段ボール原紙及び段ボールシートの力学特性に関する研究
氏名 石渕 浩
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第84号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 段ボール原紙及び段ボールシートの力学特性に関する研究
論文審査委員
主査 教授 吉谷 豊
副査 教授 秋山 伸幸
副査 教授 宮田 保教
副査 助教授 古口 日出男
副査 講師 永澤 茂
副査 青山学院大学 助教授 佐久田 博司
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目次
緒論 p.3
第1章 研究の背景と目的 p.3
1.1 研究の背景 p.3
1.2 従来の研究と本研究の位置付け p.5
1.3 本研究の目的 p.7
1.4 本論文の構成 p.7
第1部 段ボール原紙の力学特性 p.9
第2章 温度・湿度履歴に伴う伸縮挙動 p.11
2.1 緒言 p.11
2.2 実験条件 p.12
2.2.1 供試材料 p.12
2.2.2 実験装置 p.12
2.2.3 実験方法 p.13
2.3 実験結果と検討 p.16
2.3.1 湿度履歴を与えた場合の伸縮挙動 p.16
2.3.2 温度履歴を与えた場合の伸縮挙動 p.16
2.3.3 温度と湿度履歴を与えた場合の伸縮挙動 p.19
2.4 結言 p.22
第3章 引張り特性 p.23
3.1 緒言 p.23
3.2 応力-ひずみ解析 p.24
3.2.1 力学モデルの適用 p.24
3.2.2 クリープ特性に及ぼす温度・湿度履歴の影響 p.29
3.3 結言 p.32
第4章 曲げ特性 p.33
4.1 緒言 p.33
4.2 スプリングバック解析 p.34
4.2.1 力学モデルの適用 p.34
4.2.2 スプリングバックに及ぼす温度・湿度履歴の影響 p.39
4.3 残留応力解析 p.41
4.3.1 力学モデルの適用 p.41
4.3.2 残留応力に及ぼす温度・湿度履歴の影響 p.43
4.4 結言 p.45
第5章 破壊特性 p.46
5.1 緒言 p.46
5.2 破壊角と破壊強度の予測 p.47
5.2.1 予測式の適用 p.47
5.2.2 繊維配向に伴う破壊角の予測 p.50
5.2.3 繊維配向に伴う破壊強度の予測 p.55
5.3 結言 p.60
第2部 段ボールシートの力学特性 p.61
第6章 湿度履歴に伴う反り挙動 p.63
6.1 緒言 p.63
6.2 実験条件 p.64
6.2.1 供試材料 p.64
6.2.2 実験装置 p.64
6.2.3 実験方法 p.64
6.3 実験結果と検討 p.68
6.3.1 初期湿度を上げた場合の反り挙動 p.68
6.3.2 初期湿度を下げた場合の反り挙動 p.71
6.4 結言 p.74
第7章 反り特性 p.75
7.1 緒言 p.75
7.2 反り変形予測 p.76
7.2.1 予測式の適用 p.76
7.2.2 反りに影響を及ぼすパラメータ p.82
7.3 結言 p.85
第8章 曲げ特性 p.86
8.1 緒言 p.86
8.2 曲げに伴う反力挙動 p.87
8.2.1 実験条件 p.87
8.2.2 反力挙動に及ぼす繊維配向, 罫線深さの影響 p.90
8.3 曲げ応力解析 p.92
8.3.1 FEM解析条件 p.92
8.3.2 曲げに伴う変形と応力状態 p.97
8.3.3 曲げ応力に及ぼす材料特性の影響 p.104
8.3.4 曲げ応力に及ぼす加工条件の影響 p.109
8.4 結言 p.119
結論 p.123
謝辞 p.127
参考文献 p.128
研究業績 p.139
段ボールが包装材料として用いられてから100年以上が経過するにもかかわらず、段ボール原紙及び段ボールシートの引張り、曲げといった力学特性の解析・評価を行った研究はほとんどない。これは従来、段ボールは包装用として運搬できればよいものであり、強度及び精度に対してユーザーからの厳しい要求がなかったため、研究対象としても取り上げられなかったものと考えられる。しかし近年、段ボール製品のニーズの多様化及び段ボール製造技術の進歩に伴い、単なる包装材料としての必要物性に加え、高精度・高強度・加工適性、装飾性といった付加価値が要求されるようになってきた。
本研究では段ボール原紙と段ボールシートのモデル化を行ない、従来明らかにされていなかった基本的で重要な特性である、段ボール原紙の引張り、曲げ、破壊特性と段ボールシートの反り、曲げ特性を解析・評価することにより、段ボール原紙と段ボールシートの強度特性、生産性、使用適性の向上を図る一指針を与えたものである。
本論文は、「段ボール原紙の力学特性」を扱った第2章から第5章と、「段ボールシートの力学特性」を扱った第6章から第8章に、「諸論」(第1章)と「結論」を加えた構成となっている。
第1章「研究の背景と目的」では、段ボール原紙と段ボールシートに要求される物性を列挙し、これらの力学特性を解析する必要性を論じた。更に、段ボール原紙と段ボールシートの力学特性に関する従来の研究状況を概観し、本研究の位置付けを明確にした。そのうえで、本研究の目的を述べ、本論文の構成をまとめた。
第2章「温度・湿度履歴に伴う伸縮挙動」では、段ボール原紙の力学モデルを導出する前の基礎データとして、定量的な温度・湿度履歴を与えた段ボール原紙の伸縮挙動を明らかにした。
第3章「引張り特性」では、段ボール原紙の引張り特性を解析するために、真応力と真ひずみ、及び真ひずみ速度との間に非線形性が存在する力学モデルを提案し、材料定数、ひずみ硬化指数、ひずみ速度依存性指数を求めることにより、クリープ特性を解析できることを示した。更にこの力学モデルを用い、温度・湿度履歴を与えた段ボール原紙のクリープ特性について評価を行なった。
第4章「曲げ特性」では、第3章で導出した力学モデルを段ボール原紙の曲げ特性解析に適用することを試み、材料定数、ひずみ硬化指数、ひずみ速度依存性指数を求めれば、スプリングバックと曲げによる残留応力解析が可能であることを示した。更に、スプリングバック及び曲げによる残留応力分布に及ぼす温度・湿度履歴の影響について調べた。
第5章「破壊特性」では、従来からの破壊条件式を基に、抄造(繊維)方向、妙造方向に対し垂直方向の破壊強度及びせん断破壊強度を求めることにより、き裂のない段ボール原紙の任意の繊維配向における破壊角と破壊強度を予測可能な条件式の適用を試みた。そのうえで、破壊強度の異方性とせん断破壊強度を変えた場合の、繊維配向に伴う破壊角と破壊強度の予測を行なった。
第6章「湿度履歴に伴う反り挙動」では、段ボールシートの力学モデルを導出する前の基礎データとして、初期湿度を上げた場合と下げた場合について、定量的な湿度履歴を与えた段ボールシートの反り挙動を明らかにした。
第7章「反り特性」では、中芯を平板に置換した3層構造モデルに複合材料力学のLamination theoryを適用することにより、段ボールシートの簡易的反り予測式を導出した。そのうえで、曲げ反り及びねじれ反りと水分変化、弾性係数、伸縮率、繊維配向角差、モーメント、厚さとの関係を明らかにした。
第8章「曲げ特性」では、段ボールシートの反力挙動を測定し、反力に及ぼす繊維配向、罫線深さの影響について調べた。また、有限要素法による3次元大変形弾塑性解析を行ない、段ボールシートの曲げに伴う変形及び応力状態を把握した。そのうえで、曲げ応力に及ぼす中芯の縦弾性係数、ポアソン比の影響、並びに、回転体との摩擦係数、接触面積及び、段ボールシートの取付工具角度の影響について検討を行なった。
最後に結論において、本研究で得られた結果をまとめ、段ボール原紙及び段ボールシートのモデル化による力学特性の解析・評価が、これらの強度特性、生産性、使用適性の向上を図る一指針となり得ることを結論付けている。