化学分析情報の分離法に関するケモメトリックス的研究
氏名 中沢 章(新潟県)
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第39号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 化学分析情報の分離法に関するケモメトリックス的研究
論文審査委員
主査 教授 山田 明文
副査 教授 松下 和正
副査 教授 神林 紀嘉
副査 教授 小林 昇治
副査 東京工業大学 教授 徳田 耕一
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 ケモメトリックスとは p.1
1.2 化学分析におけるケモメトリックス p.2
1.2.1 ケモメトリックスの歩み p.3
1.2.2 パターン認識 p.6
1.2.3 検量の多変量化 p.8
1.2.4 多変量データの微分処理 p.9
1.3 本研究の目的と論文構成 p.9
文献
第2章 定性分析における分析情報の分離方式 p.15
2.1 緒言 p.15
2.2 多変量併用抜取検定理論 p.15
2.2.1 多変量併用検定とは p.15
2.2.2 線形判別関数による特性値の総合化 p.17
2.2.3 多変量一回抜取検定法 p.18
2.2.4 多変量併用逐次抜取検定 p.21
2.2.5 2変量併用抜取検定 p.24
2.3 因子負荷量検索法 p.32
2.3.1 波形検索について p.32
2.3.2 因子負荷量を利用した波形検索法 p.32
2.3.3 主成分スコア・データ・ベースの作成 p.34
2.3.4 データ・ベースの因子負荷量検索法 p.36
2.4 結言 p.37
文献
第3章 定量分析における分析情報の分離方式 p.41
3.1 緒言 p.41
3.2 因子負荷量による濃度比検量法 p.43
3.2.1 濃度比-因子負荷量曲線の作成 p.43
3.2.2 濃度比の推定法 p.46
3.3 偏回帰係数比法による濃度比検量法 p.47
3.3.1 測定点の選定 p.47
3.3.2 波形スペクトルへの重回帰モデルの適用 p.48
3.3.3 濃度比の推定法 p.49
3.4 高次微分法による重複波形特性の分離 p.51
3.4.1 原波形と微分波形との関係 p.51
3.4.2 微分による重複波形特性の分離 p.53
3.4.3 微分波形による目的情報の増大化 p.57
3.5 結言 p.63
文献
第4章 有機元素分析における判別問題 p.67
4.1 緒言 p.67
4.2 問題の設定 p.67
4.3 拡張逐次検定法と多変量併用抜取検定との相違 p.69
4.4 判別方法と実験回数との比較 p.71
4.5 炭水素分析値間の相関関係 p.73
4.6 結言 p.74
文献
第5章 因子負荷量を利用した赤外スペクトル検索法 p.76
5.1 緒言 p.76
5.2 赤外スペクトル因子負荷量検索法の概要 p.76
5.3 赤外スペクトル小規模データ・ベースの作成 p.81
5.3.1 実験および標準化合物 p.81
5.3.2 データ・ベースの作成 p.81
5.4 因子負荷量法によるデータ・ベースの検索 p.84
5.5 結言 p.86
文献
第6章 吸光光度法による濃度比推定への因子負荷量の応用 p.88
6.1 緒言 p.88
6.2 赤外定量分析への因子負荷量検量法の応用 p.88
6.2.1 濃度比-因子負荷量曲線の作成 p.89
6.2.2 濃度比の推定法 p.92
6.3 実験 p.92
6.3.1 装置および試薬 p.92
6.3.2 測定およびデータ処理 p.93
6.4 実験結果と考察 p.93
6.4.1 固有値、固有ベクトルについて p.93
6.4.2 濃度比と第2主成分因子負荷量との関係 p.96
6.5 結言 p.97
文献
第7章 パルス・ポーラログラフィーによる濃度比推定への因子付加量の応用 p.99
7.1 緒言 p.99
7.2 モデイファイド・パルスポーラログラフィーへの因子負荷量法の応用 p.100
7.2.1 濃度比-因子負荷量曲線の作成 p.100
7.2.2 濃度比の推定法 p.102
7.3 実験 p.102
7.3.1 測定装置およびデータ処理 p.102
7.3.2 試薬および電解セル p.103
7.4 実験結果と考察 p.103
7.4.1 固有値、固有ベクトルについて p.103
7.4.2 濃度比と第2主成分因子負荷量との関係 p.106
7.4.3 濃度比-因子負荷量曲線に及ぼす測定範囲の影響 p.107
7.5 結言 p.109
文献
第8章 赤外分析への偏回帰係数比法の応用 p.111
8.1 緒言 p.111
8.2 理論 p.111
8.2.1 測定点の選定 p.111
8.2.2 赤外スペクトルへの重回帰モデルの適用 p.112
8.2.3 混合物の定量分析への偏回帰係数比法の応用 p.113
8.3 実験 p.115
8.3.1 測定装置および試薬 p.115
8.3.2 実験方法 p.116
8.4 実験結果と考察 p.116
8.4.1 KBr錠剤法による分析 p.116
8.4.2 溶液法による分析 p.118
8.5 結言 p.120
文献
第9章 微分化モデイファイド・パルスポーラログラフィーによる拡散係数の決定 p.122
9.1 緒言 p.122
9.2 理論 p.122
9.2.1 標準比較法 p.122
9.2.2 1次微分比較法 p.124
9.2.3 2次微分比較法 p.128
9.3 実験 p.132
9.4 実験結果と考察 p.133
9.5 結言 p.135
文献
第10章 微分化モデイファイド・パルスポーラログラムの主成分分析 p.137
10.1 緒言 p.137
10.2 方法 p.138
10.3 実験 p.140
10.3.1 測定装置およびデータ処理 p.140
10.3.2 試薬および電解セル p.140
10.4 実験結果と考察 p.141
10.4.1 固有値、固有ベクトルについて p.141
10.4.2 濃度比と第2主成分因子負荷量との関係 p.146
10.4.3 濃度比-因子負荷量曲線に及ぼす測定範囲の影響 p.147
10.5 結言 p.150
文献
第11章 結論 p.153
後記 p.161
謝辞 p.164
化学分析機器のコンピュータ化により、大量にデータが得られるようになったが、従来の分析手法では、波形ピーク位置における吸光度だけ利用といったように、得られた全情報のほんの一部分を利用するだけで、多くの情報は無駄に捨てられている。そこで、重複波形などの全情報を積極的に活用する新しい手法の開発が必要となってくる。従って、波形や諸特性から如何に情報を効率よく抽出するかということは、今後のケモメトリックスの一つの大きな課題であると思われる。
以上のような考えのもとで、従来どちらかと言うと避けて通ってきた重複波形などを積極的に活用するための化学分析法を確立する目的で、極めて似通った分析情報が重複して存在している場合を取り上げ、その全データを極力活用して、各情報が持っている特徴を効率よく抽出し、利用する「化学分析情報のソフト的分離法」を開発し、それらを定性分析と定量分析へ応用した。従来の化学分析諸手法が1変量データを如何に効率よく使用するかということを目的とした技法とすれば、本研究で開発したケモメトリックス的手法は多変量データを如何に効率よく活用出来るかということを目的とした技法である。以下、開発した諸手法の概要について述べる。
定性分析における分析情報のソフト的分離法としては、定性分析を「判別」と「検索」とに大別し、それぞれに線形判別関数と主成分分析を導入して、開発した「判別」は、分析情報から判別対象がAか、Bかを判定することで、このために既存の1変量抜取検査理論へ多変量の要約関数である線形判別関数を導入して、「多変量併用抜取検定理論」を開発した。「検索」は、多数の分析情報群から、ある条件を具備した情報のみを見つけ出すことで、このために従来の波形検索方式へ主成分分析を導入して、「因子負荷量検索法」を開発した。
定量分析における分析情報のソフト的分離法としては、「多成分系において得られる極めて重複した波形情報から、含有成分情報を定量的に分離する」ことを目的とし、主成分分析、重回帰分析、微分処理を応用した定量法を確立した。
重複波形を主成分分析処理して得られた因子負荷量が含有成分の濃度比に比例することを利用して「因子負荷量検量法」を、重複波形に重回帰モデルを適用し、得られた偏回帰係数の比と濃度比との間に直線関係があることを利用して「偏回帰係数比法」を、重複波形を微分することによって、新しく生じるピークの分離能が向上することを利用して「変曲点微分法」を、それぞれ開発した。
これら諸手法を実際に定性および定量分析へ応用した結果、次のような有用な知見を得た。
「多変量併用抜取検定」の応用例として、「未知物質が予め推定された2つの分子式のいずれに該当するかを元素分析法によって判定する問題」に適用し、従来の方法より大幅に実験回数が減少することを、実測されたコレステロールの炭水素分析値をもとに実証した。また、「因子負荷量検索法」の赤外スペクトル検索への応用のため、赤外スペクトルの小規模データ・ベースを作成し、データ・ベースに格納する1化合物当りのレコードの大きさと誤検索率との関係を実験データをもとに考察し、検索ヒット率の大変良い検索法であることが分かった。
「因子負荷量検量法」を混合物の赤外定量分析へ応用し、考察した。比較的波形が良く分離しているm-およびp-キシレン混合物と、極めて波形が重複しているZnおよびCu-8-ヒドロシキノレート共沈殿物とについて、その重複波形に主成分分析を施した結果、第1主成分が重複度を表す因子、第2主成分が濃度比を表す因子で、その因子負荷量と濃度比との間には比例関係が成立した。「因子負荷量検量法」の電気分析法への応用例として、モディファイド・パルスポーラログラフィー(MPP)による混合物の定量について検討した。極めて半波電位が接近しているPb2+とTl+との混合重複ポーラログラムについて主成分分析を行い、赤外分析同様、第2主成分因子負荷量と濃度比との間に比例関係を見い出した。
「偏回帰係数比法」の赤外スペクトルによる混合物の定量分析への応用例として、極めて波形が重複しているZnおよびCu8-ヒドロキシキノレート共沈殿物について検討し、偏回帰係数比と濃度比との間の直線関係を利用して、含有成分濃度比の高感度定量法を開発した。
「変曲点微分法」については、MPPによる拡散係数の決定へ応用した。山田らによって提案された「比較法」へ微分処理を導入して、新たに開発した「1次微分比較法」、「2次微分比較法」をPb2+-Tl+系へ適用して、極めて重複したポーラログラムからも容易に拡散係数を推定出来ることを示した。また、「微分波形の主成分分析による評価法」を微分化MPPに適用し、波形の微分化によって、元の波形のもっていた濃度比に関する情報が増大することを実験的に検証した。