クローラ式走行体の動特性に関する研究
氏名 十河 宏行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第52号
学位授与の日付 平成6年9月21日
学位論文の題目 クローラ式走行体の動特性に関する研究
論文審査員
主査 教授 伊藤 廣
副査 教授 矢鍋 重夫
副査 教授 丸山 暉彦
副査 助教授 長谷川 光彦
副査 助教授 阿部 雅二朗
副査 九州大学 教授 田村 英之
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目次
記号 p.1
第1章 緒論 p.4
1-1 緒言 p.4
1-2 クローラの走行性能 p.6
1-3 クローラクレーンのつり荷走行 p.8
1-4 本研究の概要 p.9
第2章 クローラ式走行体の直進走行理論 p.11
2-1 緒言 p.11
2-2 クローラ式走行体の構造 p.12
2-3 機械構造モデル p.14
2-3-1 力学系のシミュレーションモデル p.14
2-3-2 力学系のエネルギ p.15
2-3-3 走行用油圧モータ特性 p.19
2-3-4 クローラベルトの送りむら p.22
2-3-5 内部損失抵抗 p.23
2-4 走行路面モデル p.25
2-4-1 接地圧発生機構 p.23
2-4-2 駆動力発生機構 p.28
2-4-3 走行抵抗 p.30
2-5 運動方程式 p.31
2-6 結言 p.33
第3章 クローラ式走行体の特性実験 p.34
3-1 緒言 p.34
3-2 機体特性実験 p.34
3-2-1 主要緒元 p.34
3-2-2 機体各部のばね特性 p.37
3-2-3 油圧モータ出力特性 p.37
3-2-4 損失抵抗 p.40
3-3 走行路面特性実験 p.41
3-3-1 動的沈下特性と動的接地圧 p.41
3-3-2 動的せん断特性と駆動力 p.44
3-3-3 コンクリート舗装面の摩擦係数 p.48
3-4 走行実験 p.49
3-4-1 実験概要 p.49
3-4-2 測定項目及び実験方法 p.49
3-5 結言 p.55
第4章 クローラ式走行体の直進走行運動 p.56
4-1 緒言 p.56
4-2 理論解析の概要 p.56
4-3 駆動輪回転速度 p.58
4-4 油圧モータ出力トルク p.61
4-5 走行体ピッチング角 p.61
4-6 上部機体ピッチング角 p.65
4-7 接地圧 p.65
4-8 結言 p.71
第5章 クローラクレーンのつり荷走行 p.72
5-1 緒言 p.72
5-2 理論解析 p.74
5-2-1 力学系のシミュレーションモデル p.74
5-2-2 各エネルギ p.74
5-2-3 外力 p.79
5-2-4 運動方程式 p.80
5-3 理論値と実験値の比較 p.81
5-3-1 実機実験及び理論解析の概要 p.81
5-3-2 走行速度 p.85
5-3-3 各ロープ張力 p.85
5-4 路面形状の影響 p.88
5-4-1 路面形状のモデル化 p.88
5-4-2 解析条件 p.90
5-4-3 解析結果 p.92
5-5 結言 p.95
第6章 つり荷走行時の動荷重係数 p.96
6-1 緒言 p.96
6-2 動荷重係数 p.97
6-3 動荷重係数に影響を及ぼす要因 p.100
6-4 平坦路面における動荷重係数 p.101
6-5 各要因の影響 p.108
6-5-1 突起物設定位置及び路面形状の影響 p.108
6-5-2 走行速度及び作業半径の影響 p.110
6-5-3 シブ長さの影響 p.112
6-5-4 動荷重係数のヒストグラム p.115
6-6 各国の規格における動荷重係数
6-7 動荷重係数増加率 p.121
6-8 結言 p.126
第7章 結論 p.127
謝辞 p.131
本研究に関連した発表論文 p.132
I.学会論文 p.132
II.参考論文 p.133
III.講演論文 p.134
著書及び受賞 p.136
I.著書 p.136
II.受賞 p.136
参考文献 p.137
付録 p.141
付録1 クローラの走行性能に関する資料 p.143
1-1 Theory of Land Locomotion p.143
1-1-1 Settlement of Soils p.143
1-1-2 Resistance Due to Compaction of Soil,Bulldozing,and Soil Drag p.145
1-1-3 The Rational Form of a Tracked Vehicle p.148
1-2 Теория Трактора p.150
付録2 移動式クレーンの動荷重係数に関する資料 p.156
2-1 International Standard(ISO 8686-1) p.156
2-2 DIN 15018 p.159
2-3 労働省告示、昭和51年8月5日付け基発第81号 移動式クレーン構造規格(クレーン等各構造規格の解説) p.161
付録3 実機実験データの抜粋(軟弱路面上走行) p.162
3-1 フルスロットル時 p.163
3-2 ハーフスロットル時 p.165
3-3 アイドリング時 p.167
付録4 クローラ式走行体が軟弱路面上を直進走行する場合の解析プログラム p.169
4-1 変数対応表 p.169
4-2 関数構成図 p.174
4-3 プログラムリスト p.175
4-4 解析結果例 p.200
本研究は、従来未知であったクローラの走行性能を解明し、その理論を応用してクローラクレーンのつり荷走行の安全性を明らかにすることを目的とする。これまで、静的理論分析を基本として行われていたクローラの走行性能に関する研究を、本研究により、動的理論解析を根幹とした研究へ転換した。また、機械工学と土木工学で個別に行われてきたクローラの走行性能に関する研究を、学際的領域研究として発展させた。これにより、定常状態における走行性能を基に設計されていたものを、走行開始直後などの非定常な過渡状態における走行体の挙動を反映させて設計するための基板を築いた。
本論文は大別すると、二つの分野に関する研究より構成されている。前半は、第2章~第4章に述べるクローラの走行性能について、後半は、第5章、第6章に述べるクローラクレーンがつり荷走行する場合のつり荷走行する場合のつり荷の挙動に関する研究である。
第1章は、緒論である。クローラ式走行体に関する従来の研究について経緯を述べ、従来の研究を紹介し、クローラ式走行体の動特性に関する現在の課題を明確にして、本研究の目的を述べた。
第2章は、クローラ走行体を、質点系と非線形要素を含んだ等価ばね系より構成されるモデルに置き換え、解析変数を簡素化した力学的シミュレーションモデルを作成した。また、従来の路面特性に関する静的解析を基本とした理論的研究や実験的研究を、動的解析を基本とする理論的研究に発展させ、路面の変形履歴を考慮した路面モデルを作成した。この機械構造系モデルと路面モデルを、走行体の駆動力と接地圧で表される力学的特性を用いて有機的に結合し、機体と路面間の動的相互作用を考慮した複合モデルを作成した。この複合モデルを用い、クローラ式走行体の動特性を機械工学と土木工学の学際的領域の問題として扱い、数値解析が可能な実用的走行理論を構築した。
第3章は、前章に述べる理論の妥当性を確認するために行った実験の概要を述べた。研究目的に応じて、機体と路面の特性、及び走行特性に関する実験を行った。走行体は構成部材が多いので機体特性実験では、内部損失抵抗、油圧モータの出力特性、機体各部のばね特性等を実験的に求めた路面特性実験では、従来の静的理論解析で用いられてきた特性式に、動的沈下特性実験と動的せん断特性実験の結果を導入した。走行特性実験は、水平軟弱路面として砂質土の地盤を、堅固路面としてコンクリート舗装面を用い、直進走行時における走行体の駆動力、機体各部の挙動及び接地圧について実験的に明らかにした。
第4章は、第2章の走行理論、及び第3章の走行実験を踏まえ、クローラの直進走行時における挙動の理論解析を行い、直進走行理論の妥当性を確認した。走行体が水平軟弱路面及び堅固路面上を直進走行する場合の挙動解析を行い、機体と路面特性は第3章で行う特性実験より求め、多面的な考察を行った。これにより、従来、機械工学と土木工学の分野で個別に行われていた研究を、学際的研究に統合した。また、静的解析を基本とした理論的研究や実験的研究を、動的解析を基盤とする理論的研究に変換した。その結果、初めてクローラ式走行体の過渡状態における非定常特性を明らかにした。
第5章は、第2章のクローラの走行理論を3次元に拡張してクローラクレーンに適用し、走行時におけるつり荷の動特性を表現する基礎理論を構築した。さらに、実機実験を行い、理論の妥当性を検討した。本理論を用い、軟弱路面と堅固路面上の路面性状がつり荷の動特性に与える影響について数値解析を行い、つり荷の変動について考察した。従来、経験的慣習により過剰な安全対策を適用して、著しく移動式クレーンのつり上げ能力を低減してつり荷走行が行われていた。本研究により、適正な能力評価ができる基礎理論を確立し、理論的に安全性が検討できるようになった。
第6章は、第5章で述べる基礎理論を用いて、路面上の突起物高さ、クローラクレーンの作業条件、シブ長さつり荷走行時の動荷重係数に与える影響を、数値解析により解明した。本研究の解析結果と世界各国の規格に定められている動荷重係数を比較検討した。さらに、つり荷走行時に適用される動荷重係数増加率を提案し、数値解析により求めた。これらの成果は、わが国をはじめ世界各国の構造規格には規定されていない、つり荷走行動作の条件を明確にするための基礎資料になるものと思われる。
本研究によって得られた走行理論は、次世代クローラ式走行体の設計技術開発に貢献していくであろう。また、つり荷走行動作は、従来、過剰な安全対策がなされているが、本研究の成果を適用することにより、適正状態でクレーン本来の機能が発揮されるものと思われる。