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軸方向引張り力を受ける鉄筋コンクリート棒部材のせん断耐力に関する研究

氏名 田村 隆弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第58号
学位授与の日付 平成7年3月24日
学位論文の題目 軸方向引張り力を受ける鉄筋コンクリート棒部材のせん断耐力に関する研究
論文審査員
 主査 教授 丸山 久一
 副査 教授 林 正
 副査 教授 鳥居 邦夫
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 助教授 長井 正嗣

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目次
1.序論 p.1
1-1 本研究の目的およびその背景 p.2
1-2 本論文の構成 p.5
参考文献 p.7
2.既往の研究と問題点 p.9
2-1 はじめに p.10
2-2 軸方向引張り力を受ける部材のせん断耐力に関する既往の研究 p.12
2-3 土木学会せん断耐力算定式 p.14
2-4 まとめ p.17
参考文献 p.18
3.軸方向引張り力を受ける梁のせん断耐力試験 p.23
3-1 はじめに p.24
3-1-1 コンクリート p.26
3-1-2 鉄筋 p.26
3-1-3 曲げせん断試験装置および試験方法 p.26
3-2 せん断補強筋の無い梁の実験 p.31
3-2-1 矩形梁の実験 p.31
3-2-2 T形梁の実験 p.38
3-2-3 I型梁の実験 p.44
3-3 せん断補強筋を有する梁の実験 p.49
3-4 軸方向引張り力と鉄筋比の関係 p.53
3-5 まとめ p.55
参考文献 p.56
4.有限要素法による軸方向引張り力を受ける梁の解析 p.59
4-1 はじめにくし p.60
4-2 9節点アイソパラメトリックシェル要素 p.61
4-3 座標系 p.62
4-3-1 全体座標系-Xi p.62
4-3-2 節点座標系-Vik p.62
4-3-3 曲線座標-ξ,η,ζ p.63
4-3-4 局所座標系 p.64
4-4 要素の幾何形状 p.65
4-5 変位関数 p.65
4-6 ひずみの定義 p.68
4-7 剛性関係式 p.71
4-8 材料のモデル化 p.71
4-8-1 コンクリートの圧縮挙動 p.71
4-8-2 コンクリートの引張り挙動 p.75
4-8-3 鉄筋の材料特性 p.77
4-8-4 有限要素解析 p.77
4-9 有限要素法による鉄筋コンクリート梁の解析 p.80
4-9-1 要素分割 p.81
4-9-2 鉄筋コンクリートの引張り剛性 p.82
4-9-3 矩形梁の解析 p.83
4-9-4 T型梁の解析 p.87
4-9-5 I型梁の解析 p.93
4-10 軸方向引張り力を受ける部材のせん断耐力と各パラメータの関係 p.97
4-10-1 せん断スパン比別の軸方向引張り力の影響 p.97
4-10-2 鉄筋比の影響 p.98
4-10-3 コンクリート圧縮強度の影響 p.98
4-10-4 コンクリート引張り強度の影響 p.99
4-10-5 断面形状の影響 p.100
4-11 まとめ p.103
参考文献 p.104
5.軸方向引張り力を受ける梁のせん断破壊機構 p.107
5-1 はじめに p.108
5-2 斜めひび割れの発生と軸方向引張り力の関係 p.111
5-3 せん断補強筋のない部材のせん断破壊耐力 p.116
5-3-1 斜引張り破壊と軸方向引張り力の関係 p.117
5-3-2 アーチ的耐荷機構と軸方向引張り力の関係 p.118
5-3-3 アーチ的耐荷機構の解析的検証 p.120
5-3-4 アーチ的耐荷機構のモデル化 p.125
5-4 せん断補強筋を有する部材のせん断破壊機構 p.128
5-5 まとめ p.129
参考文献 p.131
6.軸方向引張り力を受ける鉄筋コンクリート梁のせん断耐力算定式 p.133
6-1 はじめに p.134
6-2 せん断補強筋のない部材のせん断耐力算定式 p.134
6-2-1 算定式誘導のための条件 p.136
6-2-2 1.75<a/d<6.0におけるせん断スパン比の項に関する検討 p.137
6-2-3 軸方向力に関する項の誘導 p.138
6-2-4 軸方向引張り力とせん断スパン比の関係 p.139
6-2-5 鉄筋比と軸方向引張り力の関係 p.140
6-2-6 棒部材のせん断耐力算定式 p.142
6-2-7 提案式の検証 p.143
6-3 せん断補強筋により受持たれるせん断耐力 p.145
6-4 まとめ p.148
参考文献 p.149
7.結論 p.151
謝辞 p.157
付録 p.159
1.矩形梁の実験結果(せん断補強筋なし) p.160
2.T型梁の実験結果(せん断補強筋なし) p.174
3.I型梁の実験結果(せん断補強筋なし) p.186
4.矩形梁の実験結果(せん断補強筋あり) p.192
5.T型梁の実験結果(せん断補強筋あり) p.210
6.鉄筋比をパラメータとした矩形梁の実験結果 p.221

 鉄筋コンクリートラーメン構造物における梁や柱部材では、コンクリートの乾燥収縮や温度変化に伴う部材軸方向への引張り応力が存在する(内的応力)。この内的応力は部材の置かれた条件によっては、ひび割れを生じさせ、鉄筋コンクリート構造物の機能性と耐久性を低下させる。また、構造物が地震等による水平力を受ける場合には、柱部材は軸方向引張りとせん断力を受ける。(外的応力)また、最近の研究では、海洋構造物の柱や高圧電線用の杭等が波動や風と、そして、地震等の水平力により軸方向引張りとせん断力を受けることも報告されている。
 鉄筋コンクリート部材のせん断強度に関する問題はこれまで多くの研究者によって行われてきた。そして、最近の設計では、これらの多くの実験的研究に基づき、鉄筋コンクリート部材のせん断強度は、コンクリート強度、鉄筋比、断面の有効高さ、せん断スパン比、そして、軸方向力によって決定されている。しかしながら、鉄筋コンクリート棒部材のせん断破壊性状が次第に明らかにされつつあるなかで、部材が軸方向力を受ける場合のせん断耐力に関する研究は十分とは言えず、特に軸方向引張力を受ける場合についての研究は、その実験が容易でないことや、この軸方向引張り力が部材のせん断破壊の直接の原因と考えられにくいこと等から極めて不足している状態であることが、土木学会コンクリート標準示方書改訂委員会による改訂試料においても示唆されている。示方書では、梁部材のせん断力を基本的にコンクリートの分担分とせん断強筋の分担分の和により算定することとし、軸方向については、これにCEB/FIBのモデルコードの考え方、すなわち、デコンプレッションモーメントを用いての算定を行うものとしている。そして、改訂資料ではHaddainらの実験によりこの式の適応性を報告し、せん断スパン比a/dが小さい場合には安全側、a/dが大きい場合にはやや危険側の値を与える傾向があるとしている。また軸力に関しては、圧縮の場合安全側、引張の場合やや危険側の値を与える傾向があるが、a/dが大きい場合(6.0程度)では、軸方向力を受けてもせん断破壊に対する安全率は、低下しないことを報告している。
 著者は、これまでの問題について、実験と有限要素法による解析を行ってきた。そして、軸方向引張り力の影響は、鉄筋量等の諸要因やせん断スパン比等の載荷状態に左右されることを明らかにしてきた。例えば、a/dを3.0~1.75までとした実験からは、せん断スパン比a/dが小さいほど軸方向力の影響が大きくなることも確かめられ、また、鉄筋比についても、鉄筋比が小さくなるほど軸方向引張り力によるせん断耐力の減少が著しくなることを、解析と実験から確かめた。
 本論文は、著者がこれまで行った一連の研究成果についてまとめたもので、土木学会示方書算定式における棒部材の設計せん断耐力算定式に関して一考察を述べるものである。本論文は7章で構成されている。各章の概要は以下のようである。
 第1章の緒論では、本研究の背景と意義と論文の構成について述べる。
 第2章では、これまでこの問題について行われた既往の研究についての概要を報告し、現在使用されているせん断耐力算定式について、問題を提起する。
 第3章では、矩形梁、T型梁、I型梁の3つのタイプの供試体(合計200体)を製作し、実験した結果を報告する。実験は、まず構造の最も単純なせん断補強筋のない矩形梁について軸方向引張り力の影響をせん断スパン比に着目して調査する。次いで、T型梁やI型梁について同様の調査を行い、部材が軸方向引張り力を受ける場合のフランジの効果を調べる。さらに、せん断補強筋を有する矩形梁と、T型梁の実験を行ない、せん断補強筋の量と軸方向引張り力の関係を調べ、最後に鉄筋比を変化させた矩形梁の実験から、鉄筋比と軸方向引張りの関係を調査する。
 第4章では、軸方向引張り力を受ける梁をアイソパラメトリック退化シェル要素を用いた有限要素法によって解析する。数値解析によって得られた荷重-変位の関係、終局耐荷力およびひび割れ性状は、実験結果に比較される。そしてその整合性が確かめられた後、軸方向引張り力を受ける棒部材のせん断破壊メカニズムを明らかにするため、鉄筋比や断面形状をパラメトリックに変化させた解析を行なう。
 第5章では、実験結果や数値解析解から軸方向引張り力を受ける梁のせん断破壊メカニズムについて考察する。従来、鉄筋コンクリートのせん断破壊メカニズムは、その部材の状態や、載荷条件等によって変化し、それぞれの状態に対して検討されてきた。ここでは、有限要素法により得られる解から、その破壊メカニズムを明確にした。
 第6章では、軸方向引張り力を受ける梁のせん断破壊性状に影響を及ぼすことが確認された要因について、著者らの実験と、既往の研究結果を総合して、その影響の大きさを定式化してゆく。また、現行の土木学会コンクリート標準示方書の算定式の適用性も比較検討する。
 最後に第7章では、2章から6章までの結論として軸方向引張り力による梁部材のせん断破壊状について本研究で得られた成果をまとめる。

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