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LCDの視角特性評価ならびに広視角化技術に関する研究

氏名 羽藤 仁
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第38号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 LCDの視角特性評価法ならびに広視角化技術に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 中川 匡弘
 副査 教授 松田 甚一
 副査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 助教授 川田 重夫

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目次
第1章 研究の背景と目的 p.5
1.1 LCDの歴史 p.5
1.2 LCDの視角特性改善が求められている背景 p.7
1.3 研究の目的と範囲 p.10
1.4 LCDの表示モードと視角特性 p.10
1.5 アクティブマトリクス駆動TN-LCDの動作原理 p.14
1.6 ディスプレイを視認する時の視角範囲 p.18
第2章 LCDの視角特性の評価法 p.24
2.1 2値表示LCDの視角特性の評価方法 p.24
2.1.1 実験 p.24
2.1.2 結果と考察 p.29
2.1.3 まとめ p.37
2.2 階調表示LCDの視角特性の評価方法 p.37
2.2.1 階調表示時の異常表示現象 p.37
2.2.2 階調表示LCDの視角特性の評価手順 p.41
2.2.3 まとめ p.50
第3章 TN-LCDの視角特性のセル条件依存性 p.52
3.1 偏光板配置依存性 p.52
3.2 リタデーション依存性 p.64
3.3 液晶材料物性値依存性 p.70
3.4 ツイスト角依存性 p.80
3.5 最大印加電圧依存性 p.85
3.6 スプレイ配列TN-LCDの視角特性 p.85
3.7 まとめ p.93
第4章 光学補償層挿入法 p.95
4.1 一軸光学異方層による光学補償 p.95
4.1.1 TNセルの見掛けのリタデーション p.95
4.1.2 一軸光学異方層によるTN-LCDの視角特性改善効果 p.103
4.1.3 まとめ p.110
4.2 捩じれ光学異方層による光学補償 p.110
4.2.1 捩じれ光学異方層の性質 p.110
4.2.2 旋光性がほぼ無視できる場合 p.113
4.2.3 旋光性がある場合 p.117
4.2.4 まとめ p.129
4.3 光学補償層挿入法のまとめ p.129
第5章 画素分割電圧制御(VCDP)法 p.133
5.1 VCDP法の構成 p.133
5.2 ノーマリホワイト表示VCDP法の視角特性 p.135
5.3 ノーマリブラック表示VCDP法の視角特性 p.139
5.4 まとめ p.146
第6章 画素分割配向制御(ACDP)法 p.148
6.1 基本構成ACDP形LCDの視角特性 p.148
6.2 視角特性の分子配列依存性 p.153
6.3 視角特性のツイスト角依存性 p.158
6.4 視角特性の分割画素の面積比率依存性 p.160
6.5 ACDP形LCDの視角特性のセル条件依存性のまとめ p.160
6.6 ACDP形LCDの作製プロセスとその問題点 p.163
6.6.1 各種ACDP形LCD作製に必要なプロセス技術 p.163
6.6.2 異種配向膜パターニングプロセスの問題 p.166
6.6.3 マスクラビングプロセスの問題 p.168
6.6.4 上下基板での配向膜の非対称性の問題 p.169
6.7 まとめ p.173
第7章 基板表面突起によるプレチルト角制御 p.175
7.1 微小粒子をポリイミド配向膜に混入した時のプレチルト角変化 p.175
7.2 三角形状突起によるプレチルト角変化 p.178
7.3 三角形状突起を利用したACDP形液晶セルの特性 p.186
7.4 まとめ p.188
第8章 総括 p.190
謝辞
付録‐A TNセルの分子配向計算
付録‐B 液晶セルの光学計算
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 視角依存性が大きいことが現在のLCD(液晶表示装置)の性能上の最大の課題であり、これを改善することが本研究の目的である。
 まず最初に、視角特性の評価法について検討した。2値表示を行う各種方式のLCDの視角特性について、主観評価と色彩工学的パラメータを用いた心理物理的評価とを行い、その結果を比較することにより以下が分かった。人間の視感は暗状態よりも明状態の心理物理量を重要と感じ、また、視角を変化させた時の心理物理量の絶対値よりも、その変化率に対して敏感である。そして、色彩工学的評価パラメータとして「色相角差」を用いる方法が2値表示LCDの視野角の適切な評価法であることが分かった。
 一方、階調表示時に発生する反転・黒潰れ・白抜けなどの各種表示不良の視角依存性を定量的に評価する方法(Iso‐REC特性)を提案した。これにより、これら表示不良の無い正常表示領域が簡単に分かり、この領域内での等コントラスト特性を見易く表示できた。このIso‐REC法により、視角特性改善のための各種手法が効果を定量的に評価した。
 まず、TN‐LCDにおける各種セルパラメータやユニフォーム配列とハプレイ配列の違いが視角特性に与える影響を検討し、以下のことが分かった。偏光板配置はノーマリホワイト表示のEモード偏光板配置が良く、また、リタデーションは小さい方が良い。液晶材料のK33/K11は小さいほど、K33/K22は大きいほど視角特性が良くなるが、△ε/ε⊥はほとんど影響が無かった。ツイスト角を80°にすると90°に比べ上方位の反転が改善するが、黒潰れの改善効果は小さかった。スプレイ配列は液晶層中のリタデーションの自己補償効果により反転が抑制されると期待できたが、その効果は僅かであった。以上のように、TN‐LCDの各種セル条件が視角特性に与える影響を明らかにすることが出来たが、その視角特性改善効果は大きくなかった。
 次に、TNセルと偏光板の間に各種の光学異方層を挿入する方法を提案しこの効果について検討した。正または負の一軸性光学異方層により、視角特性を変化させることが可能であるが、コントラスト比や反転が改善する方位とこれらが劣化する方位とがトレードオフとなる。旋光性が小さい捩れ光学異方層は負の一軸性光学異方層と同等の特性を示した。一方、旋光性が大きい捩じれ光学異方層を用いた場合、そのd/p(厚み/捩じれピッチ)値と捩じれ方向により等コントラスト曲線の位置を制御出来、反転や黒潰れの無い領域にコントラスト比の高い領域を移動することが可能なので、実用的な視野角が拡大出来る。本手法はTNセルの構成を変えることなく容易にその視角特性を改善できることが特長であるが、その改善効果は不十分であった。
 次に、単位画素を分割しそれぞれの画素で印加電圧を変える手法(VCDP法)について検討した。ノーマリホワイト表示の場合、反転は改善するが、黒潰れの改善は小さかった。これは、黒潰れ現象が、入射角を大きくした場合のT‐V曲線が正面と比べて低電圧側にシフトすることに起因しており、VCDP法においてもこのシフトが原理的にあるためである。ノーマリブラック表示の場合、反転・黒潰れ・白抜けのほとんど無い非常に広い視野角を得ることができるが、旋光分散による色付きや低コントラスト比の問題があり、実用的では無い。以上から、VCDP法は特殊用途を除いては有効な手段ではないことが分かった。
 次に、単位画素を分割しそれぞれの画素で配向方向を変える手法(ACDP法)について検討した。ACDP法ではノーマリホワイト表示でも反転や黒潰れ、白抜けがほとんど無く、視角特性の改善手法としてはACDP法が最も適していると結論した。この手法には、異種配向膜パターニングあるいはマスクラビングのプロセス技術が必要であり、これを実用化するには、高耐溶剤性・高保持率の低温焼成配向膜並びに、高耐ラビング性のレジスト材料の開発が必要である。また、上下基板の配向膜が非対称な時、セル内に直流バイアス電圧が発生しフリッカや焼き付きの原因となるという問題を指摘した。
 最後に、ACDP形LCDを得るための新しい配向制御法を開発した。基板表面に三角形状突起を設けラビング方向と三角形状の関係を変えることによりプレチルト角が変わることを見出だし、この現象を利用しACDP形LCDが作製できることを示した。このLCDは上下配向膜が対称で直流バイアス電圧の発生が無いことが特徴である。また、ラビング法によるプレチルト角の発現が基板表面のトポグラフィに大きく依存していることも示唆した。
 以上に述べた各種の検討により、TNセルの視角特性を改善する手法が明確になった。

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