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磁壁磁化構造を用いたブロッホラインメモリ素子に関する研究

氏名 丸山 洋治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第62号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 磁壁磁化構造を用いたブロッホラインメモリ素子に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 神林 紀嘉
 副査 助教授 中川 匡弘
 副査 助教授 北谷 英嗣
 副査 助教授 石黒 孝
 副査 九州大学 助教授 松山 公秀

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 まえがき p.1
1.2 磁性ガーネット膜の基本的性質 p.5
1.2.1 結晶構造 p.5
1.2.2 磁気特性 p.5
1.2.3 磁性ガーネット膜に生じるバブル磁区 p.8
1.3 磁気バブルメモリ p.11
1.4 ブロッホラインメモリの概要 p.15
1.4.1 ブロッホラインの磁化構造 p.15
1.4.2 ブロッホラインの移動 p.17
1.4.3 情報記憶の単位 p.20
1.4.4 ブロッホライン/バブル変換による読み出し p.24
1.4.5 書き込み原理 p.28
1.4.6 メモリ構成 p.32
1.5 本論文の内容 p.36
第2章 実験方法 p.40
第1節 試料作製 p.40
2.1.1 磁性ガーネット膜の作製 p.40
2.1.2 磁区の配列法 p.40
2.1.3 素子作製プロセス p.46
第2節 ブロッホライン対の観察 p.49
2.2.1 ロッキング法 p.49
2.2.2 高周波振動法 p.52
第3節 評価装置の構成 p.52
第4節 結言 p.57
第3章 書き込み機能部の検討 p.59
第1節 緒言 p.59
第2節 従来法による書き込み p.61
3.2.1 試験素子の構成 p.61
3.2.2 書き込み動作の評価 p.62
3.2.3 計算機シミュレーションによる考察 p.64
第3節 新しい書き込み方式 p.68
3.3.1 書き込み原理 p.68
3.3.2 書き込み動作特性 p.71
第4節 結言 p.75
第4章 ブロッホライン対の記憶及び転送 p.77
第1節 緒言 p.77
第2節 永久磁石パターン方式 p.79
4.2.1 記憶及び転送の原理 p.79
4.2.2 面内磁化膜によるビット位置規定 p.81
4.2.3 ビット位置規定力の算出 p.83
4.2.4 面内磁化膜の成膜条件の検討 p.86
4.2.5 磁界勾配法による転送特性 p.91
4.2.6 転送特性の転送方向依存性 p.96
4.2.7 転送方向により特性に差が生じる原因 p.102
4.2.8 まとめ p.107
第3節 膜厚変調方式によるビツト位置規定 p.108
4.3.1 はじめに p.108
4.3.2 膜厚変調パターンによるビット位置規定力 p.108
4.3.3 試験素子の構成と素子作製方法 p.110
4.3.4 転送特性と考察 p.112
(1)転送特性のプロセス条件依存性 p.112
(2)転送方向と駆動磁界範囲 p.117
4.3.5 まとめ p.119
第4節 結言 p.120
第5章 読み出し機能部の高信頼化 p.122
第1節 緒言 p.122
第2節 読み出し前処理 p.123
第3節 変換動作の安定性 p.125
5.3.1 ブロッホライン/バブル変換特性の材料依存性 p.125
5.3.2 ブロッホライン/バブル変換動作における誤動作原因 p.127
5.3.3 ブロッホライン/バブル変換特性のTr依存性 p.132
5.3.4 変換範囲が減少する原因に関する考察 p.134
(1)Tr依存性に関する考察 p.134
(2)磁化の回転方向による差 p.137
第4節 新条件によるブロッホライン/バブル磁区変換 p.139
第5節 結言 p.142
第6章 総合的なメモリ機能の検討 p.144
第1節 緒言 p.144
第2節 試作素子の概要 p.145
6.2.1 素子構成 p.145
6.2.2 メモリ素子の動作方法 p.151
第3節 メモリ機能 p.156
6.3.1 書き込み動作特性 p.157
6.3.2 読み出し動作特性 p.161
6.3.3 ブロッホライン対の転送特性 p.167
6.3.4 メモリ動作特性 p.170
第4節 結言 p.172
第7章 ブロッホラインメモリの課題と今後の展望 p.174
第1節 緒言 p.174
第2節 ブロッホラインメモリの課題 p.175
7.2.1 ブロッホライン/バブル磁区変換特性の劣化原因と対策 p.175
7.2.2 高密度化へのアプローチ p.177
第3節 ブロッホラインメモリの今後の展望 p.188
第4節 結言 p.190
第8章 結論 p.192
参考文献 p.196
謝辞 p.202
付録 p.204
本研究に関する発表論文 p.212

 ブロッホラインメモリは、小西(九州大学)により1983年に提案された新しい概念の磁性体のメモリである。その概念は、磁性体の磁壁中に存在する微細なブロッホライン対(BL対)に情報をビットするもので、従来の磁区を利用する磁気バブルンメモリとは記憶原理が基本的に異なる。磁区よりも微細な磁化構造に情報を記憶するため、本質的に高密度記録に適する。このため、将来の小型情報機器への応用が期待され、多くの研究機関で活発な研究が進められてきた。しかしながら、そのメモリ機能の実証は極めて困難で、従来の検討は原理的実験の範囲を超えるものでなく、実用メモリに関する基本技術はなかった。
 本論文は、このように基本的概念の提案レベルにあったブロッホラインメモリについて、その基本動作の確認と高密度記録の可能性を探り、実用化の見通しを得ることを目的にした研究成果を『磁壁磁化構造を用いたブロッホラインメモリ素子に関する研究』と題してまとめたもので、8章より構成される。
 第1章「序論」では、ブロッホラインメモリの基本概念を述べ、それが従来のバブルメモリとは本質的に異なり、高密度記録に適しかつ将来の高密度固体磁性メモリとして注目される理由を述べ、本研究の目的と意義を述べた。
 第2章「実験方法」では、本研究を進める上で必要となる試験用メモリ素子の作製方法と、メモリ機能の評価方法を述べた。
 第3章「書き込み機能部の検討」では、従来提案された磁区の先端にBL対を書き込む方法について、書き込みメカニズムの見地から検討し、実用化の障害となる問題を解決する新たな書き込み方式を提案した。具体的には、磁区と書き込み導体を重ね、その直下にBL対を注入する方式を開発した。この方式の採用で従来不可能であった単一の操作で情報担体となるBL対を書き込むことを可能にした。
 第4章「ブロッホライン対の記憶及び転送」では、まず、記憶の保持に電力を使用しない不揮発性メモリとなる永久磁石方式を検討した。その結果、転送特性に非対称性が存在するため、メモリの基本となる双方向転送ができないことを明らかにした。次に、この問題が非対称性を有する漏洩磁界を用いてBL対を記憶するために生じることを指摘し、磁界に使用しない記憶方式として膜厚変調方式を提案した。この方式により、情報の不揮発化と双方向転送を両立できることを実証し、磁壁に情報を記憶できることを示した。
 第5章「読み出し機能部の高信頼化」では、BL対の読み出しを可能にする読み出し前処理法と、読み出しの基本であるBL/バブル磁区変換動作の高信頼化法について述べた。まず、従来提案された読み出し法は、1本のBLをバブル磁区に変換するものであり、2本のBLから構成された対の読み出しには適用できないことを指摘した。この問題は、磁区先端部に面内磁界を印加し、BL対を分離した後に変換操作を行うことで解決されることを見出した。また、この機能を実現する素子構成を明らかにした。次に、BL/バブル磁区変換時の誤作動の主因が不要なBLの発生現象にあることを見出した。これは、情報"0"に対応する磁壁磁化の回転方向を規定することにより解決した。これにより、読み出し機能を飛躍的に高信頼化できることを実証した。
 第6章「総合的なメモリ機能の検討」では、上記の検討結果をもとにメモリ素子を試作し、ブロッホラインメモリの機能を世界で初めて確認することに成功した。これにより、ブロッホラインメモリの実用性を明らかにした。
 第7章「ブロッホラインメモリの課題と今後の展望」では、今後に残された課題と将来の展望を述べた。
 第8章では、本研究で得られた成果を総括した。
 以上のように、本論文はブロッホラインメモリの実用化の見通しを得ることを目的に微細加工技術を駆使しながら綿密に研究を行ない、世界で初めてメモリ機能を確認することに成功した。これにより、ブロッホラインメモリの実用性を実証した。

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