窒化ケイ素セラミックスの粒界ガラス相と粒界結晶相の評価
新しい非破壊検査法の可能性
氏名 濱崎 豊弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第90号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 窒化ケイ素セラミックスの粒界ガラス相と粒界結晶相の評価-新しい非破壊検査法の可能性-
論文審査委員
主査 教授 石崎 幸三
副査 教授 植松 敬三
副査 教授 弘津 禎彦
副査 教授 松下 和正
副査 大阪大学 教授 新原 晧一
[平成5(1993)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.
目次
Abstract
第1章 序論
1.1 エンジニアリングセラミックス p.1
1.2 セラミックスの品質管理 p.2
1.3 窒化けい素(Si3N4)
1.3.1 基本的性質 p.5
1.3.2 焼結技術 p.9
1.3.3 粒界相の評価の必要性 p.9
1.4 本論文の構成 p.12
第2章 低温比熱測定装置及び測定方法
2.1 技術検討 p.13
2.1.1 サンプル冷却部 p.13
(1)断熱 p.3
(1)-(a)断熱真空 p.13
(1)-(b)サンプル容器温度制御 p.16
(1)-(c)サンプル容器とサンプル間の断熱 p.16
(2)サンプル用ヒータ容量 p.17
2.1.2 アデンダ p.17
(1)サンプル台 p.18
(2)温度センサー p.18
(3)ヒータ p.18
2.1.3 温度計 p.19
2.2 測定装置 p.19
2.2.1 主要仕様 p.23
(1)クライオスタット内の冷凍機及び圧縮機ユニット p.23
(2)真空排気装置 p.23
(3)温度制御装置 p.23
(4)温度計
(4)-(a)計器本体 p.24
(4)-(b)温度センサー p.24
2.3 測定方法
2.3.1 試料の取り付け p.24
2.3.2 試料の冷却 p.27
2.3.3 比熱測定手順 p.27
2.3.4 比熱測定精度 p.28
第3章 低温比熱測定法によるSi3N4粒界ガラス相と粒界結晶相の定量評価
3.1 低温比熱測定法によるSi3N4粒界相の定量
3.1.1 緒言 p.29
(1)ガラスの比熱の低温における異常性 p.30
(2)Si3N4焼結体の比熱 p.33
3.1.2 実験方法
(1)Si3N4焼結体の作製 p.34
(2)模擬粒界相の作製 p.36
(2)-(a)模擬粒界ガラス相の作製 p.36
(2)-(b)模擬粒界結晶相の作製 p.37
3.1.3 実験結果
(1)Si3N4燃結体および模擬粒界相 p.38
(2)各焼結体の低温比熱 p.38
3.1.4 考察
(1)Si3N4および模擬粒界相の低温比熱 p.42
(2)粒界相の定量化 p.43
3.2 高温強度とSi3N4粒界相の相関
3.2.1 高温強度測定と低温比熱測定 p.52
3.2.2 高温強度測定結果 p.54
3.2.3 低温比熱測定結果 p.55
3.2.4 高温強度と粒界相量 p.56
3.3 結論 p.59
第4章 オージェ電子分光による粒界相の定量評価
4.1 AESによるSi3N4粒界ガラス相の評価方法 p.60
4.1.1 試料作製方法 p.61
4.1.2 AESによる粒界相の定量評価 p.62
4.1.3 粒界ガラス相の定性的評価 p.64
4.1.4 低温比熱測定 p.64
4.2 AES及び低温比熱測定法による評価結果 p.65
4.3 考察 p.69
4.4 結論 p.72
第5章 各種Si3N4粉末の焼結挙動
5.1 緒言 p.73
5.2 実験方法 p.75
5.3 実験結果
5.3.1 TPDによるSi3N4粉末の分類 p.75
5.3.2 焼結挙動 p.79
5.4 焼結挙動と原料粉末の表面形態 p.79
5.5 結論 p.81
第6章 総括 p.83
参考文献 p.85
謝辞 p.97
添付資料(研究業績) p.98
窒化ケイ素は現在高温用構造材料として期待されており、自動車用エンジン部品や圧延用ロールの一部に実用化されている。しかしながら、BaTiO3に代表される機能性材料に比べるとその量は非常に少ない。窒化ケイ素に代表されるエンジニアリングセラミックスの実用化への最大の課題は信頼性の向上、製造コストの低減が挙げられる。この課題を克服する手段としては、品質管理技術の一つである非破壊検査法の確立がある。窒化ケイ素は液相焼結によって焼結が進行するため、焼結後に粒界にガラス相とガラス相より結晶化した結晶相が残留する。粒界ガラス相、粒界結晶相は高温での機械的特性の劣化の原因となるために、信頼性の向上には粒界相の評価が必要となる。また、粒界ガラス相と粒界結晶相の量及び比は製作過程に強く影響され、これらを知ることは製品の品質保証の手段になりうる。そこで本論文は“窒化ケイ素の粒界ガラス相と粒界結晶相の評価(新しい非破壊検査法の可能性)”と題し、窒化ケイ素の粒界ガラス相、粒界結晶相の定量評価を行った。以下に本論文で論じた各章の内容を簡単に記す。
“第1章 序論”では、セラミックスの非破壊検査法の現状、窒化ケイ素の特徴を述べ、窒化ケイ素粒界相の評価の重要性、必要性について記した。
“第2章 低温比熱装置及び測定方法”では、本研究で設計製作した装置の設計仕様、測定方法について記述した。比熱測定中は常に冷凍機を運転しており、外部からの熱の流入が一定の定常状態で、試料に直接微量の熱量を与え、その温度変化によって比熱を測定した。
“第3章 低温比測定法によるSi3N4粒界ガラス相と粒界結晶相の定量評価”では、低温比熱測定法により初めて非破壊で粒界ガラス相、粒界結晶相の定量化に成功し、粒界相の定量方法および結果について記述した。粒界相の定量は低温(10K程度)におけるガラスのデバイ理論に従わない異常比熱、粒界結晶相と窒化ケイ素結晶相との比熱の温度依存性の差を利用して行った。試料はY2O3、Al2O3を焼結助剤として各々3mol%添加しガラスカプセルHIP(高温等方加圧)法により作製した。また、試料は市販の原料粉末から作製した焼結体、この焼結体を熱処理した試料、出発原料粉末を水洗することによって酸素含有量を減少させ作製した焼結体の3種類の試料の定量評価を行った。定量評価するに当たって、粒界ガラス相、粒界結晶相の模擬相を各々作製した。作製したガラスについても結晶相、ガラス相の定量化を行った。この結果、低温比熱測定法はX線回折では確認できないガラスの結晶化度が確認できることが明らかになった。また本方法を用いることによって、低温での比熱の挙動の違いにより焼結体の熱履歴が推測できることを示した。さらに、高温強度が、粒界ガラス相の増加にしたがって、劣化開始温度が低くなることも確認した。測定の精度も従来の方法より非常に高く、0.1%未満の精度があることを示した。
“第4章 オージェ電子分光による粒界相の定量評価”では、試料を10-8Paの高真空下で破断し、破断面の酸素元素濃度を測定した。酸素元素濃度と低温比熱測定法による粒界相の定量結果がほぼ等しいことから、破断面の酸素元素濃度を測定することによって、粒界相の定量化が可能なことを確認した。また、Si(LVV)の92、83eVのピーク比による粒界ガラス相の定性的評価結果と比較することによって粒界ガラス相と粒界結晶相の割合がわかることも示した。
“第5章 各種Si3N4粉末の焼結”では、製造方法のことなる粉末に各々焼結助剤としてAl2O3、Y2O3を3mol%添加し窒素雰囲気中で焼結温度1500-1800℃で焼結し、その焼結挙動に影響する因子について検討した。窒化ケイ素粉末の焼結挙動は、その製造方法に依存するのではなく、原料粉末の表面特性に依存することを明らかにした。
“第6章 総括”では、低温比熱測定法、オージェ電子分光による粒界相の定量評価方法、特に前者は精度も高く、エンジニアリングセラミックスの新しい品質管理法としての可能性のあることを工業的見地から述べ本論文の総括をした。