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多結晶Nd:YAGレーザー材料の製造と特性評価

氏名 池末 明生
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第117号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 多結晶Nd:YAレーザー材料の製造と特性評価
論文審査委員
 主査 教授 植松 敬三
 副査 教授 松下 和正
 副査 教授 小松 高行
 副査 講師 斎藤 秀俊
 副査 助教授 内田 希

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 単結晶の抱える問題 p.2
1.3 セラミックスの抱える問題 p.7
1.4 本研究の目的 p.12
1.5 本研究の概要 p.13
第2章 原料特性と固相法による透明YAGセラミックスの製造技術 p.17
2.1 緒言 p.17
2.2 AI2O3およびY2O3原料粉末の焼結特性 p.18
2.2.1 AI2O3粉末の焼結特性 p.18
2.2.2 Y2O3粉末の焼結特性 p.21
2.3 本原料と市販粉末を使ったYAGセラミックスの作製 p.25
2.4 Siの焼結助剤としての効果 p.32
2.5 散乱損失の少ないYAGセラミックスの製造技術 p.37
2.6 第2章のまとめ
第3章 Nd:YAGセラミックスレーザーの合成と評価 p.44
3.1 緒言 p.44
3.2 実験方法 p.46
3.3 実験結果 p.48
3.3.1 Nd:YAGセラミックスの焼結挙動と微構造 p.48
3.3.2 Nd:YAGセラミックスの一般特性および分光学的特性 p.55
3.3.3 レーザー発振実験の結果 p.62
3.4 考察 p.65
3.4.1 Nd:YAGセラミックスの合成の結果 p.65
3.4.2 Nd:YAGセラミックスの光学的特性 p.66
3.5 第3章のまとめ p.67
第4章 HIP処理したNd:YAGセラミックスの微構造と光学的性質 p.69
4.1 緒言 p.69
4.2 実験方法 p.70
4.3 実験結果 p.70
4.4 考察 p.85
4.4.1 HIP処理によって透過率が改善されない理由 p.85
4.4.2 過去の報告例と相関 p.87
4.5 第4章のまとめ p.89
第5章 Ndを多量に含むYAGセラミックスの合成と評価 p.91
5.1 緒言 p.91
5.2 実験方法 p.92
5.3 実験結果 p.93
5.4 考察 p.101
5.4.1 Ndが均一かつ高濃度まで固溶する根拠 p.101
5.4.2 高濃度Nd:YAGセラミックスレーザーの意義 p.105
5.6 第5章のまとめ p.108
第6章 YAGセラミックスのNd固溶に及ぼす不純物(Si)の効果 p.109
6.1 緒言 p.109
6.2 実験方法 p.110
6.3 実験結果 p.110
6.4 考察 p.120
6.4.1 単結晶育成技術で高濃度Nd:YAGセラミックス単結晶ができない理由 p.120
6.4.2 Ndを安定的に固溶する技術(Siの添加効果) p.122
6.4.3 Y2O3-AI2O3系状態図における矛盾 p.124
6.5 第6章のまとめ p.125
第7章 Nd:YAGセラミックスの光散乱源 p.126
7.1 緒言 p.126
7.2 実験方法 p.127
7.2.1 試料作製およびレーザー発振実験の条件 p.127
7.2.2 吸収係数(散乱係数)の測定および計算方法 p.128
7.3 実験結果 p.128
7.4 考察 p.142
7.5 第7章のまとめ p.146
第8章 結論 p.148
謝辞 p.151
引用文献 p.152
本研究で使用した装置、試薬関係 p.157
本研究に関わる研究発表 p.158

 固体レーザーの開発は1960年にメイマンによるルビーレーザーの発見を契機に、様々な材料において行われてきた。その具備特性としては熱伝導率が高く物理特性が優れていることの他、低しきい値で安定かつエネルギー変換効率に優れたレーザーが得られることが必要である。これらの要求特性を満足する唯一のレーザーは現在の市場を独占しているYAG(Y3AI5O12)であり、将来的な観点(物理特性やレーザーの総合特性)においても、YAGを越える新型固体レーザーが開発される可能性は極めて小さいと考えられる。
 ところで、現在、心臓部のYAGはCZ(チョコラルスキー)法で製造された単結晶だけが産業用に利用されている。通常、単結晶育成には約1カ月を要しかつレーザー用途に利用できる部位はインゴットのわずか一部にすぎないため、生産性および出力特性で必ずしも満足できていない。本研究の目的は現在の固体レーザーの主流であるYAGをセラミックス技術を駆使して完全に透明な多結晶体の形で製造し、単結晶が抱える問題点を解決すると同時に工業的に価値の高い固体レーザーを提供することである。
 第1章「序論」では、現状のYAG技術と透光性セラミックスの抱える問題点を記述し、本研究の目的と意義を明らかにした。
 第2章「原料特性と固相法による透明YAGセラミックスの製造技術」では、本研究で用いた透明YAGセラミックスの出発原料であるY2O3、AI2O3粉末の焼結特性を市販粉末と比較し、これまで他の研究者が固相法で透明YAG焼結体を作製できなかった理由を推定した。また、ボアフリー焼結体を作製するには良質な原料粉末を使用し、かつ厳密なプロセス技術(特に成形工程)の制御が必要であることを示した。さらに、焼結助材として添加した少量のSiが透明化に果たす役割りを定性および定量的に調べた。
 第3章の「Nd:YAGセラミックスレーザーの合成と評価」では、Ndを約1at.%添加したYAG焼結体を作製し、その分光学的特性や機械的強度、熱的性質等が単結晶と同等であることを確認した。また、Nd:YAGの焼結体の散乱損失は極めて小さく(0.9%/cm)、レーザー特性はほぼ同じ組成の単結晶と同等であることを明らかにした。
 第4章の「HIP処理したNd:YAGセラミックスの微構造と光学的性質」では、HIP装置を使って試料の高品質化を目指した。Arを圧力媒体としたカプセルフリーHIPではArがNd:YAG焼結体の粒界から侵入し、発泡(Arガス)する現象が見られた。真空焼結法が透明YAG焼結体の製造に必要であることを示した。
 第5章の「Ndを多量に含むYAGセラミックスの合成と評価」では、Ndを多量に含む試料を作製し、一般光学特性およびレーザー発振特性を調べた。CZ法のYAG単結晶はNdをIat.%程度しか固溶できないが、YAG焼結体では構成粒子中に大量のNdが固溶することを確認した。2.4at.%Nd:YAG焼結体のスローブ効率はNd:YAG単結晶の約2倍(40%)に達し、本多結晶レーザーの特異性を発見した。
 第6章の「YAGセラミックスのNd固溶に及ぼす不純物(Si)の効果」では、なぜ多結晶体においてNdが大量に固溶するのかを検討した。Nd:YAG焼結体には微量(約300ppm)のSiが添加されており、このSiの存在によってNdが容易にYAGへ固溶することを突き止めた。これまでNdがYAG格子中のYと置換するのが困難なのは両者のイオン半径が異なるためと整理されていた。今回、SiがNdとYが置換したときの格子歪みを吸収し、その結果大量のNdがYAG格子中に導入されるとの仮説をたてた。
 第7章の「Nd:YAGセラミックスの光散乱源」では、多結晶体の光散乱の本質を追及した。Nd:YAG焼結体中の気孔体積と粒界相量を変化させて光散乱量を定量的に測定し、さらにレーザー発振特性との相関を調べた。気孔体積と粒界相量の減少に伴って光散乱は顕著に減少し、レーザー発振特性は良好となった。また、これらの特性は粒界数には依存しないことが判明した。光散乱は本質的に気孔体積と粒界相量に支配されるので、本研究で作製した多結晶YAGが効率的なレーザー発振を示したのは、それらの制御が達成されているためと結論した。
 第8章の「結論」では、得られた結果のまとめと工業化への課題を示した。

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