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Complexation of Sugars in Water and Molecular Recognition Therein.

The Importance of Hydrophobic Contribution
(糖質の水中での錯形成と分子認識における疎水性効果の重要性)

氏名 長井 淑郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第89号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 Complexation of Sugars in Water and Molecular Recognition Therein. The Importance of Hydrophobic Contribution.(糖質の水中での錯形成と分子認識における疎水性効果の重要性)
論文審査委員
 主査 教授 青山 安麿
 副査 助教授 戸井 哲夫
 副査 教授 鈴木 秀松
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 助教授 西尾 嘉之

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Contents
General Introduction p.1
Chapter 1 Selective Binding of Sugarto β-Cyclodextrin: A Prototype for Sugar-Sugar Interactions in water p.5
Chapter 2 Host-Guest Complexation ofOligosaccharides: Interaction of Maltodextrins with Hydrophobic Fluorescence probes in Water p.25
Chapter 3 Stabilization of Sugar-Boronic Esters of Indolylboronic Acid in Water via Sugar-Indole Interaction: A Notable Selectivity in Oligosaccharides p.36
Chapter 4 Preparation of Porphyrins Having Phenylboronic Acid Groups p.56
List of Publications p.68

 この研究は糖の水中での捕捉と分子認識を目的に行なわれた。糖は重要な情報性の生体分子である。特に近年、細胞表層のオリゴ糖鎖が細胞の分化・増殖、ウィルスの感染や細胞接着においてトリガーとして働いていることが示唆される。このため、糖類の役割についての研究が活発に行なわれてきたが、その根幹である「糖の構造識別」の解明をめざした研究は皆無に近い。このような観点から本研究では、糖の水中での錯形成と分子認識について検討した。糖は極性が高く極めて水溶性であるが、同時に疎水性も有している。このような疎水性に着目し、それに立脚した糖の捕捉について検討した。
 論文は4章から構成される。第一章では、水中におけるβ‐シクロデキストリンと糖との相互作用について述べる。シクロデキストリンは水中で疎水性化合物をその疎水性空孔に取り込むことがよく知られている。五炭糖(アルドペントース)もまたその空孔内に包接されることが蛍光プローブであるANSに対する競争阻害効果や13C-NMRスペクトルの変化から確認された。結合定数はアルドペントースの疎水性度の減少にともない低下する傾向を示した。その順番と結合定数は以下の通りである。メチルリボシド(14)>デオキシリボース(9.4)>リボース(5.3)>リクソース(4.3)>キシロース(1.0)>アラビノース(0.7M-1)。一方、六炭糖(アルドヘキソース)とその誘導体は、β‐シクロデキストリンとの相互作用を全く示さなかった。特に、フコース、メチルフコシドは極めて疎水的な糖であるにもかかわらずである。これらの事実は、β‐シクロデキストリンと糖との錯形成の駆動力は疎水性楮作用であるが、糖の水酸基と水分子あるいはβ‐シクロデキストリンとの極性相互作用にともなう立体障害の有無がその選択性を左右する重要な因子であることを示している。これは、水中での糖-糖相互作用を明らかにした最初の例である。
 第二章では、直鎖オリゴ糖と疎水性ゲストとの相互作用について述べる。β‐1,4結合で連結された直鎖のグルコースオリゴマーであるマルトデキストリンが疎水性の蛍光プローブ(1,8-ANS,2,6-TNS)と水中において1:1の錯体を形成することが蛍光法により確認された。その結合定数は、オリゴ糖の鎖長(グルコース単位の繰り返し数)が4から7へと長くなるにつれて増大する。また7量体ですら結合能力そのものは低いものの、そのゲスト取り込み場は対応する環状の類似体であるβ‐シクロデキストリンと同様の非極性場を有していることより、誘導適合(induced‐fit)型の取り込みが示唆された。
 第三章では、水中でのオリゴ糖とインドリルホウ酸との錯形成について述べる。芳香族のホウ酸類は、単糖とホウ酸エステルを形成することが知られている。しかしながら、オリゴ糖との相互作用は極めて弱い。インドリルホウ酸は、還元糖とホウ酸エステルを形成することのできるホウ酸部位と、オリゴ糖と疎水性の相互作用をするインドール環を有している。この二つの相互作用の共同効果によってオリゴ糖の構造識別が可能となった。蛍光法または11B-NMR法により求められた結合定数は、(1) 糖鎖が長くなるにつれて増大する、(2)グリコシド結合の立体化学について選択的である(α‐アノマーの結合定数はβ‐アノマーのそれより大きい)、(3) グリコシド結合の結合位置について選択的である(1,6‐二糖が1,4‐二糖より強く捕捉される)。このように、多重相互作用を用いることによって、オリゴ糖における構成単糖の種類だけでなく、立体化学や結合位置の違いを識別することが可能であることが明らかにされた。
 第四章では、フェニルホウ酸を有するポルフィリンの合成について述べる。このホウ酸基を有するポルフィリン化合物は、がん治療の手段の一つとして考えられている中性子線捕捉療法のホウ素キャリヤーへの応用を念頭において合成された。これらのポルフィリン化合物は中性の水に溶解性を示さなかったが、ホウ酸部位をマルチトール等の糖誘導体と錯形成させることにより水溶性にすることができた。またこの化合物が、がん細胞への集積性を示すことも明らかとなった。

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