転がり音に関する研究
氏名 吉田 孝文
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第102号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 転がり音に関する研究
論文審査委員
主査 教授 五十嵐 昭男
副査 教授 久曽神 煌
副査 教授 矢鍋 重夫
副査 教授 柳 和久
副査 新潟大学 教授 一宮 亮一
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目次
第1章 諸論 p.1
1.1 本研究の目的 p.1
1.2 転がり音に関するいままでの研究 p.2
1.2.1 Remingtonの研究 p.2
1.2.2 荒井の研究 p.2
1.2.3 遠藤の研究 p.3
1.2.4 まとめ p.3
1.3 本研究の対象 p.4
1.4 本研究の方針 p.4
第2章 音の基本的な特性 p.7
2.1 諸言 p.7
2.2 実験 p.7
2.2.1 実験方法 p.13
2.2.2 球の転がり速度の測定方法 p.16
2.3 実験結果および解析 p.16
2.3.1 音の音圧の時間波形 p.16
2.3.2 音の音圧レベル p.16
2.3.3 音の周波数スペクトル p.23
2.3.4 平板の曲げ固有振動数 p.28
2.3.5 転がり音の放射 p.37
2.4 考察 p.45
2.5 結言 p.48
第3章 音の距離特性および放射特性 p.50
3.1 諸言 p.50
3.2 実験 p.50
3.3 実験結果および解析 p.54
3.3.1 音の音圧レベルの距離特性 p.54
3.3.2 音の周波数スペクトルと周波数成分の距離特性 p.54
3.3.3 転がり音の放射特性 p.66
3.4 考察 p.74
3.4.1 音の音圧レベルの距離特性について p.74
a. rの増加による音の音圧レベルの減少について p.82
b. 音の音圧レベルの減少の割合と球の材質および直径の関係について p.82
c. 音の音圧レベルの減少の割合と球の転がり速度の関係について p.88
3.4.2 音の周波数成分の距離特性について p.88
3.5 結言 p.89
第4章 音の発生機構 p.91
4.1 諸言 p.91
4.2 実験 p.91
4.3 実験結果 p.94
4.3.1 球および平板の表面の性質 p.94
a. 球表面の性質 p.94
b. 平板の表面の性質 p.96
4.3.2 音の実験 p.102
4.3.3 音の発生に関与するうねり p.110
a. 音の発生に関与するうねりの波数 p.110
b. 音の発生に関与するうねりの山の高さ p.111
4.3.4 音圧(peak値)とうねりの山の高さHの関係 p.114
4.4 解析 p.114
4.5 考察 p.119
4.5.1 400Hz音の発生について p.119
4.5.2 他の周波数の音の発生について p.124
4.6 結言 p.128
第5章 音の指向性 p.131
5.1 諸言 p.131
5.2 実験 p.131
5.3 実験結果および解析 p.135
5.3.1 音の測定位およびマイクロホンの距離 p.135
5.3.2 音の指向性 p.136
5.3.3 音の周波数スペクトル p.136
a. 鉛直方向の位置における音の周波数スペクトル p.136
b. aの方向の位置における音の周波数スペクトル p.139
5.3.4 主なピークの音の指向性 p.139
5.4 考察 p.144
5.4.1 音の指向性について p.144
a. 鉛直方向の位置における音の周波数スペクトルについて p.144
b. △SPLa△SPLpaの関係 p.148
5.4.2 平板の上側と下側における音について p.150
5.5 結言 p.152
第6章 音に及ぼす板厚の影響 p.154
6.1 諸言 p.154
6.2 実験 p.154
6.3 実験結果、解析および考察 p.157
6.3.1 平板の表面うねり p.157
6.3.2 音の音圧レベルと板厚 p.162
6.3.3 平板の振動の変位振幅と板厚 p.162
6.3.4 音の周波数スペクトル p.171
6.3.5 平板の曲げ固有振動数 p.181
6.3.6 転がり音の放射 p.184
6.4 結言 p.196
第7章 結論 p.200
7.1 諸言 p.200
7.2 音の性質 p.200
7.2.1 音の音圧の時間波数 p.200
7.2.2 音の音圧レベル p.200
7.2.3 音の周波数スペクトル p.201
7.2.4 音の放射 p.202
7.2.5 音の指向性 p.202
7.3 音の発生源 p.203
7.4 音の発生機構 p.203
謝辞 p.205
文献 p.206
玉軸受、歯車、車輪・レール系などのように個体同志が互いに接触することにより発生する騒音は我々の周囲に満ちている。とくに近年、騒音は環境問題の一つにあげられており、これらの騒音の低減に対する社会的要請はますます強くなっている。騒音の低減を考える場合、騒音の原因、性質および発生機構などを明らかにすることは極めて重要である。しかし、これらの騒音の原因、性質および発生機構は複雑なため正確に解明することは一般に難しい。そこで、機械要素や車輪・レール系などを球、梁あるいは平板などの簡単な要素間の相互接触を伴う系にモデル化し、機械的な音の発生原因である衝突、摩擦あるいは転がりごとに音の性質および発生機構を明らかにする必要があると思われる。
ところで、衝突、摩擦あるいは転がりによる音のなかで、衝突による音および摩擦による音に関しては、これまでに多くの研究が行われている。しかし、転がりによる音すなわち転がり音はRemington、荒井、遠藤らが鉄道車両の車輪・レール系において研究を行っているのみであり、これらの研究でもまだ転がり音については充分に解明されていないように思われる。そこで、本研究では、転がり運動を伴う系のモデルとして球が平板の上を転がる場合を考え、この場合の転がり音を解明することを目的とする。本研究は、以下の7章より構成されている。
第1章「緒論」では、転がり音に関して現在までに行われてきた研究の概要を示すとともに、本研究の目的、対象および方針について述べた。
第2章「音の基本的な特性」では、平板の上を転がる球の材質、直径および転がり速度を変えて実験を行い、そのときに発生する平板の下側における転がり音について調べた。その結果、音の音圧レベルと球の直径あるいは転がり速度の関係、音の周波数特性および音の放射特性などの基本的な特性を明らかにした。そして、転がり音が主として平板の曲げ固有振動による音であることを明らかにした。
第3章「音の距離特性および放射特性」では、球が平板の上を転がる場合に発生する転がり音をね平板の裏面中心から種々の距離に設置したコンデンサマイクロホンを用いて測定した。その結果、平板中心からマイクロホンまでの距離の増加による音の音圧離ベルの減少の割合が、球の材質および直径によって異なることを明らかにし、この特徴が球の自重によって生ずる球と平板の接触円の直径dsに関係することを見出した。そして、音の周波数スペクトルにおける主なピークの音圧レベルの距離特性が、平板の限界周波数fcを境に異なることを明らかにした。また、主なピークの音圧レベルの周波数に対する傾向が、dsによってほぼ決定されることも明らかにした。
第4章「音の発生機構」では、表面仕上げの異なる球が表面仕上げの異なる平板の上に種々の転がり速度で転がる場合に初性する平板の下側における転がり音、と球および平板の表面うねりを測定した。その結果、球が平板の上を転がると、球および平板の表面のうねりのために平板は曲げ固有振動を生ずるが、振動の発生には平板の曲げ固有振動の振動数fnを生ずる波数のうねりが関与することを明らかにした。そして、振動の発生に対するうねりの関与の仕方は、平板の曲げ固有振動数fnと球および平板の弾性接触一における垂直方向の接触共不振の周波数fsの2倍の周波数2fsとの関係によって異なることを見出した。
第5章「音の指向性」では、球が平板の上を転がる場合に発生する転がり音を、平板の上側に設置した2本のコンデンサマイクロホンを用いて測定した。その結果、音の指向性は球の直径によって異なることを明らかにした。そして、低い周波数の音はすべての方向に一様に広がるが、高い周波数の音になるほどほぼ鉛直方向に強い指向性をもつようになることを明らかにした。
第6章「音に及ぼす板厚の影響」では、板厚のことなる平板の上に材質および直径のことなる球が種々の転がり速度で転がる場合に発生する平板の下側における転がり音について調べた。その結果、板圧の増加による音の音圧レベルの減少の割合は、球の材質、直径および転がり速度に関係なくほぼおなじであることを見出した。また、音の周波数スペクトルにおける主なピークの音圧レベルは、球の材質、直径および転がり速度に関係なく、板厚の増加に伴い全周波数範囲でほぼ一様に減少することもを明らかにした。
第7章「結論」では、以上の各章で得られた、球が平板の上を転がる場合の転がり音についての結論をまとめた。