高温超伝導体による磁気シールドに関する研究
氏名 石井 守
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第55号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 高温超伝導体による磁気シールドに関する研究
論文審査員
主査 教授 高田 雅介
副査 教授 松下 和正
副査 教授 濱崎 勝義
副査 助教授 小松 高行
副査 東北大学 教授 山下 努
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目次
第1章 緒言 p.1
1-1 本研究の背景 p.1
1-2 高温超伝導体の特徴 p.2
1-2-1 高温超伝導体の歴史 p.2
1-2-2 主な酸化物系超伝導体 p.4
1-2-3 高温超伝導体の特徴 p.5
1-2-4 Y-Ba-Cu-O系高温超伝導体 p.6
1-2-5 Bi-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導体 p.10
1-3 超伝導体と磁界の関係 p.13
1-3-1 完全導電性と完全反磁性 p.13
1-3-2 超伝導体の種類 p.13
1-4 本研究の目的 p.17
1-5 本論文の構成 p.17
1-6 本章のまとめ p.18
第2章 高温超伝導体への磁束の侵入および p.21
2-1 はじめに p.21
2-1-1 反磁界の影響 p.21
2-2 実験方法 p.24
2-2-1 Y-Ba-Cu-O系円柱状超伝導体の作製および評価方法 p.24
2-2-2 磁束密度分布の測定方法 p.24
2-2-3 磁化特性の測定方法 p.24
2-3 結果及び考察 p.28
2-3-1 Y-Ba-Cu-O系高温超伝導体への磁束への侵入 p.28
2-3-2 円柱状高温超伝導体の磁束密度分布 p.28
2-4 本章のまとめ p.29
第3章 管状超伝導体の磁気シールド特性 p.37
3-1 はじめに p.37
3-2 管状超伝導体の臨界電流密度と磁気シールド特性の関係 p.37
3-2-1 実験方法 p.37
(1)Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系管状超伝導体の作製方法 p.37
(2)管状超伝導体の評価方法 p.38
(3)磁気シールド特性の測定方法 p.38
3-2-2 結果及び考察 p.38
(1)管状超伝導体の超伝導特性 p.39
(2)管状超伝導体の臨界電流密度と磁気シールド特性 p.39
3-2-3 まとめ p.39
3-3 管状超伝導体の厚さと磁気シールド特性の関係 p.46
3-3-1 実験方法 p.46
(1)Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系管状超伝導体の作製方法 p.46
(2)管状超伝導体の評価方法 p.46
(3)磁気シールド特性の測定方法 p.46
3-3-2 結果及び考察 p.47
(1)管状超伝導体の超伝導特性 p.47
(2)管状超伝導体の厚さと磁気シールド特性 p.47
3-3-3 まとめ p.49
3-4 本章のまとめ p.57
第4章 管状超伝導体の磁気シールド特性のシミュレーション p.59
4-1 はじめに p.59
4-1-1 臨界状態モデル p.59
4-2 臨界状態モデルによる管状超伝導体の磁気シールド特性のシミュレーション p.61
4-2-1 実験方法 p.61
(1)管状超伝導体の磁気シールド特性のシミュレーション方法 p.61
(2)管状超伝導体の作製方法 p.63
(3)磁気シールド特性の測定方法 p.64
4-2-2 結果及び考察 p.64
(1)管状超伝導体の磁気シールド特性のシミュレーション p.64
4-2-3 まとめ p.65
4-3 管状超伝導体の臨界電流密度と磁気シールド特性の関係 p.71
4-3-1 実験方法 p.71
(1)磁気シールド特性(シールド磁束密度)のシミュレーション方法 p.71
4-3-2 結果及び考察 p.71
(1)管状超伝導体の臨界電流密度と磁気シールド特性 p.71
4-3-3 まとめ p.72
4-4 管状超伝導体の厚さと磁気シールド特性の関係 p.75
4-4-1 実験方法 p.75
(1)磁気シールド特性(シールド磁束密度)のシミュレーション方法 p.75
4-4-2 結果及び考察 p.75
(1)管状超伝導体の厚さと磁気シールド特性 p.75
4-4-3 まとめ p.76
4-5 ビオ・サバールの法則による磁気シールド特性の形状補正 p.80
(1)ビオ・サバールの法則 p.80
4-5-1 実験方法 p.81
(1)ビオ・サバールの法則による磁気シールド特性の形状補正方法 p.81
4-5-2 結果及び考察 p.82
(1)ビオ・サバールの法則による磁気シールド特性の形状補正 p.82
4-5-3 まとめ p.82
4-6 管状超伝導体内部の磁束密度分布のシミュレーション p.86
4-6-1 実験方法 p.86
(1)管状超伝導体内部の磁束密度分布のシミュレーション方法 p.86
(2)管状超伝導体の作製および評価方法 p.86
4-6-2 結果及び考察 p.87
(1)管状超伝導体内部の磁束密度分布のシミュレーション p.87
4-6-3 まとめ p.88
4-7 本章のまとめ p.92
第5章 高温超伝導体の厚膜化 p.94
5-1 はじめに p.94
5-1-1 高温超伝導体の厚膜化 p.94
5-1-2 ドクターブレード法 p.95
5-1-3 本章の目的 p.95
5-2 Y-Ba-Cu-O系高温超伝導厚膜の作製 p.97
5-2-1 実験方法 p.97
(1)Y-Ba-Cu-O系高温超伝導厚膜の作製方法 p.97
(2)Y-Ba-Cu-O系高温超伝導厚膜の評価方法 p.97
5-2-2 結果及び考察 p.99
5-2-3 まとめ p.99
5-3 Y-Ba-Cu-O系高温超伝導厚膜の臨界電流密度と微細構造の関係 p.103
5-3-1 実験方法 p.103
(1)Y-Ba-Cu-O系高温超伝導厚膜の作製方法 p.103
(2)Y-Ba-Cu-O系高温超伝導厚膜の評価方法 p.103
5-3-2 結果及び考察 p.103
5-3-3 まとめ p.104
5-4 Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導体の厚膜化 p.109
5-4-1 実験方法 p.109
(1)Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導厚膜の作製方法 p.109
(2)Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導厚膜の評価方法 p.109
5-4-2 結果及び考察 p.112
(1)Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導厚膜の微細構造および臨界電流密度に与える焼成温度の影響 p.112
(2)Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導厚膜への中間一軸圧縮法の適用 p.115
5-4-3 まとめ p.115
5-5 本章のまとめ p.119
第6章 高温超伝導厚膜を用いたによる管状磁気シールドの作製 p.121
6-1 はじめに p.121
6-2 積層型管状磁気シールドの作製 p.121
6-2-1 実験方法 p.121
(1)積層型管状磁気シールドの作製方法 p.121
(2)磁気シールド特性測定方法 p.122
(3)磁束クリープ(残留磁束密度の時間依存性)の測定方法 p.122
6-2-2 結果及び考察 p.127
(1)積層型管状磁気シールドの磁気シールド特性 p.127
(2)磁気シールド特性の軸方向依存性 p.127
(3)残留磁束密度の時間依存性(磁束クリープ) p.127
6-2-3 まとめ p.128
6-3 一体型管状磁気シールドの作製 p.133
6-3-1 実験方法 p.133
(1)一体型管状磁気シールドの作製方法 p.133
(2)磁気シールド特性測定方法 p.133
6-3-2 結果及び考察 p.136
(1)一体型管状磁気シールドの微細構造と超伝導特性 p.136
(2)一体型管状磁気シールド磁気シールド特性 p.136
6-3-3 まとめ p.136
6-4 本章のまとめ p.140
第7章 結言 p.142
謝辞 p.144
[公表論文] p.145
[参考論文] p.147
[口答発表] p.151
[その他] p.153
液体窒素温度以上の臨界温度を有する高温超伝導体が発見され、冷却コストの大幅な低減が可能となったことから、高温超伝導体を磁気シールドへ応用するための研究が幅広く始められた。また、高温超伝導体の基礎物性把握のためにも磁気シールド特性の基礎的研究が必要とされている。
そこで、本研究においては、高温超伝導体を磁気シールドとして応用するために、高温超伝導体を用いた磁気シールドの作製および磁気シールド特性の解析を行い、磁気シールドの大型化および設計の方法を検討した。本研究で得られた結果は、以下の通りである。
(1)Y-Ba-Cu-O系高温超伝導体への磁束の侵入および磁束密度分布を測定し、高温超伝導体を磁気シールドへ応用するための基礎的な検討を行った。その結果、高温超伝導体への磁束の侵入は、下部臨界磁界より低い磁界で認められた。これは、高温超伝導体が多結晶体であることから、粒界など弱接合部分から磁束が容易に侵入するためと推定した。また、円柱状超伝導体内部の磁束密度分布には、円柱状試料側面近傍に急激な磁束密度勾配が認められた。これは、超伝導粒子内部を循環する電流(流内電流)により形成されたものであり、超伝導体内部の磁束密度分布は、粒間電流と粒内電流により構成されていることを明らかにした。これにより、高温超伝導体を磁気シールドに応用する際、高温超伝導体が多結晶体であることから粒界等の弱接合部分の影響を考慮することが重要であることを明らかにした。
(2)CIP成型法によりBi(PB)-Sr-Ca-O系管状超伝導体を作製し、その磁気シールド特性を調べた。特に管状超伝導体の磁気シールド特性を定性的に把握するため、管状超伝導体の臨界電流密度と形状(厚さ)とを変化させて磁気シールド特性を評価した。その結果、管状超伝導体の磁気シールド特性は、零磁界における臨界電流密度に比例した。一方、管状超伝導体の厚さに対して、磁気シールド特性は比例せず、対数関数的に増加した。これは、超伝導体の臨界電流密度を印加すると急激に減少するためであり、管状超伝導体の磁気シールド特性を向上させるためには、管状超伝導体の厚さを増加させることにより、臨界電流密度を増加させることが有効であることを示唆し、その方法として、焼成した超伝導体をCIP処理した後、再度焼成する中間CIP法が有効であることを見出した。
(3)磁気シールドを設計するため、管状超伝導体の磁気シールド臨界状態モデルによりシミュレーションとして、実測した結果と比較検討した。その結果、臨界状態モデルにより得られた結果は実測結果と良い一致を示し、臨界電流密度の磁界依存性を考慮した臨界状態モデルによる磁気シールドの設計が可能であることを明らかにした。
(4)ドクターブレード法により作製した高温超伝導体グリーンシートは柔軟性に富み、大面積化し易いため、大型の磁気シールドの製作に最適と考えられる。このことから、ドクターブレード法により高温超伝導体の厚膜化を試みた結果、臨界温度91Kを有するY系超伝導厚膜および臨界温度100Kを有するBi系超伝導厚膜の作製に成功し、高温超伝導厚膜の臨界電流密度の向上には、焼成温度制御と共に、高温超伝導厚膜の緻密化が重要であることを見出した。
(5)ドクターブレード法により作製したBi系超伝導厚膜を用いて、2種類の管状磁気シールドを試作した。
1)積層型管状磁気シールド:Bi系高温超伝導体の焼成には精密な温度制御が重要であることから、大型の磁気シールドの作製には広い均熱領域を有する大型焼成炉が必要となり、磁気シールドの作製の制約となる。そこで、小型の超伝導体を組合わせることにより大型の磁気シールドが作製できないかを検討した。その結果、リング超伝導厚膜を積み重ねて作製した積層型管状磁気シールドは、軸方向からの磁界に対して優れた磁気シールド特性を示し、特定方向の磁界に対しては、小型の超伝導体を組合わせることで、大型の磁気シールド作製が可能であることを明らかにした。
2)一体型管状磁気シールド:大型管状磁気シールドの作製にはCIP成形法が用いられているが、厚さの薄い磁気シールドの作製には適していない。そこで、高温超伝導グリーンシートをロール状に巻くことにより一体型管状磁気シールドの作製を行った。その結果、軸方向および径方向からの磁界に対して優れた磁気シールド特性を示し、厚さの薄い大型の管状磁気シールド作成が可能となった。
以上のように、臨界電流密度の磁界依存性を考慮した臨界状態モデルにより磁気シールドの設計が可能であること、また、ドクターブレード法により作製した高温超伝導厚膜を用いることで大型の磁気シールドの作製が可能であることを本論文にまとめた。