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強誘電性液晶の分子配向と誘電特性に関する研究

氏名 伊藤 信行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第99号
学位授与の日付 平成6年8月31日
学位論文の題目 強誘電性液晶の分子配向と誘電特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 中川 匡弘
 副査 助教授 河合 晃

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景 p.1
1.2 本研究の目的 p.3
1.3 本研究の意義 p.3
1.4 本論文の構成 p.4
第2章 強誘電性液晶について p.6
2.1 緒言 p.6
2.2 カイラルスメクティックC(SmC*)相とその構造 p.6
2.3 強誘電性液晶の特徴とその応用[表面安定化強誘電性液晶(SSFLC)] p.8
2.3.1 高速応答性 p.9
2.3.2 メモリー性 p.9
2.4 緒言 p.10
第3章 実験の種類とセルの構造 p.11
3.1 緒言 p.11
3.2 セルの作製方法 p.11
3.3 実験の種類と使用するセル p.11
3.3.1 配向膜のプレティルト角測定 p.12
3.3.2 スメクティック層構造解析 p.14
3.3.3 分子配向解析 p.15
3.3.4 誘電率測定 p.16
3.4 緒言 p.17
第4章 スメクティック層構造解析 p.18
4.1 緒言 p.18
4.2 各種セルにおけるスメクティック層構造 p.20
4.3 実験方法 p.21
4.3.1 層傾斜角の測定 p.21
4.3.2 ティルト角の測定 p.22
4.4 実験セル p.23
4.4.1 用いた液晶 p.23
4.4.2 用いた配向膜 p.24
4.5 実験結果及び考察 p.24
4.5.1 ティルト角と層傾斜角の関係 p.24
4.5.2 ジグザグ分子モデルによる考察 p.29
4.6 第4章の結論 p.29
第5章 分子配向解析 p.31
5.1 緒言 p.31
5.2 分子配向の分類 p.31
5.3 実験方法 p.32
5.3.1 偏光顕微鏡観察 p.32
5.3.2 光学特性測定 p.32
5.3.3 光学シミュレーション p.33
5.4 実験セル p.33
5.4.1 用いた液晶 p.33
5.4.2 用いた配向膜 p.35
5.5 実験結果及び考察 p.36
5.5.1 ハイプレティルト配向膜SSFLC p.36
5.5.1.1 偏光顕微鏡観察 p.36
5.5.1.2 光学特性 p.38
5.5.1.3 分子配向モデル p.41
5.5.1.4 光学シミュレーション p.42
5.5.2 分子配向に対するプレティルト角の効果 p.49
5.5.2.1 メモリー角のプレティルト角依存性 p.53
5.5.2.2 分子配向モデルによる解析 p.59
5.6 第5章の結論 p.62
第6章 誘電率測定 p.63
6.1 緒言 p.63
6.2 FLCの主軸誘電率 p.66
6.3 主軸誘電率測定方法[分子配向モデルに基づく主軸誘電率測定方法(MOM法)] p.67
6.3.1 測定原理 p.68
6.3.2 実際のセルの場合 p.72
6.4 実験方法 p.74
6.4.1 セル容量測定の場合の注意 p.74
6.4.2 使用するセルに関しての注意 p.75
6.4.3 プロープ電圧に関する注意 p.80
6.5 実験セル p.80
6.5.1 用いた液晶 p.80
6.5.2 用いた配向膜 p.80
6.6 実験結果及び考察 p.80
6.6.1 垂直配向セルの誘電率(温度依存性、周波数依存性) p.81
6.6.2 水平配向セルの誘電率(温度依存性、周波数依存性) p.86
6.6.3 水平配向セルの誘電率(バイアス電圧依存性) p.96
6.6.4 スメクティック層構造の変形の影響 p.99
6.6.5 バイアス印加時の方位角 p.103
6.6.6 求められた主軸誘電率 p.106
6.6.7 従来測定法(Jones法)との比較 p.109
6.6.8 バイアス電圧に関する考察 p.115
6.6.9 疑似ブックシェルフ層構造による測定 p.119
6.6.10 非線形方程式を用いない解法の有効性[modified MOM法] p.123
6.6.11 セル構造の影響(絶縁層の影響) p.127
6.6.12 2軸誘電異方性に関する考察(周波数による異方性の符号の逆転) p.129
6.7 第6章の結論 p.132
第7章 結論 p.133
謝辞 p.136
参考文献 p.137
第1章 参考文献 p.137
第2章 参考文献 p.137
第3章 参考文献 p.138
第4章 参考文献 p.138
第5章 参考文献 p.139
第6章 参考文献 p.140
第7章 参考文献 p.142
本研究に関する発表論文 p.143
本研究に関する特許出願 p.147
付録 p.148
1 光学計算法 p.148
2 セル厚方向の配向分布を考慮した主軸誘電率の求め方(非線形方程式の数値解法) p.155

 液晶表示素子(LCD:Liquid Crystal Display)は、ラップトップ型のパーソナルコンピューターやワードプロセッサー、携帯端末、携帯用TVなどのディスプレイとしての普及が目覚ましく、現在では『液晶』という言葉も広く一般に知られるようになってきた。薄型軽量、低消費電力、低駆動電圧といった、平面表示素子にとって非常に有利な特徴を持っているため、これらの情報機器にとってなくてはならない存在となっている。
 これまでの表示方式は、熱書込型のスメクティック液晶など特殊な用途を除いては全てネマティック液晶を用いたものであり、今以上の高精細な大容量の表示に対しては多くの問題を抱えている。STN(Super Twisted Nematic)方式では、液晶の応答速度、印加電圧-透過光特性などの特性面の制約から原理的に走査線数はほぼ限界に達している。アクティブマトリクス方式では、各画素に欠陥無くスイッチング素子を形成しなければならず、表示容量が増加するほど作製が困難になる。また、画素にスイッチング素子を形成するため透過率が低下するという問題もある。
 強誘電性液晶(FLC:Ferroelectric Liquid Crystal)は、ネマティック液晶を用いた現在の液晶表示素子が抱える。これらの様々な問題を解決し、単純マトリクス方式で高精細大容量表示が可能な次世代の液晶技術、平面表示素子技術として期待されている。FLCを2μm以下という従来のLCDに比べて非常に狭いセルギャップに配向させると、電子配向状態に双安定なメモリー効果が現れ、自発分極と電界との相互作用による高速応答性と併せて、従来のネマティツク液晶には無い魅力的な電気光学効果が得られる。これを表面安定化強誘電性液晶(SSFLC:Surface Stabilized Ferroelectric Liquid Crystal)という。SSFLCは、FLCの複雑な構造・物性のためのその分子配向が非常に複雑で、電気光学効果は分子配向に強く影響される。そのため、SSFLCの分子配向を正確に解析し、電気光学効果との関係を明確にすることは、学術的に興味があると同時にSSFLCの真の実用化のために重要な研究であると言える。
 本論文では、SSFLCのスメクティック層構造を特徴付けるシェブロン層構造について、X線回折法によりその層傾斜角を測定し光学的ティルト角との関係を明確にし、スメクティック層内の分子配向を偏光顕微鏡観察、偏光顕微分光測定といった光学的実験手法と、電子配向モデルを用いた光学シミュレーションにより解析し、SSFLCの分子配向モデルを構築した。また、分子配向に対するプレティルト角の効果について調べた。そして、分子配向の解析結果を利用し、分子配向モデルに基づいて、近年その重要性が指摘され注目を集めている。SSFLCの主軸誘電率を測定するMOM(molecular orientational model)法を確立し、2軸誘電異方性に関する新規な現象を見い出すとともに、分子配向と誘電特性との関係を明確にした。
 本論文の研究により、以下の結論が得られた。
 パラレルラビングのSSFLCにおいては、スメクティック層はシェプロン層構造となり、その層傾斜角は光学的に測定されたティルト角より僅かに小さいことが確認された。光学的ティルト角に対する層傾斜角の比は、本研究の実験範囲では0.84~0.99であり、ティルト角が大きくなるにつれて徐々に減少する傾向を示すことがわかった。この結果はプレティルト角には依存せず、シェブロン層構造の層傾斜角は基板界面には依存しない。液晶バルクの本質的なものと考えることができる。
 パラレルラビングのSSFLCの分子配向状態を、光学データと分子配向モデルによる光学計算との比較により明らかにした。プレティルト角を変化させたセルにより、SSFLCの分子配向及び光学特性が、プレティルト角に非常に強く影響されることがわかった。プレティルト角の効果は、分子配向モデルによる計算によっても定量的にほぼ再現することができ、ダイレクタープロファイルにより良く説明することができる。
 複雑な分子配向をとるSSFLCの主実験誘電率は、分子配向モデルに基づいた方法(MOM法)で求めることができる。従来からノンカイラルScホストの主軸誘電率を測定するために報告されている方法では、複雑な分子配向を無視しているためSSFLCの主軸誘電率に対しては測定精度が良くないが、MOM法では精度よく測定することができる。
 本研究で用いたFLC、SCE‐8の2軸誘電異方性は、周波数によって符号が反転することがわかった。2軸誘電異方性の符号と、DCバイアス電界やスメクティック層構造の変形に対するSSFLCセルの誘電率の変化は、一致した傾向を示し、SSFLCセルの誘電的振る舞いに対して2軸誘電異方性が重要な働きをしていることがわかった。
 これらの結果により、パラレルラビングSSFLCの分子配向が理解され、分子配向が光学特性だけでなく誘電率という電気的特性にも強く影響することが明らかになった。今後は誘電率以外の特性についても、分子配向の違いを考慮した、信頼性の高い実験が行われることが期待される。また、本研究で行った分子配向解析の手法を利用することにより、パラレルラビング以外のSSFLCの分子配向についても、分子配向が理解されることが期待される。分子配向モデル及びMOM法による2軸誘電異方性の測定は、SSFLCの本格的な実用化に向けて、大きな貢献をするものと考えられる。

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