本文ここから

アモルファスPd-Si合金の中範囲規則構造と結晶化機構に関する研究

氏名 穴澤 一則
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第94号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 アモルファスPd-Si合金の中範囲規則構造と結晶化機構に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 弘津 禎彦
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 田中 紘一
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 石黒 孝

平成5(1993)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論
1-1 研究の背景 p.1
1-1-1 アモルファスの定義 p.1
1-1-2 アモルファス合金研究の歴史 p.5
1-1-3 アモルファス合金構造の研究 p.8
1-1-4 アモルファス合金の結晶化過程に関する研究 p.10
1-2 本研究の目的 p.11
1-3 本論文の構成 p.12
第1章の参考文献 p.13
第2章 アモルファスPd-Si合金の構造モデルと高分解能電顕像シミュレーション
2-1 はじめに p.15
2-2 高分解能電顕観察法 p.16
2-3 アモルファスPd-Si合金構造モデル p.17
2-3-1 構造モデルの作成法 p.17
2-3-2 共晶組成アモルファスPd-Si合金の構造モデルI p.19
2-3-3 共晶組成アモルファスPd-Si合金の構造モデルII p.22
2-3-4 化合物組成アモルファスPd-Si合金構造モデル p.23
2-3-5 2体動径分布関数 p.24
2-4 像計算理論 p.26
2-4-1 弱位相物体近似 p.26
2-4-2 マルチスライス法 p.27
2-5 アモルファス合金の高分解能シミュレーション p.28
2-5-1 弱位相物体近似による像シミュレーション p.28
2-5-2 マルチスライス法による像シミュレーション-fccクラスターの場合- p.36
2-5-3 マルチスライス法による像シミュレーション-Pd3Siクラスターの場合- p.44
2-6 まとめ p.50
第2章の参考文献 p.51
第3章 アモルファスPd-Si合金薄膜の高分解能電顕観察
3-1 はじめに p.53
3-2 実験方法 p.53
3-2-1 薄膜作成 p.53
3-2-2 電顕観察 p.56
3-3 Pd82Si18組成アモルファス合金薄膜の高分解能電顕観察 p.57
3-4 Pd75Si25組成アモルファス合金薄膜の高分解能電顕観察 p.60
3-5 考察 p.60
3-5-1 MRO構造モデル p.60
3-5-2 DRP構造の高分解能像 p.64
3-6 まとめ p.69
第3章の参考文献 p.70
第4章 Pd82Si18組成アモルファス合金薄膜の結晶化機構
4-1 はじめに p.71
4-2 実験方法 p.72
4-3 結晶化過程 p.73
4-3-1 MROの構造変化 p.73
4-3-2 結晶化過程における組成変化 p.80
4-3-3 同一視野観察 p.83
4-4 結晶化過程の急冷条件依存性 p.86
4-5 考察 p.89
4-5-1 構造緩和と微細構造変化 p.89
4-5-2 MRO構造による回折強度 p.90
4-5-3 結晶核サイズ p.93
4-6 まとめ p.94
第4章の参考文献 p.95
第5章 Pd75Si25組成アモルファス合金薄膜の結晶化機構
5-1 はじめに p.96
5-2 実験方法 p.96
5-3 結晶化過程 p.97
5-4 まとめ p.102
第5章の参考文献 p.103
第6章 アモルファスPd-Si合金リボンの作成条件による熱的、機械的性質の差異
6-1 はじめに p.104
6-2 実験方法 p.104
6-2-1 リボン作成 p.104
6-2-2 電顕観察用試料の作成 p.106
6-2-3 示差走査熱量分析(DSC) p.107
6-2-4 微小硬さ試験 p.107
6-2-5 熱処理 p.108
6-3 電顕観察結果 p.108
6-3-1 アモルファスPd-Si合金リボンの構造 p.108
6-3-2 結晶化過程 p.111
6-4 アモルファスPd82Si18合金の構造緩和発熱量 p.113
6-5 アモルファスPd82Si18合金の微小硬さ p.115
6-6 アモルファスPd82Si18合金の等温時効発熱 p.118
6-7 まとめ p.121
第6章の参考文献 p.122
第7章 結論 p.123
謝辞
本論文に関する発表論文

 本研究は代表的なアモルファス合金であるアモルファスPd‐Si合金の構造、および結晶化過程での微視的構造変化について高分解能電顕法、ナノビーム電子回折・局所分析法により調べたものである。本論文は「アモルファスPd‐Si合金の中範囲規則構造と結晶化機構に関する研究」と題し、7つの章から構成されている。
 第1章「序論」では、アモルファスについての定義を行い、原子配列の観点からアモルファスの特徴について触れ、次いで、アモルファス合金の研究を歴史ならびに現在のアモルファス合金の研究の動向について述べた。また、従来までのアモルファス合金構造ならびに結晶化過程の研究について触れ、本論文で取り上げるアモルファスPd‐Si合金構造の研究の意義と目的を調べた。
 第2章「アモルファスPd‐Si合金の構造モデルと高分解能電顕像シミュレーション」では、まず、アモルファス合金における高分解能電顕観察法について述べ、次いで、共晶組成付近のアモルファスPd‐Si合金で観察されている中範囲規則構造(MRO: Medium Range Order)を説明しうるPd‐Si fccクラスターモデル、20面体クラスターモデル、Pd3Siクラスターモデルを作製し、これらの構造モデルについての高分解能電顕像計算を弱位相物体近似ならびにマルチスライス法により行った。
 第3章「アモルファスPd‐Si合金薄膜の高分解能電顕観察」では、Arビームスパッタ法により作製したアモルファスPd82Si18合金薄膜、ならびにアモルファスPd75Si25合金薄膜について高分解能電顕観察し、第2章で行った計算像との比較を行った。その結果、室温基板上に作製されたアモルファスPd82Si18合金薄膜中に観察される約1nmの大きさの格子縞領域はfcc構造を持つMROであることが明らかとなった。また。冷却基板上に作製された同組成の薄膜についても電顕観察を行った結果、MROがほとんど観察されないことが判明し、MROサイズは急冷条件に依存することが明らかとなった。アモルファスPd75Si25合金薄膜の場合、Pd82Si18合金薄膜では見られなかった格子面間隔を持つMROが観察され、ナノビーム電子回折より、このMROは擬Pd3Si構造であることが判明した。
 第4章「Pd82Si18組成アモルファス合金薄膜の結晶化機構」では、共晶組成付近のアモルファスPd82Si18合金の結晶化段階について、原子レベルでの解明を試みた。この組成におけるアモルファス合金の結晶化に至る過程は2つの段階にわけることができる。第I段階は低温時効におけるMROの成長の段階であり、MRO領域は約3~4nmに成長する。しかし制限視野回折でハローパターンが観察される。時効温度が280℃になるとMRO領域は4~5nm程度に成長し、制限視野回折パターンの第2リングが分裂し始める。また、約4nm径のナノビーム電子回折ではfccの回折スポットが観察されるようになる。この段階を第II段階と呼ぶことにする。しかし、この段階でもX線回折ではハロー回折線のみ現れる。350℃時効試料の制限視野回折パターンでは第1回、第2リングの分裂が見られ、fcc結晶の析出が明瞭となり、結晶化段階に入る。第II段階ならびに結晶化段階デ得られるナノビームケ電子回折スポットより、fcc微結晶の格子定数測定を行った結果、fcc微結晶の成長に伴い、格子定数が減少し、純Pdのものに近づくことがわかった。従って、MRO中にはSi原子が侵入型に固溶していると考えられる。MROならびにfcc微結晶とその周辺のSi原子組成を調べるためナノビーム局所元素分析を行った結果、MROが成長するに従い、Si原子が周辺に吐き出されることが判明した。これらの結果より構造緩和現象ならびにMRO領域の体積分率について考察を行った。冷却基板で作製されたPd82Si18薄膜の結晶化段階においては、350℃時効試料についてもハロー回折パターンが見られ、MROは1nm程度にしか成長しないことが観察された。結晶化は355℃での時効により急激に進行する事が判明した。これらの結果より、結晶化の進行過程も急冷条件に大きく影響されることが明らかとなった。
 第5章「Pd75Si25組織アモルファス合金薄膜の結晶化機構」では、Pd3Si化合物組成のアモルファス合金薄膜における結晶化段階を高分解能電顕法により明らかにした。すなわち、360℃まではMROが僅かずつ成長し、制限視野回折ではハローリングが観察される。370℃において試料端付近よりMS-IIと呼ばれている構造不明の長周期準安定相が現れ始め、400℃では試料全体がMS-II相になることが判明した。
 第6章「アモルファスPd‐Si合金リボンの作製条件による熱的、機械的性質の差異」では、異なる急冷速度下で単ロール法により作製された共晶組成Pd‐Siアモルファス合金リボンにつき、熱的、機械的性質を調べた。機械的性質として微小硬さ、熱的性質として構造緩和発熱量を測定した結果、いずれも急冷条件に依存することが判明した。また、355℃における等温時効発熱量の測定を行った結果、急冷速度が速い試料では核生成・成長理論に従う発熱曲線が得られた。結晶化発熱直前の時効試料においては、約2~3nmのMROが観察され、これらが結晶化における結晶核であると判定された。
 第7章「結論」では、以上の各章を要約して論文の結論としている。

平成5(1993)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る