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Josephson量子細線デバイスの電流輸送機構とdc-SQUIDへの応用

氏名 阿部 浩也
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第108号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 Josephson量子細線デバイスの電流輸送機構とdc-SQUIDへの応用
論文審査委員
 主査 教授 濱崎 勝義
 副査 教授 八井 浄
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 助教授 石黒 孝
 副査 東京大学 教授 岡部 洋一

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目次
第1章 序論
1-1 研究背景 p.1
1-1-1 超伝導Short Weak Link (SWL)デバイスの開発状況 p.1
1-1-2 SWLの準粒子電流、及び超伝導電流 p.7
1-2 本研究の目的と本論文の構成 p.10
第1章参考文献 p.11
第2章 SWLの準粒子電流特性の理論とデバイス作製法
2-1 S-c-N, 及びJ喇
2-3-2 絶縁層の "breakdown" の可能性 p.46
2-3-3 Nb constrictionの形成モデル p.46
2-4 ジュール熱ヒーティング法によるデバイス例 p.48
第2章参考文献 p.50
第3章 SWLの電流-電圧特性
3-1 S-c-N系の準粒子電流特性 p.52
3-1-1 S-c-N系の、I,dV/dI,d2V/dI2-V特性 p.52
3-1-2 S-c-N系の準粒子電流特性とBTK理論 p.57
3-1-3 未検証の問題 p.64
3-2 S-c-S'系の準粒子電流特性 p.69
3-2-1 "Two independent" なS-c-S'系 p.69
3-2-2 S-c-S'系のI,dV/dI,d2V/dI2-V特性 p.71
3-2-3 S-c-S'系の準粒子電流特性とBTK理論 p.76
3-3 BTK理論で予測されていない現象 p.85
3-3-1 S-c-S'系のサブギャップ構造(SGS)に関する考察 p.85
3-3-1-1 SGSに関する理論と実験報告例 p.87
3-3-1-2 本デバイスのSGSに関する考察 p.90
3-3-2 超伝導エネルギーギャップ電圧の微分コンダクタンス振動 p.92
3-3-2-1 実験結果の整理 p.92
3-3-2-2 微分コンダクタンス振動の考察 p.92
3-4 超伝導電流、および常伝導抵抗の接合面積依存性 p.100
3-5 接合断面TEM像 p.103
3-5-1 TEM試料作製と観測結果 p.104
3-5-2 デバイス特性とTEM像との関係 p.107
3-6 NbN-(consriction)-Nbの超伝導電流 p.108
3-6-1 ジョセフソン素子としてのサイズ条件 p.108
3-6-2 超伝導電流の温度依存性 p.109
3-6-3 ジョセフソン電流IOと常伝導抵抗RNの積 p.111
第3章 参考文献 p.113
第4章 SWL型dc-超伝導量子干渉デバイス(SQUID)の作製とその基礎特性
4-1 SWL単体のノイズ特性 p.115
4-2 SWL型dc-SQUIDの設計 p.117
4-2-1 dc-SQUIDの動作作製のシュミレーション p.118
4-2-2 dc-SQUIDのパラメータの決定 p.132
4-3 dc-SQUIDの作製と基礎特性 p.135
4-3-1 SWL型dc-SQUIDの作製法 p.135
4-3-2 SWL型dc-SQUIDのI-VおよびV-Φ特性 p.137
4-4 dc-SQUIDの再現性 p.144
4-4-1 二つの接合のジョセフソン電流IOのばらつき p.144
4-4-2 ジョセフソン電流の絶対値の制御性 p.146
4-5 SWL型dc-SQUIDの低周波磁束ノイズ特性 p.147
4-4-1 磁束ロックループ(FLL)回路 p.147
4-4-2 FLL回路駆動時の低周波磁束ノイズ特性 p.150
第4章 参考文献 p.155
第5章 総括 p.156
付録1 SWLの理論研究 p.160
付録2 Andreev1反射 p.61
付録3 近接効果デバイス p.162
本研究に関する発表論文 p.163
謝辞 p.164

 これまで報告されてきた薄膜型超伝導Short Weak Link(SWL)の準粒子電流特性上には、“Phase Slip(位相すべり)”、“Flux Flow(磁束流)”、および“Heating Effect(熱効果)”等の現象が観測され、複雑な電流-電圧特性を示し、実験結果に再現性がなかったため、その定量的解析は困難であった。また、超伝導体の波動方程式(Bogoliubov方程式)に基づく解析例は報告されていなかった。
 本研究の主目的は、SWLの準粒子電流特性に関する最近の理論(Blonder,Tinkham andKlapwijk(BTK)理論)で予想されているいくつかの現象を実験検証するとともに、金属量子細線のSWLデバイスを磁束計用に用いたときの基礎特性を検討することにある。この目的のため、BTK理論で仮定されている、“link”部のサイズが電子の平均自由行程程度◆eかそれ以下の準一次元金属細線をもつS(Superconductor)-c(constrictoin)-N(Normal metal)やS-c-S’の作製法を提案するとともに、その準粒子電流特性を実験的に詳細に調べ、理論で予想されている現象を種々の角度から検討している。また、実用を目指したデバイスとして、SWL型dc-超伝導量子干渉デバイス(SQUID:SuperconductingQUantum Interference Device)を作製し、その電圧-磁束変換効率等の基礎特性を評価している。
 第1章「序論」では、SWLデバイスに関する研究報告例について示し、これまでに作製されたSWLデバイスの問題点を明確にするとともに、本研究の意義について述べている。
 第2章「SWLの準粒子電流特性の理論とデバイス作製法」では、まず、超伝導デバイスを扱うときの波動方程式であるBogoliubov方程式を基礎としたBTK理論について述べ、理論で予測されている現象を実験的に検証するために必要な条件を示している。例えば、理論モデルを満たすためには、超伝導電極間を径、および長さが◆e程度の金属で結合させた準一次元量子細線型のデバイスが不可欠であるが、その作製法として、絶縁特性をもつNb/MgO/NbNエッジ接合に電圧を印加し、MgO層に多数存在するピンホール内に準一次元導電パス(“Nb constriction”)を作製するという新しい方法を提案している。また、MgO層内に導電パスが形成されていることを種々の実験結果から結論づけている。
 第3章「SWLの電流-電圧特性」では、本研究で得られた準粒子電流特性の実験結果を示し、BTK理論の検証を行い、S-c-N、およびS-c-S’系の準粒子電流特性の理論として、大枠ではBTK理論が妥当であることを示している。しかし、BTK理論で説明することができないサブギャップ構造やギャップ電圧直上での微分コンダクタンスの振動現象も見られ、これらについては、これまでに報告されている類似の現象と比較検討し、サブギャップ構造は多重トンネルリングモデルで説明でき、一方、コンダクタンス振動は新しい現象であることを結論づけている。続く節では、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察や、SWLの超伝導電流の温度依存性とSWLジョセフソンデバイスの理論との比較検討から“constriction”のサイズやその形成モデルについて議論している。
 第4章「SWL型dc-超伝導量子干渉デバイス(SQUID)の作製と基礎特性」では、本SWLをdc-SQUID磁束計へ応用した場合の基礎的検討を行っている。まず、dc-SQUIDの新しいデバイスモデルを提唱し、磁束計の設計を行い、試作したdc-SQUID磁束計の基礎特性を評価している。また、ジョセフソン電流値等の再現性についても検討している。
 第5章では、本研究で得られた諸結果を総括し、「Josephson量子細線デバイスの電流輸送機構とdc-SQUIDへの応用」について得た結論をまとめている。
 本研究は、SWLの準粒子電流特性に関する電流輸送機構が解明できた点、良好な特性の再現性という点でこれまでのSWLに関する研究を大きく進展させたと言える。本作製法は、SWL回路の集積化プロセスとして発展が望めるようなものではないが、本研究で得られた知見は少なくとも、将来、例えば電子ビーム露光技術が発展し、金属量子細線構造をもつSWLデバイスが作製されたときの基礎特性を検討するときに有用となろう。

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