地震被害と地盤構造の関係に関する研究
氏名 那須 誠
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第44号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 地震被害と地盤構造の関係に関する研究
論文審査委員
主査 教授 小川 正二
副査 教授 清水 啓二
副査 教授 林 正
副査 教授 丸山 暉彦
副査 助教授 本城 勇介
[平成5(1993)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.
目次
第1章 緒論 p.1
1.1 まえがき p.1
1.2 耐震設計に関する研究 p.1
1.2.1 耐震設計法の流れ p.1
1.2.2 耐震設計に関する研究方法 p.2
1.4 本研究の目的 p.2
1.4 本論文の構成 p.3
参考文献 p.3
第2章 構造物が地震被害を受けた地盤の構造 p.6
2.1 地震被害を受けた盛土と地盤の構造の関係 p.6
2.2 地震被害を受けた建物と地盤の構造の関係 p.11
2.3 地震被害を受けた橋梁と地盤の構造の関係 p.19
2.4 地震被害と地盤構造の関係 p.27
2.4.1 地震被害が発生し易い地盤の形状 p.27
2.4.2 地震被害が発生し易い地盤の土質構成 p.32
2.5 地盤形状と土質構成から推定した地震被害発生機構 p.35
2.6 基礎工法から推定した地震被害発生機構 p.41
2.7 まとめ p.43
参考文献 p.44
第3章 現位置地盤振動と地盤構造の関係 p.48
3.1 振動測定の方法 p.48
3.2 地盤の振動特性 p.51
3.3 まとめ p.59
参考文献 p.60
第4章 地盤構造と地盤振動に関する模型実験 p.61
4.1 地震被害が生じた地盤構造の分類 p.61
4.2 模型実験に用いた模型と加振方法 p.63
4.3 振動実験による振動応答の特徴 p.71
4.4 地盤振動への地盤形状の影響 p.81
4.5 まとめ p.85
参考文献 p.85
第5章 有限要素法による地盤振動解析 p.86
5.1 解析モデルと解析条件 p.86
5.2 解析結果の一般的傾向 p.89
5.2.1 水平変位 p.89
5.2.2 加速度フーリエスペクトル比 p.94
5.3 地盤振動への軟弱地盤底面の傾斜位置の影響 p.94
5.4 地盤振動への地盤内極軟弱層の形態の影響 p.98
5.5 極軟弱層のひずみへの地震波の周波数特性の影響 p.103
5.6 常時微動測定結果と地震応答解析結果の比較 p.104
5.7 まとめ p.106
参考文献 p.107
第6章 耐震設計法と効果的な対策工法の検討 p.109
6.1 耐震設計法と効果的な対策工法の考え方 p.109
6.2 地盤の不同変位の減少工法 p.110
6.2.1 解析モデルと解析条件 p.110
6.2.2 Model-B~Cの加速度および変位応答 p.114
6.2.3 Model-D~Gの加速度および変位応答 p.122
6.2.4 軟弱地盤内のせん断応力 p.125
6.2.5 地盤改良範囲と対策効果の関係 p.125
6.3 地盤変形の拘束工法 p.130
6.4 建物と橋梁の地震対策工法の考え方 p.140
6.5 まとめ p.143
参考文献 p.144
第7章 結論 p.145
謝辞 p.146
参考図集 p.147
本論文は、盛土や建物、橋梁等の構造物の地震被害発生機構と対策工法を地盤構造から考察したものであり、「地震被害と地盤構造の関係に関する研究」と題し、以下の7章から構成される。
第1章「緒論」では、本研究の概要等について述べ、構造物の地震被害発生に及ぼす地盤の影響と、地盤・構造物を一体化した系の地震被害発生機構を明らかにして対策工法等を提案する必要があることを述べている。
第2章「構造物が地震被害を受けた地盤の構造」では、盛土や建物、橋梁等の地震被害事例を地盤構造に着目して調べ、地震被害の発生し易い地盤構造は構造物の種類によらず類似であり、それを形状と土層構成から分類した。被害は形状的には軟弱地盤底面が傾斜しているときや、構造物が軟弱地盤と硬い地盤に跨がっているとき、あるいは軟弱地盤の堆積する埋没谷を横断しているとき等に多く、土層構成的には地盤の中間深さに極軟弱粘性土層(腐植土層も含む)がある上下逆転型地盤で多い。さらに、被害形態が地盤構造に密接に関係し、被害は軟弱地盤の不同変位や極軟弱粘性土層に発生する辷り、あるいは埋没谷地形で発生する異常振動(振動の増幅等)によって発生するものと推定した。
第3章「現位置地盤振動と地盤構造の関係」では、常時微動と列車走行時の振動を測定して、地盤振動特性と地盤状態との間に強い相関関係があること、即ち地震被害歴のある盛土では軟弱地盤厚さが一定でないため地盤振動もその軟弱地盤厚さに応じた大きさの振動(不同変位)が生じ、無被害盛土では軟弱層厚さが一定で水平に堆積しているため地盤振動も場所によらず等しいことと、測定値と線形地震応答解析結果が良く合うことを明らかにした。
第4章「地盤構造と地盤振動に関する模型実験」では、さらに地盤振動特性と地盤構造の関係を確認するためと、現場で測定できなかったケースもあるので、軟弱地盤底面が単純に傾斜した2次元地盤、軟弱地盤底面が谷状になった3次元地盤、軟弱地盤の堆積する小さい枝谷とそれに直交する大きい溺れ谷の交差部の3次元地盤の縮尺模型の振動実験結果を述べた。不等厚状態の軟弱地盤に不同変位が生じることや、軟弱地盤底面が単純に傾斜した2次元地盤よりも、それが谷形状になった3次元地盤の方が軟弱地盤の振動が大きく増幅されることや、枝谷と溺れ谷の交差部でも軟弱地盤の振動が大きく増幅されること等が明らかになった。しかも谷底が谷軸方向に傾斜した埋没谷の軟弱地盤には谷軸方向に大きい不同変位が生じるが、谷底が谷軸方向に水平な埋没谷の軟弱地盤には谷軸方向に不同変位が生じないが大きい振動が生じること、長周期側で大きい不同変位が生じること等を明らかにした。
第5章「有限要素法による地盤振動解析」では、さらに現位置測定と模型実験結果や地震波特性の影響等を確認するため、盛土を対象にして地盤振動解析を行って調べた結果について述べている。即ち、地盤振動に対する軟弱地盤底面での傾斜角と傾斜位置、軟弱地盤厚さ、地盤内極軟弱層形態、地震波の周波数特性の影響等を解析で調べた。その結果、不等厚状態の軟弱地盤表面に不同変位が生じるか、軟弱地盤厚さがある大きさ以上になると、基盤面の傾斜角の影響が小さくなること、比較的薄い極軟弱粘性土層等が傾斜して存在するときは、その極軟弱層に大きなひずみが発生して辷り面のようになること、短周期地震波よりも長周期地震波の方が地盤変位、不同変位、土のひずみが大きく生じること、後者によって辷りが発生する可能性等が明らかにされた。
第6章「耐震設計法と効果的な対策工法」では、両者の基本的な考え方を述べるとともに、地盤の不同変位対策工法等の提案を行った。盛土にはシートパイル締切工法等と軟弱地盤の部分的あるいは全体的な改良工法を提案して、前者の実験による効果確認結果を述べるとともに、後者では軟弱地盤を一定厚さで水平とするモデルや鉛直壁状あるいは水平板状の改良体の幅や厚さを変えた幾つかのモデルの解析を行って効果を確認した。また、建物には剛性の大きい浮き基礎タイプの基礎工法、さらに建物と橋梁に軟弱層厚さに応じて基礎間隔を変化させる工法等を提案した。
第7章「結論」では、本研究の結果を総括し、事例調査から推定された地震被害発生原因の不動変位や辷りあるいは異常振動が、現位置地盤振動測定や模型実験、地盤振動解析によって検証されたこと、またそれらは長周期地震波で大きくなるがそれは実際の地震被害に対応すること等をまとめ、地震被害に対して地盤の影響がかなり大きいことを述べるとともに、耐震設計に当たっては地盤に大きく留意する必要があることを示唆した。