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燒結高速度鋼の破壊じん性および疲労強度に関する研究

質量分析計を用いた電子衝撃による気相有機化合物のメタステーブル分解

氏名 西田 友久
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第36号
学位授与の日付 平成5年12月15日
学位論文の題目 焼結高速度鋼の破壊じん性および疲労強度に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 武藤 睦治
 副査 教授 田中 紘一
 副査 教授 栗田 政則
 副査 助教授 長谷川 光彦
 副査 助教授 福澤 康
 副査 助教授 岡崎 正和

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目次
第1章 序論 p.1
参考文献
第2章 焼結高速度鋼の破壊じん性評価 p.10
2.1 緒言 p.10
2.2 供試材および実験方法 p.11
2.2.1 供試材 p.11
2.2.2 圧縮法(BI法)による予き裂の導入 p.11
2.2.3 FP法による疲労予き裂の導入 p.15
2.2.4 破壊じん性試験 p.15
2.2.4.1 破壊じん性試験 p.15
2.2.4.2 表面あらさ測定 p.17
2.2.4.3 顕微鏡観察 p.17
2.3 実験結果および考察 p.17
2.3.1 BI法による予き裂の導入 p.17
2.3.2 BI法による予き裂導入に関する検討 p.20
2.3.3 破壊じん性値 p.25
2.3.4 破面観察結果 p.25
2.3.5 破壊じん性評価法に関する検討 p.28
2.3.6 焼結高速度鋼の破壊じん性値について p.32
2.4 結言 p.32
参考文献
第3章 焼結高速度鋼の破壊じん性に及ぼす酸素分有量の影響 p.34
3.1 緒言 p.34
3.2 供試材および実験方法 p.34
3.2.1 供試材 p.34
3.2.2 引張試験 p.35
3.2.3 破壊じん性試験 p.37
3.3 実験結果および考察 p.38
3.3.1 引張強さ p.38
3.3.2 破壊じん性値と酸素含有量の関係 p.38
3.3.3 引張強さに及ぼすき裂発生核の影響 p.38
3.3.4 破壊じん性値と鍛造比の関係 p.43
3.3.5 破壊じん性値に及ぼす酸素含有量の影響 p.43
3.4 結言 p.47
参考文献
第4章 焼結高速度鋼の強度および破壊じん性に及ぼす炭化物粒径と含有量の影響 p.49
4.1 緒言 p.49
4.2 供試材および実験方法 p.49
4.2.1 供試材 p.49
4.2.2 引張および曲げ強度試験 p.53
4.2.3 破壊じん性試験 p.53
4.3 実験結果および考察 p.54
4.3.1 引張および曲げ強度 p.54
4.3.2 破壊じん性値と炭化物粒径の関係 p.57
4.3.3 引張強度および曲げ強度に及ぼす炭化物粒径の影響 p.59
4.3.4 炭化物粒径と炭化物含有量について p.62
4.3.5 破壊じん性値と炭化物粒径および見かけ炭化物含有量の関係 p.64
4.4 結言 p.67
参考文献
第5章 焼結高速度鋼のフレッティング疲労特性 p.69
5.1 緒言 p.69
5.2 供試材および実験方法 p.69
5.2.1 供試材 p.69
5.2.2 通常疲労試験 p.71
5.2.3 疲労き裂伝ぱ試験 p.71
5.2.4 フレッティング疲労試験 p.73
5.2.4.1 フレッティング疲労試験 p.73
5.2.4.2 相対すべり量測定法 p.76
5.2.4.3 摩擦力(接線力)測定法 p.76
5.2.4.4 表面あらさ測定 p.76
5.2.4.5 顕微鏡観察 p.76
5.3 実験結果および考察 p.80
5.3.1 通常疲労強度 p.80
5.3.2 通常疲労の疲労限について p.81
5.3.3 疲労き裂伝ぱ挙動 p.83
5.3.4 フレッティング疲労強度 p.85
5.3.5 疲労強度と硬さの関係 p.93
5.3.6 フレッティング疲労寿命の推定 p.93
5.4 結言 p.96
参考文献
第6章 焼結高速度鋼のフレッティング疲労特性におよぼす炭化物粒径と含有量の影響 p.98
6.1 緒言 p.98
6.2 供試材および実験方法 p.98
6.2.1 供試材 p.98
6.2.2 通常疲労試験 p.100
6.2.3 疲労き裂伝ぱ試験 p.100
6.2.4 フレッティング疲労試験 p.100
6.3 実験結果および考察 p.101
6.3.1 通常疲労強度 p.101
6.3.2 疲労き裂伝ぱ挙動 p.101
6.3.3 通常疲労強度に及ぼす炭化物粒径の影響 p.105
6.3.4 フレッティング疲労強度 p.106
6.3.5 疲労強度と硬さの関係 p.109
6.3.6 フレッティング疲労寿命の推定 p.111
6.3.7 炭化物と各種強度および摩耗特性の関係 p.113
6.4 緒言 p.114
参考文献
第7章 多孔質高強度焼結鋼のフレッティング疲労特性 p.116
7.1 緒言 p.116
7.2 供試材および実験方法 p.116
7.2.1 供試材 p.116
7.2.2 通常疲労試験 p.119
7.2.3 疲労き裂伝ぱ試験 p.119
7.2.4 フレッティング疲労試験 p.120
7.2.5 フレッティング摩耗試験 p.120
7.3 実験結果および考察 p.122
7.3.1 通常疲労強度 p.122
7.3.2 疲労き裂伝ぱ挙動 p.122
7.3.3 フレッティング疲労強度 p.125
7.3.4 フレッティング摩耗特性 p.127
7.3.5 フレッティング疲労寿命の推定 p.136
7.3.6 多孔質高焼結鋼と焼結高速度鋼の疲労特性の比較 p.139
7.4 緒言 p.141
参考文献
第8章 結論 p.143
謝辞

 焼結高速度鋼は従来の溶製高速度鋼に比べ均一微細な一次炭化物を多量に含有でき、溶製鋼では添加不可能な元素も加えることもできるため、耐摩耗性に優れ、かつ安定した製品が得られる。このため近年では、機械構造用部材や事務用機器部材などに広く採用されるようになり、その破壊じん性および疲労特性を明らかにすることが強く強く望まれている。また、同鋼がプリンタのドットピンや金型などの摺動部にも使用されていることを考慮すると、設計の観点からもフレッティング疲労特性について十分検討しておく必要があると思われる。しかし、これらに関する研究は少なく、必ずしも明らかではないのが現状である。
 そこで本研究は焼結高速度鋼をとりあげ、同鋼の破壊じん性評価法を確立するとともに、それらを用いた機械構造物設計の立場および材料開発の観点から破壊じん性、疲労特性およびフレッティング疲労特性を明らかにすることを目指した。
 第1章では、焼結鋼の特徴および本研究の目的と意義を示した。
 第2章では、2種類の予き裂の導入方法(BI法および疲労予き裂法)を利用して破壊じん性試験を行い、金属材料よりむしろセラミックスに近い低じん性材料である高速度鋼の破壊じん性評価法について検討した。その結果、BI法により導入された予き裂は、その先端近傍に明瞭な損傷領域が存在していたのに対し、疲労予き裂法により導入された予き裂は、BI法のような損傷領域は認められず理想的な予き裂であることが明らかとなった。BI法により求めたKIC値が疲労予き裂法により求めたそれより低い値を示したのは、上述のBI法予き裂先端での損傷領域の形成に起因したものと考えられ、高速度鋼のじん性評価に際しては疲労予き裂の導入が必須であることが示された。
 第3章では、粉末を製造する際、その表面の酸化が材料強度に大きな影響を及ぼすと考えられるので、工業的な範囲内で酸素含有量を変化させた焼結高速度鋼を用いて引張強度試験および破壊じん性試験を行い、引張強度および破壊じん性値に及ぼす酸素含有量の影響について検討した。その結果、引張強さには明瞭な酸素含有量依存性は認められず、むしろき裂発生核となる表面欠陥寸法が強度に対する支配的な因子となっていた。また、酸素含有量を変化させた材料を用いた破壊じん性試験の結果、酸素含有量の増加とともにわずかに破壊じん性値が低下する傾向も認められるが、全般的には顕著でなく、酸素含有量が80~130ppm程度の範囲では酸素含有量の影響はないと考えてよいことがわかった。
 第4章では、機械的性質や耐摩耗性に大きな影響を及ぼす炭化物粒径を変化させた焼結高速度鋼を製作し、強度試験および破壊じん性試験を行い、強度および破壊じん性値に及ぼす炭化物粒径の影響について検討した。本供試材においては、炭化物粒径が小さいほど破壊じん性値が低下するという、一見特異な傾向を示した。これは、炭化物粒径を変化させるための熱処理にともない破壊に関与する比較的大きな炭化物の含有量(見かけの炭化物含有量)も変化し、炭化物粒径が小さいほどこの見かけの炭化物含有量が増大するため破壊じん性値が低下したものと推察される。
 第5章では、溶製ならびに焼結高速度鋼を用い、通常疲労、疲労き裂伝ぱ及びフレッティング疲労試験を行い、溶製鋼と焼結鋼の基本的疲労特性を調べ、比較検討した。通常疲労特性およびフレッティング疲労特性はいずれも微細均一な炭化物を含有する焼結高速度鋼の方が粗大偏析した炭化物を含有する溶製高速度鋼に比べ優れており、機械構造用部材として有望であることを示した。
 第6章では、前章で疲労強度には炭化物粒径の影響が顕著であることが明らかとなったので、炭化物の粒径を変化させた4種類の材料を製作し、通常疲労、疲労き裂伝ぱおよびフレッティング疲労試験を行い、これらの疲労特性に及ぼす炭化物粒径および見かけの含有量の影響について検討した。その結果、粒径の微細化は破壊起点寸法の低下をもたらし引張強さおよび疲労強度に効果的であること、見かけの含有量の増大は破壊じん性値を低下させるが、一方、摩擦係数の低下をもたらすなど摩擦・摩耗特性を向上させるためフレッティング疲労強度に有効であることなどが明らかとなった。
 第7章では、高含有率の炭化物が特徴の高速度鋼に対し、多くの焼結機械部材として用いられる焼結鋼に共通である、空孔を含有する高強度焼結鋼の通常疲労、疲労き裂伝ぱおよびフレッティング疲労試験を行い、空孔を有する焼結鋼の基本的疲労特性について詳細に検討するとともに、炭化物含有高速度鋼の疲労強度特性と比較検討した。その結果によると、空孔の存在は疲労強度の低下をもたらすが、摩耗粉のトラップ源となり、摩擦係数の顕著な低下をもたらし、フレッティングの作用による疲労強度の低下は、炭化物含有の高速度鋼よりも小さかった。このことは、フレッティング疲労対策における、多孔質材利用の有効性を示唆するものである。
 第8章「結論」では、以上の各章の結論を総合・要約して本論文の結論とした。

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