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プラズマCVD法によるSiNxCy膜の合成とその特性に関する基礎的研究

氏名 森山 実
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第51号
学位授与の日付 平成6年7月20日
学位論文の題目 プラズマCVD法によるSiNxCy膜の合成とその特性に関する基礎的研究
論文審査員 主査 教授 鎌田 喜一郎
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 石崎 幸三
 副査 助教授 丸山 一典
 副査 大阪大学 教授 弘津 禎彦

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 研究の背景 p.1
1-1-1 高温・高強度セラミックスとしてのSi3N4およびSiC p.1
1-1-2 Si3N4-SiC複合セラミックス p.3
1-1-3 混合体の低温合成 p.5
1-1-4 プラズマCVD法とその特徴 p.6
1-1-5 プラズマCVD法によるSi3N4-SiC系混合膜(SiNxCy膜) p.7
1-2 研究の目的 p.11
1-3 本論文の概要 p.11
第2章 プラズマCVD法によるSiNxCy膜の合成とキャラクタリゼーション p.15
2-1 はじめに p.15
2-2 実験方法 p.16
2-2-1 実験手順 p.16
2-2-2 試料の合成 p.17
2-2-3 特性測定 p.22
2-3 結果および考察 p.23
2-3-1 SiNx膜の合成と特性 p.23
2-3-2 SiCy膜の合成と特性 p.23
2-3-3 Si3N4-SiC系SiNxCy膜の合成とキャラクタリゼーション p.25
(1)流量と組成・堆積速度・屈折率 p.25
(2)組織と構造 p.27
(3)赤外吸収(IR)分析 p.27
(4)可視・紫外分光(UV)分析 p.29
(5)SiNxCy膜の混合状態 p.31
2-4 まとめ p.32
第3章 SiNxCy膜の機械的特性 p.34
3-1 はじめに p.34
3-2 実験方法 p.35
3-2-1 試料の作製 p.35
3-2-2 機械的特性の測定 p.35
(1)ビッカース硬度 p.35
(2)残留応力 p.35
(3)付着強度 p.36
3-3 結果および考察 p.38
3-3-1 ビッカース硬度 p.38
3-3-2 残留応力 p.41
3-3-3 ビッカース圧痕周囲のクラック長と残留応力 p.45
3-3-4 付着強度 p.47
3-4 まとめ p.53
第4章 SiNxCy膜の機械的特性の利用 p.54
4-1 はじめに p.54
4-2 実験方法 p.54
4-2-1 試料の作製 p.54
4-2-2 曲げ強度の測定 p.54
4-3 結果および考察 p.55
4-3-1 曲げ強度の膜厚依存性 p.55
4-3-2 膜表面および断面の観察 p.55
4-3-3 膜組成の依存性 p.57
4-3-4 基板粗さの影響 p.59
4-3-5 強化の機構 p.62
4-4 まとめ p.62
第5章 SiNxCy膜の電気的特性 p.63
5-1 はじめに p.63
5-2 実験方法 p.63
5-2-1 試料の作製 p.63
5-2-2 電気伝導度の測定 p.64
5-3 結果および考察 p.65
5-3-1 電流密度の電界依存性 p.65
5-3-2 電気伝導機構について p.67
5-3-3 電気伝導度の温度依存性 p.68
5-3-4 合成膜の電気伝導度 p.70
5-3-5 電気伝導度の組成依存性 p.71
5-4 まとめ p.73
第6章 SiNxCy膜の熱安定性 p.74
6-1 はじめに p.74
6-2 実験方法 p.74
6-2-1 試料の作製 p.74
6-2-2 熱処理 p.76
6-2-3 分析および観察 p.76
6-3 結果および考察 p.77
6-3-1 IR分析 p.77
6-3-2 熱分析 p.77
6-3-3 XRD分析およびTEM観察 p.79
6-4-3 結晶化温度について p.82
6-3-5 AES分析 p.84
6-3-6 モルフォロジー変化 p.86
6-4 まとめ p.89
第7章 SiNxCy膜の軽イオンビーム照射損傷特性 p.90
7-1 はじめに p.90
7-2 実験方法 p.91
7-2-1 試料の作製 p.91
7-2-2 軽イオンビーム照射 p.91
7-3 結果および考察 p.95
7-3-1 膜表面の観測 p.95
7-3-2 膜断面の観察 p.95
7-3-3 厚膜の変化 p.95
7-3-4 組成の変化 p.98
7-3-5 照射による膜の温度上昇 p.98
7-3-6 イオンの飛程 p.101
7-3-7 TiC膜との比較 p.101
7-4 まとめ p.104
第8章 結論 p.105
謝辞 p.109
文献 p.110
発表論文 p.124

 Si3N4およびSiCは、共に機械的強度や熱的安定性が大きく、資源的にも豊富であることから、高温・高強度セラミックスとして有望な材料である。これらの混合体は互いの長所を組合わせた特性が得られるが、熱CVD法などによる方法では1100℃以上の高温が必要なため、非耐熱基板への被覆は不可能であり、工業的利用価値が低かった。一方、近年、低温プラズマの材料分野への応用が活発になり、プラズマCVD法などを用いて各種セラミックスを低温で合成することが可能となった。同法によるSi3N4膜は、既に半導体の絶縁膜として利用されている。
 上記Si3N4およびSiC混合体のプラズマCVD法による低温合成を目的として、10%SiH4-Ar、NH3、CH4(またはC2H4)およびH2原料ガスより基板温度400℃、電力100Wの条件でSi3N4-SiC系混合薄膜(SiNxCy膜)を合成した。その結果、従来の方法では得られない、Si、N、C各構成原子がアトミックスケールで均一に混合した構造を持つ材料を得たので、本SiNxCy膜の機械的、電気的、熱的、軽イオンビーム照射損傷など広範囲な基礎的特性を評価し、あわせて用途を検討した。
 第1章「序論」では、混合化や低温合成の意義、本研究の目的や概要を示した。
 第2章「SiNxCy膜の合成とキャラクタリゼーション」では、膜の屈折率、バンドギャップなどの特性がSi3N4からSiCまでの組成変化に対して連続的に変化していること、およびTEM観察結果から、合成したSiNxCy膜はSi3N4とSiCの微結晶からなる複合体ではなく、N、C各原子がSiと4配位で無秩序結合し、アトミックスケールで均一に混合したアモルファス構造を持つ材料であると推定した。
 第3章「SiNxCy膜の機械的特性」では、SiNxCy膜の硬度、残留応力、付着強度を評価した。SiNxCy膜は、低温合成にもかかわらず鋼の倍数の硬度(11-12GPa)を持ち、金属などの高強度、耐摩耗被覆膜として有効であった。残留応力は、ガラス基板に対してSi3N4組成で引張(約550MPa)、SiC組成で圧縮応力(約40MPa)が働いたが、SiNxCy膜はこれらの応力緩和に有効であった。ガラスに対するSiNxCy膜の付着強度(580-800MPa)はSi3N4組成膜の値よりも向上し、その原因が残留応力にあることを示した。また、膜面に発生したビッカース圧痕周囲のクラック長から膜の残留応力が推定できることを示した。
 第4章「SiNxCy膜の機械的特性の利用」では、残留応力の利用例として、ガラス基板の強化膜としての特性を調べた。基板の表面に圧縮応力層を形成すると、曲げ強度などが向上し強化することができる。約1.2mm厚のガラス基板上にSiC組成に近い厚さ約5μmのSiNxCy膜を被覆し、曲げ強度を測定したところ、最高2.4倍まで向上してきた。強度向上の機構を応力分布から解析した。
 第5章「SiNxCy膜の電気的特性」では、膜の電流密度-電界特性より電気伝導機構を検討し、基本的にはホッピング型(一部SiN3C4膜の高電界側でプールフレンケル型)機構によると推定した。直流電気伝導度(10-15-10-7S・m-1)は、組成により様々な温度依存性を示すが、温度一定の条件ではSiNxCy膜のC/Si原子組成比が0.3付近で極大を持つ組成依存性を示し、Si3N4およびSiC組成膜の値から複合則で推定した値よりもかなり高くなりことを明らかにした。その原因が膜の構造およびNとCの価電子数の違いにあると考察した。
 第6章「SiNxCy膜の熱的安定性」では、SiNxCy膜の結晶化温度とその析出相、熱処理に伴うモルフォロジー変化およびAES分析による膜の深さ方向の元素濃度分布の変化を調べた。SiNxCy膜の結晶化温度(真空中で1300℃を超える温度)は、Si3N4やSiC組成の値(それぞれ1100、1000℃)と比較して高く熱的安定性が優れていることを明らかにしたが、その原因は無秩序結合した構造にあると考察した。
 第7章「SiNxCy膜の軽イオンビーム照射損傷」では、核融合炉壁材への応用を目的としてSiNxCy膜にH+イオンを主体とした混合イオンビームのパルスを照射し、その照射損傷特性を評価した。損傷組織としてはブリスタリングやフレーキングが観察され、1ショット毎に約0.46-0.73μmの膜表面層が損耗したが、その損耗の機構をイオンの理論飛程に基づき解析した。
 第8章「結論」では、本研究で得られた諸結果を総括し、本論文の結論とした。
 本研究の最大の成果は、プラズマCVD法によりアトミックスケールで均一に混合したSiNxCy膜を低温合成し、非耐熱性基板上への被覆を可能とし、膜の広範囲な特性評価を行ったことにある。SiNxCy膜は、Si3N4やSiC組成膜の特性と比較して付着強度、導電性、熱的安定性の向上および残留応力の緩和に効果があり、高強度・耐熱被膜、ガラスの強化膜として有望であった。

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