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質量分析計を用いた電子衝撃による気相有機化合物のメタステーブル分解

氏名 柳沢 琳江
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第34号
学位授与の日付 平成5年12月15日
学位論文の題目 質量分析計を用いた電子衝撃による気相有機化合物のメタステーブル分解
論文審査委員
 主査 教授 藤井 信行
 副査 教授 山田 明文
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 青山 安宏
 副査 助教授 野坂 芳雄
 副査 城西大学 教授 朽津 耕三

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第1章 緒論
1.1 本研究の目的 p.1
1.2 本研究の概要 p.4
1.3 質量分析の発展 p.5
1.4 質量分析 p.10
[参考文献] p.14
第2章 実験 p.17
2.1 質量分析法 p.17
2.1.1 質量分析計 p.17
2.1.2 MIKEスペクトル法 p.18
2.1.3 運動エネルギー放出(KER) p.20
2.2 試料の合成 p.22
2.2.1 試料化合物の合成 p.22
2.2.2 標識化合物の合成 p.22
[参考文献] p.25
第3章 有機化合物の単水素及び二重水素転位反応に及ぼす測定条件の影響 p.26
3.1 緒言 p.26
3.2 実験 p.26
3.3 結果と考察 p.27
3.4 結論 p.37
[参考文献] p.40
第4章 過剰運動エネルギーを有するイオンの質量スペクトル p.41
4.1 緒言 p.41
4.2 実験 p.41
4.3 結果と考察 p.42
4.3.1 質量分析計による過剰運動エネルギーの測定 p.42
4.3.2 過剰運動エネルギーを有するイオンの質量スペクトル p.46
4.4 結論 p.57
[参考文献] p.58
第5章 重水素標識法による気相有機化合物の分解機構 p.59
5.1 緒言 p.59
5.2 実験 p.59
5.3 結果と考察 p.61
5.3.1 分子イオンからのメチルラジカル脱離 p.61
5.3.2 分子イオンからの二重水素転位反応 p.72
5.3.3 分子イオンからの水の脱離 p.75
5.3.4 分子イオンからのC2H5Oの脱離 p.75
5.4 結論 p.77
[参考文献] p.78
第6章 MIKEスペクトル法による気相有機化合物の分解機構の検討 p.80
6.1 緒言 p.80
6.2 2‐プロピルp‐シアノベンゾエイトの分解機構 p.80
6.2.1 実験 p.80
6.2.2 結果と考察 p.81
6.2.3 結論 p.93
6.3 有機フッ素化合物-α,α,α‐トリフルオロアニソールとα,α,α‐トリフルオロクレゾールのメタステーブルイオンの研究 p.94
6.3.1 実験 p.94
6.3.2 結果と考察 p.94
6.3.3 結論 p.118
[参考文献] p.119
第7章 KER値測定による気相有機化合物の分解機構 p.122
7.1 緒言 p.122
7.2 電子衝撃による1,2‐ジエトキシエタンの分解 p.122
7.2.1 実験 p.122
7.2.2 結果と考察 p.124
7.2.3 結論 p.138
7.3 2‐プロピル o‐トルエイトの質量スペクトル p.139
7.3.1 実験 p.139
7.3.2 結果と考察 p.139
7.3.3 結論 p.148
[参考文献] p.150
第8章 結論 p.153
論文目録 p.155
謝辞 p.157

 質量分析計を用いて、気相有機化合物、特にエステル類と芳香族化合物のメタステーブルイオンの分解機構を、同位体標識法、MIKEスペクトル法、KER値測定法などを使って解析した。
1.有機化合物に及ぼす測定条件の影響
 弱い電子供与性のメチル基を持ったトルイル酸ブチルでは、単水素転移反応と二重水素転移反応によるm/z136とm/z137が観測された。これらのイオンはイオン化室温度や電子衝撃エネルギーを下げるとm/z137イオンの割合が増えることがわかった。これは二つの水素転移反応は競争しているが、m/z137イオンの出現エネルギーの方が小さいことを示している。このように、通常の測定条件を変えることにより二者の水素転移反応の競合関係が明らかになった。
2.イオンの有する過剰運動エネルギー
 イオンが有する過剰運動エネルギーを知ることは、イオンの分解機構の研究などに必要とされている。ここでは、通常リペラー電極に掛けている正電圧を負電圧にして質量スペクトルを測定し、アセトニトリルの分子イオンから生じるメチルイオンの平均過剰運動エネルギー値3.6kcal/molを得た。この値は文献値の3.3kcal/molとよく一致した。また、各種の有機化合物の質量スペクトルはイオン構造を反映したもので有機化合物の構造解析に有力な情報を与えるものであった。
3.重水素標識化合物による有機化合物の分解機構
 着目している水素を重水素で置き換えることにより、見かけ上の単純開裂反応や、スクランブリングの割合が明確になる。メタクリル酸イソプロピルの分子イオンからのメチル基脱離は見かけ上は単純開裂反応と思われるが、数種の標識化合物を測定した結果再配列反応であることがわかった。また、このメチル基脱離反応での"hidden"水素転移反応はこの脱離反応の律速段階ではなかった。また、二重水素転移反応に関わる二つの水素はイソプロピル基の二つのメチル基から転移することがわかった。
4.MIKEスペクトルによる有機化合物の分解機構の解明
 MIKEスペクトルでは、ある特定なイオンの分解が観察できたが、ここでは、おもにMIKEスペクトルにより、芳香族化合物の分解機構を検討した。p-シアノ安息香酸イソプロピルの二重水素転移反応で生じた中間体の分解機構を検討したところ、二重水素転移反応の結果生じた中間体イオンは、プロトン付加p-シアノ安息香酸イソプロピル構造をとっていることがわかった。また、この中間体はベンゼン環水素を一つ含んだ水分子を脱離して分解することがわかった。
 電気陰性度の大きなフッ素を含んだα,α,α-トリフルオロアニソールのCO脱離はCF3基転位を伴うが、この結果、o-α,α,α-トリフルオロクレゾールやm-α,α,α-トリフルオロクレゾールの分子イオンに異性化はしていない。o-α,α,α-トリフルオロクレゾールの分子イオンのMIKEスペクトルではHF脱離のピークが観察されるが、o-クレゾールでは観察されない。この相違はフッ素原子と酸素原子の電気陰性度の違いによると思われる。
5.KER値による分解機構の検討
 主にKER値により、1,2-ジエトキシエタンとo-トリイル酸イソプロピルの分解機構を検討した。1、2-ジエトキシエタンの分子イオンからエタノールとアセトアルデヒドが脱離してそれぞれnm/z72とm/z74のイオンが生ずる。m/z74のイオンはdistonicラジカルカチオンを生ずる。また、m/z72のイオンは2-メチルオキセタン構造を有すると思われるが、KER値からm/z72のイオンと2-メチルオキセタンそれにエチルビニルエーテルは共通な遷移状態を経て分解するものと思われる。
 o-トルイル酸イソプロピルにおける[M+1]+イオンの形成に関与する水素は分子のあらゆる部分から転移してくることがわかった。また、分子イオンが、McLafferty転移反応により分解する前に、水素交換反応が見られる。同様に、中間体のm/z136イオンが水分子を脱離する前に水酸基の水素原子とトリル基の水素原子間でスクランブリングか水素交換反応が生じると思われる。
 以上のように、測定条件の検討、過剰運動エネルギーを有するイオンのスペクトル、重水素標識法、MIKEスペクトル法、KER値測定法などを組み合わせることにより、気相有機化合物の分解機構を解明することができた。

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