるなど、必ずしも十分な供用性を示してきたわけではない。
このようなことから本研究では、排水性舗装の実用化に向けて解決すべき種々の技術的課題について検討を加えた。すなわち、排水性舗装の骨材配合と空隙構造との関係を解析し、排水性舗装の機能性が最適に発揮できる骨材配合を提案した。また、排水性舗装の透水特性を考慮した透水試験方法を提案した。さらに、新たに開発した排水性舗装用の高粘度改質アスファルトを用いた排水性混合物の配合設計方法を提案した。
本研究の成果は以下のようになる。
第1章では、排水性舗装の必要性を述べ、本研究の目的と位置付けを明らかにした。
第2章では、国内外の既往の研究を基に、排水性舗装の機能と技術的課題のあらましを述べ、その幾つかの課題について本研究の果たす役割を説明した。
第3章では、排水性混合物の骨材配合に関する実験を行い、排水性混合物の望ましい骨材配合を検討した。その結果、排水性舗装に有効な連続空隙率を増加させるにはできるだけ単粒度で偏平の少ない粗骨材を用いるのがよく、また、粗骨材の最小粒径は透水性の観点からは5mm以上に、骨材の飛散抵抗性の観点からは13mm以下にする必要がある。
次に、垂直入射吸音率測定方法の測定原理を利用して排水性舗装の空隙構造を推定した。入射波と反射波の位相関係からは空隙の屈曲度を求めることが可能であり、空隙率とピーク吸音率との関係からは空隙率が容易に推定できる。また、空隙の屈曲度は空隙率が21~22%付近より小さくなると急激に増加する。空隙率は機能性の観点から21~22%以上であることがわかった。
第4章では、透水長50cmの供試体を用いた定水位透水試験を行い、排水性舗装の透水特性を明らかにした。動水勾配iと流速uとは両対数上でi=cun(cは定数)という直線関係が認められるが、動水勾配10-2~10-1の範囲に存在する限界動水勾配icを境として直線の傾きが異なる。動水勾配が小さい場合、n=1となりダルシーの法則が成立する層琉となるが、動水勾配が大きい場合、n=1.5となり水の流れは乱流となる。したがって、透水係数は層流域では一定の値を示すが、乱流域では動水勾配により異なる値を示すことになる。空隙率と透水係数との関係を見ると、層流域において透水係数は空隙率20%からそれ以上で急激に大きくなる。これは空隙率と空隙の屈曲度との関係と一致しており、空隙率が少なくとも20%以上必要であることを具体的に証明している。
次に、従来からの定水位透水試験方法の問題点を指摘し、実際の動水勾配における透水係数を推定する方法を提案した。従来からの方法は動水勾配が大きい乱流域の透水係数を求めているため、実際に必要な道路横断勾配に近い低動水勾配における層流域の透水係数よりもかなり小さく見積もってしまう。乱流域の透水係数から層流域の透水係数を推定する方法として2つの方法を提案した。1つは動水勾配と流速との関係における直線の傾きと、空隙率と限界動水勾配との関係を用いる方法であり、もう1つは層流域、遷移域、乱流域を通じて統一的に表現できる推定式i=αu+βu2(α、βは定数)を用いる方法である。いずれも実測値との誤差は小さく十分適用が可能である。
第5章では、高粘度改質アスファルトの高温域の粘度特性を明らかにし、混合試験結果と合せて実施工における温度条件を設定した。また、排水性混合物の配合設計が合理的に実施できる方法を提案した。円錐平板形回転粘度計による粘度試験の結果、高粘度改質アスファルトは非ニュートン液体特有のチクソトロピー的挙動を示し、ずり速度によって粘度は異なる値を示した。アスファルトプラントにおける排水性混合物の混合ではずり作用と細粒分の少ない混合物粒度の影響により混合負荷は通常の混合物と大差なく、現行の粘度試験から想定される混合温度よりもかなり低温側でも機械的には十分に混合できた。排水性混合物の混合温度の設定にあたっては混合負荷の影響に加えてアスファルトの熱劣化の影響も考慮する必要があり、これらを総合すると混合温度は160~170℃程度が適当である。また、排水性混合物の配合設計において、粗骨材率、アスファルト量、空隙率の関係図と、ダレ試験による最大アスファルト量曲線とを用いることにより目標空隙率におけるアスファルト量と粗骨材率を合理的に設定できる。
以上、本研究の成果について述べた。これらの研究成果が機能的で耐久性に優れた排水性舗装の実現に向けて役立てば幸いである。