高炉水砕スラグ微粉を利用する曝気沈殿一体型リアクターの研究
雪の力学的性質に関する実験的研究
氏名 福永 和久
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第35号
学位授与の日付 平成5年12月15日
学位論文の題目 高炉水砕スラグ微粉を利用する曝気沈殿一体型リアクターの研究
論文審査委員
主査 教授 桃井 清至
副査 助教授 原田 秀樹
副査 教授 小川 正二
副査 教授 早川 典生
副査 助教授 福嶋 裕介
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目次
第1章 序論 p.1
第2章 高炉水砕スラグ微粉を利用する高機能型活性汚泥法 p.6
2.1 緒言 p.6
2.2 活性汚泥法効率化の課題 p.8
2.3 高炉水砕スラグ微粉添加の効果 p.12
2.4 高炉水砕スラグの特性 p.18
2.5 高炉水砕スラグ含有汚泥の特性 p.23
2.6 高炉水砕スラグが活性汚泥に取り込まれるメカニズム p.32
2.7 高炉水砕スラグ含有汚泥の脱水性 p.39
2.8 まとめ p.42
第3章 高炉水砕スラグ微粉を利用する曝気沈殿一体型リアクター p.44
3.1 緒言 p.44
3.2 高速エアレーション沈殿池の特性と課題 p.44
3.3 曝気沈殿一体型リアクターの狙い p.47
3.4 リアクターの構造 p.52
3.5 リアクター内の流況 p.56
3.5.1 測定の目的と測定方法 p.56
3.5.2 測定結果 p.61
3.6 リアクターの特性 p.67
3.6.1 循環流について p.67
3.6.2 ブランケットゾーンについて p.73
3.7 まとめ p.84
第4章 パイロットプラントテスト(11m3/日規模) p.86
4.1 緒言 p.86
4.2 パイロットプラントの概要 p.86
4.3 パイロットテストでの処理成績 p.90
4.4 リアクターに出現した生物 p.95
4.5 高炉水砕スラグの流動性 p.95
4.6 リアクターの性能 p.98
4.7 濃度変動に対する挙動 p.103
4.8 流量及び濃度変動に対する挙動 p.104
4.9 界面の挙動 p.116
4.10 まとめ p.116
第5章 曝気沈殿一体型リアクターの設計 p.121
5.1 緒言 p.121
5.2 曝気沈殿一体型リアクター設計の特色、留意点 p.122
5.3 リアクターの設計手順 p.123
5.4 リアクタープロフィルの決定 p.125
5.5 撹拌機の設計 p.134
5.5.1 撹拌機設置の目的 p.134
5.5.2 水砕混入汚泥の粘性 p.135
5.5.3 撹拌機の設計手順 p.135
5.5.4 撹拌機仕様の検討 p.139
5.5.5 フロック解体の評価 p.140
5.6 リアクター各部の詳細 p.141
5.6.1 散気管 p.141
5.6.2 界面検知器 p.143
5.6.3 コンセントレーター p.145
5.6.4 その他の留意点 p.147
5.7 まとめ p.150
第6章 実機プラントでの立証(330m3/日規模) p.153
6.1 緒言 p.153
6.2 実設備の概要 p.154
6.3 運転条件の立上げ推移 p.159
6.4 リアクターの特性 p.161
1)リアクターの浄化効率 p.161
2)G値と活性汚泥フロック p.167
3)出現生物 p.168
4)汚泥発生量 p.168
5)供給エアー量 p.168
6)汚泥界面 p.169
7)水砕の浮遊 p.169
8)リアクターの24時間挙動 p.169
6.5 水砕スラグ添加の効果 p.169
6.6 循環流の効果 p.179
6.6.1 テストの目的 p.179
6.6.2 運転条件の調査項目 p.179
6.6.3 テスト結果と考察 p.182
6.7 ORP制御による挙動 p.201
6.7.1 ORP制御の狙い p.201
6.7.2 ORP制御システムとテスト方法 p.202
6.7.3 ORP制御テスト結果 p.207
6.8 まとめ p.211
第7章 結論 p.215
7.1 結論 p.215
7.2 今後の課題 p.218
参考文献 p.219
資料 p.226
資料-1 パイロットテスト結果 p.227
資料-2 全体研究開発スケジュール p.238
謝辞 p.239
我が国の下水道普及状況は、欧米先進諸国と比較して立ち遅れているが、昨今この下水道普及率(1991年末 45%)を2000年迄に70%に引きあげるため、下水道整備の重点が、下水道普及の著しく立ち遅れている地方小都市・町村へ移行している。この財政基盤の小さい小都市への普及に向け、より高効率でコンパクト・低コスト且つ維持管理の容易な下水処理プロセスが切望されている。
従来より、下水の処理は標準活性汚泥法により行なわれてきたが、有機物の酸化分解がなされる曝気槽の活性汚泥濃度が薄いため、反応時間が長く、処理場建設には広大な敷地と予算が必要になっている。そこで、活性汚泥が本来もつ特性を生かし、活性汚泥フロック内に平均粒径12μの微細な高炉水砕スラグ微粉を比較的短時間に多数とりこませることにより、活性汚泥フロックの比重を大きくして、固液分離を促進させ、その結果、曝気槽内汚泥の高濃度化を図るプロセス(高炉水砕スルグ微粉添加活性汚泥芳)を考案した。
第2章では、この高炉水砕スラグ微粉添加活性汚泥法の基本特性や効果を明確にした。まず、高炉水砕スラグ微粉混入活性汚泥が、どの程度沈降性を改善できるのかを調査かるため、沈降テストを行ない、水砕浮遊濃度1.1%の汚泥沈降速度が、水砕を全く添加しない汚泥の沈降速度に比べて約4倍になることを究明した。このデータから施設容量とMLSSの関係を試算した結果、水砕スラグ微粉1.1%添加によりトータル施設容量を従来標準活性汚泥に比べ約半分にできることがわかった。
更に、この高炉水砕スラグ微粉添加活性汚泥法を高速エアレーション沈殿池に適用したリアクター(曝気沈殿一体型リアクター)について検討を行った。高速エアレーション沈殿池は、高負荷処理機能を持つ反面、固液分離性が悪い。この装置に高炉水砕スラグ微粉添加法を適用することで、固液分離の安定化を図り、装置本来の高負荷処理機能を発揮できると考えた。
第3章では、曝気沈殿一体型リアクターの高負荷処理特性を生み出す内部流れについて調査するため、三次元電磁流速計による計測及びモデル水槽による可視化実験を行った。その結果、曝気部は、かなり強い乱れが生じており完全混合の状態であり、この曝気部のエアリフト効果により、内筒から越流した循環流は、内外筒間で乱れが緩和され、その後、内筒スカート上をスカート並行方向に早い速度で流下し、スカート末端で再び曝気部に引き込まれていくことがわかった。
第4章では、曝気沈殿一体型リアクターの基本処理特性を明確にするため、君津市大和田団地汚水処理場内に11m3/日規模のパイロットプラントを設置し、1年間のフィールドテストを実施した。その結果、曝気部MLVSSを6000mg/◆に高濃度管理することができ、以下の処理性能を確認できた。
1)BOD容積負荷:2.0kg/m3/日、2)BOD1kg除去当たりの必要エアー量:45m3/kg-BOD、3)BOD汚泥転換率:50%、4)除去BOD1kg当たりの水砕消費量:0.5kg/kg-BOD
第5章では、パイロットプラントテストで得られた知見を踏まえ、曝気沈殿一体型リアクター実設備化の設計方法を確立した。基本プロセス、プロフィルを決定する上で注意することは、水砕スラグの添加により活性汚泥群の沈降速度が変化することである。従って、標準活性汚泥プロセスの様にOFRをある値に決定することはできず、水砕添加にかかるランニングコストと沈殿部縮小にかかるイニシャルコストの両面から検討していかなければならない。また、撹拌機の設計においては槽壁流速やタービン翼の最大ガス流量、上部プロペラ翼の吐出量等を算出するが、最終的には、フロック解体及び水砕スラグの剥離の評価としてG値で判断する必要がある。パイロットプラントによる撹拌テストでは、G値200sec-1の範囲内で、沈降性の悪化・フロツクの解体現象はみられなかった。
第6章では、上記設計方法に基づき建設した330m3/日規模実設備の運転成績から、処理性能を実証するとともに、水砕スラグ添加の効果や循環流の役割りを明確にした。
約1年にわたる実績フォローの結果、リアクターの処理水質は、BOD12mg/l、COD13mg/lであり、三次処理水並の水質を確保できた。水砕添加及び無添加比較運転の結果、水砕無添加では、SV30が40~70%、1日の界面変動巾20~110cmの変動があるが、水砕添加すると、SV30が30~40%、界面変動巾が10~20cmに低値安定化することがわかった。又、循環流量比を適正値の40倍と4倍に絞り込んだ場合の比較運転を行なった。その結果、循環流量比を4倍に絞り込むと、処理水質は低下するが、汚泥の沈降性は逆に向上することがわかった。
今回、パイロットテスト・実設備の設計・建設・実績フォローに至る一連の研究成果から曝気沈殿一体型リアクターの処理特性を明確にした。今後は、更にスケールアップ化した際の撹拌機設計法の確立や、汚泥の有効利用を踏まえた最適プロセスについて検討していく必要がある。