本文ここから

X線マスクの高精度化に関する研究

氏名 大木 茂久
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第48号
学位授与の日付 平成6年6月22日
学位論文の題目 X線マスクの高精度化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 飯田 誠之
 副査 教授 作田 共平
 副査 助教授 上林 利生
 副査 助教授 打木 久雄
 副査 助教授 濱崎 勝義
 副査 大阪大学 助教授 有留 宏明

平成6(1994)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 緒論 [p.1~p.18]
1.1 はじめに p.1
1.2 X線リソグラフィ研究の歴史的背景 p.4
1.2.1 X線リソグラフィ技術 p.4
1.2.2 X線マスク p.8
1.3 本研究の目的 p.14
1.4 本論文の構成 p.14
参考文献 p.16
第2章 ディープ・サブミクロン領域におけるドライエッチング特性 [p.19~p.42]
2.1 概要 p.19
2.2 RAVINE法 p.20
2.2.1 RAVINE法のプロセス p.20
2.2.2 RAVINE法による極微細パターン形成 p.21
2.2.3 実験結果 p.21
2.2.4 考察 p.24
2.3 微細溝エッチングで現れる局所的なアンダーカット現象の解明 p.25
2.3.1 実験方法 p.25
2.3.2 実験結果 p.26
A エッチング形状 p.26
B エッチングマスク形状との関連 p.27
2.3.3 考察 p.28
A アンダーカットの生起要因 p.28
B イオン散乱現象のモンテカルロシミュレーション p.31
C イオン散乱現象のシミュレーション結果 p.35
D エッチング形状シミュレーション p.38
E 特異形状アンダーカットの抑制 p.39
2.4 まとめ p.40
参考文献 p.41
第3章 X線マスク吸収体の高精度加工 [p.43~p.60]
3.1 概要 p.43
3.2 CBrF3ガスによるTa薄膜の反応性イオンエッチング特性 p.44
3.2.1 実験方法 p.44
3.2.2 実験結果 p.45
3.2.3 CBrF3+H2/CHF3ガスによるTa吸収体の高精度加工 p.48
3.3 発光分析によるTa薄膜のドライエッチング終点検出 p.51
3.3.1 実験方法および結果 p.51
3.3.2 考察 p.54
A エッチング終点検出の自動化 p.54
B Ta薄膜のドライエッチング機構 p.54
3.4 ドライエッチングにより形成したTaパターン線幅の面内均一性 p.57
3.4.1 実験方法 p.57
3.4.2 実験結果 p.58
3.5 まとめ p.60
参考文献 p.60
第4章 X線マスクひずみの解析 [p.61~p.74]
4.1 概要 p.61
4.2 X線マスクの局所ひずみ p.62
4.2.1 実験方法 p.62
4.2.2 実験結果 p.63
4.2.3 考察 p.64
4.3 境界要素法を用いたX線マスクひずみの解析 p.65
4.3.1 X線マスク作製プロセス p.65
4.3.2 境界要素法と境界条件の設定 p.66
4.3.3 実験方法 p.67
4.3.4 実験結果 p.68
A スモール・ウィンドウ・マスク(SWM) p.68
B ラージ・ウィンドウ・マスク(LWM) p.70
4.3.5 考察 p.72
4.4 まとめ p.73
参考文献 p.74
第5章 デバイス試作用X線マスクの作製と評価 [p.75~p.90]
5.1 概要 p.75
5.2 微細MOSデバイス試作に適用したX線マスクの位置精度評価 p.76
5.2.1 X線マスク作製プロセス p.76
5.2.2 デバイス試作用X線マスクの作製と精度評価 p.76
5.2.3 考察 p.79
A プロセスひずみ p.79
B X線マスク作製プロセス p.80
5.3 大規模LSI用X線マスク p.82
5.3.1 大規模LSI用X線マスク検討の意義 p.82
5.3.2 X線マスクの構造 p.82
5.3.3 基板厚さ p.84
5.3.4 位置精度評価結果 p.84
5.3.5 考察 p.86
5.4 まとめ p.88
参考文献 p.89
第6章 多重描画法によるX線マスクパターン描画精度の向上 [p.91~p.108]
6.1 概要 p.91
6.2 背景 p.91
6.3 実験方法 p.93
6.4 結果 p.95
6.5 考察 p.98
6.5.1 最適な多重描画回数 p.98
6.5.2 メイン・フィールドおよびサブ・フィールド接続 p.99
6.5.3 描画精度に関する一考察 p.106
6.6 まとめ p.107
参考文献 p.108
第7章 結論 [p.109~p.112]
謝辞 [p.113~p.113]
研究業績 [p.114~p.120]

 本論文は、X線リソグラフィ技術の実用化を志向し、その実現にとって重要なX線マスクの高精度化に関する研究成果を述べたものである。
 従来、LSIの大量生産には光リソグラフィ技術が用いられてきた。しかし、回路パターン線幅の微細化に伴う回折現象の影響のため、光リソグラフィ技術は微細パターン形成の限界に直面しつつある。一方、波長1nm程度の軟X線を用いるX線リソグラフィ技術は、基板段差の影響を全く受けることなくディープ・サブミクロン線幅の微細パターンを形成することができる。この優れた特徴のため、X線リソグラフィ技術は、光リソグラフィ技術の及ばないLSIの製造において数世代にわたり適用可能なリソグラフィ技術として期待されている。しかし、等倍投影露光技術であることから、X線マスクの高精度化が実用化に際しての最大の課題であるとされてきた。
 本研究では、0.2μm程度の線幅をもつ回路パターンで構成されるLSIの作製に適用できるX線マスクの実現を目的として、X線吸収体パターンの高精度加工技術と高い位置精度を安定に実現するX線マスク構成技術の確立を目指した。具体的には、X線吸収体にTa、透過膜にSiNを用いてサブトラクティブ・プロセスにより作製するX線マスクを例に、ドライエッチング技術を用いたTa吸収体薄膜のディープ・サブミクロン領域でのエッチング特性の解明、X線マスクの位置精度に及ぼす薄膜応力条件の解明、ならびに、電子線描画装置によるX線マスクの高精度描画法の開発を行った。
 ディープ・サブミクロン領域におけるTa吸収体薄膜のドライエッチング特性を解明し、高精度加工を実現するため、新たに幅0.1μm以下の微細溝パターンを形成することができるRAVINE法を考案した。RAVINE法は、電子サイクロトロン共鳴プラズマを用いた堆積技術と反応性イオンエッチング技術を利用し、被加工層上にSiO2からなるV字状の溝型エッチング・マスクを形成する方法であり、Ta、Siおよびレジスト層にディープ・サブミクロン幅の溝パターンを形成することができた。RAVINE法を用いた検討により、ディープ・サブミクロン幅の溝パターンをドライエッチングにより形成する場合、どのような材料においても溝上部に特異な形状のアンダーカットが現れることを初めて見いだした。また、モデル実験とモンテカルロ法を用いたシミュレーションにより、このアンダーカットがエッチング・マスク側面で散乱されるイオンに起因する現象であることを解明した。この知見に基づき、Ta吸収体のパターンの高精度加工技術に関しては、エッチング反応とデポジション反応を競合させてパターン側壁のアンダーカットを防ぎつつ高精度な加工を実現する(CBrF3+CHF3)ガスによる反応性イオンエッチング技術を開発した。さらに、Ta薄膜ドライエッチング中のプラズマの発光を分析することにより、エッチング・ガスであるCBrF3ガスから供給されるBr原子の輝線スペクトル強度がTa薄膜のドライエッチング特性に対応することを見いだし、プラズマ中のBr原子から発せられる輝線スペクトル強度の時間依存性を利用したTa薄膜のドライエッチング終点検出技術としてまとめた。
 高精度X線マスクの構成技術に関しては、SiN透過膜の応力ならびにTa吸収体薄膜の応力がX線マスクのパターン位置変位に及ぼす影響を解明し、サブトラクティブ・プロセスを用いて作製するX線マスクの高精度化に必要な薄膜応力の条件を初めて導いた。また、この条件を適用して作製したデバイス試作用X線マスクにおいて0.09μm(3δ)を上回るマスク間重ね合わせ精度を達成し、X線マスクの高精度化を実証した。さらに、X線マスク精度のさらなる向上には、電子線描画精度の向上が不可欠であることを明らかにした。描画精度を向上させるため、サブ・フィールド・サイズを変えた複数の描画データを多重に重ね合わせる新しい多重描画法を開発した。この多重描画法により、描画位置精度、パターン線幅精度およびフィールド接続精度を飛躍的に向上することができ、描画精度だけでなく完成後のX線マスク精度の大幅な向上にも寄与することができた。
 本研究は、TaをX線吸収体として、また、SiNを透過膜として構成されるX線マスクを用いて行った。しかし、本研究の成果は、吸収体の加工技術に関する部分を除いて、他の材料で構成されるX線マスクの高精度化にも適用することができる。本研究により、線幅0.μmの回路パターンで構成されるLSIの作製に資する高精度X線マスクを安定して作製できる技術的基盤を確立することができた。

平成6(1994)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る