特定な有機配位子をもつ銅(II)およびクロム(III)錯体の形成とその特異反応性
氏名 吉村 芳武
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第54号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 特定な有機配位子をもつ銅(II)およびクロム(III)錯体の形成とその特異反応性
論文審査員
主査 教授 山田 明文
副査 教授 藤井 信行
副査 教授 塩見 友雄
副査 助教授 吉國 忠亜
副査 福井大学 教授 沖 久也
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目次
第1章 緒論 p.1
第2章 水溶液中での銅(II)サリチル酸錯体の特異的錯形成反応 p.6
2-1 緒論 p.6
2-2 測定方法 p.6
2-3 水溶液中における種々の銅(II)サリチル酸錯体の結晶化条件 p.6
2-3-1 実験 p.8
2-3-2 結果と考察 p.9
2-4 結論 p.22
第3章 サリチル酸、フルタ酸および安息香酸との銅(II)錯体の熱的挙動および二量体生成における水蒸気圧の影響 p.24
3-1 緒論 p.24
3-2 測定方法 p.25
3-3 銅(II)サリチル酸錯体の熱的挙動 p.28
3-3-1 実験 p.28
3-3-2 合成 p.28
3-3-3 結果と考察 p.29
3-4 銅(II)サリチル酸錯体の水蒸気分圧下での生成物 p.38
3-4-1 実験 p.38
3-4-2 合成 p.38
3-4-3 結果と考察 p.39
3-5 銅(II)フルタ酸錯体の熱的挙動 p.46
3-5-1 実験 p.46
3-5-2 合成 p.46
3-5-3 結果と考察 p.47
3-6 銅(II)安息香酸錯体の水蒸気分圧下での生成物 p.58
3-6-1 実験 p.58
3-6-2 合成 p.58
3-6-3 結果と考察 p.61
3-7 結論 p.71
第4章 クロム(III)混合アミノ酸錯体の出発物質の合成と構造 p.74
4-1 緒論 p.74
4-2 測定方法 p.74
4-3 ビス(アミノアシダト)イソチオンシアナトアクアクロム(III)錯体の合成と構造 p.74
4-3-1 合成 p.74
4-3-2 結果と考察 p.76
4-4 結論 p.83
第5章 [Cr(L-leu)2(NCS)(OH2)]とL-、またはD-アミノ酸との特異反応およびDL-アミノ酸の光学分割の可能性 p.84
5-1 緒論 p.84
5-2 測定方法 p.84
5-3 [Cr(L-or D-ala)x(L-leu)3-x]の合成と立体選択性およびDL-アラニンの光学分割の可能性 p.86
5-3-1 合成 p.86
5-3-2 結果と考察 p.87
5-4 [Cr(L-, or D-ile)(L-leu)2]の合成と立体選択性および光学分割の可能性 p.99
5-4-1 合成 p.99
5-4-2 結果と考察 p.101
5-5 結論 p.112
第6章 [Cr(phe)2(NCS)(OH2)]とL-、D-またはDL-フェニルアラニンとの特異反応および光学分割の可能性 p.114
6-1 緒論 p.114
6-2 測定方法 p.114
6-3 [Cr(L-phe)2(NCS)(OH2)]とL-、D-およびDL-フェニルアラニンとのクロム(III)混合アミノ酸錯体の合成と立体選択性および光学分割の可能性 p.115
6-3-1 合成 p.115
6-3-2 結果と考察 p.118
6-4 結論 p.124
第7章 結論 p.125
参考文献 p.130
謝辞 p.134
本論文は2つの分野から成り立っている。1つは芳香族カルボン酸を配位子とする2個の銅(II)を含む二量体錯体の合成と性質に関する研究である。このような二量体錯体は錯体化学的には、現在Cu-Cu間の磁気交換相互作用に関する点、また、生物無機化学的には酸素運搬機能をもつヘモシアニンのモデル錯体として興味が持たれている分野である。
もう1つは、クロム(III)と生体関連物質であるアミノ酸との錯体の合成と立体選択性に関する研究である。クロム(III)アミノ酸錯体はインシュリンの効果を引き起こす作用を持つクロム(III)トリペプチド錯体と考えられているG.T.F.(耐糖因子)をはじめとする生体関連物質の基礎的な研究をなすものである。
まず、2、3章では生物学的に興味のある二量体錯体の基礎的な研究を行ない、水溶液中および固体状態において、芳香族カルボン酸を架橋配位子とする銅(II)の二量体錯体の合成条件を検討した。
2章では、現在まで有機溶媒中でしか合成されていないリサチル酸銅(II)の二量体錯体を合成することは生物学的に考えると意義があると思われるので、二量体錯体の水溶液中での合成の可能性および水溶液中で得られる各錯体の生成条件を温度、濃度等について詳細に検討した。
この結果、二量体が水溶液中で初めて得られた。さらに四量体および新化合物である1:1型ポリマーが得られた。
3章では、サリチル酸、フタル酸および安息香酸を配位子とする銅(II)錯体の熱的挙動、特に二量体の生成条件を詳細に検討した。
まず、単量体、サリチル酸銅(II)錯体を出発物質とした場合、二量体の生成の際には気相-固相反応が関与していることを明らかにした。
フルタ酸銅(II)錯体では、従来の銅の二量体[Cu2ph2]とは別種の新たな二量体[Cu2(Hph)4]が生成し、その際にも気相-固相反応が関与していることを明らかにした。
さらに、X線パターンから、ポリマー構造であることが知られている安息香酸銅(II)錯体についても同様の検討を行い、二量体および新化合物ポリマーの無水和物を得た。この場合、二量体生成には気相-固反応は関係せず、ポリマーの生成に関係していることを明らかにし、出発物質の構造の違いにより異なる結果を得た。
4、5および6章では、生体必須元素であるクロムに関して、2種のアミノ酸を含むクロム(III)混合アミノ酸錯体の合成に関する研究を行ない、得られる錯体の立体選択性およびDL-アミノ酸の光学分割の可能性を検討した。
4章では、ライネッケ塩を出発物質として、クロム(III)混合アミノ酸錯体の合成の出発物質となりうるビス型錯体の一般的な合成法を検討した。その結果、ビス型錯体、[Cr(AA)2(NCS)(OH2)](AA:アミノ酸陰イオン)が容易に合成できることを明らかにし、またその推定構造を提出した。
5章では、[Cr(L-leu)2(NCS)(OH2)]とL-、D-およびDL-アラニンまたはイソロイシンを出発物質として、エタノール中で混合アミノ酸錯体の合成について検討した。その結果、出発物質であるアミノ酸のL型とD型の違いにより、得られた混合アミノ酸錯体は逆の光学活性を示し、立体選択的に合成できることを見いだした。また、DL-アミノ酸との合成ではDL-アミノ酸の光学分割の可能性を示唆する結果を得た。
6章では、出発物質を[Cr(L-phe)2(NCS)(OH2)]とに変えて、同様の実験をL-、D-およびDL-フェニルアラニンとの間で検討した。L-およびD-フェニルアラニンの場合は、L型ではトリス錯体がD型では単座のアミノ酸を含む錯体が得られるという特異的な反応を見いだし、またDL-フェニルアラニンを使用した場合には、光学分割の可能性を示唆する結果を得た。
本論文では、芳香族カルボン酸を含む二量体の基礎的な研究を行い、水溶液中でサリチル酸銅(II)二量体錯体の合成が成功した。また、固体状態での生成では、出発物質が単量体であるサリチル酸銅(II)錯体およびフルタ酸銅(II)錯体からの二量体生成には試料上の水蒸気圧が影響することを明らかにした。一方、出発物質がポリマー構造をとる安息香酸銅(II)錯体の二量体生成には水上気圧が関与しないことを見いだした。この結果、錯体化学的および生化学的に興味のある二量体生成に関して新たなアプローチを行った。
また、生物学的に興味のあるクロム(III)錯体においては、クロム(III)混合アミノ酸錯体を合成し、アミノ酸の違いにより、立体選択性が異なることおよび各DL-アミノ酸の光学分割の可能性などクロム(III)アミノ酸錯体に関する基礎的なデータや新たな光学分割の可能性を見いだした。