Synthesis, Oxygen Vacancies and Transport Properties of High-temperature Superconductors
(高温超伝導体の合成、酸素欠陥および輸送特性)
氏名 大原 智
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第104号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 Synthesis, Oxygen Vacancies, and Transport Properties of High-Temperature Superconductors(高温超伝導体の合成、酸素欠陥および輸送特性)
論文審査委員
主査 教授 高田 雅介
副査 教授 鎌田 喜一郎
副査 教授 松下 和正
副査 教授 濱崎 勝義
副査 助教授 小松 高行
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Contents
Acknowledgements p.i
Chapter 1
General introduction p.1
References p.8
Chapter 2
Bulk superconducting YBa2Cu4O8 ceramics synthesized by addition of Ag2O in oxygen at ordinary pressure p.9
Abstract p.9
2.1 Introduction p.10
2.2 Experimental p.16
2.2.1 Sample preparation p.16
2.2.2 Characterization p.16
2.3 Results and discussion p.23
2.3.1 Effect of the addition of Ag2O on the formation of YBa2Cu4O8 p.23
2.3.2 Superconducting properties p.29
2.4 Conclusion p.35
References p.36
Chapter 3
Synthesis of 90K superconducting Y0.9Ca0.1Ba2Cu4O8 ceramics in oxygen at ordinary pressure by Ag2O addition p.39
Abstract p.39
3.1 Introduction p.40
3.2 Experimental p.42
3.2.1 Sample preparation p.42
3.2.2 Characterization p.44
3.3 Results and discussion p.45
3.4 Conclusion p.51
References p.52
Chapter 4
Influence of annealing on characteristics in superconducting (Pb,Cu) Sr2(Y,Ca)Cu2O7-δ ceramics p.53
Abstract p.53
4.1 Introduction p.54
4.2 Experimental p.58
4.2.1 Sample preparation p.58
4.2.2 Characterization p.59
4.3 Results and discussion p.60
4.3.1 Results of O2-annealing p.60
4.3.2 Discussion about the influence of O2-annealing p.67
4.3.3 Results of N2-annealing p.70
4.3.4 Discussion about the influence of N2-annealing p.75
4.4 Conclusion p.76
References p.77
Chapter 5
Superconducting transport cueeent behavior in polycrystalline (YBa2Cu3O7-δ ceramics p.79
Abstract p.79
5.1 Introduction p.80
5.2 Experimental p.82
5.2.1 Sample preparation p.82
5.2.2 Characterization p.83
5.3 Results and discussion p.84
5.3.1 Measured initial magnetization p.84
5.3.2 Estimation of the transport critical current based on the Bean model p.86
5.3.3 Comparison with experiment p.92
5.4 Conclusion p.96
References p.97
Chapter 6
General conclusion p.99
List of publications p.102
Notation: The SI unit system has been used throughout in this thesis. However, the units for the magnetic flux density B and the magnetic filed H have been denoted by the CGS system in sccordance with the custom of working in superconductivity. Values of B are given in gauss in CGS units and in teslas in SI units, with 1(G)=10-4(T). Values of H are given in oerested in CGS units, with 1(Oe)=79.6(A/m).
高温超伝導体の発見以来、発現機構の解明を目指した研究、単結晶や良質のバルク試料の合成、新物質の探索、磁束線の挙動とピンニングの研究、線材化の研究など、種々の方面での研究や開発が、ほぼ一斉に行われてきた。本研究は、このような背景のもと、次に示す三つのことを目的とし行われた。第1は、低温安定相であるYBa2Cu4O8超伝導体の常圧下での合成であり、第2は、高温超伝導体の転移温度(Tc)に及ぼす酸素の挙動について
(Pb,Cu)Sr2(Y,Ca)Cu2O7-δを用いて調査を行うことである。そして第3は、超伝導体の応用上重要な特性の一つである輸送臨界電流について、その振る舞いを磁化特性を基に考察を行うことである。本論文は6章から構成されている。
第1章では、本研究を始めるにあたり、高温超伝導体の特徴を簡潔に述べ、本研究の意義と目的を明らかにするとともに、本論文の構成を記した。
第2章では、YBa2Cu4O8(Y-124)超伝導体の常圧酸素下での合成を試みた。
Y-124(Tc=80K)は、約800℃という高温まで熱的に安定であるため、高温加工に耐える材料として応用面から注目されている材料である。ところが、Y-124相は低温安定相であるため、常圧酸素下では反応性が低く、合成が困難である。そのため、一般にバルク試料の合成は反応性を上げるために高酸素圧下で行われていた。これに対し本研究では、Ag2OにY-124相の生成を促進する作用があることを見いだし、Ag2Oを反応促進剤として添加することにより、バルクY-124超伝導体を金属銀との混合物として常圧酸素下で合成することに成功した。Ag2Oを50wt%添加することにより得られた試料は、自己インダクタンスと抵抗率の温度依存性の測定より、Tc,onset=80K、Tc,zero=70Kであることを確認した。また、反応促進剤として用いたAg2Oは、Y-124相の生成過程において、酸化反応を促進するものと考察した。
Y-124超伝導体のTcは80Kであるが、Yの一部をCaで置換することにより、Tcが90Kまで上昇することが見いだされている。そこで第3章では、Ag2O添加法により、90K級のY0.9Ca0.Ba2Cu4O8超伝導体の常圧酸素下での合成を試みた。その結果、Ag2Oの添加は90K級のY0.Ca0.1Ba2Cu4O8相の生成も促進することを確認した。
第3章では(Pb,Cu)Sr2(Y,Ca)Cu2O7-y(Pb-1212)超伝導体のTcに及ぼす酸素の影響について調査を行った。一般に、高温超伝導体のTcは試料内の酸素量に強く依存する。しかし、Pb-1212に関しては、Tcに寄与する酸素に関する報告例は少ない。そこで本研究では、Pb-1212の熱処理条件を変えることにより試料内の酸素量を変化させ、そのときの構造および超伝導特性の変化について検討を行い、Tcの向上に寄与する酸素サイトを決定した。通常の固相反応法より作製したPb-1212を、酸素気流中600~900℃の各温度で熱処理を行い、急冷することにより目的とする試料を得た。なお、酸素量の評価には熱重量分析法を用いた。その結果、O(3)サイトの酸素がTcを向上させることを明らかにした。また、O(3)サイトへの酸素の取り込みは、800℃以上の熱処理が有効であることを示唆した。
第5章では、高温超伝導体の輸送臨界電流についてYBa2Cu3O7-δを用いて議論した。高温超伝導体は、一般にその組織が粒状性を示す。このため、輸送臨界電流は超伝導特性の弱い結晶粒界に支配されるばかりでなく、その振る舞いも非常に複雑である。本研究では、まず低磁界における磁化特性から、試料内を環流する遮蔽電流の大きさをビーン・モデルにより算出した。さらに、得られた計算値を基に、輸送臨界電流を検討した結果、「多結晶超伝導体に輸送電流を流した場合、輸送電流による自己磁界が試料表面で、Hc1j(磁束が結晶粒界を通して試料内に侵入しはじめる磁界)を越えるときに超伝導体はその零抵抗を失う」ということを提案した。
第6章では、以上の各章で得た結果を総括し、本論文の結論とした。